108.因縁の敵
■ 瘴気生物 ■
完全に瘴気から生まれる邪神の尖兵スライム
そのスライムに取り込まれるのかはたまた取り込むのか
はっきりとした事実は明らかにされていないが、瘴気により完全に異形化した生物を瘴気生物と言う
スライムとは違い不定形ではないが、その分動きや凶暴性が増す。
それは知能や世界に適応した体組織を手に入れ、受肉した悪魔の如く
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薄暗い一本道を行く
街とは違い明るくは無い。だからと言ってまるで周囲が見えないほど暗いわけでもない。
勝手に浅くなる呼吸、意識的にゆっくり細く息を吐くが、胸につかえる物がある。
ただの、薄暗い一本道だが明らかに不自然
別に道が・・・・とかじゃない。誰かが掘ったんだろうから人工的で当たり前
モグラがいないのが・・・・と言うわけでもない、ボスを倒せば当分現れないそうだ。
心拍が高まり、呼吸がうまく出来ず、明らかな不自然さ。
自分が緊張してるのは分かってる。
それも責任感とかそういうのからではない。
色々な感情が高まって抑えきれない。
どれだけ歩いたか、薄暗い道の先に黒い塊が見える。
この距離では、まだ形もおぼろげだが、自然と背中の宝剣を引き抜く。
いつもなら剣を抜けばそのまま戦闘に移れるのに
今はなかなかグリップが決まらず何度も剣を握りなおしている。
つかみ方が強すぎる気がするし、握る位置が微妙にずれている気もする。
でも、多分気のせい
薄暗い洞窟の一本道に暗い塊が一つ、そして瘴気の匂い
初めて死に戻りを経験したときの事を思い出す。
しかも集団戦直後で、単独戦闘用のスキル構成でも、装備でもない。
道を歩いている途中からこうなる事は予想していたが、なかなか落ち着かない。
だからと言って、いつまでも立ち尽くしていても埒が明かない。
ゆっくり、踏み出し、黒い塊に近づいていく。
形が何となく見えてくる。
いつだったかのブヨブヨとした不定形ではない。
さっきのモグラの後姿だ。
ふと明るさが、変わった気がして、上を見ると急に天井が高くなっている。
そして、左右も広い。
ちょっとした大部屋になっているようだ。
視線を戻すと姿が消えている。
足元から殺気を感じ、とっさに横に転がると地面の下から飛び出してくる黒い塊
すぐに立ち上がりよく相手を確認すれば、
近くで見るとシルエットこそモグラだが、毛も顔の形も無い。
のっぺりとした塊だ。
するとゆっくり尖った爪先をこちらに向けてくるモグラもどき
そして殺気と同時にまた横に転がると、爪が伸び元いた場所の地面に突き刺さる。
そしてまた足元から殺気を感じ、後方に飛ぶと地面から突き出てくる爪先
それも避けるとするすると爪が縮んでいく。
体が少し縮み、その分横に膨らんだかと思うと、そのまま体当たりしてくるが、
コレも大きく避ける。
前回と同じ轍は踏まない。下手に受ければそこから捕まる。
まずはチャンスを見て斬りながら体積を減らしていく。
出来るだけ避けやすい場所取りをし、無理をせず避けながら攻撃する。
パターンは
溶け込むように地面に潜り足元から飛び出してくる
爪を伸ばしてくる
地面に爪を突き刺すと足元から爪が飛び出すように生えてくる
体が縮んで体ごと飛んでくる
これらがランダムに繰り返される。
今のところチャンスは伸びた爪、切り落とせばその部分は匂いを発して煙のように消えてしまう。
徐々に体積が減り、避けやすく感じた頃
体当たりを避けた直後、完全にタイミングがかみ合い「ここだ!」と脚部を切り落とす。
体の形はあっという間に元に戻るが、一気に体積が減った。
そして胸部にうっすらと核が見える。そこを突けば勝てると攻撃のタイミングを窺っていると
「ヴヴヴ・・・ヴヴ・・・・ヴヴ」
と電波の悪いラジオのような音を出し始める。
そして、音も無く地面や壁から次々と染み出してくるスライム。
すると急に手近なスライムを爪で突き刺し始める。
そして・・・・体積がわずかに回復する。
流石に回復は思い至らなかった。
しかも周り中にスライムがいるとなれば転がって避けるのは、まずいだろう。
一気に距離を詰めて核を狙い剣を突き出すと
爪を真下に向け伸ばすモグラもどき、そして自分の足元を警戒しながら距離を詰めていくと
モグラもどきの周り全方向に放射状に飛び出す。爪先
とっさにジャンプするが足に掠るとそこから一気に爪が不定形になり自分の体を辿ってくる。
しかし、自分も剣を相手の胸に突き刺している。既に触れている部分が蒸発し始めている。
わざと空いている左手を相手の胴体に触れさせれば自然と自分を取り込もうと自分の体を引っ張り込み始める。
その引き込む力で強引に姿勢を固定し、剣を核に突きこむと
ドバッと粘液を撒き散らし、匂いと共に蒸発していく
今回も紙一重
コレだけ強敵なのに残すものは強烈な瘴気の匂いだけ
まあ、何とかなったから良しとしよう。
するとどこからとも無く声が聞こえる
『わー!邪神の尖兵を倒したんだね!そしたらちょっと奥まで来てよ!』
何か無邪気そうな女の子の声だ。疲れた心と体に活力が戻る。
さっき入ってきた道のちょうど真反対辺りにくだりの階段があったので、下りていく。
すみません
前回のパターンだと、宝樹との会話まで入るのですが、
次の展開に繋がる振りを取り込みたいので、今回はここまでで切らせて下さい。