105.鉄鼠
■ 激励 ■
【帝国】の【兵士】が取得できる戦陣術の内、最も基本的な術の一つ
【兵士】系の集団戦闘指揮術は術発動の媒介として士気を消費する
その士気を高める術であり最も使用頻度が高い術になるだろう
ただし、『激励』を発動するにも少量の士気が必要であり、戦闘開始と同時に士気低下攻撃を行うボス魔物との戦闘時はスキル構成等多少の工夫が必要となる
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「すまんな【帝国】からのお客人、面倒なことに巻き込んでしまって」
商業長のところに駆け込んできたドワーフが、如何にもありがちな台詞を言うが、どう考えても一連の任務のストーリー戦闘としか思えない。
こういう時従来のゲームならキャラクターが勝手にしゃべってくれるのだから、ただそこに感情移入すればいいのだが、
そこはフルダイブゲーム、自ら言葉を発しなければならない。
普段は何となく没入して自然と入り込めるが、時折ふと気恥ずかしくなることもある。
唐突に第三者的な視点で自分を見てしまう時の・・・・
・・・・気がそれてるな、また変な考え事を始めてしまった。
久々の戦闘で緊張してきたか?
とりあえず返答しておく
「いや、任務ですから、何より困った時はお互い様ですよ。
それより今回戦闘指揮を頼まれたわけですけど、敵と味方の情報を頂いてもいいですか?」
「ああもちろんだ。敵は鉄鼠と呼ばれる獣型の魔物だが、金属や石を主食にしてる所為か毛が異常に硬い。
刃物による斬撃や刺突はほぼほぼ防がれちまう。
代わりに鈍器による打撃か術での攻撃は有効だ。
時折宝石を食っているやつらが、精霊術に抵抗があったり、精霊術に準ずるような攻撃をしてくるから、その点は注意してくれ。
こちらの陣容としては、おおよそ鈍器使いで固めてる。
後はドワーフ特有の性質として、筋力が高い、体力が高い、足が遅いといったところか」
ふむ、確かに現場に急行しているのだが、ドワーフのほうが足が遅い所為か早歩きだ。
大丈夫なのだろうか?
「分かりました。部隊の割り振りなどは?」
「ああ、そうだな。大盾部隊20、大槌部隊40、術士部隊20、支援部隊20だ」
「支援部隊って言うのは具体的には?後、術士部隊の術について教えてください」
「支援部隊は【帝国】で言うところの【衛生兵】だな。片手槌・小盾持ちの部隊だ。
術士部隊は槌を媒介にした、土精術と石精術の使い手の混成部隊だな。ある程度の火力と足止めや防御支援が得意だ。
ちなみに俺は支援部隊のものだ」
バランス的にはそこまでいやらしく無いようだ。
そうこう話しながら走って(早歩き)で、サンハッカーから続く一本道を奥に進んでいく。
途中門を抜ける時は流石に緊急時の所為か完全にスルーだった。
そして、鉄の壁に差し掛かる。
一直線だったので、結構前から目に映ってはいたのだが、近くで見ると完全に鉄の壁である。
見上げるほどに高く、自分の身長の何個分であろうか?
壁の端は完全に土に埋まっている。
壁に触れたり眺めたりしていると
「おい、こっちだ、早く上がって来い」
と壁の上から声がする。
壁の右端を見ると先導してたドワーフが既に階段を登り始めていた。
すぐに後追うように走り階段を駆け上がる。
壁の上まで上ると先ほどまでとは違ったドワーフが話しかけてくる。
「あんたが代わりの指揮官って事でいいんだろうな。見れば分かる。
俺は副官だが代理で指揮を取っていた。戦況は今小康状態になっている。
しかし残念ながらこれ以上の指揮支援が出来る状態では無い。
ここからは指揮を変わってもらいたい。
聞きたい事があれば都度聞くがいい」
ああ、つまりいきなり慣れない部隊で戦うためのヘルプキャラ的な立ち位置なのか
しかも小康状態って事はすでに戦闘中から始まるわけではなく、多少の準備をしてもいいわけか
「一応勝利条件の確認ですが、向こうに見える鉄の壁が第一隔壁ってことでいいんでしょうか?」
壁に上り先のほうを見るとさらに鉄の壁らしき物が見えるが真ん中がぽっかり空いているように見える。
そして自分の登っている壁の下にはドワーフ達がわらわらと無秩序に集まっている。
少し距離の開いたところにはわらわらと獣が集まっている。まだはっきりとした姿は分からないが、獣特有の艶かしさを感じる動きだけは何となく見て取れる
「その通りだ。あそこまで敵を押し戻せれば、仕掛けを使用できる」
敵全滅ではなく、戦線を押し上げるのが目的か。やってみますかね。
「では、隊を組みましょう」
言うと自軍の情報が目の端に表示される。100人の隊長として指揮できる状態になったようだ。
「まずは、重装兵を最前列で横隊を組みましょう」
戦闘がどう進行するか読めないので、とりあえず自分の一番戦いやすい形で組ませてもらう。
