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246.面倒事

 【教国】に滞在する事数日、ワインを仕入れたり呑んだり、炊き出ししたりご飯食べに行ったり、ぼちぼちと過ごしていたある日の事。


 「すまないが、ちと面倒事になったんで、協力してもらっていいか?」


 「面倒事?逃げてもいい?」


 「もっと面倒になるんで、協力してくれ」


 「分った。いいけど、何があったの?」


 「その辺も含めて前情報が無い方が疑われないと思うんでな。付いてきてくれ」


 そういわれて第7機関長と宮殿を移動する。


 着いた場所は天井が高く、天井画も壁の装飾も荘厳な雰囲気のホール。


 しかし、正面の壁上方に大きな天秤のモニュメントがある辺り、嫌な予感しかない。


 いや、絶対裁判かなんかじゃない?自分なんかしたっけ??


 「ご足労いただきまして申し訳ございません【上級士官】殿、そう緊張されずとも正直に質問に応えていただければ、何も困らせるような事はしませんので」


 そう言って、正面の教卓の様な机の前に立つ温厚そうなご老人。


 「あ、はい。何でこんななんか物々しい事に?」


 「なぜ呼ばれたかは心当たりが無いと言う事で宜しいですか?」


 「いや、呼ばれるとしたら、この前の運び荷の件とかですか?それ以外思い当たらないです」


 「そうですか、ちなみに運び荷の中身はご存知ですか?」


 「いや、知りません。箱も開けてなければ、中身を聞いてもいません」


 「誰かに箱を預けたり触らせた事は?」


 「【帝国】の教区長?から渡されて、第7機関長に渡しました。それ以外は自分が抱えていましたし、誰かに触らせたりもしていません」


 「ふむ、嘘は無さそうですね。仮に無意識の事でも事実とは違えば、分かるのですが、そのような事も無い。と、なると・・・」


 「ええっと?本当に何があったんですか?」


 「運び荷の事であるとは予想通りです。中身が偽物とすり替わっていたのですよ。とは言え中身を知らなければ、偽物を用意する事もできません。しかも誰にも触らせてないとなれば、無意識の共犯でもない」


 「ええ・・・?なんか本物と偽物といくつかのルートから運んだんですよね?じゃあ、自分が持って来たのが偽物だったんじゃないですか?」


 「全て偽物だった為、今回の調べになっております。そしてあなたが持って来た箱が本来本物を入れておく箱だったのですよ」


 「そんな。なんで他国の人間にそんな重責を?」


 「あなたの信用はあなたが想像している以上だと言う事です。しかし、ほぼあなたの犯行ではないと確定した今少しだけお話しましょうか」


 「え?たったコレだけの取調べで、分るんですか?」


 「ええ、ココは真実の間、かつて人が人を裁く事に苦悩した先人が聖石に願い。あらゆる嘘を隠せぬようにした場所です」


 「この場所だけ、嘘を隠せないようにしたんですか?それだったら嘘発見器みたいな物頼めばいいのに」


 「人は全てを曝け出して生きていけるほど強くは無いでしょう?だからこの間だけ重要案件にて秘密を暴かれるようになっているのです。しかしそれも誰もが使えるわけではありません。代々第9機関長にのみ引き継がれる秘儀なのです」


 「はあ、つまりあなたが第9機関長なんですね?はじめまして」


 「はじめまして、お会いできて光栄ですよ。しかし、そうなると内部の人間の仕業ですか【帝国】ですり替えたか【教国】ですり替えたか」


 「結局はこの中身って何だったんですか?」


 「聞きますか?厄介事に巻き込まれますが?」


 「やめておきます」


 「いや、寧ろ巻き込まれ、更にこうして真実の間にて詰問されているのです。知る権利があるでしょう」


 「いや・・・」


 「箱の中身は聖石です。先程話にも出てきましたね」


 「聖石っていくつもあるんですね。なんか願いが叶う石って、13英雄の話みたいですね」


 「その石の事ですよ【教国】では聖石と呼ばれていますが、人や場所によってはただ玉と呼ぶみたいですね」


 「ああ、酒縁の玉なら持ってますよ。酒呑童子に貰いました。お酒と交換にって」


 「そうでしたか、あなたは聖石に縁のある方でしたか。それならここの聖石もお見せしたかったのですが、今は第12機関長が持ってまして、また機会があれば」


 「別に自分はたまたま貰っただけなので、それより貴重な物が無くなったのなら、確かに困りますね」


 「ええ、特に今回は未使用の聖石らしく、邪心のある者の手にでも渡れば、どうなる事か・・・」


 「え?使ってない聖石なんてあるんですね?」


 「何でも願いが叶うなど、逆に良くないと考える英雄もいたようですよ。他には後世困った時に使うようにと残した者とか」


 「ああ、食料とお酒は大事だからさっさと使ったのか~。確かに誰かが害を被るような事じゃないし」


 「そうですね、そうやって多くの者達の為に物惜しみせず使える者の手に渡ったのなら、良いのですが」


 「そうですね。せめてお金が欲しいとかその程度なら誰も困らないんでしょうけど」


 「はっはっは、我欲の為に使ってしまっても構わないと?」


 「いいんじゃないですか?例えば偉い人の手に渡って政治的な駆け引きに使われた挙句、変な人の手に渡ったりするより、シンプルな我欲の為に使ってもらっちゃえば、気が楽ですよ。世の為ヒトの為って言った挙句大きな事頼んで世界が混乱したらどうするんですか」


 「面白い御仁だ。大きな欲より小さな欲に使ってもらった方が気が楽などと、例えば世の孤児や恵まれぬ者達が困らぬように金銭を分け与えて欲しいなどは、どうです?」


 「まあ、世界中じゃ自分も無理ですけど、寄付はしてるし、がんばって働いてその中から寄付できるから尊いんじゃないですか?」


 「それもそうですね。金銭の多寡より、その高潔な志こそヒトに必要なものでしょう。そんな高潔な魂を持つあなたにお願いがあります。本当に無理の無い程度で構いません【帝国】の神官について調べていただけますか?」


 「自分は警察でも探偵でも無いので捜査とかそういう難しい事はちょっと」


 「もちろんちゃんとした裏付けも捜査もこちらでやりますが、もしあなたを利用しようとしている者がいるのであれば、あなたが動く事で焦るかもしれません。しかもこれはあくまで頼み事であって強制ではありません。ちょっと行って話を振っていただければ、その程度の事です」


 「まあ、それ位なら構いませんけど」


 「そうですか、色々と不躾な事をしてしまい申し訳ございませんでした。解決のあかつきには必ず報告とお詫びを兼ねたお礼をさせていただきますので」


 「出来れば、厄介事が起きないのが一番ですけど、ヒトの世なれば詮無きことですかね」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「何でも願いが叶うなど、逆に良くないと考える英雄もいたようですよ。他には後世困った時に使うようにと残した者とか」 「願いを叶える」というのが、魔神や悪魔、死神との取引にしか思えない…
[良い点] 偽物を用意したらみんな偽物はさすがに草 [一言] 良かれと思ってひどい世界… 世界の全ての人間を美少女に! で、地獄絵図になった世界というネタがあったの 元の中身と思考は変わんないのにガワ…
[一言] 隊長の言うことはつまり某竜玉の「ギャルのパンティーおくれー!」ってことですね(酷い例え)
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