263.15番斬り①
流石にもうヘトヘトなので、セーフゾーンを早く見つけて、ログアウトしたい。
しかし、変な場所でログアウトなんてしようものなら、ログイン同時に囲まれかねない。
まあ、ヘトヘトと言っても、ゲームの肉体は大丈夫なんだけど、何か頭が重い。
時間にすれば大した時間じゃないと思うのだが、戦闘が続くとどうしても集中力が切れてくる。
いい具合のセーフゾーンを探しながらうろうろとする。
殺気!
どこからとも無く飛んできた、小振りなナイフを避ける。
スッと剣を抜き、深く呼吸をしつつ、警戒を高めていく。
また、何か飛んできた物を斬ると、破裂して粉煙を吸い込む。
〔八岐の外套〕装備で偶然ゴーグルをつけていたから、目には入らなかったが、何か辛い。
むせて、咳き込みながら左手の甲を確認すれば、デバフが発生しているので<分析>したところ、
沈黙の状態異常、声が出ず、術が使えない。
足元から殺気を感じ、すぐに転がって避ければ、自分の影から男が現れ、ダガーで自分のいた空間を斬っていた。
片刃のダガー、ペルシャダガーとでも言うのだろうか、程よく湾曲し、柄の意匠が中々乙だ。
全体がいぶし銀のような目立たない黒と銀。
暗い緑のターバン、同色の幅広ストールが口から首周りを覆っている。
ダガー使いらしく、軽装で俊敏そうだ。
雪の上にも関わらず、軽いステップで、間合いを詰めてくる。
剣の間合いのぎりぎり外でフワッと飛び、影がかかる。
・・・中々落ちてこない?と思った瞬間に後ろから殺気。すぐに横に転がる。
先程の影は消えていた。
今度は直線に一気に間合いを詰めてきた。
剣で迎撃しようとした瞬間に、左右に分かれる??
両サイドから殺気を感じ、飛蝗ジャンプで回避。
地上を見れば、片方は真っ黒い影のようだ。
ここに来て、理解した。多分影使いなのだろう。
着地して、衝撃波のエフェクトに撥ね飛ばされていたが、想定内とばかりにうまく転がって、ダメージを軽減している。
再び、距離を開けて対峙する。
また向こうから間合いを詰めてくるが、今度は何か姿がぶれて見える。
一応自分の状態異常をもう一回確認するが、沈黙しか出ていない。
正面から、ダガーで斬りつけてきたところをブロックが成立硬直が発生する。
しかし、腹部にダメージを貰う。
はあ?と腹を見れば、黒い影の腕が相手から伸びて、刺しこんできている。
すぐに身を引く。と同時に袈裟斬りにするも、切れたのは黒い影、ゆらりと消える。
そして、後ろから腰に殺気を感じて、すぐに剣を振るが、避けられた。
相手が転がって、避けた所に逆手に剣を持ち地面に縫いつけようとしたが、更に転がって避けられる。
今度は自分から<疾走>を使い距離を詰める。
下段から、斜めに切り上げる。
ダガーで受けに来たので、力づくで、跳ね上げ、そこから今度は袈裟斬りに振り下ろす。
体勢が崩れた所への袈裟斬りが綺麗に入るものの相手はにやりと笑い。相打ちで肩を刺してくる。
すると想像以上の痛みが走り、驚いて一歩下がると大ダメージを貰っていた。
「ふん、まだしゃべれないだろうから、何も答えなくていいさ。それは<復讐>スキルだ。受けたダメージ分、与えるダメージが増える。俺は防御力は低く生命力は高いからな。相当のダメージ量になっただろう」
ふう、そんなスキルがあるとは、にしても何度もくらえるようなダメージじゃないぞ?どうする。
「何の復讐だって顔だな?まあ、お前は覚えてはいないだろうが、俺は忘れてないぞ。忘れられるものじゃない。随分と眠れぬ夜を過ごしたもんだ」
いや、そんな顔した覚えないし、それに覚えてるしまだあの頃はプレイヤーとは殆ど会ったこと無かったもの、そりゃ覚えてる。
「まさか、初心者服の奴にPKKされるなんて思ってもみなかったからな。あれからお前の情報をひたすら集め続けて、勝てる方法を積み上げてきた。これで、やっと眠れるぜ」
そう言って、ナイフを逆手に持ち再び、斬りかかってくる。
剣でブロックし、一撃入れてすぐに間合いを取る。
「ふう、随分と慎重だな。だが、まあ術が使えなければ、どうという事も無いな。掴まれる気も無いしな」
相手も間合いを取り始める。
「十分ダメージは溜まった。遠間からやらせてもらうぜ?」
言うやいなやナイフを投げてくる。一本撃ち落す。
また飛んできたので、それも撃ち落すと裏にもう一本飛んできていたので、そっちは転がって避ける。
同時にベルトのバックルの蛇を回し、押し込み変身する。
骸骨装備だ。
「なんだ?急にスケルトンか、雑魚戦闘員みたいな格好しやがって」
言いながらもナイフを投げてくる。
そして、それを撃ち落した瞬間にあわせて<威圧>
相手の動きが止まったとろで、溜め、
武技 追突剣
腹に剣を突き刺す。相手の頭を抱え、鎖骨の隙間から剣を突きこむ。
剣を引き抜き突き飛ばし、転がった所に逆手に持った剣で地面の雪に串刺しにする。
そして、そのまま止めをさす。
その場に膝をつき、すぐに<手当て>を始める。沈黙の解除と生命力の回復だ。
しかし、まあ<復讐>スキルね。いい事聞いた。
〔連結の首輪〕を装備する自分には誂えたようなスキルじゃない?
ふう、しかし本当に限界だわ。もう集中力がもたない。
<手当て>をしながらフラフラと歩を進める。
森が開けたそこは崖。眼下にはまた森になっている。真っ直ぐ崖を降りたいところだが、
崖縁には人影がある。
・・・限界だっての。