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ラグナロク・ジェネシス  作者: 野兎熾音
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2話 《セカンド・フロンティア・プロジェクト》

毎度のこと遅れてすみません。

<B.A.0123/5/7/0900>

——2123年、世界を取り巻く国際情勢は、大きな変化を遂げていた。

まず、アジアにおいて自国領拡大の動きを見せていた中国は、南はタイやインドネシア、西はインドやサウジアラビアまで広い範囲を併合し、新たな皇帝を立てて「新中華大帝国」の名を冠する広大な国を作り上げた。そしてそれに乗じてロシアもウクライナやポーランドまで支配域を広げ、北朝鮮などの社会主義国家が中心となり《赤旗共和同盟》を締結する。

しばらくして《赤旗》側が他国に軍事圧力をかけてくると、その動きをいち早く察知した日本は緊急事態宣言を発令し、韓国やアメリカなどに協力を要請した。

それがきっかけとなり、資本主義国家中心の団体は現・国際連合の発展型である《国際連邦》を編成し、かつての冷戦のような極度の緊張が 《赤旗》対《連邦》の関係の中に見られるようになった。

また《連邦》は《赤旗》の軍事力に対応するため、《国際連邦多国籍軍》、通称《UFF》を組織し、各国に軍事力などの提供を訴えた。

そこで表立った活動のできない日本は、前々から研究・開発を進めていたナノテクノロジー、ことに量子分野の最先端技術の軍事的な転用を決定したのだ。

政府高官による幾度もの慎重な議論の末に出た結論は、実に驚くべきものだった。

「個々が優れた機動性及び従来の兵器を超える火力を有し、即時的発動が可能なものの開発」——つまりは動く超兵器がその場で作れる技術の開発に尽力する、というのである。

当時現状では殆ど不可能だと考えられていたこの計画を、国は直接管理下、また徹底した秘密主義のもとで推し進めていたという。

民衆に対しては一切の情報公開はなく、関係者でさえも重鎮、具体的には各省大臣級の幹部にしかその詳細は公開しなかったらしい。

そして研究の中核をなす兵器開発実験——それもまた国民の認識の完全な範囲外で行うため、仮想世界上においてのみ行われている。

あれから約一時間。

少女が話したことは、このような、俺の想像の及ぶところを遥かに超えたものだった。新たな事実——それも俺の知る範囲ではほとんど不可能に近いと聞いたことばかりが出てくる話に、俺は今でも全てを受け入れられていないというのが本音だ。

「で、その《計画》と俺の今のこの状況には一体どんな関係があるんだ?」

俺は思考を整理しつつ、疑問を彼女に投げかける。

「——あなたは、その《計画》の一つである実験の被験者として集められた人員、その約一万人の内の一人なのです。」

「いやいやちょっと待て!おかしいだろ。

なんで兵器開発のために本物の人間を使うんだよ?普通はAIとか、そういう代替案が取られるんじゃないのか?」

「確かに、当初は人道的配慮に基づきそのような案が挙げられていました。しかし、これから私達が相手にしようとしているのはあの《赤旗》です。あれが『資本主義に与する社会の腐敗の更生』の下で引き起こしてきた惨事を知っていますよね?」

「ああ、『ロサ・ガルシア事件』だろ?」

2023年1月12日、イタリア郊外にあるロサ・ガルシアの市街地において、《赤旗》側のゲリラ部隊と《UFF》との戦闘があり、現地市民約一千人がその犠牲になった、《赤旗》初の武力紛争のことだ。そこではまた、《赤旗》側の後ろ盾らしきいくつかの組織から連邦に対してのサイバー攻撃の兆候および痕跡も見られたらしい。そこから考えても、向こう側がこちらと同等のITテクノロジーを有しているのは明らかだ。もしかするとAIをジャックしてくることもあり得るかもしれない。

「はい、あれを見ても分かると思いますが、向こうはどんな非人道的なことでも、世界の覇権を握るためには厭わないのです。そのような人々を相手にする上で、私達に求められるのはより実戦に即した想定です。そのために国は仮想世界の中で人々に戦闘をさせてデータを取る上でいちばん適しているのが、外部刺激に対する反応が大きく、かつその受容が早い思春期の青年、ことに高校生が重点的に集められているということです。」

「つまり、今俺がいるのは——」

「——そう、国によって造られた実験用の仮想世界、《トライアル・フィールド》の中です。」

確かに仮想世界中であれば行われていることの隠蔽は楽にできるかもしれない。

「君はさっき、この世界にいる、いや、『縛られて』いるのは約一万人って言ってたな?」

「はい、そうです。」

「でも、その規模で高校生がいなくなれば、流石にニュースとかでそれが露見するんじゃないか?」

過去に地震なども含めて人が一万人規模で消えた事例は大抵大スクープになっていたはずだ。

「相手は国です。一国全体の組織ともなれば、どのような手を使って来るかわかりませんよ?

——あの《赤旗》のように。」

しかしそれでは、やっている事があちら側と同じだ。非人道を止めるために非人道を行うのでは、根本的解決にはならない。

「悪を制するためには多少の犠牲は仕方ない、現実はそのような矛盾を抱えているのかも知れません。」

俺の思考を見透かしたかのように、彼女は言った。

「とにかく、この実験は量子から、又は物質を量子レベルまで分解した上で、原子、そして目的の物質を作り出す技術である《量子錬成》を用いた《量子錬成型対戦闘用装備》、通称《QCA》を完成させるため一連の計画の一部です。」

彼女はどこか悲しげな顔をしながら俺に手を差し伸べる。

「セツナさん、ようこそ——

《セカンド・フロンティア・プロジェクト》へ。」

ここに書いてあるのはあくまでフィクションです。(笑)

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