258.【帝国】東部名もなき森
かつては一年かけて巡った大陸も輸送隊も連れずに一人気ままに走れば、一ヶ月で一巡り。
はじめこそ難しい事を考えて頭が痛くなりそうだったが、歩いている内に気も軽くなり、
折角だし、前に見れなかった風景をのんびり観光しようと思い立った。
大陸一周していれば、流石に協力者も見つかるだろうと。
例えば遠くから見る【鉱国】の連なる山。雲の上に浮く王冠の様な光景が、黄昏て、星が出れば黒く浮かび上がる。
【馬国】の高原こそ入れなかったが、外周を大回りするように歩けば、草地から荒野、砂漠へと移り変わる土地柄、そして獣を連れて移動する人々。
【砂国】は後ろに砂漠、前面に大海原、対局にあるような二つの光景に挟まれて、朝焼けを眺めながら呑むお酒は退廃と新生を思う。
【海国】はひたすら泳いでばかりだったが、久しぶりに立ち寄ったプーエール・リコ周辺の村で、衛兵に声を掛けられ、追いかけられるかと思いきやご飯を貰った。
【王国】は流石に都には入れなかったので、普通の村に行ったが、中々に普通だった。王道ファンタジー系の【王国】とはよく言ったもので、中世の村や町ってこんな感じなんだろうなってな。
【森国】は頭領に見つかったら観念しようと思ったが、そんな事も無く。薄暗い森に守られて、寧ろ静かな時間を過ごした。そして大木の天辺まで登り、森の上から見る【森国】の広さは島国とは思えなかった。
【教国】は流石に危ないので行ってない。
お分かりだろうか?意外と自分追われてない。余裕で観光してしまった。風光明媚な土地案内させたら、それなりじゃなかろうか?
そして【帝国】に帰ってきた。なにしろ協力者に会えない。大陸中歩いて見つからないとかどこにいるのよ協力者。
仕方ないので、今まで避けてきた都探索といきますかと【古都】からはじめようと思う。
そして【古都】近くで、遂に精兵に見つかる。
「たーいちょう!みーつけた!」
「げ、ルーク!」
「げってなんですか!自分が何しに来たか知ってますか?隊長を捕まえに来たんですよ?そんな反応すると手心も何も無いですよ?」
「ふーん、ルークは手心とかそんな事言えるほど強くなったんだな?そっかー・・・」
蛇の腕輪からダガーを引き抜く。
「いやー!ちょっと待って下さいよ!一応自分達だって、隊長には捕まって欲しくないんですよ!でも、隊長はもう長い事逃走中じゃないですか、だから、お偉いさんが痺れ切らして、とうとう自分達まで動かしたんですよ。流石にお偉いさんたちじゃ、敵わないですもん」
「まあ、そりゃ仕方ないけどさ。よく見つけたな。流石ルークだわ」
「いや、自分達にそんなの無理に決まってるじゃないですか。ルースィすら、隊長の痕跡は追えても足の速さは追いつかないって言ってるのに」
「じゃあ、なんでここにいるのさ」
「まあ、情報提供者がいたからですけど【森国】の【隠密】の」
遂に頭領のお出ましか?ヤヴァイぞ。
「小さい存在感の無いご老人か・・・」
「何警戒してるんです?情報提供者も自分も隊長に敵対する気は無いですよ」
「でも追ってきたと、つまりどうすれば丸く収まるの?」
「話が早い。このまま逃げて貰っていいですか?監視はついてるので本気出して下さい。最悪斬られても恨まないですよ。元【帝国】東部輜重隊メンバーは。そしてそのメンバー以外は隊長からしたら有象無象ですよ」
「有象無象って、お偉いさんが来たら流石に自分も困るんだが?」
「大丈夫です。お偉いさん方は【教国】からの協力要請に『上から物言うんじゃねぇ』とばかりに脅しつけてるみたいですから、だからこその自分達ですよ」
「そうか、監視ついてるんじゃ、長々と話し聞くわけにも行かないし、信じて逃げるかね」
「じゃあ、自分が笛を吹いたらスタートでお願いします。うまく追いかけますので」
ナイフをしまい、体を緩める。軽く関節を回し、自分の状態を確認する。
ルークのピーっという高い笛の音共に駆け出す。
と言っても足場は雪だ。まずは<疾走>を使い森に駆け込む。
<疾走>の効果が切れると同時に木に登り、枝を飛び移る。
やはり、足場の悪い雪国は木の上を行った方が圧倒的に早い。ぐんぐん距離を開ける。
遠くからルークの声が、
「ちょ・・・は・・・ちょ・・・もう・・・ちが・・・」
何を言っているのか判然としないが、本気で逃げろと言われたのだから、本気出す。
雪国特有の斬り付けてくるような風に懐かしさを感じる。いっそ顔に当たる雪片の痛みが寧ろ心地よい。
ふふ、テンション上がってきた。
魔物すら追いつかないスピードで、どんどん森の奥に入り込む。
【帝国】は雪国だが同時に森も多い。
【森国】程の密林ではないが、雪でも枯れない木々がいくらでも生えている。
ふと、気がつくと誰も追ってこない。
ずっと逃げてきたが、何だかんだ一番寂しい時間。
そりゃ捕まらない為に本気で逃げてきたけど、逃げ切るたびに寂しくなるのは何故だろう。
仕方ないので、地面に降り、のんびり歩く。
なんかいっそ合図送ったろうかなと、セーフゾーンでご飯を作り始める。
やっぱり雪国なら体が温まるスープだなー。
根菜類を適当に小さく切って~。小さく切った鶏肉もぶっこんで~、スープの元に、ちょっとお酒を入れて~。
煮るだけ~煮るだけ~。
根菜スープで体を温める。
だーれか来ないかなー。
そんな事を考えていると本当に気配を感じる。
スキルじゃない、普通に経験で何となく分る。多分パーティで動いてるやつら。
誰かね?そろそろ協力者に会いたいんだが?