226.ヤマタノオロチ退治
■ 八塩折之酒 ■
大陸の銘酒8種を混ぜ合わせて作る酒
虹色に輝く酒はとても酒精が強く
どんな巨体でも耐え切れずに眠りこけてしまう
またその芳醇な香りは酒好きならふらふらと引き寄せられてしまうだろう
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星はあれども、月の出ぬ夜。一見何も無い大きな川。
しかし、明らかに強大な何かが動く気配。
川の水は不自然に凹み、辺りの川原を濡らし、森の木々を揺らし、時々圧し折る。
徐々にその巨大な気配が、近づいてくる。
八つ門を挟んで巨大な何かと対峙する。視界を<索眼>に変えれば、大きい筈の川を全部埋める熱源。
正直大きすぎて、何が何だか分らない。
視界を戻し、観察していると門の周りの風景が微妙に歪む。
どうやら、酒を飲もうとしているようだ。一つの門に首が一つギリギリ通っている。
酒を飲み始めると徐々に姿を現し始める大蛇。7つの首までは門を通っているのに、何故か一番右の首だけ門を通れないでいる。
一本だけ首が太いとかあるの???
右の首が門に体当たりを始める。
ギシギシと音をたて、門が揺れる。
他の首はその様子を愉快気に見ながら、酒を飲んでいる。
どうしたものだか、困っていると。
他の首たちは酒を飲み終わる。そして、門から首を抜こうと動き始める。
「あ~もう、駄目か!」
仕掛けを発動する。門の上部から巨大な刃が滑り落ち、ギロチンが7つの首を落っことす。
と同時に一番右の首が門を倒し、酒樽に頭から突っ込み酒を飲み始める。
え?痛覚共有してないの?胴体一個なのに・・・。
そして、酒を飲み終えると星を眺めるように鎌首をもたげ、上を向き、一気に崩れ落ち眠り始める。
このまま、首を落とせば、勝ちなのだろうか?
首に近づきハタ!と思いつく。ヤマタノオロチと言えば、尻尾じゃなかろうか?
多分あるよね。日本人なら誰でもロマンじゃん。
オーディンと言えばグングニル、ゼウスのケラウノス。
日本神話なら三種の神器、その一つ・・・あるかな?あるよね?
と言う事で、寝ている隙に尻尾へと全力で向かう。
先に頭を切り落とした場合、消える可能性が捨てきれない。
コレまでの経験上プレイヤー100人で挑む蛇は<解体>できる体が残るが、一人で戦う時は大体、光の粒子になって消えてしまう。
兎に角川沿いを川上に向かい走り、そして時々飛ぶ。
バッタ服のおかげで、かなり上空まで飛べる。っていうか飛びすぎじゃなかろうか。
森の木々を軽く飛び越す。そして、ようやっと尻尾を見つける。
ちょっと何ボスサイズに当たるのか分らないでかさだ。
でも、キーアイテムを集めて一人で倒すタイプだしな。なんとも。
そして、尻尾に剣を振り下ろす。
想像以上の反動と硬質な者を叩いた時の痺れ。尻尾の肉に埋まった剣を引き抜けば、剣が欠けてる。
消耗して耐久が減ったり、壊れて光の粒子になる事はあっても、欠けるのは初めてだ。
もう少し位置をずらして斬れば、尻尾が光の粒子に変わり、中から大剣が現れる。
ある意味、目的通りの長く、鈍く輝くそれを鞄にしまい。
まだ、消えない体を適当なサイズで輪切りにしていく。
時折身じろぎする胴体に、飛ばされる。元のサイズが違いすぎて、ノックバックに耐えられる気がしない。
しかし、暴れ出さない所を見ると、未だに寝ているのだろうか。
兎にも角にも大急ぎで、切り刻む。体をばらばらにし、斬り落ちた部分から光の粒子に代わっていく。
少しづつ体が減って行ってるのだろうが、でか過ぎてなんともきつい。
