250.串刺穢王との戦い
「はぁ、やるしかないか」
「ええ、しかしまともな方法で勝てる相手じゃないですよ」
「仕方ない、いきなり全開で行く。動きを見る限りそこまで早くないし、回避重視で」
「そうですね、そうしましょう」
さっきまでの話から多分デバフ型の相手だ。杭の投擲こそ早いし回避に気を使わねばならないが、それ以外の動きは遅い。
遅いが故の投擲系攻撃なのだと予想してる。
「ふん、相談は終わったか?じゃあ更なる絶望を与えよう」
そう言うと急にえづきはじめる。そして喉周りが異常に膨れ上がると同時に、口から異形の蛙が吐き出される。
「おおよそ、この私の動きが遅いと踏んだのだろうが、眷属に翻弄されながらこの串を避けられるかな?」
すると、蛙が何のモーションも無しにいきなり、こちらに舌を伸ばしてくる。
すぐさま左手の腕輪からダガーを取り出し、逆手に構え、舌を跳ね除けるように斬り付ける。
同時に杭が飛んでくるが、屈んでそれも避ける。
すぐに転がり、体勢を立て直すと同時にこちらも最初から切り札を発動する。
<青蓮地獄>
白いエフェクトを身に纏い。警戒する。クラーヴンのおかげでダガーにも氷精が宿っている。
蛙が今度はこちらに飛び込んできたので、転がって避ける。
すると壁に当たり、ずるずると崩れ落ち動きが止まる・・・?
あっ壁のヘドロの呪いで動けなくなってるのか、やっぱりアホだろ。
そんな事を考えていると再び杭が飛んでくるが、それは軽く体を捻って回避。
そして、ベルトのバックルの蛇を回転し、押し込めば戦闘装備に切り替わる。
今回は一応骸骨装備の方だ。特に指揮するわけでもなく一人で戦うのならこっちの方が戦いやすいと思ってセットしていたが、まだ出番初めての防具だったわ。
さて、お次はどうするかと身構えていると、杭を手に持ち何やら力を込め、徐々に杭周りのエフェクトが大きくなっていく。
「ふん、先程からちょこまかと・・・。逃げる事だけは認めてやろう。だがコレまでだ」
言葉の終わりと同時に杭を頭上に放り投げる。
投げた勢いと重力が釣り合いちょうど空中で止まったと見えた瞬間。
杭が爆ぜ、赤黒いエフェクトが撒き散らされる。
一瞬の事だったが、杭のエフェクトは地面に向かって放出されるのを見て取り、跳んで避ける。
天井にぶつかりダメージを貰うが、落ちるときに2階の柵に掴まり、落下を防ぐ。
どうやら神官さんも上に逃げたのか、自分と同じような格好で、ぶら下がっていた。
1階の地面には無数の棘が刺さり、今も赤黒いエフェクトが消えない。
そのまま翻り、2階廊下に身をおろす。
いきなり全開のつもりだったが、まだ<青蓮地獄>を発動して、装備を切り替えることしか出来ていない。
「多分ですが、あの呪いは同じような地面を制御する補助効果のある術で掻き消せるとは思います」
ナイスヒントです。神官さん。
「じゃあ、自分が上書きするので、何とか今度こそダメージ与えて行きましょう」
そう言うと、廊下を両側に別れ走り出す自分と神官さん。
走る間も杭が飛んできて壁に刺さるが、自分と同様に神官さんも動きがすばやく当たらない。
両側から正面階段に辿り着き、ギリギリ赤黒いバフのかかっていない場所に辿り着き。
凍剣術 獄霜界
床を白い霜が覆い尽くす。
散らばっていた棘も凍りつき砕けて、氷片に代わり漂う。
そして、ただでさえ遅かった敵の動きが更に緩慢になる。
一息にまずは、斬り抜ける。斬った後何が飛び出すか分らない。すぐに間合いを取る。
何もおきないので、更に背中から3連撃食らわせる。
一旦間合いを取るが何も起こらない。
ダメージが入っている手応えはあるのだが、相手が遅すぎて、影響が全然わからない。
一応<分析>してみる。
駄目だ。全然情報が出てこない。自分は敵の情報を読み取る専門ではないが、ココまで出てこないものか?
