242.久しぶりのピンク師匠
■ 組討 ■
戦場において甲冑を着た相手を組み伏せ
短剣などで討ち取る技法
後には武器を持った相手の制圧技術や護身技術の基礎ともなる
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「本当に参っちゃうよなー。教官だけでも大変だってのに、何で【帝国】のお偉いさんてあんなに強いのかね。憲兵総監はまだ分るけど、軍務尚書って内勤じゃん。おかしいよなー」
「まあ【帝国】は基本的に軍事国家だし、強い弱いは置いておくとしても皆鍛錬は積んでますからね。逆に上に行く人がだらだらしてたら、怒られちゃいますよ」
「え?そんな感じなんだ?いやだな~偉くはなりたくないもんだ。休みとかだらだらお酒吞みたいもん」
「いや、もう十分に偉いんで、だらだらしないで下さいよ!って言いつつもちゃんと【訓練】して、こうやって輸送任務も受けて何だかんだ勤勉ですよね隊長も」
「そう?別に大陸一周しちゃったら、歩いてる方が気が楽だしな。しんどいけど【訓練】も別に虐めじゃないし、ちゃんと技術習得できてるしな」
「へ~上の人達の一流の技をちゃんと習得できるなんて何だかんだ流石隊長ですよね」
「いやいや、上の人達って本当に凄いから、自分に出来る事からちゃんと教えてくれるんだよ。今は憲兵隊長が<組討>教えてくれるんだけど、結構面白いよ。術みたいに精神力流し込むだけじゃないし、中々駆け引きが面白い。勝つのは無理だけど」
「へ~自分は軍務尚書のダガーの使い方の方が気になりますね。弓使ってるから距離詰められたときのサブウエポンの使い方とか、習いたいですよ。どんな感じなんですかね」
「嗚呼、まずは突きの早さだよね。アレだけ短い武器で至近距離で突かれるのって本当に避けられないわ。後は逆手持ちの時の連撃だよね。
最近見えてきたのはどうやら内から外に押し出すように使ってるみたいで、自分の体に当たらないように押し出して、そのまま肘を中心にした回転で突いたり、刺したり。なにがなんだか」
「へ~でもそれだけしゃべるって事はやっぱり【訓練】にはまってるんですね。自分も【訓練】もうちょっとがんばろうかな」
そんな話をしながら、久しぶりの輸送。今回は【馬国】のいつだかお世話になった族長のいるゲル集落。
季節が違うので前回とは違う場所にいると言う事で道案内を頼みつつ【帝国】製の鉄具を運んでいる。
久しぶりの高原に吹き抜ける寂寥感のある涼しげな風、何となく懐かしさすら感じる。
大きなゲルが見えてくると、次々ゲルが見え始める。
相変わらず平らに見えて凹凸の多い土地だ。
ゲル集落に入ると運んできた荷物を任せ、のんびり見回っていると、
「アイヤー!!」
懐かしい声が聞こえる。ドスケベ師匠元気だなと声のする方を見ると、思いっきり自分の方を見て叫んでいた。
「なんね!元気にしてたネ?当然ね!ドスケベだモノ。溢れすぎちゃう生命力がウリね!」
「まあ、ぼちぼちやってますよ。大きな任務も終わって気も楽だし」
すると手を開いて差し出してくるので、反射的に握手をする。
「アイヤーーー!なんね!!!」
「あっ握手じゃなかったですか?」
「違うね!今の力を測るために握手したね。だからそっちじゃないね。こんなに<擒拿術>の熟練度溜め込んで置いてなんで使ってないね?溜めすぎは良くないね」
「熟練度って言っても要は新しい術を覚えたりとかですよね?何も新しいの出てこないんですが?」
「だったら、おいちゃんのところに来れば教えてあげたね。手取り足取り。まあいいね、これを振るね」
そう言って、何かの筒を差し出す。受け取ってしげしげと見てみれば、神社にあるおみくじみたいだ。
振って、小さな穴から一本の棒が出ると師匠に渡す。
「もう一本引いていいよ」
と言うので、もう一本出し、渡す。
「なるほどね!流石ドスケベ界の新星ね。一つは 擒拿術 梔子 ね。これは相手の口を塞ぐように掴むね。そして精神力を流せば、相手は一定時間声が出なくなって、さらに術も使用不可になるね。
相手を掴んで声を出させないようにするなんて、一体何する気ね?」
「いや、大事なのは術が使えなくなる事だと思うんですけど?何で声が出ないと術が使えないんですかね?」
「知らないね!呼吸と関係が有ると思うけど、泳いでいても使える術はあるから結局分らないね。何でも知りたがらないよ!秘密があるから愛が無い訳じゃないね。信じるのも大事よ。騙されないようにするのも大事よ」
「どっちなんだか?」
「ケースバイケースよ。もう一つが、 擒拿術 照葉野茨 ね。足か足首を掴んで精神力を流すね。足の裏が地面にくっついて一定時間移動出来ないね。硬直より長い時間拘束できるからかなり使えるかもね。
相手の足を拘束するなんて、相手の手の届かない位置から一体何する気ね!」
久しぶりに会ったドスケベ師匠、言ってることはアレだが、実際の術の教え方は丁寧だし、【帝国】で散々しごかれたばっかりの自分からすれば、穏やかな【訓練】の時間だ。
自分より体の大きな獣人達相手に術の【訓練】をしたり、習っている最中の<組討>を練習したり、
自分が<組討>で相手の関節を固めたり地面に組み伏せるのを見たドスケベ師匠が、より実践的ですばやい腕がらめからの力の要らない重心を利用した投げを見せてくれたり。
有意義な時間が過ぎる。




