153.砂嵐の幻影
■ 砂漠の幻影 ■
砂漠の奥地では不思議な幻影に会うことがある。
極限状態から来る幻覚か、はたまた覚醒か
右も左も分からぬ砂嵐の中、見知った人間の幻影は、
死ぬ前に一目会いたいと思う、人の願いから生まれた慈悲なのか
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街を出れば、まあ安定の砂漠だ。
しかし、砂漠を歩くことは出来ても方向なんかを見定める方法は無い。
とりあえず街に背を向けて歩く事にする。
砂が柔らかく足場の悪い砂漠だ。のんびり歩く事にする。
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少し風が出てきたか足元の砂がさらさらと流されていく。
何の偶然か、何も無い砂漠で、からからと軽い音のする白い物が転がっていく、
乾いた骨か何かか?と目で追っていると、横から突風が吹く。
ヘルムをして、更にその上からストールまで巻いているのに、思わず目を細めると
風は止まらず、砂を巻き上げながら体にぶつかってくる。
一気に視界が悪くなるが、先に聞いていた通りなので、ゆっくり砂嵐の中を歩いていく。
何となく臭うなと思っていると
風は止まらないのに、視界に何か写る。
よく見れば、砂嵐の中にまるで昔のテレビのような映像が現れる。
砂嵐で見えずらい映像をよく見ていると【帝国】のクラーヴンが働いている店だ。そこに沢山の人が群がっている。
多分クラーヴンだったら嫌がるだろうなと思っていたら、群集の中心に何か呼びかけてる人影がある。
マリーとカーチか、音声は聞こえないが、何となく状況は分かった。
多分この前のイベントで有名になったクラーヴンの元に色んなプレイヤーが押しかけて来たんだろう。
そして、自分の紹介で先に知り合っていた二人が、この状況を捌いてくれているんだろう。
偶然とは言え紹介した甲斐があったな。
などと思っていると、少し砂嵐が弱まってくる。
すると足元にわらわらとスライムがいつのまにか集まってきている。
急いで、剣を抜き片っ端から潰していく。普通の小さなスライムは大人しく潰す事は容易だ。
全部潰すとまた砂嵐が強くなっていく。
また、歩き続けていると嵐の中に別の動画が現れる。
バルトだな。嵐の岬の面子が狭い道を歩いている。
そして、壁か扉の前で立ち往生しているのが見える。その壁の前でパーティで話し合いをしているようだ。
よく目を凝らしていれば、イベントダンジョンかな?雰囲気が似ている。
最後の扉の開け方が分からないのか?
扉の文字を読めばヒントがあるだろうに、アンデルセンは一緒じゃないのか?文字が有ると分かれば、<言語>をつけて再度潜ればいいだけだろうに。
何となく焦れてきて、思わず動画に「アンデルセン!扉の文字!」というと
一斉に上や周りを見る嵐の岬の面々、まさか聞こえたわけでも無いだろうにと思っていると、砂嵐が弱まる。
そして目の前に現れるのは、大きなスライム、因縁のヒュージスライムだ。
伸びてくる触手を宝剣で切り落とす。そして同時に伸びてくる触手が増えてくるが、どんどん切り落とす。不思議と落ち着いた気持ちで、自分に当たりそうなものから順に切り落としていれば、どんどん小さくなるヒュージスライム。
程よく小さくなったところで、核に宝剣を突き立てれば、臭いを発して消えていく。
そして、また砂嵐が強くなるので歩き始める。
次の動画は赤騎士か?【馬国】のゲルらしきテントの中で何かを話している。相手は見たこと無いが【馬国】の服を着て、腰には短弓を下げている。
何か話が決まったのか、握手をしている。アレかな、レギオンボスと戦うための交渉かな?
