189.楽しいサバイバル11
■ 退却 ■
戦陣術の一つ 隊形による補正は無い
攻撃も防御も回復も出来ない
隊を率いる者の移動速度が上がり、さらに隊全体の移動速度が指揮者と同じになる
その名の通り全員で逃げる為の術である。
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4日目も晴天。
18人になって海辺へと足を運ぶ、適当に休憩を入れつつ簡単に食事をしつつ向かう。
楽しいサバイバルと言うかピクニックだよな~。
海風を感じる広い下り坂、所々岩が隆起しているが、視界の邪魔になると言うほどでもない。
そして、うじゃうじゃと群れてる蜘蛛。
あからさまに毒毒しい赤と黒の大蜘蛛、何となく普段見ている魔物とは雰囲気の違う、やたらリアル&ホラーな見た目の蜘蛛達。
「んじゃ、まあ、やりますか」
と一声かければ、昨日も見たのと同じ、蹂躙劇。
少しばかり大きいのも混ざっているが、何が違うのか確認する事すら許されない。
一方的に押し切り、どんどん坂を下っていく。
色が濃い蜘蛛、青黒の蜘蛛、緑黒の蜘蛛、立ち塞がるのだが、全く坂が塞がる様子は無い。
ペースが変わらずに、下りつづける。
明らかに戦力が違う。何にも出来ない。近接戦闘職過多のゴリゴリ脳筋仕様。ほっときゃ殲滅する。
あれよあれよと言う間に海岸に辿り着き、大きな船の前に大蜘蛛が一匹陣取っている。
蜘蛛は蜘蛛でも、アラクネというのか、先程までの赤黒蜘蛛を大型化したものに、でかい人型の上半身がくっついてる。
なにを指示する間もなく、前線を騎士殿赤騎士青騎士が固める。
そして、他のメンバーは思い思いに周りを囲む。
上半身が大きく息を吸いこむのに合わせ「『行くぞ!』」
戦陣術 激励
相手も甲高い引き裂くような声で叫ぶ。
士気低下攻撃を中和して、戦闘を開始する。
相手は初手八本脚をランダムに持ち上げ地面に突き立てる。小規模な地揺れで、一瞬動きが止まる。
しかし、直接ダメージを食らうものは全くいない。
寧ろ動いてない脚を狙って、ガンガンダメージを与えていく。
自分はちょっと遠目に見ていたが上半身が、蜘蛛のお尻辺りを触ってる。
なにやってるのかな~と観察していたら白い塊を引きずり出す。
そしてそれを振りかぶり、投げつける。
すると広がり網状になり、大蜘蛛の足元にいたコローナのパーティ達を捕まえる。
網で地面に貼り付けにされ、動けなくなるコローナのパーティ。ギリギリで気がつき、範囲から逃れたのはガイヤだけだった。
動けなくなった所を狙って、脚を振り下ろそうとした所に、前衛の青騎士と騎士殿が防御に入る。
ユニオンボスの攻撃であるが、この二人は受けきる。
騎士殿は寧ろ相手の攻撃に合わせて、盾を突き出し、跳ね返す。
ちょっとぐらついた所をここぞとばかりにさらに苛烈に攻撃を加えていく。
皆武器にエフェクトを纏わせている所から、術を使用しているのだろう。
すると、唐突に8本足を深く曲げ、跳ぶ大蜘蛛。
物凄い高く跳び、仰ぎ見ていると少し離れた場所に着地する。
そしてそこで、こちらに蜘蛛のお尻を向けると、白い塊をばら撒く、
その白い塊は空中で開き網になり自分達に降り注ぐ。
さっき捕まった連中を見ているので、網を避けながらそれぞれに距離を詰めていく。
非戦闘員は捕まって地面に貼り付けになっている。
そして、近くに辿り着いたものから再度攻撃を仕掛ける。
避けるのがうまい剣聖の弟子と白騎士、足の速い自分と黒騎士が真っ先に辿り着き、ガンガン攻撃を仕掛けるが、
白騎士はレイピアで突くが、エフェクトが長く伸び貫通力のある中距離攻撃のようだ。
