102.ウインドウショッピング
■ <分析>眼鏡 ■
形は眼鏡であれば、適応される。
ゴーグル型、片眼鏡型、ノンフレーム、ローネット。
素材として【鉱国】山地に現れる魔物『浮目玉』の目玉を必要とする。
ちなみにこちらの状態を<分析>して来るが、特に害は無い。
浮いているので遠距離攻撃手段が必須。
耐久力が低い為、生産職でも簡単に倒すことが出来るだろう。
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正直なところ、現実ではアクセサリー屋なんておしゃれ空間は自分には非常に心の底から入りづらい場所だ。
店に相応しくない、それこそ『ズェンズェン駄目』な人を避ける為のお札でも貼っているのかという位プレッシャーを感じる。
きっと教会に近づく悪魔って言うのはこんな苦しみを感じているのだろうとつい勝手に同情してしまう程、自分にとって場違いな場所である。
石だけじゃなく綺麗な物は何でも好きな自分では有るが、アクセサリー屋とは遠目に眺める場所でしかない。
さらに言えば、石好きでは有るがいくつも店舗開業している様な大手にしても、
小規模の所謂、店長さんが直接買い付けに行ってますみたいな店にしても、
大抵は女性に入りやすいように工夫されていて、さらに言えば女性客が入っていて、店員さんも女性で、入るには自分の勇気では到底不足している。
ごく稀にある普通のおじさんがやっている店は本当に自分にとって貴重であり、心のオアシスにもなっている。
しかし、ゲームの中ではどうやらあの『ズェンズェン駄目』な人を拒む結界は適応されてないようだ。
あまり寄り道せずにサクサク進めようとは思っていたのだが、ちょっと気になることがあって、アクセサリー屋を回っているところである。
と言うのも、細工長の言っていた一つ装備するだけで『装備スキル』を使えるアクセサリーを見て周っているのだ。
何気に今の自分のスキルは結構かつかつだ。
まあ、多分どのプレイヤーも苦しいスキル事情をうまく取捨選択したり仲間同士で相談しながら決めているのだろうけど、7つってのは結構絞らないと苦しい。
<剽剣士><不動心>
<防衛域><><>
<古樹><>
なにせこの四つは既に外す訳にはいかない、自分にとって最重要スキルだ。
<剽剣士>が無ければ、ショートソードも皮装備もアウト
<不動心>が無ければ、ブロックは出来ても硬直効果が無くなる
<防衛域>が無ければ、そもそもブロックが出来ない
<古樹>が無ければ、生命力も精神力も不安が大分残る上ブロック時の体勢維持やデバフ耐性に不安がありすぎる。
集団戦になれば<軍術士><行軍><統法>を使いたいし、
個人戦闘なら<氷剣術>
長距離移動時には<野泊者>
<水泳>だけは『古代海鰐の服』のおかげでいつでも使えるが、他にも使える物が有ると非常に助かる。
今のところふらふらと店を覗く限り、合成したスキルに対応するアクセサリーと言うのは存在しないようだ。
一つこれは!!と思ったのが、<分析>眼鏡だったのだが、自分の冑のバイザーと干渉して駄目だった。
ポッターは眼鏡をおしゃれアイテムとか言ってたけど、自分には重宝するじゃないかと今更ながら後悔する。
まあ、後に悔やむから後悔なわけだが、もうちょっと良く説明を聞いておくべきだった。
<分析>眼鏡があるなら<分析>指輪もと思ったが、何を考えているのかそれとも暗黙の了解があるのか、<分析>と言えば眼鏡しかない。
たまたま、自分でも話しかけやすそうなニューターの店員に聞いてみたら、<分析>眼鏡は変わり者の【陶芸家】が作っているものしか出回っていないらしい。
その人に他の<分析>アクセサリーを頼もうと名前を聞いたら、ポッターだった・・・・。
教えてくれれば、眼鏡と干渉しない冑で頼んだのに。
気を取り直して、巡っているとどうしてもお目当ての物を探せば探すほど、今回は関係の無いステータス補強物や耐性補強物に目移りしてしまう。
中には精霊術の耐性を上げるものは予想の範疇として
氷精の耐性や冷性の耐性といったちょっとピンポイントな物も数は少ないが売っている。
ガイヤがいずれ戦うことになるとか言ってたけど、多分こういうアクセサリーでこっちの手を封じてくるんだろうなぁ・・・・
何て考えていると何か別の切り札を手に入れたくてうずうずするが、中々いい手は思いつかない。
むしろこっちが火精の耐性取ればいいのか?
