190.楽しいサバイバル12-嵐の岬-
-3日目-
「ボス!魚採れたっすよ!」
「こっちもっす!この島の魚入れ食いっすね!」
「何もなしで投げ出されるから、全体的な設定が緩いんだろうよ。一先ずこれくらいで飯にするか」
「「ういーーっす」」
それまで食料調達のために海で二人は魚釣り、一人は素潜りで、魚を採っていたが、引き上げて拠点に移動する。
「よう、帰ったぞ!こっちは捗ってるか?」
「おかえりボス!今一つかね。拾ったものの中には良さそうな物もあるけど、使えるようにするにはちょっと熟練度が足りないね。装飾品だけは綺麗にして使えるようにしておいたよ」
「そうか、まあ普通の生産職じゃ汎用の修繕系スキルなぞ取ってるやつもいないし、最低限でも装備整えられただけでも、助かるぜ」
「まあ、たまたま武器防具用の装飾を考えてた時に片手間に取っただけだから、もう少しやっておけばよかったね~、そっちは今日も大量かい?」
「ああ、食うほうは問題ないな、連日焼き魚ばかりで悪いが、俺もまだ大した物作れないからな」
「いいじゃん?焼き魚。調味料はなんか二足歩行の狼みたいなやつから取れるんだし」
「まあな、まさかバターが手に入るとは思わなかったがな」
そんな会話をしつつ、手に入れたフライパンで、魚をバターソテーにしていく。
どんどん魚を焼いていく。
うちのパーティには葉類を集められるやつはいない。つまり肉を焼くか魚を焼くかの二択だ。
「しかし、ボスが料理できてくれて良かったわ。何気に<手入れ>とかも持ってるし、今回なんとかなってるのボスのおかげだもんね」
「たまたまだがな。俺も最近やり始めたばかりだしな。うちは大型魔物討伐謳っている以上、指揮系は取らなきゃ仕方ないしな」
「そうっすよね。アンデルセンが自分で探し出してきたのは流石だけど、ここまで必須職だとは思わなかったわ【兵士】なんて言う地味汎用職」
「まあ、地味だよな。でもここに来てイベントで大活躍だもんな。テコ入れだろうな【兵士】ちゃんとやるだけで、今まで倒せなかったボスが倒せるようになるわけだしな」
「それっすよね。うちもそろそろ始まるっすもんね。ボスが前戦で戦ってガンガン士気が上がって、アンデルセンがその士気使って、バフ掛けまくる形が嵌ってきたっすもんね」
「そうだな。他にも指揮が育ってきてるし、そろそろだな。帝国のあの隊長は一人でこなすが、うちは役割分担で、やっていけば追いつくだろう」
すると一人帰ってくる。
「ボス!ただいま!」
「おう、とりあえず飯食いながら報告頼むぜ」
「うっす、一応海辺周辺の森を探索してきたっすけど、一箇所だけ怪しい所あったっすよ」
「おっ本当か?かれこれ3日何も無かったからな」
「まあ、脱出目的なんだから海に絶対ヒントがあるって張った訳っすもんね」
「そもそもうちが一番海では有利と見たってのもあるがな」
「んで?どんな怪しい所だったんだ?」
「いや、なんか池に小さいイルカが嵌ってたんすよ」
「イルカが嵌ってただと?」
「うっす、まあ、すぐ死んじゃうって感じでは無かったすけど、でもあんな池じゃろくに動けないだろうし、嵌ってるとしか言えないっす」
「でもイルカって、脱出と何か関係あるっすか?」
「おい!お前ら、飯食い終わったらすぐにイルカの所にいくぞ!」
「どうしたんすか?急に」
「いや、ボスイルカ好きじゃん」
「ああ、そういうあれか」
食事が終わり、すぐにイルカの嵌っている池に向かう。
「確かに嵌ってるな。何でこんな所にイルカが嵌るんだ」
海からやや離れた場所に池があり、一匹の子イルカが潜っている。
とりあえず魚の切り身を投げ込めば、一瞬で食べる様子から相当お腹が減っていると見える。
「ボス、多分ここ川だったんじゃないっすかね?水の流れた後があるっすよ」
「そうだな、このあと辿ってもうちょっと上流に行ってみるか」
話しながら魚の切り身をどんどん投げ込んでいく。
そして、川の跡を追うように海とは反対側に歩いていけば、川にぶつかる。
そして、木がつまり、川の支流が途切れている。
つまり、川を遡上して遊んでたイルカが川の流れが途切れて取り残されたってことか!なんてこった!