第一隔壁までの一本道、横幅一杯に広がるとちょうどドワーフ20人分といったところだ。
となると横に一列づつ
大盾部隊
大槌部隊
大槌部隊
術士部隊
支援部隊
「うむ、そろそろ来るぞ」
こちらの整列が済むと同時に敵魔物の集団がこちらに向かってくる。
だまになって無秩序に向かってくる姿から、ホラー映画のような薄気味悪さを感じるが、気持ちを切り替えることにする。
戦闘開始だ。
「盾構え!まずは受け止めて相手の勢いを殺すぞ!『行くぞ!』」
戦陣術 激励
戦陣術 戦線維持
「副官、部隊長の指揮関連の術はありますか?」
「身体能力上昇を図りたいなら代わりに指示を出そう」
「じゃあ、前衛大盾部隊の防御能力及び、飛ばされにくさを上げたいのですが」
「ふむ、いくつかあるが戦闘の立ち上がりだ。あまり尖った性能のものは止めておこう。
全部隊!『膨筋』」
すると何故かドワーフ達が一斉に腰に握った拳を当てるようにして肩幅と胸板を強調したポーズをとる。
フロント・リラックスだ。
「『膨筋』を使用すると力と体力が微増する上、この後の術の効果が上がる。初手として基本の術だ。
本当は最前列にもう一つ術を使用したいのだろうが、今後の展開も考えて精神力はまだ温存しておいたほうが良いだろう」
「なるほど、では様子を見ましょう」
そうこうしているうちに魔物の塊が最前列にぶつかってくる。
灰色の鼠と言うよりはモグラだろうか?爪が妙に長く目が見当たらない。
つまり急所らしい急所が見えず、毛皮は刃がたたないとなると自分が矢面に立つとなったら苦戦は間違い無さそうだ。
ぶつかってくる圧力に対して、大きなダメージは無さそうだが、既に戦線が崩れてきた。
「あっという間に戦線が持たなくなってるんですけど、敵はやはり相当強いようですね?」
「いや、あれらは灰色だし、一番下っ端だ。それにダメージもそれほどではなかろう?」
言われてみて、目の端の自軍情報を見る限り確かにダメージはむしろ余裕くらいだ。
じゃあ、何故既に戦線がばらついてきているのか・・・・
良く見れば、装備が皆ばらばらだ。大盾ではあるが丸かったり四角かったり楕円だったり
「もしかして連戦で装備が満足に行き届かなかったとか?」
「何を言ってる。事に装備の事となればいつでも最良の物を用意している」
「いや、でもばらばらじゃないですか!」
「何を言うか、使い手に合わせて最良の装備を用意するのが、職人の心意気!【兵士】それぞれが最高のパフォーマンスを発揮できるような装備をそろえるのが軍の仕事であろう」
そっか~ 職人の心意気か~ 流石【鉱国】職人魂が行き届いてる~
まじで迷惑だよ!!
ああ!クソッ【帝国】の規格化して全体を高めるのとは真逆の考え方なのか
確かに一人一人が最高の力を出したほうが、足し算としては力を発揮できるんだろうが・・・・
切り替えていこう。
「とりあえず、隊列の隙間から漏れた敵は2列目の大槌部隊が片付けるように。3列目より後ろは楔隊形に移行!
大槌部隊が外、支援部隊が中前列、術士部隊が中後列
反撃に出るぞ!」
隊列が揃うのを待つ、隊列こそばらついているが、まだ余裕がありそうだ。
相手が下っ端だからか、ドワーフ特有の身体能力のおかげか、ダメージ蓄積も大したこと無い。
「よし、一気に攻勢に出るぞ!術士部隊は攻撃術を敵陣に打ち込め!足止めになればいい。同時に戦列の入れ替え術を使用する。『行くぞ』」
戦陣術 激励
戦陣術 後詰
前列2列の防御隊と隊列を組みなおした後列が入れ替わりながら、一気に攻勢をかける。
しかし、足並みがばらばらだ。仮に『突撃』など使っていたら効果は半減していただろう。
それでも、戦線を相応の勢いで押し返している。足は遅いが、ごり押しで敵を蹴散らして押し込んでいる。
多少の反撃などものともせずに大槌を振りかぶり叩き潰す。うらやましい打撃力だ。
敵魔物が、押し込めなくなり引き始める。
ならばもういっちょ
戦陣術 追撃
退却する相手にさらに大きなダメージを与える外道な術だが、削れるだけ削っておこう。
足の遅いドワーフがやや速度を増し退いて行くモグラに後ろから襲い掛かる。
魔物の数が減るにつれて、敵全体の動きが早くなり、引き離される。
およそ1/3位は押し返しただろうか、今までは壁の上から全体を俯瞰して指示していたが、次は下に下りていかねば状況を把握できないだろう。
階段で壁から降りながら、癒丸薬を飲んでおく。なんだかんだ術も使い慣れ、それなりに精神力はあるが、後何回衝突があるのか?今回の灰色は下っ端と言うことだから上位種が出てこないとも限らない。
回復を怠ることは出来ないだろう。
とりあえず1WAVE目終了といったところか、ちょっとやりづらいな。集団戦は得意のつもりだったが。
前半はやっぱりおしゃべりでした。
文化の違いによる苦戦感が出てたらいいなぁ。