20.鍛冶屋とおっさん
初めての他のプレイヤーです。会話主体です。
このゲームをプレイして、早半年、なんだかんだ正式サービスと同時にこのゲームを始められた俺は運がいいほうだろう。
何せ、夢のフルダイブ型VRなんて飛びつかない奴がいるのか?いや、いない!
宝くじを買うくらいのつもりで、応募した抽選に当選してしまったのだ。オークションで転売することも考えたが、機械を購入する際に個人情報がすでに登録されている。
そりゃあ、もう、わくわくしながらプレイした。
しかし、社会人の俺には、十分にプレイする時間なぞは与えられてない。学生時代に手に入れてれば!などと思うが、過ぎたことだし無理な話だ。
マイペースに進められるように、人口比の少ない【帝国】で、鍛冶屋をやることにした。
チュートリアルをやってみて、戦闘が結構難しいと感じてしまったことが理由だ。
ステータス的なものや<スキル>が育てば戦えないことも無いのだろうが、自分の意思でゲームの中の体をコントロールして戦うというのは、想像以上に難しい。
ただ、たたかうコマンドをボタン連打するのとは違うのだから。
このゲームは、生産に関しても結構作りこまれてるみたいだ。
当然ゲーム的なスキップや謎理論は大いに盛り込まれているが、結構楽しくやっている。
プレイヤーこそめったに来ないが、その少ない【帝国】プレイヤーのうっすらとした連帯なんかもあるし、NPCが普通に買い物に来るのは、なんだか新鮮だ。
そんなある日、見慣れぬ地味なプレイヤーが買い物に来たのだった。
「いらっしゃい」
左手を見れば明らかにプレイヤーだ、初心者服上下に【兵士】支給品の長靴とは新規プレイヤーか?
歓迎しよう。数少ない【帝国】プレイヤーになるんだ。
しかし【兵士】とはな、地味な見た目に似合いすぎなチョイスだ、飽きなければいいのだけどな。
「あっこんにちわ。コレ紹介状です。はがねのつるぎを下さい」
いや、初心者じゃないなコレ、紹介状なんて持ってくるやつは【帝国】軍のNPCくらいじゃないのかよ。
・・・・分かった【帝国】プレイヤー内でちょっと噂のあいつだ。
【兵士】ロールのプレイヤーで、NPCよりもNPCみたいなやつだって噂だ。
誰かがNPCから聞いた噂だと、寝てクエスト飯食ってクエストっていうプレイスタイルらしい。
何が楽しくて、このゲームやってるんだか知らないが、人様に迷惑をかけてるわけじゃなし、何も言うまい。
「はがねのつるぎは、売っていなくはないがな。あんた、プレイヤーだろ?武器を買うのは初めてかよ?」
「ええ、はい、初めてですね。チュートリアルで初心者ポーション買ったっきり、何も買ったこと無いです」
うん、初心者として扱ったほうが良さそうだ。
「そうか、まずここは鉄のゴドレンの店だ。俺の名前ではない。師匠の名前だ。
俺はここで、鍛冶修行をしている。クラーヴンってもんだ。基本的に鉄製品しか扱ってない。所謂特殊金属みたいなやつは扱ってねぇ」
「つまり、はがねのつるぎもおいてねぇ」
「いや、置いてるからな。売ってなくは無いっつったろ?鋼ってのは、0.04%~2.0%の炭素を含む鉄やその合金だからな?一応向こうの基準だが。でだ、何でこんな説明をするかというと大抵のプレイヤーは、鉄素材の武器はつなぎで、すぐ特殊金属に飛びつきたがるからだ。
別に折角のファンタジーだしそういうロマンを追い求めるのは俺もわかるけどな」
「でも、鉄専門の店で修行してると」
「ああ、って言うのも、たまたま【帝国】スタート地点の【古都】で師匠と会ったのがきっかけでな。鉄しか打たせてくれないんだが、どうやら攻略情報に載ってる鉄の扱いとは違うみたいなんだ。どうせ特殊金属は廃人プレイヤーがやりつくしてるんだろうから、いっそ鉄極めてやろうかなとか思うじゃないか」
そう、攻略情報に載ってる鉄の装備ってのは、どれも銑鉄なのだ、性能的にもすぐに乗り換えられて当然だが、鉄にはその先があるって事に気がついてるプレイヤーは少ないのだろう。
まあ、普通に考えれば高炉で取り出してインゴット化したものそのまま使ってりゃ当たり前なんだがな
「じゃあ、はがねのつるぎをください」
