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王道を行って何が悪い!  作者: 地味に中二病
1/22

異世界召喚

はい!お初にお目にかかります、『地味に中二病』です!


今までは二次創作をしてきたのですが、ラノベ作家を目指すのにこのままじゃダメだと思い、オリジナル作品を書かせていただきました。


知識もなく、文章力もない拙いものになってしまうかもしれませんが、どうかこれからよろしくお願いいたします!読者様の感想や批判などを受け、これから精進します。


それでは、とりあえずどうぞ!

 ここはとある世界。この世界には魔法が存在し、日常に魔法が浸透している世界。

 ここにはある伝説が存在する。


『彼の大陸から異形の魔が攻めてくるとき、対抗せし者現れん。その者は神の恩恵を受けし神の化身そのもの。神の威光を借りしその者や、必ずや希望を与えてくれるであろう』


 御伽噺のようなその伝説は、いつしか忘れ去られていった。


 その世界には今は平穏な時が長く続いている。続きすぎている。


 だが、人々はいずれ思い出すであろう。


 なぜならば、今まさに彼の大陸より異形の魔が攻めてこようとしているのだから。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「という設定とかがやっぱりいいよな」


 場所は変わって、というよりも今の大層な前置きは全て空想だった。自室で机に向かい椅子に座っている青年、深守ふかもり ユウの空想だ。


「勇者、かぁ。やっぱ王道って感じでいいよなぁ」


 ユウは高校生だが、幼少期から憧れ続けている勇者のような物語の主人公が活躍するような「王道」が今でも好きだ。勇者がお姫様を助けに行き、世界を救う。正義は必ず勝つ。主人公は絶対に勝つ。これらがユウの好きなものである。まさしく王道。まさしくテンプレ。


「はぁ。もし転生ってのがほんとにあるなら、こういう主人公ポジションで生まれ変わりたい……」


「まぁ、自分には大それた役割だな」と自分の考えを鼻で笑い、ユウは寝る準備を始める。押し入れから布団を敷き、部屋の明かりを消して寝床に入る。部屋を静寂が支配する。季節は秋だが、窓の外からは虫の声すらしない。暗く、静かな部屋。その部屋の中でユウはだんだんと瞼が閉じていく。そしてそのままやってくる眠気に身を委ねた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ん……んぅ……」


 頬をそよ風が撫でる。寝返りを打つと、背中でカサカサと音がし、チクチクとさた痛みもある。まだ眠気があったユウだが、どこか違和感を感じてしぶしぶと目を開けた。


「ふぁ……んぅ……?」


 軽くあくびをして違和感の原因を確認しようとしてようやく異変に気づく。


「あれ? ……どこ?」


 ユウの周りの景色は一変していた。頭上で輝いているのは電気ではなく太陽。周りに壁はなく、木々に覆われている。吹き付ける風が心地よくて、その風にのって土の匂いが鼻孔をくすぐる。明らかに、ユウの部屋でも、住んでいた街でもない光景。というより、ユウが見たことない光景だった。


「…………」


 あまりの出来事にユウは放心状態になってしまう。普通に寝たはずなのに、目が覚めると見知らぬ場所。心当たりなど勿論ない。拉致としても、もう少しマシな所に連れてくるだろう。


「……いや、これは……」


 ユウはふと気づく。


「もしかして……あれじゃないか?」


 ユウの言うあれとは。


「俺……異世界に転移しちゃった?」


 異世界転移。今ではよく聞く言葉だ。ただ普通では起こり得ないことでもある。あくまで空想の設定だ。だが、ユウは今それを身をもって体験している。


「うわー……ヤバイ。めっちゃドキドキしてきた」


 ユウは自分が異世界に転生したということを自覚すると、急にそわそわしだした。このときユウの頭の中では、所謂『王道』と呼べるストーリーが展開されていた。自分だってもしかしたら、と思うのも無理はない。なにせユウの大好物は王道なのだから。そして今はその『王道』が存在するかもしれない世界なのだから。