そんな事を考えながらうろうろしていると
急に肩を叩かれる。
ちょっと本気で驚いたが、殺気は無いので大丈夫。
振り向けば【商人】の子とお姉さん風のマリー?だったかの二人組み。
「お店見て回ってたけど探し物?前はうちで何も買わなかったけど、探してるものがあるならこの辺りの生産職には知り合いも多いし、紹介するよ?」
相変わらず物怖じしないと言うか、ストレートと言うか、いきなりフレンドリー。
「久しぶり、少しぶらぶらとスキル付のアクセサリー探してただけなんだけど」
「ああ~スキルだと流石に人に軽々しく言うもんじゃないもんね」
「いや、別にいいんだけどさ。とりあえず<分析>が眼鏡しかなくて絶望したところ」
「ああ~変わり者の【陶芸家】のあれか~」
「【陶芸家】なんだから焼き物なのはしょうがないんだけどさ」
「それで他には?何か欲しいものとかあるの?」
「こら!カーチ!自分で言っておいて、他人のスキル聞くようなことしないの!」
「あっそっかごめんね」
「いや、別に気にしてないけど」
「そうねぇ、以前色々聞いちゃったし、スキル付アクセ専門で作ってる職人紹介するわ。本来なら私達が間に入って取引してるんだけど、今回は特別ってことで」
「【商人】なんだからそりゃまずいでしょう。『利は元にあり』仕入先ばらすなんて良くないよ。個人情報漏らさないなら、オーダーメイドって形でどう?」
「ええっと・・・・そうね。いいわ、守秘義務はまもるわ。必ず」
「んじゃあ、<言語><跳躍><分析><掴み><疾走><登攀><採集><ダガー><威圧><統法>この中で出来そうなやつ」
「いや、そんなあっさり言われても、口約束で」
「まあ、なんだかんだ言ってもこの辺りのスキルがばれたから不利になるとか別にないし」
「でも、聞いたこと無いスキルも混ざってるんだけど?」
「それに関しては忘れてくれれば良いよ。多分<統法>辺りだろうけど、自分が<指揮>関連使えるのはこの前の集団戦イベントでほぼばれてる様なものだし」
「え?イベントって・・・・あっそのコート!この国に来たばかりの時は着てなかったから気がつかなかったけど!まさか!ぼっち将軍」
「こら!また失礼なこと言って!」
「なんかそのあだ名、妙に定着してるのね。まあ、いいけども」
「ごめんなさいね、正直なところあまり人気の無いスキルか、聞いたこと無いスキルか、アクセサリーとしては見たこと無い物がほとんどね。
<採集>はそれこそ『採集ナイフ』とか『伐採斧』とかそういうシリーズが売ってるわよ。攻撃力がほとんど無い代わりに<採集>の装備スキルがついてるやつ。NPCが普通に売ってるわ。
生産職系のクエストをクリアすると素材収集効率が良くなる上位のシリーズも手に入るし。
普通はクエストって不人気だけど、それに関しては必要経費と割り切って何度も受ける人がいる位」
「そうなると採集ナイフだけは買っておいてもいいか、元々ここ最近は魔鋼ダガーとプギオの二本持ちだったし。
でも、それ位かぁ。装備スキル関連は絶望的か」
「<掴み>なら【闘士】に使い手もいるから、ブレスレット辺りは作ってもらえるかもしれないわね。
ただし、今は手袋だけだからいいけど、籠手なんかを装備するようになったら、腕輪は干渉するわよ。
本当は<跳躍>ならアンクレットって言う手もあるんだけど、長靴は干渉するのよね」
「付けられるスキルによって部位って決まってるんだ?」
「ある程度ね、絶対って言うわけではないわ。
候補が2箇所以上ある場合もあるし、指輪だけで対応できちゃう場合もあるし、その辺りはまだ一定のルールが明かされて無くて、生産職のトライアンドエラーの繰り返しよ。
付加する魔物の素材の影響って言うのが一番の多数意見ね」
「じゃあ、きっと<跳躍>は足の部分を<分析>は目の部分を<付加術>用の素材にしてるとかそういうことか」
「現状ではそうね。そういうパターンが多いわ」
「あっ二の腕に付けるバングルって、何か干渉する?」
「二の腕も守るタイプの大きめサイズの肩当とか、小手から二の腕まで全部守るタイプの小手とかかしら。コートを着る場合はその上から装備できないといけないから、サイズ調整は必要かもしれないけど」
「意外とルールが細かいなぁ。まあ『装備欄に装備しました』なゲームじゃないしな。実際に付けられなきゃアウトですよと」
「サイズ調整は利くんだけどね。プレイヤーに関しては最初のアバター作成時からしてある程度のサイズ制限があるし、後は生産職に持ち込めば基本的にサイズ調整だけは特に失敗も特殊な素材も必要ないから」
「じゃあ採集ナイフ、できればダガーサイズの物と<掴み>の腕輪を注文したいんだけど」
「いいわ。任せてちょうだい」
「まいどありー!」
っと大事なこと忘れてた。
「あ、支払いはどうする?」
「どこか、お金預けてある拠点はあるかしら?<取引>のスキルを使用してそこから代金を引き落とすように契約できるわよ」
「じゃあ、サンハッカーの【営業所】でお願いします。【帝国】から持って来たお酒を捌いた代金を預かってもらってるはずだから、お手数ですけど」
「別にそれ位は問題ないわよ【鉱国】は私達の拠点だし、じゃあコレ契約書ね。値段と受け渡し方法確認して、下の空白の所に左手の甲を押し当ててちょうだい。はい、O.K.コレで契約完了ね」
なにやら、紙を出して、あっという間に書き上げて渡されたが、内容はいたってシンプル、何をいつまでにいくつ、いくらで、何処に、その程度だった。
甲は乙のうんじゃかむんじゃかみたいな契約書だったらどうしようかと思ったが杞憂だった。
言われたとおり手の甲を当てれば、不思議と薄い蛍光緑色を発してる。拇印みたいな物なのか?
まあ、いいか。流石にゲームでえげつない詐欺とかは無いだろう。
「じゃあ、よろしく」
「ええ、それじゃあ、また会いましょう」
「じゃーねー!今度は良い物仕入れておくよ!」
【商人】二人組に会えたおかげで、若干スキル事情は改善しそうだ。