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王道を行って何が悪い!  作者: 地味に中二病
2/22

情報収集①

すいません!ほんとに短いです!

「……知らない天井だ。……いや、当たり前か」


 ユウが目を覚ましたのはユウの自宅ではない。『宿屋 ナームル』の風の間だ。昨日は疲れていて、ベッドに入った途端眠気がやってきたのだ。そこからはもう朝までぐっすりだった。おかげさまでせっかくの夕食を食べそびれてしまった。そのことにユウは地味に凹む。


「……起きよう」


 まだ完全には目覚めていないが、お腹は空いているので起きて朝食を待つことにする。


 寝ぼけた頭で今日することを考えていると、ドアを軽くノックされる。ベッドから立ち上がり、ドアまで進んでそっと開ける。


「え?」

「ああ、おはようございます」

「え、あ、おはようございます?」


 ドアを開けると昨日の受付の女の子が朝食を持って立っていた。ユウが突然ドアを開けたことに驚いたのか、目を大きく開いていた。


「あの、ユウさん?」

「なんですか?」

「どこかへお出かけしようとしてましたか?」

「いや、違いますけど。どうかしたんですか?」


 実は昨日ユウが受付まで行っていろいろ質問した時に少し仲良くなったいたのだ。といっても、自己紹介をしたぐらいだが。そのおかげで普通に接することができる。少し親しくなればコミュ障だろうと会話は成り立つのだ。


「いえ、突然ドアが開いたので」

「あぁ、そのこと。いや、誰かなぁと思って見たら両手が塞がってたんで……もしかして余計なことしてしまいましたか?」


  ただし、敬語のみのコミュニケーションに限るというのが、難点だろう。


「え? あ、ありがとうございます!」


 この世界ではいけないことなのか? ユウはそう懸念したが、ナシャの反応を見る限り大丈夫だろうと判断した。自分の何気ない行動で、この世界でのこれからの生活を危ぶませることをユウは心配してるのだ。


「えと、どういたしまして?」


  反射的にお返しの言葉を口にする。ユウは自然とやったことだが、それがこの世界ではどれだけ珍しいことか、本人はわかっておらず、首をかしげるばかりだ。そこでふと、ナシャが両手で持っているものに目がいった。


「あ、忘れてました! こちらが今日の朝食です」


  両手で持っていて忘れるものなのだろうか疑問だったが、よくある眼鏡や携帯を無くしたと勘違いするようなものだと無理やり納得した。


 ナシャが両手で持っていたプレートとボウルを丸テーブルの上に置く。プレートにはこんがり焼かれたパン? と黄色いぐちゃぐちゃ、スクランブルエッグ? そして、何かの肉があった。ボウルには野菜がたっぷり入っている。


「昨日も思ったんですけど、かなりボリュームありますね」

「え? ぼりゅーむ?」

「あ、えっと、量が多いという意味の言葉なんだけど……」

「そうですか? でもこの量の多さもお店が人気の理由の一つなんですよ! 皆さんにお仕事頑張ってもらいたくて多くしてるんです!」


 ちょっと胸を張ってそう言うナシャ。なんとなく背伸びしている感じで可愛い。


「そうなんですか。それじゃ、おいしくいただきます」

「はい! たくさん食べてくださいね!」


 最後に最高の笑顔を見せてナシャは出ていった。さすが宿屋を一人で切り盛りしているだけのことはある。


「さて、いただきます」


 椅子に座り、両手を合わせる。そして木製のスプーンを手に持つ。


「何から手をつけよう?」


 目の前の料理はどれもおいしそうではある。しかし、だ。ここはユウにとって異世界。ということはもちろん使われている食材もユウの知っているものとは思えない。


 と考えたユウたが、既に昨日串焼きを躊躇いもなく食べていた。そして夕食も。そしておいしかった。つまり、味は保証されている。気にするのなら夕食のときにするべきだったのだが、空腹にはそんなことを考える暇なんてなかった。


「……うまいのなら腹に入れば全部一緒だ。大丈夫、死にはしない、はず」


 とりあえずユウは使われている食材に関して追及しないことにした。手始めにスクランブルエッグ(仮)をスプーンで掬い、口に運ぶ。元の世界の卵と少々風味が違うが味はよく似ていた。


