1稿目 フリーターと漫画家稼業
今日もまた混んでいる人気取り飲食店。いい加減に飽きて他店に移って欲しい。
人気が衰えなくて行列が激しい。通りはここしかなくて近道や抜け道すらないから行列の人だかりが道を塞いで頭に来る始末だ。
昼飯時間帯だからここしか食事場所やコンビニ、スーパーさえもこの食堂街にしかない。
他の道は飲料物の自販機ばかり。食堂すらない。わざわざコンビニ弁当の為に行列を掻き分けて目標にたどり着く。
平日はいつもこんなものだ。
今は真夏で外出もやめたいが買い出しの品が切れてて昼をやめると熱中症になりそうだからコンビニまで行くのだ。
コンビニ弁当をやっと買えたその時……。
すぐ目の前の行列できる飲食店から即座に出てきた客と体当たりしてしまった。歩き同士の衝突なので、被害は最小ですんだ。
コンビニ弁当の男が立ち上がって帰宅しようと思った矢先。
「キス魔め!! そのまま帰るな馬鹿野郎!!」
と、男の顔面を思いきり拳で殴り付けた女子。
「はぁはぁはぁ……いたいけな未経験女子に卑猥なことを公共でやらかす如何わしい者、とっとと火炙りの刑に処してくれよう!!!!」
殴った後に言う台詞ではない。しかし、お互い唇が当たったことは認めたようだ。
「唇の感触は確かにありました。お詫びいたします。ただ恐縮ですとしか言いようがありません」
「それだけで済まないわ。慰謝料支払いなさいよ」
「不可抗力の慰謝料っていくら?」
「そんなもの自分で……ってか締め切り間に合わないわ。そこのコンビニに常連客なら、いつか会うわね。続きはいつぞやにしますわ。他のコンビニ行ったら処してくれますわ。覚悟して?」
何らかのキャラの口調で台詞を吐き捨てて疾風のように去っていった女性。
聞き覚えのある台詞だが、なかなか思い出さない。
「あ、君大丈夫かい?」
「行列の人? こっち来たらもう入れなくなるよ」
「俺さ、わざわざここまで来るのが飽きてさ、やめてコンビニにするわ。日が暮れてから入るのもヤだし」
「ああ、キスするつもりなかったのに請求せびれてあんまりだ」
「えっ!? あのお姉さんの台詞知らないのか?」
ウェットティッシュ取り出した行列男は、細かく折り曲げて、それをコンビニ男の唇に当ててきた。
「何だよいきなり……この感じって。さっきの唇が触れた時と同じ……まさか慰謝料の詐欺か!?」
「アハハハ……そこまではないさ。単なる悪戯だよ」
「くそう、からかわれたのかよ。ああ、真実にしてくれたから、弁当代は半分出すよ」
「そこまですんなって」
「今度ここに来るとか言ってたけど、シカトして大丈夫かな?」
「いんや、会ったほうが良いぜ。俺も興味涌いてきた。ちょっくら見てみたくなった。どうせ平日昼はここに来るから会えるだろ? あ、俺は近藤武幸。あんたは?」
「僕は岡山友貞。この辺りの実家に住む半分ニートみたいな暇人だよ」
「実家で半分ニートって? まあ、人様の生活に土足で上がっちゃ不味いな。悪い悪い」
「さっき言った台詞がどうのって?」
「え? マジ知らないのか? ブームアウェーの人いたんだな、実際に。おっと、その台詞だがな『スウェッティナイツ』というシリーズ作品で漫画もアニメもトップクラス上位の知らない人はいないほどのブームなんだ。多分、あの女は『スエナ』信者だな。後、スエナはその作品の略だから。俺はスエナ派だが、一部は『スティナ』って言ってるな」
「悪いけど……そっちの世界は全くもって疎くて……ゴメン」
「俺もよくは知らない。見てないし」
「じゃあ、得意気に話したのは何なんだ?」
「あれはな……あの、なんだ……知り合いにスエナ信者がいて聞いたんだよ、しつこくてな、その知り合いが……」
「どこにでもありそうな言い訳パターンに聞こえてならないが……」
「それは、気にしすぎ気にしすぎだからさ~……ハハハ」
話が長くならないうちに、この辺りの倉庫業のアシスタントマネージメントで働く武幸は、早く弁当を買ってイートインで食べた後にすぐ現場に戻っていった。
友貞は、どうせ海外でのんびり屋の両親が帰宅の気配もないからと、ゆっくりと部屋でくつろいでいた。
一方、さっきの女子が昼食から帰ると、同居人から小うるさく絡みを入れられた。
「いったい、何時までくつろいでいたんだ! 時間厳守だろー!!」
「ブームアウェーな馬鹿と衝突していざこざに」
「なんだ、変わった言い訳かよ?」
「スエナ知らん……まったく無知な男がいたんだよ。それで絡まれて」
「まさか、グーヒットを顔にやってないだろな」
「やったよ。ストレス解消にね」
「相手に謝ったか?」
「相手から謝ってきたよ。アハハハ」
「あ~あ。駄目だな。重症ものだ」
この二人は、後の昔ブレイクした作品のリメイク作品を編集部と打合せして世に再ブレイクさせる漫画家ユニット『リファインダー』だという。
友貞は、この事実が隠れていただなんてまだ知らないでいた。