17.【北砦】の【輸送護衛】任務
■ アリェカロ ■
雪や坂道に強く、また高い牽引力を持つ上、
ちょっとした魔物程度は寄せ付けないだけの迫力と力がある為、【帝国】では、輸送に非常に重宝される動物
トナカイのようでありながら、水牛のような力強さを感じさせる
ただし、足は非常に遅い
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受付に戻るとすでに4人待機していた。
なんとも準備のいいことである。
「よし、じゃあ小隊をへんせ・・・・」
「その前に盾スキル取っていいですかね」
なんとなく嫌な顔をしながらいつものリストを見せてくれる。
正直ちょっと悪い気もしているので、ちゃっちゃと選ぶことにする。
実は、中盾への転向を考えていたのだ。
何せ動けない避けられない自分の戦闘スタイルは。正直小盾だけでは捌ききれない。
だからと言って大盾だと重すぎる。
ただ、円盾も捨てがたい。中盾とすでに慣れてる小盾も装備できる汎用型。
ちなみに<円盾>は<指揮>を取得したことで、リストに出てきたんじゃ無いかと思うのだ。
というのも、説明を見る限り、集団で運用するものらしい。ちなみに<方盾>も出たばかりの筈。
<細剣>や<小剣>とか見慣れないものは、<軽剣士>取得ゆえだろう
時間もないし、どちらにも転べる<円盾>にしておこうか。
重量軽減 そのまんま重い盾も装備しやすくなる
範囲拡大 隣接する仲間も防御できる
相互扶助 <円盾>持ち同士が並んだときに防御性能上昇
範囲拡大として置きますか。
「よし取ったな、小隊編成だ【弓兵】は分かるなルークだ」
「お世話になりますね。いつも組んでますけど【下士官】になるって聞いて、希望出したんですよね。そしたら一発でした!あまり人気無いんですね?
でも自分は知ってますよ隠れた実力者だって。でなけりゃ先輩たちがあんなに気にするとは思えないんですよね。そういえ・・・」
「後は【歩兵】のスペーヒ【偵察兵】のルースィー【熟練兵】のカピヨンそれに、お前の5人編成だ」
相変わらずしゃべりすぎだぞルーク
「大丈夫なんですか?軽そうですよ。物理的に」決しておしゃべりだとかあほそうだとか言ってる訳じゃない。
「ああ、移動力を重視してるからな。お前とスペーヒが【軽甲】後は、皮服装備だからな。やばけりゃ逃げろよ。特にカピヨンだけは逃がせよ」
「言われなくても無理はしないし、一番の新人を優先的に逃がすようにはしますよ」
「そうじゃない。カピヨンは【衛生兵】希望だ。お前らよりも頭が良い」
余計なお世話だよ。
「そりゃあ、大事にしないわけにはいかないですね【古都】から出さなきゃ良いのに」
「ま、本人の希望だ。その辺も踏まえて、立ち回れそうなお前さんに任せるよ」
評価が高いのか低いのか分からんが、仕方ない。宮勤めだ諦めよう。
「了解」
「そしたら、すぐに門で輸送車と合流してくれ。コミュニケーションは歩きながら取ってくれよ」
「あっ支給装備の盾は円盾中サイズでお願いします」
4人に先に門に向かってもらい、自分は、急いで<円盾>スキルをセットしに行く。全く面倒だな。誰だこんなシステムにしたのは。
門で合流するとなんだかんだ、4人はすでに打ち解けているようだ。
ルークが何かの武勇伝でも語っているようだ。
疎外感を感じるが、まあ、気にするまい。上司ってそんなものだ。部下の話に余計なくちばしを突っ込んだり、部下相手にかまってちゃんやるようじゃいけない。偉そうにするつもりも無いがな。
輸送車は、ソリでした。
うん、最近雪が深くなってきたと思ったんだよね。引くのは牛のような鹿のようなやつだ。でかい!重そう。魔物じゃないの?って感じだが、皆、普通に接してる。
一応小隊連中の特徴を言っておくと、
おしゃべり皮装備で少年兵にしか見えないルーク、
若干クールな雰囲気を出そうとがんばってるルーシー、何回か名前を呼ぶたびに訂正されるんだが、いまいちどこが間違っているのか分からない。
ザ・平凡スペーヒ 自分とキャラかぶってるんじゃ無いかと思うが。槍装備だ。
そして、エリート カピヨン 未だに【熟練兵】ってことは訳有だろう。【衛生兵】ってのは頭が良いらしい。まあ、医者みたいなもんだものな多分。見た目は、でかくてごついけどな。どちらかというと圧し折るタイプに見えるんだけどな、自分の人物観察眼も当てにならない。
ちなみに全員NPCだ。
御者に念のため行き先を確認したら【古都】だそうだ。久々に戻ってみるのも良いかもしれない。
教官には【古都】に用があれば輸送隊に同行しろって言われてたが、別に用とか無かったんだよね。
とりあえず、【偵察兵】のルーシーに先回って警戒してもらい。カピヨンとルークを輸送車の近くに配して。輸送車の前をスペーヒ、後ろを自分が固める形で、進む。
みんなのスキル構成は詳しく分からないが、ルークがいれば、警戒は大丈夫であろう。どれだけしゃべっていても、魔物や動物の気配を察知するのだ。
しかし、最近寒くなってきた。【古都】にいた時はよく分からなかったが、ゲーム内は冬なのか?視界が悪くなるほどじゃないが、暗いし、音がない。
静けさに妙に胸が騒がしくなりながらも『天大橋』までは、何事も無く着いた。
本当に何事も無い、何も出てこない。
【巡回】ですら、全く何も出てこないってことは無いぞ?