「お、うまい!」


 一度口にしてしまえば後は早い。パンらしきものを千切り口に運び。


「うまい!」


 野菜も食べて、何かの肉も躊躇うことなく口に運び。


「うまい!!」


 おいしい朝食はどんどんユウの胃袋へと消えていく。あれだけあった朝食があっという間に無くなってしまった。ユウの食べっっぷりを見るものがいたのなら、さぞ驚くだろう勢いだった。


「ほんとおいしかった。ごちそうさま」


 満足げにお腹をさする。正直あの量を完食できるとはユウ自身思っていなかった。


 食べ終えた食器は部屋の前に置いておくと持っていってもらえるのだが、聞きたいこともあるし、何よりおいしい朝食の感想を言いたかったのでユウは一階に降りる。


 決してユウに下心があるわけではない。もっと仲良くなれたらなどと思っていない。


「あれ? どうしたんですか、ユウさん?」

「ちょっとね。はい、どうぞ」

「え? あ、ありがとうございます」


 持っていたプレートとボウルを渡す。ナシャはまた驚いた表情になる。これくらいのことがそんなに珍しいものなのか?


 ナシャが奥にプレートとボウルを置いて戻ってくる。


「ユウさんって変わっていますね」

「え!?」


 戻ってきて早々にナシャからのまさかの評価にユウはすっとんきょうな声をあげる。出会って時間的に一日も経っていない相手からの酷な評価なのだ。ユウが驚くのも仕方がない。


「あ、違うんです! その、他の人だとユウさんみたいな行動はしないので」


 ユウの大袈裟なまでのリアクションに慌てて弁解するナシャ。両手をわたわたと振って実に可愛い。


「そ、そうですか。よかった……変態と思われたかと」

「す、すみません」

「いや、違うのなら大丈夫。うん、大丈夫だ」


 まったく大丈夫ではなかった。ユウはナシャほどいい子に変態などと思われたら一生引きこもれる自信があった。いや、既に冒険そっちのけで引きこもろうかと考えてしまっていた。


「あの……ユウさん」

「な、なんですか?」


 やっぱりユウさんは変態です。そう言われると思ってユウは身構えた。もちろんナシャが「変態。近寄るな。話しかけないで」などと言うことはなく。


「なんで私なんかにそんなに優しい態度なんですか?」

「え?」


 ナシャはほんとに不思議そうに首をかしげて聞いてきた。なんで? と聞かれてもどう答えたものか。女性には優しく接するもの。それくらいコミュ障のユウでもわかった。


「うーん。嫌でしたか?」

「い、いえ! その、なんとなく慣れてなくて」


 そう言って恥ずかしそうにはにかんだ。それもそうなのかもしれない。ナシャは店側の人間だ。提供される、配慮される側ではなく、その逆の立場なのだから。


 だけど、そこまで慣れないものだろうかとユウは思った。たとえそうだとしても、感謝の気持ちくらいお返しされてもいいというもののはずだ。どうやら元の世界とはこんなところも変わってくるらしい。だとすると、ユウは今後の周りへの接し方も考えないといけない。とはいえ、してもらっている側なのに不遜な態度をとるなんてことは、ユウの性格からしてできやしなかった。


  大分話が脱線したところで、ユウはここに来た用事を思い出した。


「そうだ、ナシャさん。ここら辺の地図ってありますか?」

「地図ですか? どうかされましたか?」


 ナシャが疑問に思うのも無理はないだろう。現地の人なら地図なんてものはいらないはずだから。


「いえ、実は俺ここの街に来たのは初めてなんですよ。今までここから遠くの場所に住んでいて、今は旅の途中なんです」


 なのでユウは予め用意していた理由を使うことにした。別に嘘は言っていない。ただ、事実をかなり曖昧に言っただけだ。


「そうだったんですね。ユウさんがいた故郷だったらとてもいい所なんでしょうね!」

「ええ、まぁ」


 少しも疑うことなくユウの話を信じるナシャ。この時ユウはすごい勢いで良心が痛んでいた。それにしても、お世辞でもずいぶんとユウの評価が高かった。


「わかりました! それで地図なんですけど……ここには、というかどこの店にも置いてないんですよ」

「え、地図……ないの?」


 ユウはかなり焦った。素で返してしまうくらいには焦っていた。地図があるのとないのとでは、断然ある方がいいに決まっている。地図次第でこの世界でのユウの命が左右されるといっても過言ではない。


「えーとですね……地図がないということではないんです。この店を出て街の中心部の方を見ると赤い屋根の建物が見えるので、その建物に向かってください。そこで地図を販売をしてるんです」