「うん、そればっかりだな。売ってやるから安心しろ。ただ、そのまま鋼を使うより合金にした方が、強くなるんだ、その辺の事分からないだろう?」
「じゃあ、ステンレス?で」
「いやいや、ちょっと待てって、そういう合金じゃねぇ。一応ゲーム内では、宝石を混ぜることで、それぞれ効果があるんだ。宝石ってのは、この世界の精霊の力が溜まってできるもんだ。だから、ベースになる素材次第では、所謂属性剣なんてのも作れるわけだ。鉄では、無理だがな。その代わり、ステータスに補正が付く様になる。もし宝石があるんなら、混ぜてやるがどうだ?」
「魔石ならあるんですけど?」と言って取り出す。目の前の【兵士】ロール
「ああ、サイズ中か十分だ」
「コレで魔属性の武器が出来ると」
「いや、できねぇからな。魔石ってのは、魔物が吸収した魔素の塊だからな。魔素ってやつには、物を変質させる性質がある。それこそ、魔物しかりだ。剣自体の性質が変わるってこった。んで、実は、ある程度ならその方向性をいじれる。師匠の仕込みで<錬金>もかじっているからな、任せろ。で、戦闘スタイルはどんなもんなんだ?それによって変わってくるぞ?」
「片手剣・軽甲・中盾装備守り主体です」
「いや、守り主体はいいけど剣だろ?欲しいのは。回避型って事か?」
「剣でも防御します。避けません全部受けます」
どMか?!【兵士】ロールなんていう地味なことやってると思ったが、そういう性癖なのか?いや、人の性癖に突っ込むなぞ、良くないな。
「ん、じゃあ、あれだな、丈夫さを上げた方が良さそうだな、ちょっと中途半端な言い方だが、単純な堅さや粘りとは違う、特殊なエネルギーを使って、剣の強度を上げていく感じだ」
「じゃあ、それでお願いします」
「あいよ、魔鋼剣一つお買い上げ」
「何か強そうなんですけど。コレが伝説の・・・」
「いや、魔石を使った鋼の剣でそのままだろ?そういや、鞘とか剣帯は、どうするんだ?」
「突撃兎の皮があるんでそれで作ってもらおうかと」
「じゃあ、それも一緒に頼んでおいてやる。見せてみな?」
突撃兎の皮を差し出してきたので、見てみると。サイズは大か。
「剣帯と鞘だけでいいのか?何ならグリップ用にも使って一体感を出すか?それでも少し余るがな」
「剣帯にポーション入れをつけて欲しいんですけど。出来ますかね?」
なるほどな。普通のアイテムバッグからじゃ、いざって時出しにくいから、そういうのつける奴がいるって聞いたな。
「分かった。デザインはどうする?」
「【帝国】規格で、後はお任せします。剣は支給のロングソードが使い慣れてるんでそれで」
「あいよ、出来たら届け先は【兵舎】でいいな?金もそこで受け取るぞ。ゲーム内の施設を利用した方が、プレイヤー同士のいざこざが少ないし、詐欺にも合わないからな。よっぽど交渉や人を見る目に自信があるなら、何も言わないけどな」
「助かります。今後もそうするようにします」
すると突然、NPCが飛び込んでくる。
「あ~勝手に行かないって約束したじゃないですか、買い物とか全然しないのに大丈夫なんですか?お金の使い方とか分かります?<目利き>や<鑑定><看破>とか持って無くてもちゃんといいもの買える方法はあるんですからね。適当に選んじゃ駄目ですよ」
「この店員さんに【兵舎】で受け取る方法聞いたし、そもそも紹介状があるんだから大丈夫だろ。店自体間違えるわけないしな。何回この街を【巡回】してると思ってるんだ?」
「まあ、それならいいですけど、じゃああの店行きますよ」
「ああ、サービス受けられるあの店な」
おいおい、サービスって大丈夫か?相手【兵士】みたいだが少年にしか見えないぞ?しかもこいつの性癖は叩かれるやつじゃ・・・
っていやいや、勝手な思い込みでそんなこと考えちゃいけないな。
「まだ、用事があるようだな。剣の方は任せろ、三日くらいで届けるぞ」
「あっよろしくお願いします」
言うが早いか店を立ち去るのだった。
この店にわざわざ立ち寄るプレイヤーなんて片手で数えられるくらいだが、何か不安にさせてくれるやつだ、それとなく他の【帝国】プレイヤーにも伝えておいてやろう。