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王道を行って何が悪い!  作者: 地味に中二病
5/22

冒険家

長らくお待たせしてすみません。ちょっと怪我をしまして、更新できない状況となっていました。

久々の投稿ということで、クオリティが下がっていると思いますが、ご容赦ください。

 ユウは宿屋から図書館へとやって来た。


 ユウが図書館へ来た理由。それは魔法について調べるためだ。サマリーが言っていた魔導師の適性を知るためにも、魔法を学ばなければならない。


「あの……」


 図書館の受付には、昨日の男の職員がいた。相変わらず無愛想な態度で座っている。どこにあるか分からない本を一から探すより、聞いた方が手っ取り早いと思い、男に聞くことにした。


「…………」

「えーと、魔法に関しての本を探してて……」

「……そこの棚」


 男はそう言って受付からすぐの本棚を顎で指す。後は昨日と同じように目を瞑ってしまった。


「……聞いて損した」


 男に聞こえない程度の声でそう洩らす。すぐ見つかる所にあるのなら探しておけばよかったとユウは後悔した。


 ひとまず男の示した棚に行き、本の背表紙を確認する。


「うわ……魔法に関しての本ってこんなにあるのか」


 ユウが本の背表紙を眺めていくと、一つの棚に納まらず、二個目、三個目と合計して五つの棚が魔法関連の本で埋まっていた。


「この中から探すのかよ……」


 ユウがこれから行う作業に辟易していると、誰かに肩を叩かれた。振り返るとあの受付の男が立っていた。


「…………」

「ど、どうしたんですか?」


 ユウが尋ねると、男は無言で手に持っているものを差し出す。それは一冊の本だった。題名は「冒険家の職業 魔導師・魔法について」とあった。


「…………」


 男は無言で本を差し出したまま微動だにしない。


「え? 俺に、ですか?」


 男は首を縦にふった。どうやらユウのために用意してくれたらしい。ユウの中でこの男に対する認識が少しだけ変わったときだった。


「ありがとうございます!」

「…………」


 ユウが本を受け取ると、男は再び受付に戻っていった。


「全然喋らないけど、意外といい人っぽいな」


 手にした本を片手に、昨日の読書スペースに移動する。


「そういえば、あの人に冒険家になったとか言ったか?」


 なぜ的確に冒険家の本を渡してきたのか疑問に思うユウ。


「もしかして、この世界のその道のプロはわかるものなのか?」


 今日行った武具屋でのことも思い出す。あの人もユウのことを的確に言い当ててきたのだ。なんとなくただ者ではない気がしてきた。


「今度聞いてみようかな。でも今は、この本を読むのが先か」


 机と椅子があるところにやって来たユウは、さっそく男から受け取った本を読み始める。


 本の内容は主に、魔法についての基礎が書かれていた。魔力の感知の仕方、扱い方、属性、性質など幅広い内容が初心者に分かりやすいようまとめられている。


 魔力の感知。手っ取り早い方法は精神統一。これにより自身の体の奥にある魔力が通常時より感知しやすくなる。ただし、大まかにしかわからないので注意が必要。


 扱い方。魔法とは想像するものであり、創造するもの。故に数多の魔法が存在する。新しい魔法を使うにしろ、普及している魔法を使うにしろ、想像が鍵となる。


属性。主に火、水、木、土、風の五つ。基本的に人はどれか一つに適性がある。もちろん練習すれば適性以外の属性も使いこなせる。


性質。魔力は初めは基本量があるものの、練習次第で容量は増える。多くの魔力を籠めれば比例して威力が上がる。籠める魔力を少なくし、威力を弱めれば日常生活にも使用できる。


 ユウは読みながらしっかりと頭に叩き込んでいく。メモを持ち合わせていないので、それしか方法がないのだ。


 元の世界で伊達に本を読んでいなかったユウは、さすがの速さで読み進めていく。小一時間もすると、本の中身を一通り読み終えた。


「ふー……ちょっと疲れたけど、少しずつ分かってきたぞ」


 椅子の背もたれに体を預け、今さっき読み終えたばかりの本の内容を反芻する。


 そうしてしっかり忘れないように何度も頭の中で繰り返し、ユウは席を立った。


 この本がどこの棚にあったのか分からないので、受付の男に渡しに行く。ユウは受付に着いたが、そこに男の姿は見当たらなかった。


「あれ? あの人はどこだ?」


 キョロキョロと周りを見る。すると遠くの方の棚でなにやら仕事をしている姿を見つけた。


「……邪魔するのも悪いし、本は置いておくか」


 ユウは受付の机の上に本を置き、呟く程度の声で「ありがとうございました」とだけ言って図書館を出た。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 図書館を出たユウはまだ時間に余裕があったものの、ナシャに心配をかけてはいけないと思い、宿に戻ってきていた。