 赤い屋根の建物。元の世界で言うところの市役所に近いのか? 何はともあれ地図があると聞いてユウは内心ほっと息をはいた。


「ありがとうございます。じゃあ、行ってみますね」

「あ、ま、待ってください!」


 昨日言われた通り鍵を預けるために部屋に戻ろうとすると、ナシャに呼び止められる。


「どうしました?」

「いや、えと、あの、その……」


 次第に声が小さくなる。何かを決意したかのようにナシャが顔を上げる。


「あの! 実はお願いがありまして……」

「はい?」

「えと、その、丁寧な対応されるのはありがたいんですけど、やっぱり慣れなくて」

「もっと砕けた態度でいいと?」

「その、はい。こちらからお願いするのもおかしな話なんですが。ユウさんとはもっとなかっ、仲良くなれる気がして……迷惑ですか?」


 ナシャが不安そうに言うのに対して、ユウが過去最高の反応速度で了承したのは言うまでもなかった。


「ありがとうございます、ユウさん!」

「いいよ。改めてよろしく、ナシャさん」


 さん付けで呼んだところ、途端にシュンとなってしまった。さん付けでは駄目らしい。


「……えーと。よろしく……ナシャちゃん」

「っ!はい!」


 ちゃん付けだったが、花が咲いたような笑顔になるナシャ。ユウは、さん付けを止めてよかったと心底思った。ふと周りにちらほらと見えていた宿の男客が視界に入ったが、娘の成長を見るような顔になっていた。強面の男ですらそういう顔になっているものだから、その不気味さは凄まじかったとだけ言っておこう。


「それじゃ、鍵を取ってくるから」

「はい! お待ちしてます!」


  ナシャは奥の方に戻っていった。ユウも部屋の鍵を取りに戻ろうとする。


 上の階へと続く階段を登りながらユウは必死に心を落ち着かせていた。なぜなら。


「大丈夫だ。フラグなんて建っていない。フラグなんて建っていない……」


 あんなに可愛いくて良い子なのだ。もしナシャちゃんが彼女とかだったら、と思わずにはいられない。


  その瞬間、ユウは背筋をブルリと震わせた。再び男客達の方を見れば、直視してしまったのを後悔するような表情を浮かべていた。


「女の子と話して野郎から睨まれるなんて王道はいらない」


  あくまで自然に正面を向き直したユウは、誰にも聞こえない声でそう呟かずにはいられなかった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「さて、確か赤い屋根なんだけど?」


 あの後ユウは部屋に戻り、鍵をナシャへと預け、外に出た。宿から出て、昨日おっちゃんに連れられて来た方向とは逆の方、つまり街の中心部らしい方を見る。遠くには大きいお城が見える。そしてその途中に確かに赤い屋根の大きな建物が見えた。


「なるほど、あそこか。さっそく行くか」


 赤い屋根の建物を目指して歩き始める。宿屋から件の建物までは中々距離がありそうだ。ユウは迷わないように、途中で目印となるものを決めながら歩く。そうすれば帰るときに迷わないようはずだ。


  住宅街らしき所の大通り、寂れた食事処、路上のフリーマーケット、他にもいろいろなものを目印にしていく。


「それにしても大きな街だ。見たことないものばっかり……」


 まるで田舎から上京したばかりの若者のような発言。まだユウはここが街なんかではなく、王国ということに気づいていない。それにやはり見慣れない建物がほとんどだ。せいぜい同じところを挙げるとすれば家の造りは木造家屋というところくらいだろうか。改めてここが異世界なのだということを実感している今、ユウの意識はそちらに向いている。


 周りの景色を楽しみながらどんどん歩いていく。宿を出たのは朝の遅い時間だったから、今はだいたい朝と昼の中間だろうか? 分かりやすく言うと、おはようかこんにちはのどちらか迷う時間帯。


