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ラグナロク・ジェネシス  作者: 野兎熾音
3/5

0話 失われた記憶

「—強く、強く、生き抜くのよ。

あなたは、この世界を救える唯一の希望。

新世の統率者(ネオ・レグナント)》なんだから—」

少年の手を取り、白衣を纏った少女が言う。

少年は大粒の涙をこぼしながら、何かを叫んだ。

その瞳に映る少女が、爆炎に包まれる。

その手の中のかけがえのないものを失った少年は、その場にくずおれた。

白衣の少年が何かを呟き、空を見上げる。

その目が、建物の残骸の上—黒衣の少年を捉える。

食いしばられた歯の間から、言葉が漏れ出る。

「許、さない……」

その赤い双眸には、意志が宿っていた。

絶対的な権力を持った何かを壊そうという、強い意志が。

そうする事で、親しいものの死に報いようとする意志が。

しかし。

やがて、その痛ましい記憶も。

報復の強い意志も、消えてしまう。

消されてしまう。

そしてその事を、少年が悟る術は無かった—


黒衣に身を包んだ少年が、瓦礫の上から一組の少年少女を見下ろしていた。

「うああああああーッ‼︎‼︎‼︎‼︎」

辺り一帯、半壊した研究所の敷地内に響き渡る叫び声を聞いても、少年の表情が変わる事は無かった。

「…あんな事、して良かったの…?」

感情を押し殺したように、隣の少女が尋ねる。

「ああ、これで良かったんだ。『種子』の成長には芽吹きが不可欠で、それには多少の刺激が無ければならない」

そう言う少年の声にもまた、一切の感情は無かった。

「許、さない……」

下方から憎悪に溢れた声が聞こえてくる。

それが耳に届いた瞬間、黒衣の少年はかすかに顔を歪めた。

しかし、まるでそれを隠すかの様に、黒衣の少年は背を向け、建物の中に消える。

残されたのは、少女ただ一人だけになった。

少年を見下ろす彼女の目は、どこか哀しげだった。

しばらく経ってから、彼女は背を向け、そこを後にする。

呟きを、一言だけ残して。

「生きて—

私の、大切な人。」


こうして、少年少女達は、すれ違う。

それぞれの想いを、その胸の内に抱えて。

白衣の少年は—復讐。

黒衣の少年は—自責。

やがて、白衣の少年は、立ち上がる。

黒衣の少年は、立ち止まる。

「……ッ!」

そして、二人の少年達は、それぞれの道へと歩み始めた。

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