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24.PKとおっさん

 -【古都】のはずれ-


北門を出て、正面なら急坂の上に天大橋、左手なら材木置き場と天大橋への回り道。

右手はわずかに林が広がるのみ魔物(モンスター)がいるわけでもなく、せいぜい子供が時折小遣い稼ぎに薪用の枯れ枝を拾いに来るくらいだろう。


 そんな場所に、珍しく大人の人影が二つ。


 一人は一心不乱に剣を振っている。

 一人はそんな様子を物陰から覗いている。


 剣を振っているほうは、子供が新しい玩具を手に入れた時のように、すき放題振り回しそれで飽きることが無い、完全に油断しきりだ。


 もう一人は、まるで油断無く相手の動きを目で追っている。

 だが、とても寒そうだ。まるで雪など初めて見るような軽装だ。


 それもそのはず、その男はつい先日まで王都で生計を立てていた。


 人を狩って


 その男はPK(プレイヤーキラー)だった。

 ニューターを狩り持ち金を奪うことを楽しみとしていた。


 その男の理屈はこうだ、「強さを求めるゲームで弱い奴が悪い」


 もしもニューターがヒュムを狩ろうとすれば、すぐさま神の代理人に命を奪われ、9日の休眠を強制される。


 ひどければこの世界に来ることすら出来なくなる。


 だが、ニューター同士ならなにもペナルティは少ない。死んだ方が持っている金を落とすだけだ。そして、ごく普通に登録地点へ戻され、ステータスや行動に一定時間少々の制限を負うだけ。


 ただ、ニューター同士でも殺せば殺すほど罪業(カルマ)が溜まる。そうなれば、死に戻り後の保護も無くなり落とす金額も、持ち金から、預けている分まで落とすようになってくる。


 それでも、PKをやめられない者は少なからずいる。


 闘技場での正面からの戦いは勝てずともルールなしの命の取り合いなら勝てると踏む者、リスクを負うからこその興奮だと言う者、弱者を踏みにじることでストレスを解消する者、様々である。


 その男がどのタイプか知る由も無いが、少なくとも自分の力に自信があるのだろう。


 しかし、慎重に機会を覗う。


 なぜなら、本来の拠点である【王国】のトッププレイヤー達にいやと言うほど追い回され、追い出されたばかりだからである。


 最も人口が多く、鴨が多い分、トッププレイヤーと呼ばれる者達も非常に強い。

 

 そして【王国】のトッププレイヤーは非常に秩序にうるさい。


 結果として、彼には居場所が無くなり新天地を求め、過疎地である【帝国】まで流れてきたのだ。


 今、男の目に映るのは、いかにも初心者としか言えない装備の地味なプレイヤーである。


 所謂初心者装備に身を包み、支給品としか思えない長靴を履き、真新しい鉄の剣を振るっている。


 なぜ、こんな相手に慎重になるかと言えば、装備品に対して妙に動きが堂に入っているような気がするからだ。


 この世界は初心者でも、本来の肉体では玄人と言うことは十分ありうる。


 しかし、先制攻撃のアドバンテージさえ取れれば覆すことの出来ないほどのダメージを与えるだけのスキルは、持っている。


 むしろ、PKに特化した分、不意打ちのダメージをいかに多く取るかを考え積み上げてきたことで、総合力では自分より上の相手や、プレイヤー本人の能力が高い場合でも勝利を収めてきた。


 コレまで、自分の積み上げてきたことを確認した事で、男は覚悟が決まった。


「新天地での最初の獲物はあの初心者にしよう」


 動き回る相手が、完全に自分の方から目を離す瞬間を狙い、背後から急所に一突き・・・・


 これで、ほぼ趨勢は決まると思いきや、


 真後ろに回された剣で、あっさりと渾身の一突きを止められる。


 硬直したところに首に一閃、剣を振り切られる。


 あっという間の大ダメージだが、焦ることなく、あっさりと退く事を決断する男。


 一方相手は不思議そうな顔をして男を見ている。案の定、初心者なのだろうか。自分がPKに遭っているなどと思ってもいないようだ。


 出血のスリップダメージを無理やり押さえ、走り去ろうとするPK、置き土産とばかりに投擲ナイフを投げつけるが、あっさりそれも剣で防がれる。


 しかし、所詮は牽制だ。足場の悪い雪で思うようにスピードは乗らないが、逃げられそうだ。


 と油断して相手に背を向けた瞬間


 胸から剣が生えた。


 ろくに足音も聞こえぬ間に詰め寄られ、心臓を一突きされた男は、持ち金と預けている金の一部を落とし光の粒子となった。


 目の前は、真っ暗になり、ただ、登録地点への帰還カウントが流れるばかりだ。


 この時間は、はじめてじゃないが、もどかしいものだ。くやしく、嫌なものだ。


 【帝国】は、過疎地だと言う噂だったし、実際にプレイヤーの姿もほとんど見なかった。


 にもかかわらず、それなりに名の通ったPKをあっさり屠る奴がいると言うことだ。


 素人はもちろん、リアルでそれなりにやる者もあのように滑らかな動きは出来ないだろう。


 まるで、この世界に適応する為の訓練を受けたかのような動きだった。


 それに、本来機動性と隠密性を売りにする男には、雪の地形は合わなかった。


 少々、考えが甘かったようだ。


 競争の激しい王国で名の通ったPKになれたことが、結局慢心の始まりだ。


 もっと、よく考えなければ、最も有利なフィールド・条件・状況を。


 そして今度は、今のプレイヤーに復讐しよう。


おっさん結構強い(ゲーム内では)

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― 新着の感想 ―
[一言] おっさん古都特化だからね...初心者狩りのPKじゃ太刀打ちできるわけない
[一言] …おっさん気づいてない? 訳はないか。
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