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100.その頃の円卓

 「ふぅ、試合も終盤で切り札を切ってきましたか」


 砦の入り口に氷塊が現れ青騎士と青の隊が中に囚われた状態で動きが停止している。

 対応する状態異常回復の術が不明故に自分と自分の隊の者で色々と試してみるも今のところ反応は無し。


 そして隙間から続々と進入してくる敵兵。

 すでにこちらの主部隊は壊滅状態。

 元々、門を抜かせるつもりすらなかった。

 想定外の被害ではあるが、一概に劣勢とも言えない。

 

 なぜなら、向かいの砦には既に赤騎士が到着している。

 砦の守備に回っていた弓兵は黒の隊がほとんど片付けているようだし、偵察兵は白の隊との衝突でかなり減っている筈。

 後は黒騎士を倒した敵指揮官の戦闘力如何だが、黒騎士が戦闘不能になった後も黒の隊がフォローに入っているようだ。

 そして何より赤騎士も戦闘力なら有数のプレイヤーである。

 そうそう負けることは無いだろう。


 なれば今一時、時間を稼ぐ事に集中すれば、勝利は揺るがないだろう。


 流石は最終戦、思わぬダークホースの出現。

 他会場でこの戦いを見ている観客はさぞ盛り上がっているだろうが、コレで決める。

 

 なぜなら、こちらも切り札を残している。

 

 副官に雇用したNPCに話しかける。


 「ピエール!私とこの場を守り、今一時の時間を稼ぎますよ。それで十分勝てるでしょう」


 「は!畏まりました」


 んぁぁぁん!ピッエール!物凄い凛々しい!!

 まさか、このゲームでピエールに出会えるなんて奇跡でしかない!

 

 そもそも私がゲーム自体をする様になったきっかけは子供の頃に友達に貸してもらった乙女ゲー。

 全く売れなかった無名のゲームだが、クソゲーマニアの友達に半分押し付けられたように貸してもらい

 何故かはまり込んでしまった。

 言ってしまうなれば、私の初恋はピエールと言っても過言ではない。


 このゲームでピエールを見つけたのは本当に偶然。

 しかも容姿、名前、声まで同じ。

 まさかと思って制作スタッフを確認したところ、まさかあのゲームのスタッフが関わっているなんて・・・・


 しかもこのピエールはフキダシでストーリーにしたがってしゃべるだけじゃない。

 ちゃんと会話が出来る。

 ピエールと過ごす為に【王国】に移籍したと言って過言ではないと言うより、それが事実だ。

 ピエールと一緒に出来るクエストをこつこつと重ねてきたことは言うまでも無い。

 そして気がついたら、聖騎士。

 でも、そんな事よりもピエールが私の従騎士になってくれたことの方が、よっぽど重要!

 いずれは、ピエールも騎士になってしまうのだろうけど、騎士になりたいって言う夢が、あのゲーム以来やっと叶うなら全力で応援する!


 「敵が来たようです。使用します『我、騎士の十戒を胸に退却を拒否し、不屈の・・・・』」


 切り札発動のキーワードと共に発光が強くなっていくピエール

 凛々しい上に荘厳すぎる!

 今は背中しか見えていないが、それが逆に素敵過ぎる!この背中についていきたい!


 そして切り札発動の瞬間、エフェクトが切れ、発光が止まってしまう。


 「え?・・・・」


 何事かとあっけに取られていると


 突然ピエールの背中から槍が生える。


 一本、二本、三本、四本・・・・そして、そのまま宙に浮いたかと思うと光の粒子になって消えた。


 どこの街にもいそうな無個性の衛兵達が、槍を宙に掲げていた。

 そして、槍を下ろすと同時に自分の隊の者達に槍を突き込んでいく。

 いくら支援術士とは言え、プレイヤーが一方的に串刺しにされめった刺しにされて倒れていく。 


 次は自分の番かと身構えれば、正面に槍を持った鬼がいる。

 異様な形相で、こちらに迫ってくる。


 無個性の雑兵とは明らかに違う、その槍兵の槍捌きを辛うじて避け、立て続けの攻撃を杖でブロックし、体勢を整えてはギリギリでクリーンヒットだけは避ける。


 しかし、とうとう捕まり、お腹にドスッと思い切り突き込まれる。


 こんな状況だが、この大会NPCはプレイヤーの2倍の数まで雇えるって言うルール、バランスがちょっとおかしいんじゃ無いかとそんな不満が頭をよぎると


 突然、日が遮られる。


 上を向けば、他の兵達より頭一個抜けた巨体の鬼が、無骨な鈍器を振り下ろしてくる。


 そして、そこで意識が途切れる。

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 「おおい、金よ。姉さんよ。嬢さんよ」


 「聞こえています」


 「ああ、そうか。ボーっとしてるからまたあの大会の時のこと思い出してるのかと思ったぜ」


 大会の事は未だに多くの者の記憶にそれぞれの形で残っている。

 特に王国騎士達にとってはほぼ間違いなく優勝と見えるイベントだったが故になおさら苦い記憶として残っている。

 

