悪役令嬢は双子だった
「ーーーと言う訳でこのままだと破滅が待ってるのよ」
5年ぶりの再会だった。確か5年前は喧嘩腰に喚かれたのを覚えている。彼女の名前はリリアーナ・オッドウェイ。私の実の姉である。双子で生まれた私たちは出生後、不吉だという母に引き裂かれて育つことになった。私の名はクララ・グレゴリー。子爵家に養子に出された。
私達が10歳のとき母は流行病で亡くなった。その時父であるガレット・オッドウェイが私を引き取ろうとしてこの屋敷に呼んだのだ。父は迷信など信じてなかったので、母が亡くなったことで姉妹仲良く暮らせればと考えたらしい。だが、リリアーナは違った。
「絶対に嫌です。公爵家の娘は私だけです」
彼女は頑として譲らなかった。いきなり姉妹が出来たと言われても困ったのでしょう。私も今の両親と離れたくなかったので幸いだった。
これが5年前の事。そして今日まで1度も会わなかった私たちが何故会っているかというと、リリアーナから会いたいと招待状が届いたからだ。
「私前世の記憶があるの」
リリアーナの話は荒唐無稽だった。前世? 何それ? 普通の人だったら理解できなかったと思う。
「そう。私もあるわ。前世の記憶」
私がどう返すととっても驚いた顔をした。
「やっぱり双子だからかしら。ーーだったら乙女ゲームの『ユーディット学院〜アリスの君へ〜』
をした事あるでしょう? この世界はその乙女ゲームの世界なのよ」
「ごめんなさい。私は乙女ゲームしてなかったからよくわからないわ」
正直リリアーナが何を言ってるのかわからない。私はゲームをした事がなかったので彼女に付き合えないと思った。
「そんな......有名なゲームだったのに知らないなんて。でも、もともと前世の記憶があるなんて思ってなかったのだからいいわ。それより今から言うことはとても重要な事なの。私は...そのゲームの悪役令嬢なの」
シーンと静まり返った。そのゲームはした事なかったけど悪役令嬢と言う言葉は知ってる。確かゲームの結末ではいつも悲惨な目にあう人だ。まあ、それまでに酷いことをいっぱい主人公にするから自業自得とも言えるけど。
「そもそもここは本当にその乙女ゲームの世界なの?」
「私が前世の記憶が戻った8歳の時から調べてるから間違いないわ。攻略対象の王子様や騎士団長の息子に侯爵家の息子、みんな揃ってる。おまけにアリスっていう平民の子が男爵家の養女になって学院に入ることが決まったの」
「8歳の時から昔の記憶があったの? 私も8歳の時に思い出したの。不思議ね。ん? だったら10歳のときどうして反対したの? いろいろ相談できたのに」
「あのゲームでは双子っていう設定はなかったわ。私はあの時学院に入る年齢になったら家出するつもりだったのよ。だって処刑されたり幽閉されたりと結構悲惨な未来しかないのを知ってたから。でもあなたの事を知らされて私が逃げたらクララが私の身代わりになる可能性もあるって気づいたの。だから反対したのよ。別にあなたの事嫌ってたわけじゃないの」
「まさか家出の手伝いをさせる気?」
公爵令嬢の家出の手伝いはまずいでしょう。
「違うわよ。家出ならこの間したもの。2日で見つかって連れ戻されたわ。完璧だと思ってたのに」
「危ないわよ。日本と違うんだから、あっという間に殺されるわよ」
「魔法使えるからなんとかなると思ってたけど女1人で夜道は歩けないわね。結局連れ戻されて家出の理由聞かれんだけど、本当の事は言っても頭がおかしいと思われるだけだから、とにかく学院に入りたくないって言ったの。入学しなければ大丈夫だと思ったんだけど、父は私が行かないのならクララを行かせるって言うの。どうもゲームの影響が出てるのか絶対に学院には行くようなってるみたいなのーーーと言うわけでこのままだと破滅が待ってるのよ」
リリアーナは困ったように笑ってる。私も手助けはしてあげたいけど自分のことで精一杯な状況だ。どうしたものか。
「ねえクララ。一緒に学院に入学しない?」
「え?」
「ずっとクララに影響が出ないか心配してたの。でもこのままだとあなたも悲惨でしょう?」
「知ってるの?」
「ええ。結婚が決まったって父が言ってたわ。最悪な相手だって。父は手を貸したいけどあなたが助けを求めてくれないと動けないみたいよ。結婚するより学院に行きたいって言うのよ。子爵様の借金は父がなんとかしてくれるわ。2人でお願いしましょう」
リリアーナは私のために嘘を言ってるのかもと思った。私の悲惨な状況に手を差し伸べるために悪役令嬢の話を作ったのかしら?
それとも私に悪役令嬢の役を押し付けるために一緒に学院に行かせようとしているのかもしれない。どっちに転がってもいい。私はあの豚のようないやらしい男との結婚から逃れられるのだからリリアーナと一緒にユーディット学院に行くことにしよう。後のことはまた考えればいい。
「いいわ。私も学院に通ってみたかったの。それで私はあなたの事をなんて呼んだらいいの? お姉さま? それともリリアーナ様?」
リリアーナはクスリと笑った。
「そうね、..........って呼んで」