256.ゆったり逃避行
【帝国】から逃げて【馬国】を歩いているが、どこに行くかな~。
取り敢えず、北部外縁の森を行くかな。ど真ん中の高原は迷子になるもんな。
何よりいざと言う時すぐに姿を隠せるってのが、いい。
のんびり木々の合間を歩いて抜けていく。
ふと気がつくと、いつからか遠くから、なにか甲高い音が響いている。
一定間隔で鳴るその音はちょうど自分の進行方向から聞こえる。
踵を返して進む方向を変えようかとも思ったけど、行く当てもあるわけでなし、そのまま興味のおもむくまま、しかし何があるか分からないので慎重に、周囲の様子を窺いながら進む。
そして、視界の悪い森でようやっとその正体が分る。
牛頭のヒトが、木を切っているのだ。
謎も解けたし、鉢合わせないように大回りして、抜けていくかと方向転換しようとした時に、牛頭のヒトに近づく、シマシマの影。
多分、虎の魔物だ。明らかに牛頭のヒトを狙っている。
溜息を一つつき〔八岐の外套〕の時のセットに装備を変え、剣を抜いて、牛頭のヒトに走り寄る。
自分が虎と牛頭のヒトの間に入ると同時に、虎が飛びかかってくる。
両前足を高く上げ、上からのしかかるように飛びかかってくるが、剣を立て、喉を狙い撃ち、突き通す。
頭の裏から剣先が抜けた感触と同時に、力ずくで虎を横倒しにし、その勢いで剣を抜く。
とどめを刺そうと虎に近づくと、牛頭のヒトが斧を大きく振りかぶり、虎の頭を潰してしまった。
そして、虎に大振りなナイフか剣鉈を刺して<解体>しながらこちらに話しかけてくる。
「あぶなかったのね。そんなに小さいのに無理しちゃ駄目なのね」
確かに牛頭のヒトは近くで見ると自分より頭一つ以上は抜けていて、更には筋骨粒々だ。でかい!
「嗚呼、余計な手出しになっちゃいましたね。すみません」
「いいのね!たまには虎肉が食べたかったのね」
「肉食獣って臭みが強くて食べれないって聞いたんですけど、そんな事無いんですかね?」
「虎肉は精力みなぎるよ。体がぽかぽかして、力がいっぱいでるね。大きくなりたかったら食べた方がいいよ?食べる?」
「いいんですか?ちょっと気になります」
言うが早いか、近くのセーフゾーンの焚き火を起こし始める牛頭のヒト
「あの、もしかしてミノタウロスですか?」
「そうだよ?他に何に見えたの?そう言えば、君も見たことある気がするな」
「気のせいじゃないですか?」
「気のせいかも、普段ヒトに会うことも少ないし、会ったことある人なら忘れないもんね」
「嗚呼、木を切って生活してるみたいですけど、あまりこの辺りにはヒトは来ませんか?」
「うん、この辺りはミノタウロスがいっぱいだからね。あまりヒトは近づかないよ。はいこれ!」
しゃべりながら、虎肉の後ろ腿を大腿骨ごと焼き、渡してくる。見た目はマンガ肉だ。
一口食べると、中々に癖と臭みのある肉だ。どんな動物でも足は食べれるって聞くけどな。
現実で虎は流石に食べた事無いし、確か違法の筈だ。
気にはなったが、これはきつい。
「お酒吞みますか?」
「呑むよ!くれるの?」
どうやらこのミノタウロスもいける口みたいなので、強めのお酒を渡す。癖のある肉を流し込むにはこれしかない。
酒と肉を持ち食べながら、更に世間話をする。
「ところでミノタウロスがいっぱいだと何でヒトは近寄らないんですか?」
「うーん、ミノタウロスって昔はあまり頭がよくなかったんだって、魔物だと思われてた事もあるみたい。今はそんな事無いんだけど、皆怪我したくなくてあまり近づかないんだって」
「昔は頭よくなかったのに、今は頭がよくなるなんて、学校でも作ったんですか?」
「違うよ。昔天才と呼ばれるミノタウロスが、魔物や邪神の化身と戦って、その時に貰った不思議な玉にミノタウロスがもっと頭がよくなって、他の種族と仲良く暮らせますようにって願ったんだってさ」
へー、こんな所にも12英雄っぽい話しがあったなんてな。
そして、貰った分の肉を食べ終わった所で、
「あっ食べ終わったの?もっと食べる?」
「いや、自分は体が小さいので十分です。楽しかったです。また」
「そっか、またね!お酒ありがとう」
そう言って、ミノタウロスと分かれる。
正直虎肉は癖が強すぎてこれ以上はちょっとしんどかったな。
しかし、ただ焼いてもらっただけの肉にも関わらず、バフがついている。
力が漲るので、走り出すが、全然疲れない。
いや、普段から疲れることは無いのだが、
しかし、緩急つけずに無理に走っても、余裕がある。どこまでも走れそうだ。
気持ちの赴くまま【馬国】北辺の森を踏破する。