 「で、今回の会議の議題だが、やっぱりアレか?メンバー流出の件か?」


 「やはり、目下の一番の問題と言えば、それですね」


 最強と呼ばれたクランも最近では縮小傾向である。

 それこそ、新規プレイヤーは増えている筈なのにである。


 「やっぱりバルト・ロメオの所で騎士が誕生したのが痛いか、ここ最近で2人もだからな。

 いくら毎日みっちり8時間プレイする廃人勢の二人とは言え、良い傾向じゃないよな」


 「ええ、しかも誰でもある程度の時間プレイすれば騎士になれる方法を公開する始末」


 「あれだろ?『ちゃんと【兵士】の任務をこなしましょう』それで強くなれれば世話がねぇ」


 「しかし、本当の所を知っていてあえてぼかしているのじゃないかと勘繰るのが人のさがと言うものです。例えば攻略が楽になるキークエストが存在するのでは無いかと」


 「なるほど、白はそう考えますか。私の集めた情報によると例の二人のプレイヤーはいずれも複数人を連れて騎士クエストのボス戦に挑んだとのことです」


 「いや、待てよ!うちで何度検証してもプレイヤーが2人以上いる状態で、あの場所に行ってもクエストが進まないって結論が出ただろう?」


 「確かにそれは赤の言う通りなのですが。もう少し情報を集める必要がありますか」


 「むしろ、その情報を鵜呑みにしてクエストやってる奴がいるか調べたほうがいいんじゃないか?」


 「『嵐の岬』のメンバーが複数名【王国】の【兵舎】を頻繁に出入りしているようです」


 「ブラフですかね?先の情報が真実であるかのように偽装しているとか」


 「いや、そこまでやるか?」


 「まあ、いずれにしても情報を集めなければこれ以上進めませんか」


 「そうですね。

 それよりもただ、強さだけを追い求めて抜けていく志の低い者等のことより、今も残って秩序を守る為活動してくれるクランメンバーの事を優先しましょう」


 「志って言ってもな、俺も元々は強さを求めて、じいさんに会いに来た所からだしな?ゲームで強さを求めても別に良いんじゃないかって思うんだが」


 「しかし、力はどう振るうかその基準や方向性をしっかり決めておくべきです。

 自分がこのクランに参加した理由は偶然マスターに初心者狩りから助けてもらったことが切っ掛けですので、その初心を忘れる気はありません」


 「金はどうなんだ?」


 「私は別に。

 いずれにしてもメンバー流出に関しては今は小康状態です。

 『嵐の岬』では逆に急なメンバー流入に伴いある程度入会にハードルを設けることにしたようですから」


 「じゃあ、会議の議題にしなくても良かったんじゃないか?」


 「それでも、今の内に打てる手を考えておかねばならないということですか。しかし、もし強さが基準となると士気コントロールで今まで優位に立っていたユニオンボス狩りすら危うくなってきますからね」


 「それに関しては既に手遅れですね。二人の騎士は言うまでも無く、アンデルセンが何か掴んだようですし、さらにあの噂『すでにレギオンボスを狩ってる者がいる』はかなり信憑性が高い」


 「復活アイテムか・・・・使い勝手は今一らしいが、旗印としてはヤバイな。何せ現状唯一の復活アイテムだ。

 もはや横並びどころか、下回っちまったなぁ。

 それこそクエストやってみるくらいしか、思いつかねぇぜ」


 「逆にそれはそれでありかも知れません。我々騎士の切り札『騎士の誓い』にはどうしたって定期的な任務消化が必要になるのです。いっそ片っ端からクエスト消化すれば、何か切っ掛けが見つかるかもしれませんよ。

 まあ、私としてはやはり秩序を守って皆で楽しくゲームをしようと言う気概と志で繋がった方が、よっぽど良いと思いますが」


 「いや、別に俺もそれは否定してないからな。ただ、他所でできるなら俺たちにも出来るはずだし、負けたくねぇってだけさ」

 

 「ところで、マスターと青は?」


 「じいさんはいつも通りそこらで、誰もやらないようなフリークエストでもしてるんじゃないか?弱者を助けてこその騎士だからな。あの人は本気で騎士ロールやってるからな。

 青はそれこそ任務消化だ。最低限消化するにしても忘れると困ったことになるからな」


 「それでは当面はクエストを中心にこなしていくと言うことでよろしいですか?」


 「いや、本気か?」と赤騎士


 「まあ、出来る範囲でと言うことにしておきましょうか」と白騎士


 「そうですか?私は一向に構いませんが、二人に強制することもしません」と金騎士


 そうして、円卓会議は進む。


 ちなみに黒は参加しているが、発言はしない。

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