王様、問題が増える
翌朝、俺達は出発の準備をし移動する。
俺の後ろを付いてくるリズエリーテは、地下に降りる階段を前に首を傾げた。
「クロウ、外に行くのではないのですか?地下に何か用事でもあるのですか?」
不安は無さそうだか、地下に行く理由がわからず戸惑っているリズエリーテを見て説明した。
「ああ、失念してました。
すみません、この地下には、転移扉があり、その扉を使えば私の住む町の関所の近くに出れるのですよ」
にっこりとリズエリーテに微笑んだのだが、何故かそわそわと落ち着かなくなるリズエリーテは、俺から目を逸らし地下の奥を見て話しだした。
地味にショックだ、結構顔だけは自信があったのだが、リズエリーテには不評の様だ。
「そうなのですか、そんな魔道具があるのですか?凄いですね」
「黙っていてすみません」
謝る俺に慌てて、大丈夫ですと答えたリズエリーテ。
そして俺は、リズエリーテに手を差し出しエスコートし階段を降りていった。
差し出した手を拒否されなくて良かった。
そして、転移扉の間へ着いた俺達。
「これが転移扉ですか?」
「ええ、普通の部屋の扉に見えるでしょう」
そう言って俺は、扉に手を掛け開けると、そこには草原が広がっていた。
「お先にどうぞ」とリズエリーテを先に通した。
扉を抜けたリズエリーテは、周りを見渡した。
そこは、少し小高くなっており、草原が広がっている。そこから見下ろした先に町の城壁が見えており、リズエリーテは抜けるような青い空を見上げ、気持ちのよい風を受けるように、手を広げて大きく息を吸っていた。
リズエリーテの自然な行動を微笑ましく思いながら、パタンと扉を閉めると、リズエリーテははっとして、ちょっと恥ずかしそうに俺の方を見た。
何だ?と首を傾げリズエリーテを見ると。
「わたくしは今までこのような素晴らしい場所に来たことがないので、恥ずかしながらはしゃいでしてしまいました」
「それは良かった、リズはこれからは回りの事は気にせず、素直に感情表現をしていいんだと思いますよ」
少し回りを見る余裕が出てきたリズエリーテに、俺もちょっと浮き足だつ、そしてさあ行きましょうとリズエリーテの手を繋いで歩きだした。
関所に着くまでの少しの間に、リズエリーテは俺にあの動物は、あの花は何と質問をした。
その変化に俺は嬉しくて、微笑みながら答えていた。
リズエリーテが、少し生きる事に前向きになりつつあることにほっとし、リズエリーテ自身がやりたい事を、見つけてあげたいと思っていた。
****
関所に着いた俺達は、俺の持つ身分証明書である冒険者プレートを、見せるだけで通過出来た。
まあ、マリオが通達してたから、当たり前なんだが、役人が俺に緊張したのか、ぎこちなかったが、リズエリーテも緊張していたようで、気がつかなかった事にほっとした。
そして、街に入ったが手を繋いだまま歩いていのだが、その間リズエリーテは何か考えているようだった。
何を考えているのか、気になるなと思ったとき、クンと後ろに引かれたので、振り返りリズエリーテを見た。
リズエリーテがにこにこしながら俺を見上げ言った。
「クロウは、やっぱりとても有名な冒険者なのですね、信用があるから、わたくしは何も尋問されなかったのではないですか?」
そう言ってリズエリーテは、当たりましたでしょうと、ちょっと得意気な顔して見上げられた。
その勝ち気に可愛らしく見上げられて、ドキンとした俺、動揺してるのか?と自分に驚くが、その動揺を隠して首を振る。
「いえいえ違いますよ、結構な回数を関所を往き来して、お世話になってますからね、だからだと思いますよ」と誤魔化した。
少し残念ですっていった表情になり、しょんぼりしたリズエリーテに、焦って抱き寄せようとしてしまいそうになり、その衝動をすうと息を吸って落ち着かせ、そうそうと別の話を切だした。
「まずはリズの当面の生活必需品を買いましょう、そして、私の家に行きましょう、それから今後の事を話しましょうか」
****
買い物が終った俺達は、家へと帰ってきた。
まあ、この家も急遽マリオの指示により、偽装工作部隊が借りた。
そしてずっと住んでますよって風仕様にしたのだが、俺は、その偽装ぶりに感嘆しながらも、さも自分家ですという風にリズエリーテを家に招いて、リズエリーテの部屋へと案内し荷物を運んだ。
そしてリズエリーテの荷物を運び終わり、女性の個室に余り長居するのもなと思い、部屋を出ようとした時、リズエリーテが俺に向かって頭を下げた。
「クロウ、仕方ないとはわかっているのですが、費用をクロウに支払って貰ったことが申し訳なくて、それに、寝泊まりする場所も、ありがとうございます」
「リズが頭を下げる必要はありませんよ」
俺はそう言ったが、リズエリーテの申し訳なさそうな顔を見て、一つ提案をした。
「では、費用については出世払いにしますので、いつか返して下さいね。それでしたら、リズも気に病むことないでしょう、だから、リズのやりたい仕事を考えてみて下さいね」
そう言ってリズエリーテの頭をヨシヨシと軽く撫で、微笑む、そして荷物の整理をし終わったらリビングに来るように言い残し、部屋を出て行った。
*****
リズエリーテの部屋から出て台所へ向かった俺。
台所で紅茶の用意し、今日の事を思い出していた。
リズエリーテに表情や感情が出てきて、回りを見る余裕も出て、よく話すようになった。
少し生きる気力が戻って来たようだった。
それを良かったと俺は微笑んだ、そして念話でマリオに連絡する。
(マリオ、家に着いたぞ、何か動きはあるか?)
