225.討伐ヤマタノオロチ準備
■ 12英雄時代 ■
既に神の尖兵も世界樹も消えた大陸
邪神勢力がのさばり、多くの種族が苦しみ追い詰められた時代
各種族の一騎当千の強者が己の種族を救うため立ち上がり
後にその力を合わせ邪神の化身と呼ばれる世界変遷級ボスを倒した伝説
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頭領と再び樹海を駆ける。
「いや、わざわざ頭領が一緒じゃなくても、宝樹の件は国同士の重要案件だからまだしも」
「別に気にする事じゃぁ、ないわい。わしゃ頭領なんぞと呼ばれるようになってから暇でしかたないんじゃぁ。折角技を身につけても使う場が得られないんじゃつまらんじゃろ」
「そりゃ、そうですけど、後進にもう少し華を持たせてやるとか、そういうのはいいんですか?」
「なんじゃそりゃ、若いんじゃから華なぞ奪えば良いんじゃ。何よりお主の移動速度についていける若造がおるもんか!それにの・・・」
「それに?」
「お主の事じゃ、ヤマタノオロチを倒した後も色々問題を抱えるじゃろ、わしがぃた方が何かと助かるぞぃ」
「そりゃあ、頭領がいれば自分は助かりますけど」
そんな会話をしつつ樹海を最短距離で抜け、八墓村だか獄門村だかに向かう。
そうして、樹海を抜けた先にあるのは、意外とのどかな農村。
【森国】は開けた場所が少ない筈だが、そこは大きく開けていた。
大きな川に挟まれた三角州、川は山間の谷から流れてくる。
そして、三角州の一番上流に八つの門。
川に流されたであろう川原の石や砂利が堆積し、そこに不気味に立つ八つの門。
まるで、ここから先が地獄の入り口とばかりに、川原に巨大な門だけが建っている。
頭領と共に村長に挨拶に向かう。
「こんにちは、お世話になります」
「うんむぅ、伝承にあるオロチとの争いの場になるとはのぉ」
渋い顔の村長。そりゃあ、これから巨大蛇と村で戦いますと言われては、そりゃそうだろう
「すみません、しかし【森国】の平和に関わることなので、お願いします」
「いや、ええんじゃよ。しかしの伝承じゃ、若い娘を食いに来る血濡れのオロチを英雄が倒す話なのにの、この村には若い娘がおらんのじゃ」
「え?いやそれこそ、そんな事どうでもいいです」
「いや!新たな伝承が生まれようというのに、そんな花も何も無い無味乾燥な伝承をワシの代に残すなど許されん!」
「花とかは別に本当に良いので・・・」
「本当に良いかの?それこそ仙境なぞがあった時代の話は分らんが、12英雄時代なら力を求めた漆黒将軍、その後の名を消されし狂人なぞ、悲しくも不遇な人物達と並んで名を残すことになるというのに、花も何も無い、爺に囲まれた黒い男の伝説で良いのかの??」
「流石村長さんは物知りですね」
「そりゃあ、村の伝承ぐらいは分っておるよ。そして、新たな伝承を刻まねばならんのじゃ」
「いや、しかし現実を受け入れてこその伝承でしょうよ。爺に囲まれたおっさんが任務のついでにヤマタノオロチの首落として【帝国】に帰ったでいいじゃないですか」
「仕方ないのぉ、じゃあ、お主は村で八塩折之酒を造るがよいわい。わしゃあ村の若い者と獄門を修繕しておくわい」
「あれ、修繕とか必要なんですか?」
「そりゃあのぱっと見は門じゃが、実は上から刃が落ちて、大蛇の首すら落とす断頭台になっておるからの」
「いや、巨大な断頭台って、一体何の時代の処刑ですか」
「良いから、こっちは任せて酒作ってくるがよいの」
そう言われて、村の中に行けば、でっかい樽がいくつも用意されてる。
「あ~、あんたがヤマタノオロチを倒す英雄かい?酒造る準備は出来てるよ!」
「お~全身真っ黒じゃねぇか!昔話に聞いた漆黒将軍そのまんまじゃねぇか」
「いや・・・あの憂いを帯びた目【教国】の名を消された狂人の苦しみを受け継いでると言わざるを得ない」
「憂いと言うより狂気じゃねえか?やばそうな匂いがぷんぷんするんだが」
「伝説にしか語られないお酒全部集めてくるとか、よっぽどウワバミなんじゃないか?」
「確かに嘘じゃないかと思うような酒全部集めてるんだもんな、ヤマタノオロチと戦うには十分てわけか」
とまあ、噂の的でありお祭り騒ぎであり、大変失礼である。
自分は普通の酒好きで銘酒はたまたま手に入れただけだ。
でも、まあ協力的なのはありがたい。早速酒造りを始める。
とは言え、造り方は装置の上部にお酒を入れていくだけ。
すると下に設置された八つの樽に分かれてお酒が入っている。
間の装置は完全にブラックボックスだ。どういう構造で混ぜているのかは分らない。
虹色に輝くお酒が樽に納まっていく。
虹色と言っても7色ではない、揺らめくのは色の境界の分らない不思議な輝き。
なんなら自分が飲みたいと思ったら、
別の樽にちゃっかり溜めてくれている村人がいる。
「後でそれ欲しいんだけど?」
「そりゃあ、あんたの物だから否は無いけど、村にも分けてくんねぇか?多分村長からお礼は有ると思うし、虹みたいな酒なんてそうそうお目にかかれないからな~」
「分った、分けるのは構わないから、自分の分の確保頼むね」
そうして、あっさりヤマタノオロチを誘い出す酒を造り、門の前に設置して待つ。
流石に酒を造ってくれた村人たちは家に帰り篭っている。
日が落ちる三角州で、酒を並べ、篝火を焚き、八つの門の前でヤマタノオロチを待ち構える。