268.高原のゲル集落
何にも無い高原をニキータと連れ立って歩く。隠れる場所すら無いが、
まあ、人影も無い。
「よくこんな何も無い場所で、しかもまっ平らに見えて実は起伏の激しい場所で、方向見失わないね」
「それは、仕事柄どこにでも行けなくちゃいけないからね。海の底でもなければ、大抵はね」
海の底も悪くは無いんだけどね~。
【馬国】の高原は大型の魔物さえ避けて通れば、そんなに危ないことも無い。
ひたすらに広い一枚MAPって感じ。
一人で歩く自信は無いけど、歩き始めれば結構嫌いじゃない。
いつ来ても涼やかで、変に気持ちが浮き立つ事も無く、黙々と歩くのにはこの上ない場所だ。
しかし、こんな広いMAP何に使うんだか、大軍でも展開するのかな・・・。
【馬国】の騎兵をどう使うかが、肝だな。中心に展開して中央突破で分断か?
いや、遊軍的に使って、外側を狩らせて、挟み撃ち状態をうまく作ったほうがいいか。
何だかんだ主力は【歩兵】だもんな。
片側が主攻の攻撃部隊、片側が守備・・・?
いや、自分なら中央の自分がいる場所を最小限人数で守備に専念させて、両サイドから攻撃だな。
うまく攻め込めれば、鶴翼陣で殲滅かな。
よっぽど搦め手のうまい相手じゃなければ、両サイドの攻撃側に有能な将を据えて、自分は粘り勝ちだな。
・・・フラグになりそうだし、やめとこう。つい、集団戦のことを考えてしまったけど、今の自分はロンリーウルフ、何とかこの状況を脱せねば。
そして、辿り着くは族長のいるゲル集落。
(「じゃあ、私はまた身を隠すから、がんばって聖石の情報を集めな」)
ゲル集落に入る前に見放されたんだが、どうやって潜入するか。
「アイヤー!どスケベすぎて、指名手配犯になっちゃったお兄さんね!痴漢は駄目って言ったね!」
「痴漢はしてないんですけど、変な容疑がかかってしまって・・・」
「それでも自分はやってないって奴ね!いいね!おいちゃんのゲルに隠れてるね!どスケベだけど、無理強いはしないって信じてるね!」
まじか、ピンク師匠ありがたい。
そして、案内されるピンク師匠のゲルは何故か一軒だけピンクのゲルだ。
まあ、色は関係ないか。ゲルで休ませて貰う。
「師匠は聖石の事なにか知りませんか?」
「セイセキ?知らないね!何のことね?」
と言うことなので、ミノタウロスの所で貰った聖石を見せる。
「こういうのを探してるんですけど」
「見たことあるね!でも何でこんな玉を探してるのね?」
「容疑を晴らすための情報と引き換えにこの玉を集めて来いって話で、あちこちで狙われてるのに、隠れながら探してるんですよ」
「そうなの?それは大変ね。でも痴漢の冤罪証明は大変って聞いてるね。おいちゃんが一肌脱いで上げるね。ご飯でも作って待ってるね」
そう言って、ゲルから出るピンク師匠。
何だかんだ本当に面倒見のいい師匠だよな。折角だし、おいしい物作って待つか。
ピンク師匠だし、何かスタミナ付く物がいいのかな。
まずは、現実で自分がよく食べる簡単料理からいくか。
ニンニクの芽と~豚肉と~豆板醤を炒めるだけ~。
塩を一振りちゃっちゃっちゃ~ってな。
使う油によって、ちょっと風味が変わるんだけど夏場はホント簡単に出来るスタミナ料理だ。
もう一品行くか、スタミナといえば、韮だよな~。
って事で、にら卵!
まずは卵に醤油とスープの元を混ぜてかき混ぜて~。
韮を油で軽く炒めて~。
そこに卵を投入!ちょろっと固まった所で、お皿に上げちゃう!これだけ~。
取り合えず、おかずっぽいものが出来たところで、師匠が帰ってくる。
「話はつけてきたね!ところでこんな精力付く物ばっかり食べて眠れるね?」
「なんで、寝ることになるんです?」
「それは他のヒトの迷惑にならないように夜に出かけるからね!まあ、ここの人達は皆戦士だから、お兄さんが歩いてる程度で動じないとは思うけどね!」
「そうですか。なんかお手数お掛けして申し訳ない」
「いいね!ここの族長もいいって言ってたね!」
「え?族長に関係してるんですか?」
「そうね!その玉持っているのは族長ね!なんか大事な物らしいね!」
「いや、大事な物なら、情報だけ持って帰ればそれでいいんですが?」
「何言ってるね!ここは戦士の集落ね!正々堂々戦って、欲しい物は力で手に入れるね!本当はおいちゃんが族長と戦って来ようと思ったけど、流石にそれは駄目ね!弟子が本当にどうにも出来なくなるまで余計な手出ししないのも、師の勤めよ!」
なんていうか、この師匠は本当にいい人だよな。
取り合えず二人で食事をして、一休みする。
しかし、まあ、族長との戦いか。
あの一際でかいケンタウロス。
前は部下二人との一撃勝負。それも受けきれば勝ちって言うこっち有利の条件。
族長は一体どんな勝負を持ちかけてくるのか。
やっぱり正面からの斬り合いかな?あの巨体からどんな武器で攻撃してくるのか。
想像で、族長との戦闘を思い描く。
巨体相手に懐に潜りこみ、一刺し入れる。ミノタウロス族長の様に刺さらないってことは無いだろう。
辺りの戦士達の雰囲気にのまれたのか、妙に好戦的な気分だ。
誰彼構わず戦いたい訳ではないが、強い相手と一戦交えたくなってきた。
ウキウキしてきて夜が待ち遠しい。
ピンクのゲルで膝を抱え、何度も族長との戦いをシミュレーションする。色んな武器を持つ族長と。