 不意にユウの後ろの林が、ガサッと揺れた。その音でユウはビクッと肩を縮こませた。そして今さらながらに気付く。自身の置かれた状況がどういうものかを。


「そうだ。俺は今森の中にいるんだった」


 ユウが危険視していること。それはモンスターからの襲撃だ。よく主人公は何らかの恩恵を受けて第二の人生を始める。


  しかし、ユウ自身にそのような恩恵を貰った覚えはない。と言うことはだ、ユウが今ここでモンスターからの襲撃を受けてしまえばひとたまりもない。即死だ。


「……せっかくのチャンスを死んで無駄にすんのはもったいなさ過ぎ」


 今現在の自分の置かれた状況を理解すると、ユウはさっそく動き出した。


「とにかく安全な所まで……街か身を隠せる場所まで行こう」


 ユウの第一目標。とにかく生き延びるために安全な場所を目指す。そのためにはモンスターに見つからないことが重要だ。ユウは周囲を注意深く見回し、とりあえずの危険がないことを確認すると、さっそく移動を開始した。


 木から木へ。草むらから草むらへ。さながら特殊部隊のように姿を隠しながら移動する。もちろんユウにそんな経験も知識もないので、その様はとても不恰好なものに見えるだろう。それでも何もしないよりはましなはずだった。そうしてユウはどんどん進む。今進んでいる方向が出口につながると信じて。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 途中何回も少しの音に必要以上に驚いたりしながら移動すること、体感で約三十分。進む方向に出口があるのか不安になったが、周りの木々は段々と少なくなってきており、ユウの精神をいくらか楽にさせた。そしてようやくユウの視界に開けた場所が見えはじめた。


「ハァ、ハァ、よ、ようやく出口か」


 気が滅入りそうな鬱蒼とした森をやっとの思いで抜けるとまず視界に入ったのは、広大に広がる平原。どこまでも続いていそうな、しかしそれほど遠くないところに見えるものがある。それは…。


「ま、街だ」


 ユウの視線の先には、中央に城らしき凸の屋根が見え、周りを高い壁で囲まれた街がある。城があるなら街ではなく国と判断すべきなのだが、ようやく見つけた安全地帯に安堵しているユウにとって、それは些細なことだった。


 今までの苦労が報われ、ユウの目が少しだけ滲む。もちろん安心するにはまだ早い。


  移動の途中で気づいたが、言葉が通じるかわからないのだ。人との間で一番大切なのはコミュニケーションだ。しかし言葉が通じない場合、かなりコミュニケーションが取りにくくなる。そうなるといろいろ厄介なのだが、問題はそれだけではない。


  他にも挙げればキリがないが、それだけ今の状況は不安定なものなのだ。


「いや、考えるよりまずはあの街に行くしかない」


 だが、今現在の状況の方が危ない。森から脱出したことで、隠れて襲ってくるようなモンスターに常に気を配らなくて済むが、代わりにここは開けた平原だ。緑色のカーペットが一面に敷かれている。


  モンスターが隠れるような場所もなければ、自分が身を隠す場所もない。もし見つかったら全力で逃げるしかなかった。


「ここまで来てモンスターに襲われてポックリ逝きましたなんて洒落にならないよなぁ」


 周囲への警戒は怠らず、それでいて素早く移動をはじめる。壁に囲まれた街だが、視線の先には門のような建築物が見える。


  とりあえずそこまで全力で走る。とにかく走る。


  ユウ自身、過去にこれほど必死に走ったことはないと思うほど走った。足を踏み出せばそれだけぐんぐん門は近づいてくる。街の近くにまで来ることで改めてこの街の大きさを認識した。それもそのはず、この街は街などではなく、ここら一帯を統治する王のいる歴とした王国なのだ。だが、ユウはまだ気付く様子はない。


 門の前の門番と思われる甲冑に身を包んだ二人組が、全力で走ってくるユウに気づいた。あまりにもユウが必死に走ってくるものだから、門番の二人からしてみれば何事かと驚く他なかった。


「お、おい! 止まれ!」


 門番からの静止の声で、ユウはようやくここまで動かし続けてきた足を止めた。肺が酸素を求め、喉の渇きは次々と押し寄せてくる。


「ハァ、ハァ、ハァ」

「何者だ? 何の用があってラムドへ来た?」


 やや低い声の門番が質問するが、今のユウに答える余裕はない。森の出口からここまで、決して近いとは言えない距離を死ぬ気で走ってきたのだ。息切れで喋れなくなるのは当然だった。


