2稿目 跳ね返りバトル
湖那チヨリ・双樹サライの二人組漫画家ユニット『リファインダー』。
ここ瀬野沢市西区に在住の漫画家で食べていける収入でまだまだ5年目だが、この環境では居やすい部屋らしく引越しはまだしなくて大丈夫なくらいだ。執筆業歴22年だが、その間は14回も引越ししてきたユニットだ。
すぐに出ていくだけの年収稼げる名の知れた漫画家ユニットで良かったのだ。
今から思えば、編集部との衝突や信頼をなくしたりと挫折を繰り返したり、作者間の土壇場バトルがあるのも生活の1ピースに過ぎなかった。
東藍社。東京藍花出版社を略した現代の社名だ。東京都千代田区にある大手出版社。大手ベスト3をキープする企業で、時にはライバル社を追い越す実力派。
株式市場もそこそこで、その歴史は150年の老舗出版社。
大正元年前後設立。こんな老舗の大手に属してフリーに流されずに、漫画界の神のT先生の憧れも多少は影響を受けた歴代の漫画家にも入るその漫画家ユニット……『リファインダー』。
こないだ行列が出来る店先で出会った2人組、近藤武幸と岡山友貞の青年。武幸は物流業アシスタントマネージメントの管理者の一人だが、まだ新米であり担当の倉庫では、補佐役についたばかり。繋ぎ服を着るのもまだ慣れてない様子だ。ペーパーだがフォークリフト資格はあるらしく倉庫管理者には適していた。
一方の友貞は、続いていたお気に入り案件の企業が補助員不要になってからお気に入りリスト一覧から激減されて仕事が入らなくて無職状態でいた。
しかし、両親が海外事業主で、たまにだけ海外に泊まっていたが、現在は半年以上も家を明けて、友貞のみしかいない空間になったらしい。
そのために、仕事がなくても親が留守のために家の金庫は友貞預かりになっていて、社会保険等光熱費、家賃は金庫から支払っていた。
親が海外で留守中は左団扇でのんびりして生活しまくったが、働かなきゃやはり意味がないから就活だってしなきゃならない。
リファインダー漫画製作スタジオ。
室内では作業空気がパンク状態だ。
リアルに締め切り間近でキリキリ舞いだ。のんびりしている友貞とは正反対だ。追加補助のアシスタントの2名だってベタ塗り背景画の陰のトーン貼りでも手が足らないし、猫の手も借りたい。厳しい状況の最中、昼の買い出しで、コンビニに行くように頼まれたチヨリだった。
コンビニとは、友貞と会う確率の高いあの店舗のことだ。
こんなテンパっている時にキス魔騒動を作った本人が行くはめになるのがイヤになっていた。
偽造のキス事件を仕組んだから荷が重い。行かないと皆の昼飯が買えない。
ここは、腹を据えて覚悟しながらコンビニに入ったチヨリだった。
「あっ、現れたな!! こないだのキス工作犯人め!! ここの『友達』に膝ついて謝るんだな!!」
武幸がやっと現れたチヨリを待っていたかのように文句を飛ばした。
「なんだ。工場員作業服の青年。あんたには直接関係……」
「なくはない!! ちゃんと行列に並んでて待っていた一人で現場も確認済みだ」
「うう……一対一の勝負とは言ってないが卑怯だぞ」
「偽ってキスの請求を取るのが卑怯じゃないのか? まあ、それはそっちが偽造と言えばおさまる話なんだが」
「いま、立て込んでんだ。早く帰りたいから買い物させてもらう」
「無視か? テュエルブ・メモリアルのエミカストラップぶら下げてるリファインダー信者め!!」
「なっ……貴様、よくもその距離から見抜けたな!?」
「知り合いがよく見てたんだ。それを何回か聞かされちゃあ覚えたくなるぜ」
「なんかお約束の言い訳コンテンツにありそうな台詞言ってるな、貴様ぁ」
「引っ掛かる言い方しやがって……それよりも謝る気ないのか?」
「知名度高い作品を知らない馬鹿のせいであたしがストレスたまるだろうが!!」
「そりゃさ、知らない奴は知らないで結構さ。だがな、馬鹿って中傷されちゃ、それは問題だぜ、お姉さんよ!!」
皆の分の買い物が済むと、コンビニをそそくさと出たチヨリ。
「この外の状況なら話しやすいだろ……。店員が嫌な顔してたから俺がちゃんと気を利かせたんだ」
「回りくどいことを……」
「この辺りなら両手を地べたに着いて謝りな」
「まだそれ言う? 騙された者の被害者ぶった避難で許されてたまるか」
「舗道で両手着けないリスクを狙ったんだ。それで両手を着ける者は人を簡単に罵倒しないからな」
「くそう……こんな後ろ楯着けて、そこのアンタが目的なんだ。請求の言葉でビビって泣き叫ぶようなキャラっぽいからさ、悪戯したんだ。あたしが謝るなら、今の仕事を辞め……」
「辞めるな!! 解散したら漫画描けないジャン!!」
「サライ姉さん!? なんでここに……」
「チヨリに弁当頼んだのが気になってな、ついていったらこれだ。一部始終聞いて見たぞ。そこの角の公園で話を説明しろ!!」
武幸は驚愕した。本物の漫画家ユニット『リファインダー』を目の前にしているからだ。ナマで原作者に会えるのはほぼ間違いなく不可能に近いからだ。出版社に行くならば確率は高いのかも知れないけども、偶然出会えたので、武幸からしたら感激ものだ。
「本物のリファインダーだよ。そう……だよね! うわぁ、感動した!!」
歓喜に溢れた武幸。
「武幸さん、あなたさ……知人が好きだからって言ってた割りにはあなたが好きっぽいよ」
友貞が調子のって突っ込んできた。
「友貞よ、お前がそんなんだから、立役買ったんだぞ。感謝しろよ。それよりも本物の漫画家なんで、さっきの謝るって問題はチャラにして良いです」
「立役のあなたに言っても気が済まない。そこのあなたさ、後ろにいないでこっち来てよ!! 罵倒とか中傷とか……責任とるからよ」
友貞は、多少オドオドしながらリファインダーたちの前に出てきた。
「僕がキスの請求ではっきりしなくて……こんなことで問題を大きくさせてゴメン」
「あなたが謝ってもしょーがないの。あたしが謝るんだからさ。サライ姉さんも、あたしと一緒に謝ってほしいんだけど……」
「ま、あたしもリファインダーの一員だし、連帯責任で謝るか……」
こうして、リファインダーという漫画家ユニットは、子供の悪戯が過ぎた遊びに関して非礼を友貞に詫びた。それで、この一件は無事に何よりに解決したのであった。
未だに解決してないことは、謝礼後の責任の取り方だ。
武幸は、仕事があるから現場に戻った。友貞は、製作スタジオまで行って雑務係されては、回りの足場を整理して作業者の移動を簡単にさせる任務についた。どうせ帰宅してもすることはないのだからこのくらいはしてみせた。
本来なら武幸が大喜びするスタジオ内なのかも知れないけども。
雑務係がすんでアシスタントも帰った後に、雑務をしたお礼のおやつや、夕食の付き合いも含めて、皆で回転寿司店で羽目を外した。
このおもてなしがチヨリの責任であった。
おもてなし内容を武幸にも味わらせたかった友貞。
一方、この夕食代金はチヨリの『責任を取る』ことの一貫として、彼女のみの経費になったという。