201.はずかし闘技場 前編
■ ナレーション ■
闘技場でも大きな試合になると放送される
特殊な拡声器を使い、実況や解説や物語など
その試合の形式により内容も変わってくる。
その形式はスポンサーによって変わってくる場合が多い
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[北からの侵攻に仲間を集め抵抗した炎の巫女だったが、敵は軍隊。集団戦術のプロに抗う事、敵わず。なすすべも無く、仲間達は散っていった]
[しかし、仲間の犠牲の上に自らは一命をとりとめた炎の巫女は起死回生の為単身敵陣に潜入する]
[狙うは敵将、漆黒将軍の首一つ。炎の巫女の覚悟に火精達が呼応し、気炎を上げる]
丸く白い舞台の中央にガイヤが仁王立ちし、上の方を見上げると広い舞台全体が燃え盛り、巨大な炎柱を発生させる。
観客の歓声も上がり、ボルテージは絶好調だ。
「うわ、派手だな。さすが今夜のメインイベントだわ」
自分は入場口の隅から舞台を覗き見ているが、これからこの舞台で戦わなくてはならない。
まじですぐにでも帰りたい。
ていうか、ナレーションがちょっと恥ずかしいんだけど、自分だけ?こういうもの?
まあ、一応この前言ってたストーリーってのは分かった。この前の集団戦で自分が勝ったけど、ガイヤが単独潜入して、一騎打ちを挑みに来たと、悪役の自分が【王国】に侵攻した体裁なのかね?
[そこに吹くは届く筈もなき遥か北の果てからの冷気、火精たちの気炎は一瞬で鎮火し、白い霧だけが立ち込める]
あっ多分自分の登場シーンだ。真っ白で自分の姿見えないんじゃ無いかと思うけど、まあ目立つよりいいかね。
[その霧を黒く染め上げるは漆黒将軍。雪と氷の大地に心まで凍らせてしまった冷酷無慈悲なる将軍は全てを見通し、共も連れず、炎の巫女を待ち構えていた]
霧が消えると自分とガイヤの姿が現れる。
しかし、さっきまで騒いでた観客がシーンとしてるのだが、ナレーションすべったんじゃない?
ちなみに目の前のガイヤは初めて見る防具だ。どれにどんな効果があるか分からないが、頭にはティアラをかぶっているのは、なんとも変な感じだ。
ところでどのタイミングで、始めれば良いんだろ?
「さて、始めようかね」
「え?始まりの合図とかは?」
「無いよ!後はアタシ達の戦闘の状況によってナレーションが流れるだけさ。会場のギミックもここまで」
「あっそうなの?じゃあ始めようか?」
そういうと同時に
火拳術 焔玉
ガイヤが術を使うと頭上に浮遊する二つの火の玉、更に
火拳術 気炎弾
ガイヤが術で火の玉を飛ばしてくるので、避けて、間合いを詰めていく。
すると、あと三歩という所で、ガイヤの頭上の火の玉の一つが飛んでくる。
それも避けてそのまま更に踏み込もうとすると、避けたはずの火の玉が背中から襲ってくる。
やむをえず、転がって避け、更に、
氷剣術 凍牙
術を使用して、ブロックする。すると火の玉が消滅する。
「ちゃんと氷精術つけてきたんだね、会見で煽ったから外してくるかと思ったんだけどね」
「そんなことしたら、火精術に対抗できないじゃん」
「そうだね、正解だよ」
また、間合いを詰めれば、もう一つの玉も飛んでくるので、それは斬って捨てた。ちなみに凍牙は解除せずにそのまま使用中だ。
「ふふ、相変わらず近接戦闘のみのようだね。本当はブッパはあまり趣味じゃないけど、遠距離術で攻めさせてもらうよ?これが勝算の2、隊長は遠距離攻撃が無い」
しかし、遠距離攻撃をガイヤも使っちゃったように見えるので、更に距離を詰めて、真っ直ぐ突く。
まあ、正面から真っ直ぐ突いただけだ。案の定横に軽く避け、レバーブローを狙ってくるガイヤ。
一歩下がり、空振りさせると同時に横薙ぎに切り払えば、ガイヤもステップで後ろにかわす。そして、
火拳術 気炎弾
さっきより大分近い位置で、炎の玉を撃ってきたので、ブロックする。自分の足が止まった所でガイヤはまた間合いを開ける。
炎の玉のほうはクールタイムが短いようだ。しかし凍牙解除する暇無いぞこりゃ。
そうして、近づき離れ、紙一重でかわし、カウンターをブロック・・・
近接も遠距離攻撃もクリーンヒット無しにお互い消耗していく。
[火と氷を使う一見真逆の二人だが以前は共に宝石を探す為、地に潜り。ある時は無人島を生き残る為に手を取り合った仲だった]
うん?なんかガイヤと良い感じの関係だったみたいに言われてるけど、他の人も一緒だったからね?