酒を酌み交わして、契約が決まった事を喜んでいるようだ。次は何とかなるといいねと思っているとまた風が弱まってくるのを感じると同時に宝剣を抜いておくと
何にもいない・・・殺気を感じると同時に転がると、自分がいた場所の地面からモグラの形をした瘴気生物が飛び出す。
転がって、立ち上がると同時に切り上げ、敵の胴体の前面を切り裂く、そしてそのまま短い手を切り落とす。
まだ、切り落とされていない方の手の爪をこちらに向けてくると同時にそちらの腕も切り落とす。
頭をこちらに向けてくるので突進だろうと見切りをつけ、かわす様に体を捻りながら横に避ければ、案の定体当たりだったので、胴体のど真ん中を真っ直ぐ切り落とせば、核に当たったのか、煙になり臭いを発して消えていく。
また、先程までのように砂嵐が強くなってくるので、歩く事にする。
かつての因縁の敵が出てくるが、サイズが元々より一回り小さい気がする。
攻撃パターンも知っていることから、多少強引だが、前より簡単に倒せている。
すると次の動画だ。次はポッターが、何人かとパーティボスサイズの蛇を倒している。
他のメンバーは皮やら牙やら手に入れているが、ポッターだけは目玉を大喜びで掲げている。
何だろう、ただのグロ動画か?
んな訳ないか、ポッターはまた何かを作るために素材集めをしているのだろう。
がんばれよ~と思っていると
砂嵐が弱まってくる。当然同時に宝剣を抜くと黒い塊に足が八本付いただけの瘴気生物だ。
こいつに苦戦した理由は二つ、足場が悪かったことと、あと一定時間で確定死のあの赤い怪光線だ。
だが、今なら・・・脚を速攻で切りまくり、再生が追いつかないうちに横倒しにして、塊にくっついている目を片っ端から潰していく。
目を潰せば一瞬動きが止まる。止まったところで次の目を潰す。あっという間に目と言う目を潰し、露出した核を潰す。
ちょっと疲れてきたので、砂嵐にもまれながら、ちょっとぼんやりしているが、動画が中々現れない。
何となく、見られている気がする。
実は砂嵐が吹き始めてから感じているのだが、宝樹が自分に資格があるか監視でもしているのかと思っていたが、今は違うと確信している。
いやな臭いが充満し始め、殺気を感じる。
あらゆる方向からの殺気だ。
いつだったか、教官の【訓練】を受けていた時を思い出す。
しかし、いくらかマシなのは、次から次へと殺気の方向が変わるだけで、全方位から殺気を浴びているわけではない事か。
だが、あまりに目まぐるしく変わるので、敵がどちらの方向にいるか見当が付かない。
しかし敵に殺気を向けられている以上、抜剣し、宝剣を右手にぶら下げ、出来るだけ脱力して自然体を保つ。
敵は多分自分の周りを走り回っている。時折方向転換のためか、
『ザッ』と音がして、砂が若干巻き上がる。
剣先の腹で自分の足を軽く叩く、
コツッ・・・ザッ、コツッ・・ザッ、コツッ・ザッ、コツッザッ
徐々に自分の音と方向転換の音が重なり合って行く。
コツッ・・音が来ないと感じた瞬間、
完全に体の反射のみで、右から当たる筈の風を感じないと思考が到達するよりも早く、
振り返りながら宝剣を振り上げ右後ろに切り付ける。
状況を把握した時点で既に大型のネコのような姿をした瘴気生物の頭中央から宝剣が入り、二つに裂き、
自分はその割かれた体の間にいる。
ようやく、思考が追いつき状況をまとめれば、多分飛び込んできたところに丁度宝剣を差し込めたのだろう。
そのままの勢いで体を真っ二つにし、割けた体が、自分を通り抜けたところで、
「今回は砂漠の虎かよ」
と振り返れば、そのまま二つに割れたまま両側に倒れ、臭いを発して消えていく。
どうやら、いきなり体の真ん中の核を切ってしまったらしい。
ふと気がつけば、いつのまにやら砂嵐が完全に止まっている。