18.【天大橋】の【突撃兎】攻防
■ パーティ ■
主に、プレイヤー5人までの集団で活動することをさす
パーティを組むに当たってホストと呼ばれる者は存在するが それによるステータスの補正等はない
あくまで メンバーの状態を知ること、専用のコミュニケーションツール【パーティチャット】が存在するのみである
しかし 一人で攻略することの難しい魔物も多く存在する為、パーティを組んでの行動は基本である
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無限の白に身をゆだね、惰性に任せる楽しさよ。
動かなければ身を切る風の心地良さよ。
照り返す光は7色に、白の世界を染め返す。
いつになったら止まるのだろうか、ま~じでよく滑る。こういうのって氷フィールドとかのギミックじゃないの?
と思ったら、ちょうど橋を渡り終えたところでうまいこと止まる。
橋専用のすべり罠だったのだろうか、ちょうど良いので小隊に指示を出す。
「ルーシーは、まず【古都】に応援を呼びに行け!スペーヒお前は・・・・」
「荷馬車の護衛につきます!護衛任務ですから!」
ザ・平凡よ 何か正論っぽいことを言って無難な方を選ぶそういう根性。
自分、嫌いじゃないぜ!
ただ無理ですとか言えば、角の立つことが分かって、それっぽい理由言うところとか本当に自分とキャラかぶってるんじゃ無いかと思うが、今は、自分が上司だ。
でも、人によっては、相手の嫌がることをせずにはいられない人もいるんだ。そこまであからさまだと、逆に嫌がらせされるぞ。がんばれよ。
「して、カピヨン」
「私は、残ります!」
そういう一般的に正しそうな行動に固執すると逆におかしなことになるぞ、相手に何を求められるかよく考えることだ。相手の気持ちに忖度することも大事だぞ。お前だけは生かせといわれてるの聞いてるだろう?
「自分は大丈夫だ。ニューターだからな仮初の体だ。死んでも何とかなる。危ない橋を渡る必要は無い。荷馬車についていけ」
「最後、ルーク!」
「自分は、残って援護しますよ。隊長のことだから、この橋で止めようと思ってるんでしょ?逆に、ここじゃなきゃ、追いつく足も無いわけだし、当然ですよね。まあ、危なそうなら早めに【古都】に逃げ込むので、後ろのことは気にせず、戦ってくださいよ。【下士官】になったその日に突撃兎が現れるとか、引きが尋常じゃないですよ。さすが大物になる風格が漂う人は違う!」
うん、もう、勘弁してくれ。とは言え、なんだかんだ同期じゃ結構やる奴だ、頼りにしよう。
すぐさま、橋を駆けて、豚兎の元に向かう。なんだかんだ、仲間と話した所為か、気持ちが落ち着いている。平常心合成したせいではないらしい。普通にテンパってただけだ。
よく見れば、でかいとは言え四足歩行、頭の位置は、雪鳥蜥蜴と変わらない。
幅と奥行きは、流石に違うが・・・・そこから感じる重量感は、流石に自分と相手の根本からの成り立ちの違いすら感じさせる。
いや、弱気になるな。あの位置なら、刺せる筈だ。
受け止めて、刺すそれだけだ。滑らされたとは言え、むしろ滑ったが故、ダメージは少ない。コレくらいなら自然回復だけであっという間に回復できる。
だが、自然回復に頼るだけじゃ、後がヤバイ。
ここは、あれを取り出しておこう。虎の子初心者ポーションだ。
ダメージを食らうたびに一々取り出していたのでは、多分追いつかないだろう。
アイテムバックに手を当てて中身をイメージすると支給品の手当て用品と初心者ポーションが入っている。ちなみにリュックは背負っていない。あれは、試験のときだけだ。
初心者ポーションを一つ取り出すと、手の上で光の粒子がはじけ、何も残らない。
思わず『なんでやねん!』とか言ってしまうが、アイテムバックに手を当て、初心者ポーションの説明を見ると
初心者用回復液 期限切れ。お客様は、すでに初心者期間が過ぎております。
そうよね~半年もこのゲームしてるもんね~
残った初心者ポーションも全て出し、消える前に崖に投げ捨てる。捨ててやる。
よし、防御して突くぞ!とにかく食らわないことだ。
橋を渡りなおし、兎の前に立つ、まずは一突きさっきの仕返しだ!