 ユウが宿に入ると、ナシャが忙しそうに接客していた。


「さすがにお喋りできる雰囲気じゃないかな」


 本当はナシャと話すのを楽しみにしていたユウだったが、仕事の邪魔はできない。

 鍵だけ受け取って自室に戻ることにした。

 客が何かを決めるため一緒にいた仲間と話している間にナシャに声をかける。


「ごめん、ナシャちゃん。部屋の鍵貰ってもいいかな?」

「あ、ユウさん。おかえりなさい」

「うん。ただいま」

「えーと、鍵ですね……どうぞ。すみません。ちょっと忙しくて」

 申し訳なさそうに頭を下げるナシャ。ナシャも自分とのお喋りがしたかったのだと分かり、ユウは少し嬉しく思った。


「大丈夫だよ。忙しいのはお店としては良いことなんだから。そのうち地図にも載るかもね」

「そ、そうですか? それじゃ頑張りますね!」


 鍵を受け取っているうちにお客の方も決まったらしく、ナシャはまた忙しそうに仕事に戻った。

 ユウも自室に戻って少し休むことにした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 自室へと戻ったユウは、今日の疲れもあり部屋に入るやいなやベッドに寝転んだ。仰向けの状態でこの世界の魔法について分かったことをもう一度思い返した。


 この世界には魔法があり、日常的に使われている。用途は様々で、大抵の人が小さい火程度なら出すことができる。異世界なのにユウが会話ができたり、文字が読めたりするのも魔法によるものだった。


 そしてその魔法を使い、魔物などを討伐するのが魔導師。魔導師のなかには森を焼き尽くす炎をだせる者や、擬似的に天候をも操れる者がいるらしい。当然その誰もが長いキャリアを積んでいる猛者だが。


 大抵の魔導師はそこまで行き着けない。実際に使うことができる魔導師はいるが、身に余る力は己を滅ぼす。無闇に力を欲っさずに、身の丈にあった魔法がが一番適しているということだ。


 ここまでが本の前置きとして書かれていた内容だった。


 肝心の魔導師の使う魔法についても記述があった。


 魔導師に適しているのかどうか調べる方法は次の通り。まず、一番小さい魔力で掌に火を灯す。その火がどの程度持続できるかによって、現時点の魔力量と適性が大まかにわかる。残念ながら未だ正確な測定方法は確立されていない。


「確かにいろいろ分かったが、魔法をどう出すのか。それは分からなかったんだよな」


 この世界の住人にとっては、息をするかのように最低限の魔法が使える。本に記載されていないのも当然と言えば当然だった。


「うーん」


 ユウが魔法の出し方について悩んでいると、ドアがノックされた。おそらくナシャが夕飯を持ってきたのだと思い、ベッドから起き上がりドアを開ける。


「ユウさん、お夕飯をお持ちしました」

「ナシャちゃん、ありがとう」


 初日こそはこのユウの対応に慣れず驚いていたナシャだったが、今ではもう笑顔を返す余裕があった。


 ほんのり湯気が出ている夕飯を受け取ったユウは、ふと思い付く。


「そういえばナシャちゃんも魔法使える人?」

「魔法ですか? もちろん使えますよ。といっても小さく火を出すくらいですけど」


 少し恥ずかしそうに頬を掻くナシャ。ユウにとっては魔法が使えるだけで凄いと感じた。

 この機会を逃す手はないと思い、思いきってナシャに頼み込む。


「ナシャちゃん、お願いです! 俺に魔法の使い方を教えてください!」

「え? ええ!? わ、私なんかじゃ役不足ですよ。というかユウさんは魔法が使えないんですか?」


 ナシャが中々痛いところをついてくる。咄嗟に言い訳を考え……。


「いや、俺の故郷ってかなり辺鄙な田舎で、故郷の誰一人魔法が使えないんだ。それで俺も使えなくて」


 苦しい言い訳だが、田舎者という設定でゴリ押しする。もし、この世界の住人が必ず魔法を使えるという存在で、その事をナシャが知っていたら、ユウは詰みだ。神に祈る思いでナシャの反応を待つ。


