プロローグⅠ 銀翼の少年たち
初投稿です。よろしくお願いします!
第三次世界大戦—またの名を《終焉の大戦》。
当時禁じられていた核の軍事的運用化とともに、世界各国が開発した様々な技術が飛び交った彼の大戦は、全世界にその深い爪痕を残した。
日本においてもそれは例外ではなく、ごく平凡な男子高校生である俺、芹澤刹那が住むこの地・東京都九十九区も甚大な被害を受けていた。
あれから半年。
日本全国は凄まじいまでのスピードで復興を遂げ、この九十九地区に至っては大戦があったのかすら分からないほどの回復ぶりだ。
街にはかつてのようにマンションやショッピングモールなどが並んでおり、また国の研究機関の施設なども元に戻ってきたため、以前のような研究学園都市といった雰囲気も復活しつつある。
俺たちが身を置く国立高校であるこの聖陵学園も、その雰囲気を助長する大きな役割を担っており、最近設立されたためか、その近代的なデザインが特徴的だ。しかし、何よりも大きな特徴は、この学園が学費無料、全寮制に三食付きで、かつ月に一定額のお金まで自由に使えてしまう事だろう。
「おーい!」
唐突に響いた声に目を向けると、艶やかな亜麻色の長髪が、朝日を反射して眩しく煌めく。
ドイツ人である彼女の名前はニール・ハプスブルク。かつてヨーロッパ全土を広く治めた王家であり、ドイツ王ルドルフ1世をその祖とするハプスブルク家分家の長女という名門中の名門の令嬢だ。
「おはよ、刹那。じゃあ行こっか。」
そういってにっこり笑い、彼女は俺の隣に並んで歩き始める。
「あ、そうだ。」
「ん、どうした?」
彼女が突如俺の方を向く。
その瞳は青く澄んでおり、見ているだけで吸い込まれそうだ。
「えっとね、」
「あーっ!お兄ちゃん、見つけたっ!」
—天からいきなり声が降ってきた。
俺は、この声の主に深く覚えがある。
上を向くと、五階建ての寮の三階から身を乗り出し、俺たちに手を振っている赤髪の女の子—俺の妹、悠亜だ。
「ちょっと待ってて!すぐ行くから。」
「分かった。」
俺は悠亜の声に手を振りながら応じる。
この広い敷地を持つ学園において寮は学内にあり、男女別制になっている。男子寮と女子寮の間に距離がある上に、寮から校舎までもまたかなり距離があるため、学内でありながら同時に「登校」という雰囲気を味わう事もできるのだ。その敷地の総面積は東京ドーム約40個分とも言われており、それだけの広大な敷地もこの学園ならではの魅力だ。
「お待たせっ、おにーいちゃん。」
学校の支度を済ませた悠亜か階段からぴょん、と跳ねて俺のすぐ傍に着地する。( その際アクティブさ故にスカートが際どいところまでめくれ上がっていた事は、彼女には言わないでおこう。断じて見えなかった、ピンク色のアレなんて物は!)
「お、おはようございます、刹那さん。」
その後ろから内気そうな女の子がぴょこっと顔を出す。
彼女は茅野由希。俺たちの大切な仲間の一人だ。
「—それで、刹那、はいこれ。」
ニールから手渡されたのは、編み上げのバスケットだった。
「まさか、これは…」
「ご察しの通り、お待ちかねのお弁当です!じゃじゃーん!」
「よしキタっ!」
このニールの手作りのお弁当は、俺の生きがいのうちの重要な一つになっているほど、美味しい。
「やるなぁー、ニールさん。」
「胃袋掴んでますね、ニールさん…」
「男の心は胃袋から、とか言うもんね。」
「わ、私もお料理頑張らないと…」
悠亜たちがひそひそと話しているような気がしたが、何を言っているのかは分からなかった。
すると、ニールが二人に向かって、ニコリ、と笑う。
「中に二人の分まで入ってるから、昼にみんなで分けよう。」
「え、いいの?」
「わ、私たちも、本当にいいんですか…?」
ニールの提案に、二人は目を輝かせた。
「刹那さんだけでなく、他の周りの人にまで気を配るなんて…さすが、ニールさんです。」
「うん、抜かりないね、ホントに…」
「わ、私たちも、頑張らないと…」
「うん、そうだね…」
またすぐささやき合いに戻った二人だが、なんだか空気が重くなっている気がする。
「ど、どうした、二人とも…」
声を掛けると、二人が顔を上げた—半泣きだった。
「え、ええ⁉︎」
「う、ううん、なんでもないよ、お兄ちゃん…」
「は、はい、気にしなくていいですから…」
「お、おう、それなら良いけど…」
俺は何か引っかかるものを感じながら、視線を前に戻す。
すると、左隣—悠亜たちから、ぽそりと呟きが聞こえた。
「負けた…」
「はい、完敗です…」
—何に負けたんだろうか。
—校門前。
校舎の周りの桜の木は、満開だった。
春だ。
「あの時以来、ですね…」
由希が呟く。
「ああ、そうだな」
俺と同じ感慨を抱いているらしい悠亜とニールも頷いた。
俺もまともな桜を見るのは、大戦前、あの世界に囚われて以来だ。
ふと、隣を見る。
亜麻色の髪の少女、その胸元につけられた白銀の徽章が、陽の光を反射してきらりと輝く。
《銀翼の軍事勲章》。
世界中で歴史を変えるほどの大きな軍事的貢献をした者に与えられる、軍事勲章の最高峰である。
俺たち5人を含めた計12人—《十二使徒》と称される者たち全員の胸元には、この徽章が付いている。
校舎に目を戻す。
この学校の設立目的—それは、戦時中、戦争のただ中に居た子供達の保護だ。
そして、あの戦争—《終焉の大戦》を終結に導いたのは、主に俺たち《十二使徒》だった。
これは、そんな俺—芹澤刹那たちの、物語である。
後から色々と設定だったりを載せる予定なのでよろしくです。更新不定期になるかも。すみません。