166.【海国】
■ 【海国】 ■
正式名称『マール連邦』
連邦の名の通り、いくつもの島国が自治権を保つ為に一つの主権の元に結合する国家形態である。
海賊が多く出没するが、自治区によってはメジャーな仕事でもある。
プレイヤーが好き放題海賊行為を行うことは不可能だが、
NPC海賊の取り締まりや幽霊海賊船等との戦闘クエストは存在する。
少々複雑な国家形態ではあるが、NPC相手に勝手放題しなければ、問題になることは無い。
寧ろ島によって違う雰囲気を楽しめるだろう。
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時に潜り、時に泳ぎ、時に休む。
見渡す限りの海、時々島。
どうやら、フィールドと同じで、一定間隔で島があり、セーフゾーンが設定されている。
つまり、泳いでも渡れるようにあらかじめ設定されている。
【海国】は詳しくは無いが、多数の島で出来ており、大きな島に都がある筈だ。
今のところ、小さい孤島しかないが、
三畳しかない島に木が一本と何故か焚き火跡があり、セーフゾーンになっている無理やり感と意外とほっとする感。
焚き火を挟んで、マンボーさんと魚を焼いて食べる。
生でいくのかなと思ってたら、焼いたやつも何ならバターソテーでもいけるらしい。
よく食べて、よくしゃべり、よく泳ぐ鯨、マンボーさん。
しかし、やはりいい人で、丁寧に泳ぎを教えてくれる。
そして、海中の戦闘も教えてくれる。
今のところ普通の魚を追いかけて倒すだけだが、当然普通に振れば、遅い。
しかし、何故か突きは出来る。なんかもう、そういうもんだ。
マンボーさんはどうやら魚人特有のムーブと攻撃方法もあるようだが、自分は追いかけて突く、避けて突くが基本になる。
そして、泳ぎは魚人に習っているからかどうかは分からないが、急速に早くなっている。
潜水も、いつの間にか、かなりの深さまで潜れるようになっている。
普通は肺の中の空気の関係上時間をかけて戻らなければならないのだろうが、流石にゲーム内、余裕で一気に水面に出ても、なんとも無い。
ただ、潜っていられる時間は徐々に延びているが、空気残量と言う物があり、空気を使い切ると急速に生命力が減っていくので、要注意だ。
魚を追いかけて倒して食べる。海を泳ぎ、時に沈み、空気が切れるまで物思いにふける。
空を見ながら徐々に沈んでいき、海面に揺らめく光を見ながら物思いに耽ると。不思議とマンボーさんは何も言わずにいてくれる。
なんとも、静かな日々である。
現実では色々世の中変化していると言うのにわが社では相変わらずであり、社長の最近のマイブームは『勝ち組』である。
何年前の流行語だよ。収入やなんかが、いい人のことだったか?語源は確か戦後すぐの日本の敗戦を受け入れられない人達だったか?
要は現実逃避してるんじゃないの?と思ってしまうのだが。
何でも、苦しいこのご時勢に生き残れる企業の事をそう言っているらしい。
仕事内容というより社長の人間性のせいで、新人が全く居つかない企業にどんな勝つ未来があるのか、無駄を増やすトップ。何でも首を突っ込みたがるトップ。自分で言ってる事やルールが守れないトップ、口を開けばなんでも人のせいのトップに誰がついていくのか?
最近とくに同僚の様子がおかしくなっている気がする。
自分自身の事が心配になる。自分の事は自分が一番見えてない物だ。
自分の事は自分が一番知っているなどという言葉があるが、共感出来ない台詞だ。
まあ、今はゲームだ。
ついに大きな陸地が見える。
「あそこが都だ少年よ。名を『プーエール・リコ』という」
なんか、船がいっぱい留まっていて、賑やかそうだ。
マンボーさんと二人で海から頭を出して、都を眺めつつ泳いで近づく。
ん~賑やか過ぎるな、喧騒と言うか、本当に争ってる声が聞こえるわ。
でも、前に【海国】に来た時も柄悪そうだったし、そんなもんかね。
徐々に近づいているが、ちょっと剣呑な感じだ。
「マンボーさんいつもこんな感じですか?」
「いや、コレはちょっと異常だな」
ということで、港から入るの諦め、島をぐるっと周り、もっと人の少ないところから上陸する事にする。
人の少なそうなサトウキビ畑から上陸し、何が起こるか分からないので、静かに行動していると自分達と同様にこっそり隠れながら移動する人を見つける。向こうはまだ気がついてないようだ。
よく見ると二人組みだが、聞くとも無く、話が聞こえてしまう。
「港は押さえられてしまった。どうしたものか」
「ぼっちゃま、船は港にしかございません。後は領主代理として戦うしかございませぬぞ」
「そうだけど、僕一人で戦ってどうにかなるもんでもないし」
「それはそうですが、相手は海上が専門の海賊どもです。何とか【兵士】達を招集できれば、戦いにはなるでしょう」
「しかし、僕も陸上戦などしたこと無いのだから、有利も不利も無いだろう」
「そのようなことを言っていては勝てる物も勝てなくなりますぞ!さあ、ここは声高に宣言しましょう!」
「よし、じゃあ、いくぞ!」
どうやら一人は若い少年。もう一人は保護者らしい。
何か声高に宣言するらしいので、その場を離れようとすると
「やあ!やあ!我こそは連邦議員にしてこの島の領主の息子!海賊の魔の手からこの地を救わんと言う者は・・・」
「いたぞー!賞金首だ!ひゃっはー!」
どうやら、宣言虚しく治安の悪い人に捕まりそうだ。
まあ、まだこの島について間もないし、よく分からない。正直放って置いた方がいい気がするのだが、マンボーさんは何かやる気だ。
「少年よ。私は陸上戦はそこまで得意ではない。少年にかかっているぞ!幸い相手は一人だ」
「あの領主の息子を名乗る人と保護者の人二人で、人数的には有利ですね。離れて様子を伺いましょうか?」
「うむ、慎重なのは悪くないが、どうやらあの二人は戦えない様子だぞ」
戦えないのに『勝てるものも』とか言ってたの?
確かに、治安の悪いカットラス持ちの軽装の男相手に剣も抜かずに逃げている。
已む無く自分が剣を抜いて割ってはいるが、相手はNPCっぽい。こちらから攻撃するのを躊躇っていると
「おい!キサマ!どこの者だ!」と治安の悪い奴が言ってくるので
「【帝国】の者だけど」
「な!北の者か!ここいらは俺たちのシマだぞ!」
「いやこの島の領主は僕の父だ!」
「ガキは黙ってろ!おい黒いの!北の者がこんな地へ何の用だか知らないが、お頭に取り次いでやるから、そのガキ捕まえるのを手伝え!」
え?これは、もしかして治安の悪い方が実はレジスタンスとかないよね?
やはり来たばかりで事情も分からないのに、ほいほい首を突っ込むもんじゃない。
マンボーさんを振り返ると、領主の息子を名乗る方を助けたいらしい。しかし陸上戦が得意でないマンボーさんは隠れている。
さぁて、どうしたものか。