「そうなんですか。ユウさんの故郷ってほんとに遠いところにあるんですね。わかりました。私なんかじゃつまらないと思いますけど、魔法の使い方を教えてあげます」


 グッと内心ガッツポーズをした。ナシャには騙してるみたいで良心が痛むが、ユウが異世界から来ました、なんて言って簡単には信じてもらえないだろう。ユウはなんとか魔法の先生を得ることができたのだった。


「ありがとう! お店が落ち着いているときでいいからね」

「わかりました。そのときは私から声を掛けますね」


 ナシャは一礼して部屋を出ていき、一階へと戻っていった。


 部屋に残ったユウは、自分が異世界でもしっかりやれていることを嬉しく思いながら、ナシャが持ってきた夕飯をおいしくいただいた。


 お腹も膨れ、 昼間の疲れが溜まっていたユウは、すぐにベッドへと横になり、夢の世界へと旅立った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 翌朝、ユウはかなり早めに目を覚ました。ぐっすり寝た、という訳ではない。その証拠に、ユウは二度寝か起きるかのニ択で葛藤していた。そしてさんざん悩んだあげく、起きることに決めた。


 身支度を整え、部屋を出る。他の宿泊客の迷惑にならないよう気を付けながら一階へと降りる。さすがに人気はなく、ナシャもまだ寝ているようだ。


 ユウは部屋の鍵を受付に起き、店を出て裏手にある小さい広場に向かった。この広場は宿を利用した客の子供が外で遊べるように作られた場所だ。しかし、あまり使われていないのが現状だと、ナシャが落ち込んでいた。


「さて、始めましょうかね」


 なぜこんな早朝にこんな場所にいるのか。それは体作りのためだ。何事も、特に異世界では体が資本と思ったユウは、『王道』をエンジョイするために、これから毎朝トレーニングをしようと決めたのだ。


「でも何すれば……」


 決めたはいいが、元の世界ではインドア派だったユウは、トレーニングといっても何をすればいいのかわからなかった。


「こういうときは……ランニング?」


 頭の中にアスリートを思い浮かべてみる。何となくランニングしていそうな雰囲気がした。とんだ偏見だったが。


「うん、ランニングだな」


 次に決めるのは走るコースだ。ユウはまだ完全にはラムド王国の道を覚えていなかった。覚えているのは、実際に通った宿から赤い屋根の建物まで。そして、宿からこの国の門までだ。


「距離的には……門まで行くのがいいか」


 長い距離を走った方がいいだろうという判断で、門まで走って帰ってくるコースを選ぶ。


「さて、ちゃっちゃと走ってきますか」


 気合い十分にユウは走り出した。ストレッチもしないまま。


「フッ、フッ、フッ……」


 ユウはそれなりの速さで走っていく。このペース、周りから見れば明らかに速すぎるペースだった。


 それもそうだろう。ユウにとってこのランニングが人生初の自主的な運動なのだから。もちろんペース配分なんて考えていない。


 当然のように走り出して間もなく、ユウは息切れが激しくなっていた。


「ハッ、ハッ、ハッ……きっつ!」


 柔軟などを何もしなかったユウの足はジンジンと痛んできている。着ている服には汗が滲み、肩で息している状態だった。今はあの串焼き屋のあった直線のストリートに差し掛かっている。


