265.一からはじめる?第10機関
結構覚悟を決めてのログイン。
相手の出方次第で大暴れのつもりだったが、第10機関のヒトが一人。
「起きたね、それじゃ隠れ家に行こうか」
そう言ってそそくさと、横穴から出て崖を上っていく。
後ろも振り返らずに森に入って、どんどん進んで行くので、
「ねえ、木の上走った方が速くない?」
「私達は【隠密】じゃないんだから、そんな曲芸みたいな真似できる訳無いだろ」
木の上を走るのは曲芸だったらしい。
そのまま、無言で雪で埋もれる森を進む。まあ、歩くのは嫌いじゃない。
時折セーフゾーンで休憩しつつ、名前も知らない森を歩くが、第10機関のヒトはあまり体力が無い。やはり街中で活動していると足腰が弱いのかね?
暗さと白さが広がる【帝国】の森、魔物が時折出てくる。
道から外れているだけあって、ちょっと強め、ただし木々の所為で狭い森だけあって魔物はそこまで大きなものはいない。
例えば一回り大きな雪鳥蜥蜴だが、トサカがあり、手に翼膜があり、一度のジャンプで詰めてくる距離が、段違いの相手だ。
フィールド魔物にも関わらず、急所の一撃や二撃じゃ倒せない。距離を詰められれば、翼による回転攻撃。口からは、謎のガスを吐く。
他にも雪の中に潜む、蛭か虫か判然としない魔物。
全く地面は危険がいっぱいだ。
しかし、一匹づつ地道に狩りながら、目的地に辿り着く。
「【古都】じゃないか」
「【古都】だね。取り合えずコレを着な」
そう言って渡されたのは神官の服。
ローブ状のそれを着ると、どこからとも無く神官が数人現れたので、その集団に混ざって、都に入る。
第10機関のヒトもいつの間にか神官の服になっていた。
そのまま、市街地を進み【教会】への道の途中で、自分達二人だけ裏路地に入る。
唐突に木で出来た塀の一部を外して、中に入る。
他人の家じゃないの?と思ったが、
その塀の先は、家の間にぽっかり空いた小さな空き地だった。
空き地の片隅に地下に続く階段があった。
暗いものではなく、例えるなら地下階にあるBARや飲み屋に続くような、隠す気の無い階段。
入れば、本当にカウンターバーだ。
そのまま奥に進み、当たり前のようにカウンターの内側に入れば、カウンターの下が、また階段になっている。
そして、地下階には受付らしき場所に顔色の悪いげっそりとした男がニヤついている。
「ここが隠れ家だね。取り合えず当分はここで大人しくしてもらって、私の上司から指示待ってよ。もし体を動かしたければ、奥の右の部屋が運動できるようになってるから」
「そう、ありがとう。取り合えずは待機か」
「そうだね。ちなみに装備品の修理なんかは受付に預けて。物資の補給もそこ」
と言うことなので、装備を預けて、買い物をしようと思う。
結構使い減りが気になっていたところだ。もちろんセルフメンテナンスは欠かしてない。
「いらっしゃ~い、いっひっひ」
「え?怪しい」
「そうかい?いやなら断ってもいいぜ?」
「まあ、いいや任せる。何かあったら【教国】の偉いヒトに責任とって貰うわ」
「ひっひっひ、そりゃ怖いな。指名手配犯のくせに威勢がいい。嫌いじゃないぜ」
そういって、装備を預かってもらう。
さらに消耗品類に関しての品揃えは悪くない。必要な物がちゃんと揃っているので、きっちりスタックに無駄の無いように買い込む。
「さて、暇だし、掃除でもするかね」
「掃除道具ならそこだよ」
「おい!仮にも【上級士官】を相手になにやってるんだ!」
先程降りてきた階段から、一見貧相だが炯炯とした眼光に危なさを感じさせる男が降りてきた。
「ふん、今は指名手配犯じゃない」
「だが、容疑に不審な点があるからこうして、隠れ家に連れてきたんだろうが」
「まあ、自分から言い出した事なのでそれ位で」
「そうか、すまないな。さて、早速だが隊長殿、身の潔白を証明する事は出来るか?」
「まず無理ですかね。容疑は事実だけど事情があったのも確かだし」
「なるほど、完全な潔白では無いか。しかし【教国】上層部の意見が割れているのも確かだ。なにしろ事情も無くニューターがヒュムを殺害するなど出来ないのが理。もしそれを覆したというならなおさら深く事情を聞かねばならん」
「じゃあ、こうなったら正面から説明に行くしかないですかね?」
「今はまだ止めておいた方がいいだろう。事情を説明するにも材料が必要だろう?さらに話を聞いてもらう立場もな」
「立場?」
「まあ、その辺は追々だ。悪いが俺も簡単に情報を垂れ流すつもりは無い」
「いくら?お金で解決できるなら金貨100枚でも1000枚でも」
「・・・っと、気持ちがぐらついたが、そう言うことじゃない。仕事を手伝え、そして信用を積めば、協力してやろう」
「それが、立場?」
「まずは、な。最終的には機関長達の話に割って入れるだけの立場が無いとな。基本は機関長達の合議及び多数決で決まる訳だしな」
「分った何からやる?」
「掃除道具はあっち・・・」
「そうじゃないだろ!下働きからやらせるのは流石に能力的にもったいない」
「暗殺はやらないよ」
「そんな重要案件を任せるわけ無いだろ。そうだな・・・」
「あれ、やらせれば?第12機関の使い走り」
「あれか、重要案件で腕も必要だが・・・」
「私達は第12機関にこき使われるような謂れは無い」
「そうだな。悪いが頼まれてくれるか?」
「別に自分は機関の違いとかのしがらみは無いから別にいいよ」
「そうか、じゃあちょっと【馬国】まで行って、聖石の事を調べて報告してくれ、もし手に入れば尚いいが」
「いいけどどこを調べるのか最低限の情報は欲しいんだけど」
「【馬国】だけで2箇所ある。案内にこいつを付けよう。ニキータお前がついていけ」
「なんで、私が!結局第12機関のお使いじゃないか」
「別に道案内だけで、給金が出るんだ楽なもんだろ?」
「もしこいつが逃げたり怪しげな行動をしたら?」
「怪しげな行動をしたら、無理の無い程度に調べて報告しろ、逃げたら、捕まるまで放っておけばいい」
「自分の前で言う事かね?まあ理由も無くいきなり逃げたりはしないよ。こちらは何も情報が無いんだ。ところで、ニキータって男の名前じゃない?」
「うるさいよ。コードネームさ」