剣聖の弟子は刀が無いため、舞うような連撃、例えじゃなくくるくる回りながら、攻撃を当てていく。
黒はダガー使いだ。剣身にエフェクトが灯り、一発当てるごとにやや重い響きを残すダメージ音と黒いエフェクト、どんな効果かは分からない。
自分は取りあえず、使える術が無いので、ひたすら切る。
ガイヤや騎士殿も追いついて攻撃を当てていると、脚が一本折れ、体を投げ出したので、全員で体に切りかかる。
何となく弱点ぽかったので、人型の上半身を徹底的に叩く。
全員の持てる全力火力で叩けば、動かなくなり下半身の蜘蛛部の頭に魔石が露出したので、破壊する。
体が消えると太い蜘蛛の糸を束で落とす。
「ロープ代わりにしろってことかね?」
「そんな所だろうな、しかし、このグループだとユニオンボスが、大した相手に見えねえな」
「まあ、確かに、一方的過ぎてどうしようもないな。ユニオンには2人も欠けているのに」
「まあ、兎にも角にも船を確認しようぜ、まあ楽しくない事も無いが、そろそろ元に戻って攻略の続きをしたくなってきたぜ」
皆で、船に近づき船の様子を確認すれば、この人数が乗れそうな帆船。帆が欠けていたし、アンデルセンが何処にロープを掛けたらいいかも知っていた。
しかし、問題は船に大穴が開いていること。
「こりゃあ木工が必要だろうな。隊長あてはあんのか?」
「無いよ。木工なんてどこが持ってるの?」
「そりゃあ【森国】だろうな。木で森じゃなかったらどこだよ」
「じゃあ、無理だ。やっちゃった」
「やっちゃった?」
「襲われたから返り討ちにした」
「おおい、どうすんだ。この船折角脱出できると思ったのに」
「ううん、もうこうなると、気球しかないな」
「気球?」
「2日目に山頂の崖上で見つけたんだよね」
「崖上ってことは・・・」
「うん、自分しか脱出できない。でもアイテム足りないから結局脱出用アイテムも探さなきゃいけない」
「もしかして、ガスボンベとかか???」
「多分ね、騎士殿がガス式かもしれないって言ってたし」
「それならうちが持ってるな。偶然キャンプみたいな所にいた魔物を襲撃したら手に入れたんだ」
「うん、もらっていい?」
「渡してもいいが、こっちにはメリットが無いな」
「でも、崖上だし自分しかいけないと思うんだけど」
「まった!隊長!抜け駆けは無しだよ!」
「そうなのここまで一緒に戦った仲なの盟友を捨てるの?」
「ん~じゃあ、崖から気球落として、各パーティから代表出して、一人づつ乗って脱出するか?」
「気球が壊れたらどうすんだよ!」
「その時は新しい脱出手段探すしか無いじゃん」
「おい、それなら隊長一人脱出させてこのイベント終わらせようぜ。流石にそろそろしんどいぜ」
「ここまで一緒にがんばったんだから、皆で脱出しか考えてないよ!」
「だから、それはリスクが・・・」
皆脱出できると思っていたのにそれがうまく行かず、喧々囂々である。
キーン、コーン、カーン、コーン
突然日本人には馴染み深い鐘の音が鳴る。
『皆さん、お疲れ様です。ただいま脱出者が出たため救出隊が派遣され、島から救出されました』
その言葉と共に視界が真っ白になり、例の最初に船に乗った小さな港にいた。
そして、最初と同じように大きな船が泊まり、一つ人影が見える
『今回優勝者は【海国】嵐の岬となります。それでは皆様ごきげんよう』
言葉少なく、それだけで消える影。
行きにはなかったポータルが設置されている。これに触れて帰れと言う事なんだろうな。
なんとも淡白なことである。
取りあえず、嵐の岬の話だけ聞いて、今日はログアウトするか。