248.浅はかな容疑者と言う名の真犯人
夜間に【教会】を訪ねる。
まあ、現実の3倍のスピードで時間が流れているのだから、ゲーム内の夜間にログインする事もあれば、昼間にログインする事もあるし、
結局何がいいたいのかと言えば、時間に関わらず【教会】は開いている。
店によっては夜間は閉まってたりもするが。
「こんばんは、それで教区長?はどこに引き篭もっているんですか?」
「こんばんは、話しが早くて助かります。教区長は自邸に引き篭もってますよ」
神官さんはトレードマークの眼鏡を外し、黒装束にフード付の裾の短めの上着。
いつもと違ってかなりアクティブに動ける装束だ。
「なんか、密偵みたいですね・・・」
「その通りですよ。第10機関は表向きにしづらい調査、場合によっては処分の機関ですよ」
「え~処分とか、不穏すぎてなんかな」
「安心して下さい。何でもかんでもいきなり処分なんてしませんよ。十分な調査が優先です。それに服装だけ見れば、隊長殿もかなり潜入向きですよ。背中の剣と腰の殴打武器をしまってみませんか?」
「・・・正面から行かずに、こそっと侵入する気ですか?」
「ご明察です」
なぜか、やたら嬉しそうにニヤッとする神官さん。もしかして人の家に侵入するの楽しんでるのか?やばいぞこの人。
とりあえず仕方なしに、武器を鞄にしまっておく。いざとなれば腕輪からダガー出せるし何とでもなるだろう。
闇夜に神官さんと繰り出す。明るい場所を自然と避けて、二人とも暗い色の衣装で、なんとも溶け込む。
こんな時間でもぼちぼちと人はいるのだが、気がつかれていないようだ。
神官さんの道選びと言うか、気配を消す技と言うか、【森国】の頭領を思い出す。
自分達を示すのは雪に残る足跡のみ、それも少し時間が過ぎれば消えてしまうのだろう。
一軒の少し大きめの屋敷に辿り着く、教区長ともなると清貧って訳にもいかないのかね?
「ニューターの方はたまに誤解があるので、お伝えしておくと、仕事に対する正当な報酬は受け取っても教義には反しませんので、ただ教区長は少々副業に力を入れすぎな所は否めませんけど」
「神官さんはいつも【教会】にいるじゃないですか」
「隊長殿もいつも【兵舎】に滞在しているじゃないですか、稼いでるという噂は聞いてますよ?そして教区長とは違いかなり多額の寄付をされているという事も」
そんな事を話しながら、家の裏に回り、壁を当たり前のように登っていく神官さん。
仕方ないので自分もついて行く。
「隊長殿は身軽で仕事も捗りますね」
「泥棒じゃないんだから、人の家に侵入して仕事とかやめて下さいよ」
二階の明り取りの窓から部屋の中を覗けば、あからさまに玉の入った小箱を前に苦悩している教区長。
「ええ、ココまであからさまなの??」
「はっはっは、そんなものですよ。誰が窓から覗かれているなんて意識していますか?いくら罪悪感があって警戒していても、四六時中明り取りの窓を警戒している人などいませんよ」
「にしたって、せめて玉?聖石?は隠しておいてもいいのに」
「ふむ、あの様子なら、表向きに重い処分さえしなければ、返却しそうですね」
そう言って、明り取りの窓を平然と外して、部屋の中に降り立つ神官さん。大胆すぎる!
仕方ないので、自分も後ろについて部屋に降りる。
「こんばんは教区長、その聖石を返却する気はないですか?」
「貴様は!そうか・・・第10機関だったのか・・・もう、終わりだ」
いや~諦め良すぎる。いいの?これで完了?
「そんな事はありませんよ。素直に応じて下されば、内々に事を済ませましょう」
「誰が、そのような言葉を信じるか!やっと・・・やっと手に入れたチャンスだぞ?」
え~?ピンチじゃん?しかも自分で招いた大ピンチ。追い詰められすぎて支離滅裂か?
「それは、素直にそれを国に納めていた場合ですね。事がここまで到っては、処分を出来るだけ軽く済ませるべきでは?」
「先ほど内々に済ませると言っておったでは無いか!つまり私を殺すと言う事だろう??何が軽いと言うのだ!!」
「え?暗殺??いや、それはちょっと自分飲めないよ?」
思わず、大きな声を出してしまう。
「いえ、そんな事はしませんので、見届けていただけますか?」
「貴様は!何故【帝国】の者まで関わっている?内々に済ませると言いながら」
「それは、あなたがこの方を巻き込んだからですよ。野卑な【兵士】とおっしゃってましたが【上級士官】殿です。相応の身分の方が納得する形でなければ、流石に事が済みませんよ」
だからって、人の家に侵入させるのはどうかと思うけどね!!
「ふん、どんな地位にいようが【兵士】なぞは下品で粗暴にも関わらず、暴れまわれば地位が上がる。無茶をすれば、褒められる。そして人を強引に誘い出し、同じ無茶を強要して、私のようなものは馬鹿なことをしたと蔑まれる」
うん、なんか私怨があるのか、やっぱり支離滅裂だ。
「第7機関長との関係は噂に聞いていますが、聖石とは関係ないのでは?」
ナイス!神官さんその通り!聖石の件だけ解決すれば、それでいいのだ。
「うるさい!何故同期であいつばかり昇進する?私は、こんなど田舎でいつまでも燻っていると言うのに!しかも、同情するかのように第7機関に誘ってきたり!何故私が汗臭い第7機関など!しかもあいつの風下に立てなどと!」
「え~第7機関長そういうこと考えなさそうだけど」
「うるさい!!野卑な者同士、仲が良いようだな!折角ずっと行方不明だった未使用の聖石を見つけて、これで本国に返り咲けると思ったのに聖石を取り上げるだけ取り上げて、何も報いない!クソッ!」
思わず神官さんを見てしまう。手柄に対して報いないのはちょっとどうなの?
「それは本物だと断定してからと言う話しだったのでは?本当は自分で使いたくて渡すのが惜しくなったのでは?」
いや、そんな追い詰め方駄目じゃん・・・。
「なにを!どいつもこいつも!!もうこうなったら!!!」
聖石を手に持ち空に掲げる。
「ねえ、その玉にさ、教皇でもなんでも偉い地位につけるように頼めば?」
「「え・・・?」」
「そうすりゃ、偉くなれるし、そういうのが望みだったんじゃないの?」
「ふ、ふん!何を言っておるか!何のために12人も機関長がいると思う?多数決による罷免権があるからだぞ」
「じゃあ、せめて聖石横領の件を無かった事にすればいいじゃん?」
「そんな事をしたら聖石一回分の願いが無駄になりますよ?」
「未使用って事はその聖石を隠した英雄は聖石の力を頼る事を良しとしなかったんじゃないの?じゃあ、何も無かった事にするのが一番いいよ」
「うるさい!うるさい!!私に指図するな!!!今はっきり分かったぞ、私の望みが。お前達のように自信満々に浅はかな事を述べるやつらに思い知らせてやりたい!所詮は理屈で何をいった所で理解しないのだろう?納得しないのだろう?だったら力で教えてくれるわ!聖石よ!私に力を!!」
え・・・なんでそうなるの?
聖石が光り、噴出す光が徐々に収束し、束になって教区長に吸い込まれる。