252.【古都】脱出
まずは【兵舎】の部屋。
ここでいきなり奇襲は無いだろう。と言うのも【教会】の【対話室】の様に同時に同じ扉に入ってもばらばらの個室につながるからだ。
要は誰かと一緒に一つの個室に入る事は出来ないので、部屋を出た瞬間が勝負だ。
剣を抜き、深呼吸を一つ。
廊下に出たが、誰もいない。一応剣をしまい、慎重に進む。
もちろん天井に張り付いている人間がいないかも、窓の外に人がいないかも要注意だ。
全然誰もいない。
そのまま受付に向かい物陰から窺うと兵長はいた。
「ふん、今日は出動出来る奴は全員【巡回】に回しちまったから、誰も任務を受けに来やしないな。折角だから片付けでもしてくるか。全く不甲斐無い奴等だ。目立つ格好しているニューター一人見つけられないなんてな。とりあえず、この襤褸くなった外套は置いておくか、別に捨てるだけだし、誰かに持って行かれても困らないしな」
そう言って、一着の薄鼠色のフード付ローブを置いてどこかに行く兵長。
それにしても、完全な棒読み説明口調だったんだが、自分が近くにいるの気がついたのかな。
まあ、兵長だしな【帝国】の偉い人は皆化け物だし、それ位の事は可能か。
すぐに受付に近寄りローブを羽織るが、ゆったり目で、アイテムバッグの上から着れるが、
剣と兜割が引っかかる。
仕方ないので二つともアイテムバッグにしまう。
何か最近武器しまってばっかりだ。蛇の腕輪があってよかった。後ダガーの使い方習えたのもありがたい。
とりあえず【古都】を出るまではダガー頼みだ。出来れば誰も斬りたくないけどさ。
心ばかりに金貨を一枚受付に置き、出来るだけさり気無く【兵舎】から出る。
雑踏に紛れ込みながら、周囲の様子を窺う。とは言えあからさまにキョロキョロしていたら、怪しんでくださいとばかりだ。
フードを目深にかぶり、さり気無く目だけで周囲を窺うが、視野が狭くてびびり倒しながら歩く。
流石に【古都】の【兵士】達なら近くに寄られれば、自分の顔を見分けてくるだろう。
正面から二人組の【兵士】がこちらに向かって歩いてくる。多分まだ自分を見つけてはいないだろう。
すぐにわき道にそれて、家の間の小道に入っていく。
私道なのか公道なのか微妙な道ださっさと抜けよう。
道の抜ける先から声が聞こえる。
一本道だ。抜けた先に【兵士】でもいたらまずい。
大変申し訳ないが、他人の家の壁を登り、屋根の上に伏せる。
自分が行く先の道を覗けば、案の定さっきとは別の二人組【兵士】だ。
いっそ、このまま屋根の上を跳んで行ってしまえば、楽なのじゃないかと思うが、
遠く【古都】の外壁の上にも【巡回】の【兵士】がいる。屋根の上など歩いていたら目立つ事間違いなしだ。
仕方無しに、そのまま屋根を伏せながら匍匐し、【兵士】達の死角になる場所に降りる。
一応自分も散々【巡回】し、勝手知ったる土地なのだが、今日は本当に【兵士】が多い。
当然、自分を見つけ捕縛する為だろう。
しかしまだ、何にもしていない。流石にここは逃げ切ってみせる。
何とか記憶を辿り、目立たぬ小道を抜けていくが、大通りにぶつかってしまった。
ここだけは渡らなければならない。
目立ってもいいから、走るか・・・。
迷っていると、いつの間にか誰かに顔を覗かれていて、大きな声を出すのを何とか堪え、息を飲み込むと。
相手は子供だった、そりゃ下から覗けるよな。服装の感じから、祭殿の子かなと思ったので、
あまり良くは無いと思ったが、お金を渡し。
「ごめんあそこの【兵士】さんの気を逸らせるかな?」
と聞くと、何も言わず頷くので、任せる事にした。
普通に【兵士】に話しかけ、どこかに連れて行ってくれる子供。
出来るだけさり気無く大通りを横切り、また小道に入っていく。
意外と隠れる場所って言うのは無いものだ。
いつ誰に見つかるか、通報されるか分らない。
田舎の都にも関わらず、妙に人手が多いような気がしてしまう。
いつもはそんな事無いのに、追われる身になると、何であっちにもこっちにも人がいるんだ。
自分は今目立たないローブで存在感皆無のはずなのに、何か見られている気がする。
ズボンのチャックが開いているわけではない。しょうもない事を考えてしまった。
まあ、ストレスがかかりすぎているのだ。ちょっと現実逃避もしたくなる。
何とか【古都】の外壁に辿り着く。
門から抜けるのは得策ではなかろう。この外壁を越えるしかない。
しかし、ちんたら登っていたら、絶対ばれるだろう。
何なら、登っている最中に撃ち落されかねない。
となればやる事は、一つ。
飛蝗ジャンプで、一息で外壁の上に立つ。
だが、同時に衝撃波が起こり、派手な音とエフェクトが発生する。
左右から走ってくる【兵士】達。幸いまだ距離はある。
当分慣れた【古都】を離れる事になる。
都を振り返り、外壁上からの光景を目に焼き付けて、飛び降りる。
結構な距離を降りたが、十分飛蝗スーツの力は発揮され怪我しなかった。
もう一度地面で衝撃波を発生させて降り立ち、すぐに走って【古都】から、離れる。
一息ついたところで、飛蝗ブーツは外し、別の靴に履き替えておく