(陛下、無事にリズエリーテ嬢をお連れ出来て良かったです、思ったよりも上手くリズエリーテ嬢のエスコート出来てるよう安心しました。
それでビッチ達愉快な仲間達ですが、何を思ったか勇者召喚を、愉快な仲間達が行いました、それをビッチが止めようとしたのですが、止められなかった様です)
それを聞いた俺は思わず叫んだ。
「なんだぁ!それは?!今度は勇者召喚だと!?なんだよ!?違うラノベ話ぶっ混んでくんじゃねえよ!」
はあはあと息をあらげ、思わず声を出して叫んでしまう叫ばずには居られなかった。
ただでさえビッチ対応で、頭を悩ませているのに、ここで新たなラノベ話とか要らんわと思って動揺してしまった。
ちゃんと消音魔法で、回りに聞かれないようにし、リズが部屋から出たら判るようにしていてよかった。
だからこの俺の動揺は、マリオだけしか知らない。
俺が落ち着いたのを見計らったようにマリオが、引き続き話し出した。
(理由は、元はビッチですね、何故かビッチが追い込んで、リズエリーテ嬢を闇の森に放り出したのに、ビッチがリズエリーテ嬢が魔王に拷問されていると言い出し、助けたいと言い出したのが発端ですね、意味不明ですね)
(全く!なんだよそれ、リズの処刑確認はダリア王国の部隊がしたんじゃないのか?)
(そうなんですがね、こちらの偽装工作は完璧なはずなのですが....、なんでもビッチが聖女だったとの事で、夢の中で女神様のお告げを聞いたとのことです、それをバカ皇太子が、否定も出来ず、かといって自分達で行くのも躊躇われ、騎士団も動かせないで、あっそうだ勇者を召喚しようと思ったようです)
あまりの話に目頭を指で揉んだ。
(なんて軽い、それ、対応しないと駄目か?)
(リズエリーテ嬢に関わる事ですからね)
(そうだよな...)
そして、気を取り直し腕を組んで考えた。
(ビッチは召喚を止めようとしてたんだよな、それは、乙女ゲームの続編が在って、そんなシナリオはないからじゃねえか)
(魔王様、先程の乙女ゲーム、ラノベとかって何です?)
(俺を魔王と呼ぶな!どっちかと言えばお前の方が魔王だろが!で、前に俺が、異世界旅行に行った時の土産話してやっただろうが!)
(ああ、あれですか、すみません、今後の役に立ちそうに無かったので、聞き流してました)
(お前なぁ!仮にも(で、その知識があるクロウフォード魔王陛下は、どうすべきだとお思いなんですか?))
また言葉が遮られた。
がっくりと肩を落とし、ああいいさ慣れたさと、ははと力なく笑い、少しだけ立ち直り念話した。
(取りあえず、魔王陛下は止めろ。引き続きビッチ達の動向と、召喚された勇者の動向も監視だ、だが召喚勇者の強さは侮れない、より注意して監視するように通達だ、まだ暫くは此方に攻めて来ることは無いだろう)
(承知いたしました、ではクロウフォード陛下は、リズエリーテ嬢の事頼みますよ)
(だから、お前なぁ(ああ、それと海王様が遊びに行くと、此方が止める間も無く言って、城を出て行かれましたので、そちらに顔を出すかもしれませんね、よろしくお願い致します))
最後にとんだ面倒臭い事を言い逃げしていったマリオの言葉に、面倒臭いと崩れ落ちた俺だった。