仕方ないので、獄霜界が消えるまでは只管斬りつける。
そして、獄霜界の効果が終わると同時に間合いを取る。
「ふふ、ふははははは、その程度か?蚊ほどのダメージしか無いぞ?小物よ」
どうやら、はったりでは無さそうだ。余裕がにじみ出てる。
チラッと神官さんの方を見ると何か覚悟を決めているようだ。
「どうやら、普通にやって勝てる相手では無さそうですね」
それは知ってた。第7機関長が勝てない相手でしょ?そりゃ無理だわ。【帝国】の上の人達ですら勝てないって言ってるようなものじゃん。
「やっぱり逃げるしか無さそうですね。何とかさっきの部屋の天窓から逃げ出しません?」
「それをすれば、本当に街の人が巻き込まれますよ。それだけは避けなくてはなりません」
それなんだよな。人が巻き込まれないなら死に戻るなり何なりできるのに。
「すみませんが、後の事はお願いします。聖石はあなたが回収して預かっていて下さい」
「え?何でまた、回収はいいとして【教国】に届けなくてもいいの?」
「いえ、私の取り越し苦労ならいいのですが、本来教区長はこのような大胆な真似は出来ない筈。すぐに聖石を使わなかった事がその証拠。誰かに何かを吹き込まれているかも知れません」
「そんな事言っても、第7機関長への恨み言とか嫉妬しか口にしてなかったじゃん。教唆した相手なんて分からないよ」
「ええ、ですから本当に心苦しいのですが、隊長殿が持っていれば、その誰かが動き出すかもしれませんので」
「自分が、囮ですか、何でまた」
「多分私はこの後当分目覚める事は出来ないと思います。そうなると教区長が魔物化したなどと信じて動いて下さる方があなたしかいないのですよ隊長」
「ええ?でも、聖石届ければ、終わりの話しじゃ?」
「多分、そうは行きません・・・」
「おしゃべりはそれ位にしてもらおうか!ようやっとこの体の使い方が分ってきたし、もうモルモットはいらん。眠れ」
再び腹が縦に割け、目が一つこちらを見ている。
「く、ら、え、」
腹の中の目に赤黒い光が収束すると同時に、神官さんが間合いを詰める。
よく分からないが自分も追いかける。
その勢いのまま、神官さんが銀の筒のようなものを投げつければ【教国】の法術の光のエフェクトが、敵の腹の辺りからフロア中に放出される。
あまりの眩しさに目がくらむが、どうやら相手の腹の目も耐えられ無いのか腹の裂け目が閉じる。
そして更に神官さんは、こちらに向かって何か術を発動し、バフをくれた。
ショートソードに法術のエフェクトが発生するが、効果を聞いてる暇は無い。
動かなくなった神官さんの前に出て法術のかかった剣で、とにかく敵を斬りつければ、
さっきまでとはうってかわって、大ダメージが出ているのか相手のリアクションが大きい。
時折腕を振るい、杭を放り投げてくるが、スピードではこちらの方が圧倒的に上だ。
であれば、いつまでダメージを与えられるかも分らないのだから、一切様子見無しで、ギリギリを攻める様に斬りつけまくる。
神官さんは完全に屈みこみ動かないが、もう攻めるほか出来ることは無い。
「くそが!いい気になりおって!コレで終わりだ!」
再び腹の目が、開く。
なんの考えも無く、その目に剣を突き立て、術を発動する。
凍剣術 獄氷華
教区長だった者の動きが止まり、辺りの空気と一緒に凍りつき、砕け、氷片に変わる。
地面に落ちた氷片から光の粒子に代わり、フワッと浮いては空中で解けるように消えていく。
未だ動かずにいる神官さんに近寄れば、虫の息だ
「ええ?何か食らったんですか?」
「いえ、あなたにかけた法術は生命力と引き換えの大技でして、一度使ったら最後生命力を使い切り、更には当分目が覚めなくなるのです。もうすぐ限界が来ます。申し訳ないのですが体だけ【教会】に運んでいただけますか?」
「まあ、死なないなら不幸中の幸いですけど、体を運ぶだけでいいんですね?」
「後、聖石の件はお任せします。もし、本当に私の取り越し苦労で、何も起きなければ【教国】に納めてください」
「まあ、何日か預かるようにしますよ」
「面倒お掛けしま・・・」
言葉の途中で力尽きるが、光の粒子になる訳でもないし、とりあえず【教会】に連れて行く。
ちなみに教区長の体は消え、聖石だけが残っていた。仕方ないので聖石は鞄に入れておいた。
こんな時間に一悶着起こしたくも無いので、流石に服はいつもの〔八岐の外套〕に装備は戻してある。まあ、装備くらいで見間違えられたりはしないと思うが、念のためだ。
【教会】に神官さんを連れて行けば、女性の神官さんがいたので、お任せする。
一応確認したら、死んではいないようなので、一安心。魔素を貰いすぎて、体が残る場合もあるもんね。
そして【兵舎】に戻ると夜中でも兵長がいたが、
「報告は後で聞くから、一旦寝ろ。酷い顔だぞ」
とのことなので、さっさとログアウトする。
そりゃあ、勝てそうも無い相手を逃がしたら、街の住民が大変な目に合うとか、重責過ぎるよ。
疲れた。