「この木のオブジェクト壊せるか?」
「どうっすかねオブジェクト破壊できる、壊し屋職でもいれば出来るんですけど、壊し屋職の多い【鉱国】はコローナの連中と組んでるっすからね」
とりあえず、持ってる大剣で、オブジェクトを殴ってみると若干だが、ダメージが入る。
「コレ壊せるな」
「いや、壊せるっすけど、コレ丸一日かかるっすよ」
「じゃあ、一日掛けて壊せばいいじゃねえか」
「いやいや、脱出手段探さなきゃならないのに、一日かけてどうするんすか」
「じゃあ、イルカはどうすんだよ!今イルカを救えるのは俺たちだけだぞ!」
「あいあい、ボスがこうなったら駄目だわ」
そうして、川をせき止める木を殴り始める。非常に地味だが、なんだかんだクエスト消化に慣れた所為か、普通に交代で殴り、食料を集め料理し、食べる。
ずっと殴っていればスタミナが切れるが、適当に休憩をいれていく。
そうこうしているうちに深夜。パーティボス級の敵が現れる。
木のオブジェクトを殴る音につられてきたのか。この辺りによくいる二足歩行の狼。
【馬国】の犬人族は姿勢がよく、毛むくじゃらで犬頭だが、人間みがある。
ここの魔物は背も丸まり、二足歩行で無理やり歩いている狼だ。持ちにくそうに武器を持っているが、どうやって持っているのかはちょっと良く分からない。
全員で武器を構えて対峙する。
「よし、行くぞ!こいつの武器大型鈍器だ。コレ使えばオブジェクト破壊が捗るぞ!」
「いや、そこっすか?まあ、倒すのは間違いないですけど」
相手はパーティボス、しかもサバイバル用マイルド仕様、一撃は重いが攻撃をかわすのに難しいところは無い。
突然の噛み付き攻撃だけは驚いたが、すぐにフォローに入り、噛み付かれたメンバーを救い出すことで、倒れる者を出さずに勝利した。
「うし、鈍器使えるやつはコレ使え!」
棒の先に鉄の塊がついてるだけの質素な鈍器だが、どうやらここのオブジェクト破壊を促す為に用意されたボス魔物と装備のようだ。
交代で休憩をいれつつ夜を徹して、破壊する。
いつの間にか朝になり4日目だ。
支流に水が流れ、川が出来て池の水が増水する。
海まで、川が繋がるとイルカの子供が海の方まで泳いでいく。
一安心して、休憩を入れるために拠点に戻り、一息入れる。
食事を摂りゆっくり休み武器防具のメンテを終える頃、海の方から、何か声が聞こえる。
人の声では無いが、イルカの鳴き声のようだ。
全員で海辺に向かう。
すると子イルカが仲間と合流できたのか、海辺をイルカたちがぐるぐると泳いでいる。
海辺ぎりぎりに近寄れば一匹のイルカが体半分出して、ヒレをこちらに差し出してくる。
よくイルカショーで、握手するあれだ。
代表して握手すると、来ていた服を噛まれ、海に引きずりこまれる。
「おい!ボス!」
「ボース!!」
どうなったのかよく分からないが、とにかく手元にあった何かにしがみついていた。
少し落ち着いてくると、イルカの背に乗って背びれに掴まり、凄い勢いで陸から離れていく。
そのまま海を進み続ければ、徐々に視界に霧がかかり、白くなっていき。
キーンコーンカーンコーン
日本人なら誰でも聞きなれた鐘の音が聞こえ、最初の港に立っていた。