「歩きっぱなしはちょっと疲れるな。……っと見えてきた」


 中々いい時間歩いたユウの視界にはっきりと赤い屋根の建物が見えてきた。遠くから見てもわかるくらいだから、近くで見るとなおのこと大きい。


 二階建ての建物二つ分くらいありそうな建物。人がひっきりなしに行き交っている。近づいてみれば喧騒が聞こえてくる。


「うわ……人に酔いそう」


 あまりの賑わいに思わず引き返しそうになる。しかしユウには、地図を購入しにきたのだ。それにこんなところで怖じ気づいては『王道』楽しめるはずがない。


 意を決して扉をくぐった。


 中に入った途端に、外に聞こえたものよりも大きな喧騒に包まれた。ユウは思わず両手で耳を塞ぐ。咄嗟のそれに意味はなかったが、それほどまでにうるさかったのだ。


 建物は三階建てで、どの階も人がひしめいている。入り口から真っ直ぐ進んだところに上の階へと続く階段があり、それぞれの階へ上がれる。入り口から扇形のような形で受付カウンターと思わしき場所がある。


 ユウはとりあえず一階の比較的人の列がない受付に並ぶ。少し待てばすぐにユウの順番になった。


「こんにちは、受付担当のサマリーと申します。本日はどのような御用件でしょうか?」


 サマリーという女性は黒髪のショートで、わりと一般的な顔立をしていた。服装はおそらくここの制服だろう赤を基調として、胸元の蝶結びされた青色のリボンが特徴的だった。


「あの、地図が欲しくて。ここで売っていると聞いたんですが」

「はい、かしこまりました。地図は何を御所望ですか?」

「何を? もしかしていくつか種類があるんですか?」


  まさか地図に種類があるとは思っていなかったユウは驚いてしまった。ユウの反応にサマリーは怪訝そうな表情を浮かべたが、さすがの対応で説明した。


「はい、まずこの国について書かれたもの。そしてこの国の国境まで書かれたもの。最後に両大陸について書かれている三種類があります」


 言われてなるほどとユウは思った。よくよく考えれば元の世界だって何個も地図があったのだから驚くところはどこにもないというのにだ。


  どれにするかと聞かれたが、自身が必要とするのはこの世界の地図なので全て買うのもいい。


「いくらくらいしますか?」

「値段はそうですね、この国、そしてこの国周辺の地図がそれぞれ銅貨二枚。この大陸の地図が銀貨一枚になります」


 値段も決して高くない。少なくともユウの懐事情的にも全部買うこともできる。悩むことなんてなかったユウは、手持ちの麻袋から銅貨四枚と銀貨一枚を取り出し、サマリーに渡す。


「じゃあ三つ共全部ください」

「かしこまりました。ではこちらが地図になります」


 地図のお代を受け取ったサマリーは、足元から丸められた地図を三枚取り出し、渡してくる。


  受け取ったユウはさっと地図に汚れや傷がないか確認する。確認し終えるとサマリーの方を向きお礼を言った。


「ありがとうございました」

「はい、またのお越しお待ちしていますね」


 サマリーはそう言って深々と頭を下げた後に微笑んでみせた。


 完璧と言うべき接客態度だった。おそらくこの道数年のベテランなのだろうと、至極どうでもいいことを考えながら、ユウは出ていった。


 建物から出ると、吹き付ける風が涼しく感じた。人が多かったから自然と温度も上がっていたのだろう。ユウはしっとりと汗をかいていた。まるで春のような気候だ。普通に過ごす分にはいいが、何かすると少し汗をかいてしまう。


「さて、地図も買ったことだし、宿に戻ってじっくり見ますかね」


 ユウはとりあえず地図を使って周辺の地理や地名を覚えようとしていた。そして、適当な人か調べものができるような所でこの世界の知識を得る。要は勉強だ。


「モンスターがいるくらいだし、その手の仕事がありそう、というか無かったら困る」


 ユウがモンスターを見たわけではないが、宿屋にいた他の客の話でモンスターが確実にいるとわかったのだ。ならば、その手の仕事が存在するはずだと践んだ。


 ユウは一晩をこの世界で過ごし、その間で自分なりの今の結論を出していた。それは、この世界で『王道』を行くこと。そして、『王道』だとモンスターとの戦闘は外せない。そんな考えがあったのだ。この世界の人からすれば、なんて浅はかな、と顔を赤くして烈火のごとく物申されただろう。何せ、命懸けの仕事を不純な動機でしようと考えているのだから。


「まぁ、とりあえず帰ろう」


 ユウはナームルに向かって歩きだした。


 余談だが、ユウはしっかり目印を覚えていて、無事にナームルの宿まで戻れた。

だいたい5000~10000文字くらいの間を行ったり来たりします。

これからムラのないよう、後、文章力が上達するよう心掛けていきます。


(1月 3日 加筆修正)

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