193.魚人街
■ 水泳 ■
呼んで字のごとく水を泳ぐ為のスキルである
仮にリアルで泳げたとしてもスキルが無い場合、海や川などの水辺は障害物となり、
通り抜けることは不可能である
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癒しの時間もつかの間、最後の休憩ポイントだと言われた小島から、
深く深く潜水していく。
マンボーさんにひたすら付いて潜っていくが、今までで一番深い。
徐々に暗くなっていき、
ついには何も見えなくなった為、スキル<索眼>を使用し、マンボーさんを追いかける。
ちなみに冑は外して蝦蛄眼鏡を装着している。丸ゴーグルは水中眼鏡に丁度良かった。
そうして、いつの間にか海底に辿り着くと、そこには下部が砂に埋まったポータルらしきものがある。
それにマンボーさんが触れると、姿が消える。
多分瞬間移動したのだろうが、ポータルだと行き先を言わないといけないんじゃなかったか?
と魚人の街の名前を聞いてなかった事を思い出す。
しかし、今までで、最深まで潜ってしまい、もし戻っても、水面まで息がもつか分からない状態。
とりあえず、ポータルに触れると、
それだけで、ぐにゃっと体があらぬほうへと曲がったような感覚と同時に、
砂地に立っていた。
白い砂の上にはヒトデが一つ。
目の前には青暗い水の壁。壁のこちら側は光源は分からないが何故か明るい。
振り返れば、マンボーさんが立っている。
「少年よ、ここが魚人街だ」
「嗚呼、そのまま魚人街って名前なんだ?」
「そうだな。魚人種だけで住んでいる街はここだけだからな。もちろん外に出て住む者達もいるが、出身は概ねこの街だ。さあ、行くとしよう」
そう言って歩き出す。
砂浜からすぐに小道になる。
その小道も白いが、貝のような感触の板が砂に埋まって道を形成している。
見た目はちょっと湾曲した石だが、触った感じは石灰のような削れやすそうな素材だ。
貝にしては随分と大きく、一枚が一メートル四方位あるが、
まあ、でかい魔物もいることだし、でかい貝の魔物の貝殻なのかもしれない。
全体的に白っぽく、時折赤や深い緑の草が生えているが、海草なのだろうか?
しかし、水の無い空気に満ちた空間に海草ってのもどうなのだろうか?よく分からない。
小道を抜けると視界が広がる。
およそ三方に道は繋がっているようだ。正面と左右。
どちらに行くのか、その前にマンボーさんに声をかける者がいた。
「よう、マンボー、お客人とは珍しいな」
「よう、リンボー、この少年が例の件を解決してくれる筈だ。宝剣を携えてる」
「へえ!俺はリンボー!見ての通り、ヤッコの魚人だ。上半身が黄色、下半身が紺で中々お洒落だろ?」
「リンボー・・・」
「そう!俺がリンボーだ!まあ、ゆっくりしていってくれ、例の件何か手伝えることがあったら何でも言ってくれよ」
そういうだけ言って、右に立ち去る。
そして、マンボーさんは中央の道を真っ直ぐ行くので、付いて行く。
多分街中と思われる場所にはいくつもの大きな巻貝が並んでいる。
多分、この巻貝が家なのだろう。一つの貝に一つの出入り口らしきものが道沿いについている。
そこまで、多くの人がいる訳ではないが、ちょっと見える範囲にも魚人達の姿がある。
そして、何故かカラフルな色の人が多い。
流石【海国】は南にあるだけあって、熱帯魚が多いのだろうか?
あっでもマンボーさんは鯨だったわ。
そんな事を考えている内にまたマンボーさんが呼び止められている。
今度は女性だ。がっちりとして体格に優れてて、いかにも戦士然としている。
「あなたがマンボーの連れね。ニューターというのは初めて見たけど、ヒュムに似てるのね。私はゴマモンガラの魚人のキャサリンよ」
「キャサリン・・・」
「ええ、そう。歓迎するわ。ただ今は長に会いに行ってちょうだい」
え?女の人は英名なの???
あっいや、違う。
「今って偉い人のところに向かってたの?」
「そうだぞ少年よ。宝樹様の元に向かうのだ。先に挨拶が必要だろう」
「嗚呼、そういうものなら仕方ないですけど。偉い人と会うのとかあまり得意じゃないから」
「大丈夫だ。我らは地上の者程、堅苦しいことは言わない」
「そう言われてもな~」
そんな事を話しながら、一際大きな貝殻の家の前に着く。
長の家という割りには別に門番がいるとかということは無い。
まあ【鉱国】のお偉いさんも普通に仕事してたもんな。
そして、中に入れば、螺旋状に上っていく構造になっている。
というか、平気で中に入って行ったぞマンボーさん。
中央は吹き抜け、螺旋状の通路沿いに部屋や設備が揃っているようだ。
そのまま、マンボーさんに付いていくと、最上部で、大きな椅子に腰掛け、居眠りしている極彩色の魚人が一人。
「長!長!起きてください」
「ん?ん~、あっマンボーかおかえりじゃの」
「宝剣をもつ者と出会えました。しかも海を愛するものです。この少年に宝樹様の件を託したいと考えているのですが」
「いいんじゃないかの?マンボーの目利きなら間違いないじゃろ。
わしはレインボー。見ての通り、マンダリンの魚人じゃ」
「レインボー・・・あっはじめまして、氷宝樹様の依頼で、世界の宝樹を巡ってます。なんか早々に許可を下さってありがとうございます」
「いいんじゃ、いいんじゃ。わしらではどうにもならなくなって、マンボーを地上に向かわせたんじゃからの、何せマンボーは哺乳類じゃから一番地上の者と交渉しやすいじゃろうと思っての」
「そうでしたか。ところで、どうしても伺いたい事があるんですが?」
「かまわんぞ? あとそんなに固くなるもんでもないぞ。何処にでもいる街長じゃ」
「いや、でも魚人の長ですよね? 種族の長ともなれば偉い人のような気がするんですけど。
それで、質問なんですけど。なんか魚人の名前の付け方の法則というかなんというか」
「なるほどの、わしの名前に興味があるのか、わしの名は海の様にあらゆる生物を受け入れ、架け橋になれるようにと、地上に有るといわれる七色の橋が由来じゃ」
「嗚呼、それはいい名前ですね。ただ、何で、男性は『ボー』って付くんですか?」
「それは坊やだからじゃ」
「じゃあ、女性は?」
「なんか習慣的に良くある名前を付けるの~」
全くすっきりはしないが、習慣なら仕方ない。
「他にも何か聞きたいことがあったら何でも聞くがよいぞ。宿は空き家を一つ貸すとしよう。なにせこの街に訪れる地上の者など、そうそういないからの。唯一の入り口があの深さじゃ普通潜ってこれんじゃろう」
「普通無理な筈なのに、自分は当たり前のように連れてこられたんですけど」
「うむ、海を愛する少年なら問題ないと思ったのだ」
思ったのだって・・・マンボーさん。
「マンボーよ、困っておるでは無いか、いくら母なる海から見れば皆坊やだとしても、少年と呼ばれたら困るだろうの」
少年て呼ぶのは魚人の常識という訳ではなかったのか・・・