嫌な予感に、寒いはずの体に汗が噴出す。
木から雪が落ちる音かと思っていたが、妙にリズムが良いと思ったのだ。
ドッッ ズサー ドッッ ズサー と規則正しく、だんだん近づいてきている。
振り返ると砦の崖下につながる坂道に兎がいた。
たれた耳、伏せをした犬のような姿勢。にも拘らず一歩で距離をつめてきそうな力強さと、明らかに周りの木と比べると遠近感がおかしい、巨体。
はじめて見るが間違いない、突撃兎だ。
でかい、でかすぎる、熊兎と呼ぼう。
こっちに気がついた。首の後ろがちりちりするどころじゃない。胸と腹が、重くなる。胃もたれでは無い。
少しでも変な動きをすれば突っ込んでくる。そんな予感がぬぐえず、じりじりと後退し、橋を渡り始める・・・。
「うぅぅぅわぁぁああ」御者が暴走してくれる。こんなタイミングだが、戦闘員じゃないし仕方なかろう牛鹿も御者に影響されて慌てるが、すっごく遅い。
それでも、橋を渡りきり、急な坂道をそのまま下るんじゃ無いかと追いかけて静止しようと思ったら。
日頃の習慣か、普通に遠回りの緩やかな道を 走り?歩き?進んでいく。
そんな、輸送車に気を取られているうちに、あの音が、背後に聞こえる。
ゆっくり振りかえると。
そこにやつがいた。
まず何より、顔が怖い。
遠くだと分からなかったが、近くで見るとオークにしか見えない。(木材じゃない、ファンタジーの豚のやつだ)
いかにもゲームのキャラクターだと可愛いくて殴れない人でもいるのだろうか?
だとしたら、ある意味ではVRMMOという、現実感を伴うほどのリアリティを持ったゲームで、本当に自分の手足を動かしている感覚でプレイできるゲームゆえの弊害かもしれない。
しかし、顔が怖い。逆の意味で殴れない人が出てきそうだ。
そうだ、今後は豚兎と呼ぼう。そのほ・・・
突進の予備動作、若干後ろに重心を引くようなそれは雪鳥蜥蜴で散々見てきた。
今では、無意識で反応できる。
そして今も、盾を前にしながら衝撃に備えやや膝を落とし、抜剣した右手を右わき腹に付けて、体を縮めるように構える。いつでも中盾の裏から、剣を突き立てるつもりで。
が、めっちゃ滑ってる。
盾で受けたら、めっちゃ滑った。吹っ飛ばされるでもなく、転ぶわけでもなく。
さっきの構えのまま、橋を思いっきり後ろ向きに滑る、滑る
何か今の自分めっちゃ気持ち悪い!
多分スキルのアビリティで、吹き飛ばしや体勢維持取得してしばらく経つから、熟練度もそれなりになっているのかもしれない。
それとも雪道の地形効果とでも言うのか。はたまた相手との体重差ゆえか。
あまりの不自然さに、気持ち悪さが尋常じゃないがぐっとこらえる。
いや、体勢がこらえたままなので気持ち悪いんだが。
兎にも角にも、この橋で抑える。
この兎に角があるといっているわけではない、ロップイヤーのオーク顔ウサギだ。
だめだ、思考が散り散りでまとまらない。
平常心合成したばかりなのがタイミング悪かったか?
本日の仕事は、兎とどう出会うか、考えること
明日の仕事は、兎の毛皮にどう傷つけるかということ
倒すべきか、逃げ切るべきかそれが問題だ。