只管に肉体労働。体が疲れるということは無いのだが、終わりの見えぬ作業に飽きてきてしまう。
一先ず、先に頭潰してしまうかと、頭に戻る途中、
首が八つに分かれる付け根に魔石が露出していた。
それを殴って破壊すれば、全身光の粒子になって消える。
頭の中にいつものファンファーレが鳴り、
クエスト発見者
ラストアタック
の二つを手に入れる。
定番のメダルは手の上で消える。
そして、もう一つが完全にフード付コートだ。
試しに着てみると結構パツパツだ。多分胸甲やアーマーは装備出来ないだろう。
ベルトは一回外して、コートの上から装備しなおさなければならない。
頭も冑をかぶれない。頭にぴったりくるフード。
つまり防御力が下がる事間違いない。効果はまた確認してみるしかないな。
空が白む直前の星が一秒ごとに減る一瞬の時間。
三角州の砂利の川原で、八塩折之酒を取り出す。
村の若者に確保しておいて貰った分だ。
流石に疲れたので、もう朝だがギリギリ朝じゃない事をいい訳にお酒を飲むことにする。
別にゲームだし、怒られる様な事ではないが、ちょっとしたうしろめたさや背徳感がお酒を飲む感情を高める事もある。
「やあ、それは珍しいお酒だね」
いつからか川の上に立つ少年、薄紅色の髪に、白い肌、額から突き出る短い角。服は狩衣とでもの言うのだろうか?
「若そうに見えるけど、いける口なの?」
「見た目だけね。歳はお酒を飲んでも問題ないよ。ところでそのお酒譲ってくれるならいい物をあげるよ」
「急に言われても自分疲れていっぱい引っかけるところだったんだけど」
「そうか、それは間が悪かったね。じゃあ先に僕が差し出そう」
そういうと青い玉を狩衣の袖から出す。
「これは?」
「酒飲みに伝わる玉さ。酒縁の玉って言われてる」
「お酒にめぐり合えるみたいな?」
「そうそう、実際にはそんな効果は無いんだけどね。謂れがあって、昔12英雄と呼ばれる人達が、邪神の化身を倒した時に、神様から願いの叶う玉を一人一個づつ渡されて世界を良くするのに使うと良いと言われたんだって」
「へ~邪神の化身を倒した報酬を自分で選んで良いよって事だったんですかね」
「そうなんだろうね。そして、その内の二つは貰ってすぐ願いを叶えたそうだ。一つは多くの人が餓えなくなる様にどんな環境でも育つ食べ物が欲しいと、そして芋が世界中で作られることになったらしい。
もう一つは誰もが好きなだけお酒を飲めるようにして欲しいと」
「そのお酒の方を叶えた玉がそれだと?」
「そう!そういう事正解。ドワーフの英雄王が持っていた玉だったらしいね」
「じゃあ、世界に一個だけの玉じゃないですか、お酒はまた造れるからいいですよ」
「いや、そのお酒は貴重な物だよ。それにその玉に君は呼ばれてる」
じゃあ、と言う事で、お酒と玉を交換する。別に他のお酒ならまだ残ってるしな。
「ふふ、やっぱり、良いお酒だね。ありがとう」
「こちらこそ、何かいい物貰ってしまって。ところで鬼っていたんですね」
「ああ、この角?そうだね一応鬼なのかな?あまりにも昔に具現化し、自分の呪すら忘れてしまった憐れなただの陰だよ」
「呪?陰?」
「そう、陰精の力の強い場所では陰だけの存在として生まれるものがいる。そして陰精の力で使役することが出来る。そして呪とは具現化し肉体を縛り付ける真名の事だよ」
「そう、ですか、じゃあ名前が無い鬼なんですね?」
「いや、こう見えて具現化して長いからね。長い時を生きてきたけど、お酒っていう趣味があってまあ楽しくやってる。そんな僕を人はこう呼ぶ、酒吞童子と」