と思った瞬間、後ろ足で、立つ豚兎。
四足歩行じゃないんかい。前足を思いっきり横薙ぎに振るってくるので
いっそ、懐に飛び込む。
爪は、雪でもスパイクを利かせるためか、すごいことになっているが、懐深く入れば何とかなる。
振り終わって、前足を地面に下ろそうとしてきたところを、突きこむ。相手の体重も差し込む力にのせるが、思った以上に刺さらない。
毛がぶちぶちと切れる感触ばかりだ。
しかし、弱点らしい弱点も見つからない。首めがけて突きこむだけだ。
嫌がる、豚兎が、横向きに着地する。惜しかったかと思った瞬間、横向きのまま、体当たりをかましてくる豚兎。
流石に防御が間に合わず。橋の上に仰向けで転んだまま滑る。滑る。
思わぬ攻撃パターンに、思った以上のダメージを受けてしまうが、許容範囲だ。
止まった瞬間、立ち上がり、再び距離をつめる。
が、相手もまた突進の構えだ。
すぐさま防御態勢をとった瞬間。ルークの放った矢が相手の目に突き立つ。
相手の怯んだ隙に一気に突っ込む。
体当たりするように相手の心臓めがけて剣を突っ込む。
どれだけダメージを負ってるかは、分からないが、後ろに回転するように逃れる豚兎。
追撃で、どことなりと当たれば良いと、剣を振り回す。いくらか手ごたえはあったが、相手はまだまだ大丈夫といった風情だ。
その後も、必死に相手の攻撃を捌いていると、攻撃パターンも分かってくるものだ。
突撃、横向き体当たり、左右爪振り回しといった具合だ。
パターンさえ把握すればこっちのものだ、相手の動きを良く見て、橋の上を滑ることは甘んじて受けよう。地道に突くそして切る。
立ち上がってから、振り回すまでに妙に時間がかかってきた。突進力が弱くなったのかあまり滑らない。
と思ったら、致命的な弱点をさらす。
横向きに着地をした瞬間、仰向けに転んだのだ。
すかさず、体重をかけるように剣を突き立てる。ここで逃すわけにはいかない。
絶対に、立たせないと思いながら、少しでもえぐれるように剣を押し込んでいると、
相手が、両手を振り回してくる。
しかし、ここまで来た以上諦めるわけにはいかない。ひたすら我慢し。とうとう首を貫通したと思った瞬間。
相手は、動かなくなった。
荒くなった息を止めることも出来ずに、空を見上げていると、ルークが近寄ってきてチラッとこっちを見るのでうなずく。
ルークが、ナイフを突き立てると豚兎が、光の粒子に変わる。
ルークが手渡してくるのは突撃兎のドロップ品だ。
突撃兎の耳×2、突撃兎の尻尾、突撃兎の皮(大)、突撃兎の肉×10、突撃兎の前歯×2、魔石(中)
こんなところだ。
「とりあえず売って、今日の飲み代に変えちまうか。自分の【下士官】就任記念と小隊編成記念だ」
するとルークが言うには
「魔石は持っておいたほうがいいんじゃないですかね?飲み代を素材売ったお金から出すのはいいですけど。【下士官】なんだし、そろそろ自分専用武器持ってても良いと思いますよ。基本的には【帝国】の規格から著しく逸脱さえしてなければいいんだし」
「【帝国】は兵の力を均一化する事で、部隊運用をうまくしてるって聞いたけどな」
「流石に部隊率いる人に、武器のことであまり追求したりしないですよね。むしろ自分の武器を持つことを推奨されてますよ」
ほ~そういうことなら、魔石(中)だけはもらっておこう
残りは【古都】の【兵舎】の受付に持って行って、お金に買換えて頭割りだ。それが、小隊円満の秘訣だ。
基本は討伐報酬を頭割り、素材は倒した者が持っていく・・・・って感じだが、ボスと戦ったのは初めてだ。どう割ったら不平が出ないか分からないしな。
こうして、初のボス戦は、思ったよりすんなりとクリアできてしまった。
でも、この戦闘のおかげで、なんとなくこれからも何とかなるようなそんな気がした。