「ちょっと観客が飽きてきて、煽られてるね?まあ、同じような展開が続いてるし、そろそろ詰めていこうか」
「煽られるなんて事有るんだ?」
そんな事言いながらも接近戦の攻防が続いているが、自分の突きをガイヤが避けずに小手で受け流した。
と同時に空いているもう片方の手でこちらの頭を殴ってくるが、首を傾けて避けるも、かする。
武技 冑破壊
かすっただけなので、ダメージはさして入っていないが、目の前に何かの破片が飛ぶようなエフェクトが見える。
同時にガイヤの頭防具が弾ける。
「頭防具を破壊したよ。これで、ダメージ量が上がるね。隊長ほどの命中精度は無いけど、頭ががら空きなら当てられる」
自分の顔に触れれば、確かに露出している。
「でも、ガイヤも頭の防具壊れてるじゃん?イーブンでしょ?」
「そう思うかい?確かにブレイク系は相手の防具を壊せば自分の防具も壊れるからね。でもね、アタシのティアラ元々防御力なんて大したこと無いんだよ」
「嗚呼、ガイヤも女の子だもんね。似合ってたよ」
「ふん、分かってるんだろ?何か効果があるからそんなもの装備してたってことが、効果はね破壊されると精神力が全回復するんだよ。結構なレア装備だけど、この試合が終われば元通りだからね。隊長の冑も治るから安心しな」
「え?この状況で回復するの?アイテム持込できないルールなのにそんな回復手段とか・・・」
「残念だったね、これが勝算の3、精神力の総量がアタシの方が多い。そもそも術士職である【巫士】をとっているアタシが有利、しかも装備を一個犠牲にして完全にひっくり返したね」
う、あ、まじかよ。このまま塩漬けで負けちゃうじゃん。
いつの間にかざわつく会場
[将軍も故郷に帰れば、一人の青年。その素顔は命のやり取りをして得た僅かな金を恵まれぬ子達に寄付をする朴訥な若者だ]
おっさんだ!はい!顔に配慮されました!前にアバターは関係ないって言ってたのに!しかも寄付してることとかばれてる!個人情報が駄々漏れ!!
「隊長!集中しな!悪いけど、そろそろ決めるよ?」
<焦熱地獄>
ガイヤが赤いオーラを纏う。
「これがアタシの切り札。前にマイナーな精霊の話しただろ?アタシねマイナー精霊を邪神の尖兵から助ける連続クエストをやったことがあるのさ。その時の報酬がコレ。
邪神の尖兵を倒すだけでもステータスが上がって、技量で上回るNPC【闘士】と戦えるだけでもありがたかったが、この切り札でランカー入りだよ」
「どんな切り札なのさ?」
「食らってみな!!隊長は良くがんばったよ。技量でもステータスでももうすぐ追いつかれそうだ。でもあたしが勝つ。勝算の4、隊長は闘技場の戦いを知らない」
炎拳術 獄噴火
火を纏った拳で地面を殴ると同時に地面から殺気が湧き上がるが、範囲が広すぎて前後左右に避けられない為、上に<跳躍>する。
足元には火の絨毯が吹きあがる。多分前は人一人分のサイズじゃなかったっけ?
「やっぱり上に逃げたね。飛行スキルも浮遊防具も今の所このゲームじゃ見つかってないんだよ?着地に大技当てるなんざ、定石中の定石さね!勝算を4つも重ねれば、流石に勝ち筋だね!グッドゲーム!隊長!」
炎拳術 獄炎拳
右手に炎を纏わせ、さらに右肩から噴出する炎で加速し、間合いを急速に詰め殴りかかってくる。
「誤算その1・・・」