224.【森国】蛇の話
■ 古酒 ■
【森国】で一般的なそのままでも芳醇な『米酒』
これをさらに長期熟成させたもの
口当たり、味わいが大きく変化する
一度口にしたら病み付きになるが【森国】でも一部地域でしか造られていない
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里で休み、気持ちを入れ直し、頭領の元に向かう。
コレで最後だろう。長い長い任務の旅の終わり、最後ほど気を引き締めるのは社会人の鉄則。
頭領の家は里の木の上、この前入り方が分らなかった場所にあった。
気合で木を登ろうとしていたら、里の人に里外周の崖上に案内され、そこから蔦を辿り、木の上の家に辿り着く。
遠慮無く入ってみれば、部屋の真ん中に囲炉裏があり、その向こうに頭領が茣蓙に座っていた。
向かいの茣蓙に座ると、頭領が話し始める。
「無事宝樹様を救ってくれた事は国を代表して礼を言ぉぅ。聞いてぃた任務は終了だとぉ思ったが、その様子だとまだやることがぁりそうだの」
「ええ、まあ、宝樹様の件が終わるたびに蛇の事をついでに頼まれまして、ちょっと行って倒して来いと」
「蛇のぉ、この国に伝わる蛇となるとあれかの、酒飲みの大ウワバミじゃぁ、八つの頭を持つ巨体ながら、姿を隠すのがぅまく、こそこそ悪さを繰り返す。その名も『ヤマタノオロチ』じゃぁの」
「ヤマタノオロチですか、何となくしっくり来ますね。ってことは酒で呼び寄せる奴ですか」
「博学じゃのぉ、では、伝承の一部を開示するとしよぅの」
「お願いします」
「最も古ぃ伝承は・・・かつてそれぞれの土地、奥地、秘境とされる場所は仙境と呼ばれる場所に繋がってぃたそうじゃ。
そんな時代、ある親孝行の息子が、一生懸命働いていたそうじゃ、それもお酒が好きな親に沢山お酒を飲ませてやりたかったからだそぅな。
そんなある日山奥で、見つけたのが、酒の流れる滝だったそうな。
その滝を見つけた息子は後に良い暮らしを出来るようになるのじゃが、今回は蛇の話。
その滝は仙境にある養老の滝、その酒を大樽に入れ、誘い出したと言うのが最も古い言い伝ぇじゃぁ」
「なるほど、つまり養老の滝を探せと」
「ぅんにゃ、かつて邪神との争いに負けてしまった際に仙境への道は閉ざされてしまったそうじゃ」
「そしたら、蛇誘い出せないんじゃ?」
「そぅじゃの、じゃあもう少し後の伝承じゃ、12英雄時代の話じゃぁ」
「12英雄?」
「そうじゃぁ、この世界に存在する様々な種族の中でも抜きん出た英傑達が邪神の化身と呼ばれる、強大な敵と戦ったとされる時代じゃぁ。まさに一騎当千の英傑達が邪神勢力と戦い、最後には邪神の化身を倒し、創世神に有利な世界へと導いたとされる伝承じゃ」
「その12人の英傑達がヤマタノオロチを倒した訳ですか」
「ぅんにゃぁ、12英雄と共に戦った【帝国】の将の物語じゃぁ」
「え?12英雄と関係ないんですか?」
「あくまでその時代の話じゃぁ、その将は全身を黒く装った普通のヒュムだったそうじゃ。能力は極普通じゃったが、人々が苦しむ時代なんとか戦う力を得ようと大陸中を巡ったそうじゃぁ。
その中の一体がヤマタノオロチ、世界を巡り手に入れた8種の銘酒を混ぜ作り出したが『八塩折之酒』それでヤマタノオロチを誘い出し、倒したとか」
「八塩折之酒って七回蒸留した強いお酒かと思ってました。つまり8種の銘酒を集めるしかないと」
「そうじゃのぉ、その後の伝承にある『世界を巡った者』と呼ばれる者も8種の銘酒を集めたそうじゃ」
「なんか、聞いた事ある名前ですね、勇気有る者とかそういう・・・」
「ふむ、大いなる力を手に入れたものの、死者の復活に取り憑かれ、最後には評価を落として亡くなったそうな。
しかし、実際は死者の復活などは無理だと主張していたそうじゃ、周囲の妄執に巻き込まれた不遇の者じゃの」
「は~【教国】やっぱり関わりたくないですね」
「まぁ、それはぉいておくとしてじゃ。8種の銘酒について話すとしょぅ。
【森国】は隠れ里にある『米酒』じゃぁ、『米酒』をさらに熟成させ『古酒』にした秘伝の酒じゃ、これは売るほどあるから安心するとょぃの。
【王国】のブランデーじゃの、これは【王国】に通ずる者に仲介してもらぇば買えるじゃろう。
【教国】のワインはどうにか第一機関長に伝手を作るしかないのぉ。
【馬国】の馬乳酒は生活の一部じゃぁ、誰でも、良いから仲良くなって譲ってもらうしかないのぉ。
ここまでは買うだけじゃ、もう人付き合いと伝手と金じゃ。
問題は・・・
【帝国】の秘境にある『氷結酒』凍れる透明の木の樽で出来るとか言う、謎の酒じゃ。
【鉱国】の命の水と言われる酒で、余所者には売らないそうじゃ。
【砂国】の幻の街と言われる場所に売っている酒があるそうじゃが、幻の街ってどこじゃよ!
【海国】の深き海の底にある街に酒を造れる不思議な海草があるとか、海底の銘酒なんぞ想像もつかんわい。
いずれにせよ、長い旅になりそうじゃの、それでも引き受けるかの?」
「嗚呼、全部持ってるので、八塩折之酒の造り方聞いても?
あと自分の知っているヤマタノオロチって8つの門に酒を設置したんすけど、どこでヤマタノオロチとやり合えば?」
「ひょ?!全部持っておるとな?じゃあ、後はそれを混ぜるだけじゃが、混ぜたら最後ヤマタノオロチが向かってくるだろうの。
そしたらヤマタノオロチの八つの頭が埋められたが故、八墓村と呼ばれる場所を教えようのぉ」
「もう、不吉でしかないんですが・・・」
「そうじゃのう、かつて酒で八つの首を呼び寄せ、八つの打ち首台に首を通させ、切り落とさせた獄門村とも呼ばれておるのぉ」
「いや、急にミステリー・・・」