249.串刺穢王-くしさし-
聖石から発した光が教区長に吸い込まれるが、何か変わったのだろうか?
力を求めた訳だし、ムキムキになったりとか・・・今のところ変わった様子が無い。
「ふは、ふはははは!力を得ると言うのはこんなに面白おかしいことなのか!」
「いや、見た感じ変わった様子は無いですけど?」
「ふん、見た目で判断する愚か者め、まあどっちみちお前達は生かしておけないな。せめて力とはどういうものか見せてやるのも慈悲だろう。剋目せよ!そして死ね!」
体の内からおどろおどろしいエフェクトが漏れ出す。
ヘドロのようなものが、全身から染み出して、包み込み、一回りサイズが大きくなる。
部屋中に立ち込める異臭。
いつの間にかガスマスクを装着している神官さん。ずるい!
ヘドロが体内に引き込まれると元の姿が想像出来ない状態になっている。
ぎりぎり人型を保っているようだが、髪は無く全身が水死体の様にぶよぶよとしている。
しかしその水気も異常な臭気から腐っているようにしか感じられない。
腹部がバッサリと割けて、乱暴に縫い付けられている。その腹に何が詰まっているのか想像するだけで吐き気をもよおす。
唐突に右手に太い杭をどこからとも無く取り出し、投げつけてきたので、転がって回避する。
狭い部屋で、投擲武器なぞくらいたくも無いので、すぐに廊下に飛び出す。
神官さんもすぐについて来て、走って脱出する。廊下はいきなり吹き抜けであり、中央ホールに面していくつも部屋が取り巻く作りの様だ。
階段を使うには、ぐるっと廊下を回り込まねばならない。今は緊急事態なので、柵を飛び越え一階に降り立つ。
すぐに、正面玄関と見える大きな扉に手をかけるが、動かない。
家の内側なんだから、どこかに鍵があるのだろうと探すが、勝手の分らない家だ。困った。
そうこうしている内に、大仰に階段を降りてくる教区長。
元の姿なら、随分と偉そうな宗教家だな位にしか思わないが、今はその不気味な姿に威圧感を感じずにいられない。
「ふふ、その怯えた憐れな姿が見たかった。どれだけ偉そうにしようが、勇ましく息巻こうが、結局本質はそんなものだ。自分より強い者がいれば、尻尾を巻いて逃げ出す。慈悲を請えば楽に殺してやるどころか、わが眷属として生かしておく事もあるかも知れぬぞ?」
隣にいる神官さんをチラッと見ると、何かを小さい声で呟いている。
「串刺王・・・」
「ヴァンパイアかなんかのモデルの王様の話ですか?」
「何を言っているんです?【教国】地下墓地下層に現れる。穢王が一柱ですよ」
「なんで、またそんな姿になっちゃうんです?」
「多分、あれがあの人の力の象徴なんでしょう。かつて第7機関長と挑み、負けて逃げてきたと言う噂を聞いています」
「そりゃあ、あんなに気持ち悪い相手じゃ逃げちゃうよ」
「ええ、そうですね。気持ち悪いですね」
「さっきから聞いていればペラペラと!気持ち悪い!気持ち悪い!もっと恐怖し、みっともなく許しを請え!!」
「しかもアホじゃん。自分ニューターなんだから死んでも【兵舎】に行くんだから、討伐隊が来るに決まってるじゃん」
「うるさいわ!!それならキサマを殺して、すぐに近隣住民を殺しながら逃げてやるわ!死と不快を撒き散らし、あの馬鹿に思い知らせてくれるわ!」
うん、もう何が何だか、感情も目的もめっちゃくちゃじゃん。憎しみだけで何も考えられないのか。
「近隣住民に被害が出るのは非常にまずいです。申し訳ないのですが隊長殿力を貸していただけますか?」
「いや、第7機関長が逃げた相手ですよね?戦って勝てる相手じゃないし、自分が相手してる間に助けでも何でも呼んできてくださいよ」
「させるか!馬鹿はお前だ!!」
そう教区長だったものが叫ぶと、腹からヘドロを撒き散らし、壁中に飛び散る。
自分に飛んできた分は何とか避けきったが、壁や扉を汚しつくす。
「ふん、その穢れに触れれば、あっという間に呪われるぞ。どうやら殺せば不利の様だからな。身動きが取れなくなり。目が覚めぬようになるぞ。ふははははははははははは」
逃げ場がなくなってしまった。何も言わずに死に戻っておけばよかったかな~。失敗した。
「さあ、蹂躙を始めるとしようか。みっともなく逃げ惑え。そして最後に許しを請え。もう楽には殺さん」
「待った、なんで串刺王なの?それが分らないと死に切れない」
「説明してやろう!」
うん、やっぱりアホだぞ、話しを聞きつつ何とか脱出出来ないか考えよう。
手から太い杭を取り出し、話し始める教区長だったもの。
「この串を見よ。これが呪いの源である。他者を妬み嫉みこの串を打ち込むことで呪い、引き摺り下ろす。そう、私を置いて階段を上っていく者を巻き込み一緒に地獄に落ちれば、もうそれで満足だ」
と言いながら杭をまた投げつけて来たので、必死に避ける。壁に突き立つ杭。
「馬鹿め!話で気をそらし、逃げ道を探る気だったのだろうが、もう逃げ道は無いと言っているだろう。まあ、見苦しさはまあまあだ。その調子でもっと意地汚く生に執着しろ。そこを踏みにじる事しか、もう楽しみは無い」