 だが、ただの直線と侮るなかれ。この直線がまた長いのだ。ユウの視界にはこの国の大きな門が見えるが、その門が現在地から見ると、とても小さく見える。


 何度も足が止まりそうになりながらもただ一心、『王道』を楽しむという目標のためだけにユウは自分を鼓舞した。


 だんだんと門が大きくはっきりと見えてくる。その達成感もユウの足を動かす動力となった。


 そうして走り続け、ユウはようやく門にたどり着いた。たどり着くと同時に倒れるように地面に寝転んだ。


「ゼェ、ゼェ……ハァッ、ハァッ」


 胸が上下に大きく動き、心臓はうるさいくらい鳴っている。喉がカラカラに渇き、口の中が粘つく。滝のように汗が流れ、着ている服は絞れそうだった。


一応言っておくとすると、ユウがしたのはただのランニングだ。


 周りにいた人はユウの状態に驚きながらも、通りすぎて行く。そんな中で一人、ユウの元へ近づく人がいた。


「おいおい、大丈夫か?」


 それは初日にユウに水をくれた門番の男だった。ユウは門番の男に気がつくと、体を起こして苦笑いを浮かべた。


「ちょっと、走ってたん、ですけど……速すぎました」

「なんだそんなことか。こっちは何かあったのかと心配したぜ」

「す、すみません」


 未だ息が整わず、言葉が途切れ途切れなっている。そんなユウを見かねた門番の男は……。


「とりあえず、水飲むか?」


 そう言って見たことのある筒を差し出す。ユウはありがたくそれを受け取り、喉を潤す。


「……ハァ。なんだかやったことのあるやり取りですね」

「まったくだ」


 門番の男とユウがお互いに軽く笑い合う。ユウはさすがに座ったままでは失礼だろうと思い、立ち上がる。


「ふぅ……ただ走っただけでこんなに疲れるとはな」

「にいちゃん、パッと見たところ、今まで全然体動かしたことないだろ」


 ユウはまたもや自分のことを言い当てられて驚いた。ほんとにこの世界の住人の観察眼はレベルが高すぎる。


「よくわかりましたね。実は体を鍛える方法が思い付かなくて、とりあえず走ったんですよね」

「体を鍛えるってことは、にいちゃん冒険家志望かい?」

「志望、じゃなくてもう冒険家です」


 少し誇らしげに言う。このとき完全に一端の冒険家のつもりでいた。


「そうかそうか! それでか! なら、そんな畏まった口調は止めな」

「え? どうしてですか?」

「どうしてもなにも、他の奴に嘗められないためさ。冒険家ってのはいろんな奴がいてな、妙な輩に目をつけられないようにするのが基本さ」


 つまりは意地汚い奴がいるのか、とユウは納得した。だが、あまり我の強くないユウにとって、今の口調を変えるのは少し戸惑いを覚えた。


「と、とりあえずは善処します」

「さっそく出来てねぇじゃねぇか」


 すぐさま指摘を受けるユウ。昔からの癖はそう簡単には取れなかった。


「わ、わかった。こ、これでいいか?」


 今度は意識して口調を変える。それでも慣れないユウは、たどたどしい口調だった。そんなユウに門番の男も「今はこれでいいか」と無理やり納得した。


「そうだ、にいちゃん。冒険家になって体の鍛え方が分からなかったんだよな? よかったら教えてやるぞ?」

「ほんとですか!?」

「おい、口調」


 口調を変えるのは、これからのユウにとって最大の課題だった。それにしても、渡りに船だった。


 ユウは門番の男が教えてくれたトレーニング方法をしっかりと聞いた。ここでユウは、運動前は体をほぐした方がいいということを知ったのだった。


 ユウが門番の男からトレーニング方法を教えてもらい、数分が経った。ふと、男が仕事中なのを思い出した。


「あ、すみません! 仕事の邪魔をして……」

「また口調……あぁ、大丈夫だ。朝はほとんど門をくぐる奴はいねぇからな。それに他の奴らが仕事してくれてるからよ」


 そのことを聞いてユウは安心した。自分のことに付き合わせて門番の男が怒られでもしたら、申し訳なさで潰れそうだった。ユウの精神は意外と脆い。


「いろいろ教えてもらい、ありがとうございます!」

「おう、いいってことよ! 挫けず頑張りな! あんたみたいなのは俺は好きだぜ」


 ユウは、もう少しいろいろ訊きたかったが「そろそろ朝食の時間では」と思い、門番の男も「さすがに仕事に戻らねぇと」と言って、別れた。


 異世界に来てから人に好かれ始めたユウ。そのことを嬉しく思いながら宿へと引き返した。もちろん歩いて。

(7月7日 加筆修正しました)

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