「ハァ、ハァ……ハァ」

「……とりあえず、これ飲むか?」


 見かねたもう片方の門番がそう言って水筒を差し出す。この世界に来て飲まず食わずでここまできたユウにとって、それはまさしくオアシスとも呼ぶべきものだった。差し出された筒を両手で受け取ると、凄い勢いで煽る。


「ん……ん……ん……ふぅ」

「どうだ? 落ち着いたか?」

「はい、ありがとうございます」

「水くらいでお礼なんていらねぇよ」


 そう言って水をくれた門番の一人が笑う。反対にもう一人は無表情だ。


「それで、さっきの質問なんだが」

「あぁ、はい」

「そんなに慌ててどうしたんだ?」

「いえ、それが……」


 門番の質問にかいつまんで話をする。自分が異世界から来たということは伏せてだ。話を終えると、「そんな無茶よくしたもんだ」、「お前さん強運だな」と、それぞれ励ましの言葉を貰った。ただ、その時の門番の顔が呆れ気味だったが。


「それで、街に入りたいんですが」

「おお、そうだな。怪しい箇所はどこにもないようだから通っていいぞ」

「はい、ありがとうございました。あ、お水本当にありがとうございます」



 お礼を言ってその場を後にする。ユウの中であの二人の門番は命の恩人に分類された。随分と軽いことで恩人と呼ばれるユウの価値基準についてはこの際触れない。


  高さ十メートルはありそうな鉄の門をくぐると、ユウの目の前には活気溢れる街並み並みが広がっていた。目の前にある一本の大通りに左右に数え切れないほどの店が建ち並び、飛び交う商人らしき人たちの客寄せの声。日用品や食料を買いに来たのであろう人々が行き交い大通りは混雑している。


「……すごい」


 今まで都会でも見たことないような活気にユウはそんな言葉しか絞り出せなかった。今のユウの気分はすっかり田舎から上京してきたおのぼりさんそのものだった。ただし、この国は都会とは言い難いが。


「あ、そういえば言葉が通じてたな」


 先程の会話を思い出す。ごく自然に会話ができていた。


「どうなってるんだ? この世界にも日本語があるのか? それとも何かの魔法とかで通訳されてるのか?」


 ユウは頭を悩ませた。さすがに日本語が異世界にあるという考えはあんまりだ。好奇心から考えていたが、ここは商店街の大通りだ。道の真ん中に立っていては通行人の邪魔になる。


「ほら、兄ちゃん邪魔だよ」

「あ、す、すみません!」


 考えるのは後だ。そう思い、とりあえず大通りに沿って歩くことにするユウ。視線は常にあっちこっちへと飛んでしまっている。


「いらっしゃい! 活きのいいのがあるよ!」

「お客さん! 向こうの店よりこっちの方が安いよ!」

「さぁ! 安さと質の良さがうちの売だよ! どうだい?」

「え、遠慮しときます」


 歩き始めて一分も経っていないのに怒濤のような声量。ユウが軽く逃げ腰になるのも無理はない。


「それにしてもほんとに店が多いな」


 異世界に来たばかりのユウは知らない。この国は商人の出入りが激しく、さまざまな地域の品が入ってくるので『商いの聖地』と呼ばれていることを。


 気の向くまま店を物色していると、唐突にユウのお腹が鳴った。咄嗟に周りを見るが、幸いに周りの活気のおかげで誰にも聞かれていないようだった。


「そういえば、ここに来てから水しか飲んでないな」


 一度気づいてしまえば知らないふりはできない。さっきからユウのお腹が食い物を寄越せと自己主張している。


「どこかで腹ごしらえを、と」


 腰にぶら下げた麻袋を叩く。中からはジャラジャラと音がする。麻袋の中には金貨や銀貨、銅貨や鉄銭が入っている。この麻袋は決してユウのものではない。ここに着く途中に森で拾ったものだ。異世界で先立つものがなかったユウは落とし主に感謝と謝罪をしながら自分のために役立てようとした。最初こそ金貨を見て驚いたが、よくよく考えればこの金貨がどれくらいの価値があるのかわからないので、両手ばなしで喜ぶことはできない。


「言葉は通じるけど、さすがにお金のことを聞くのは不自然すぎるからなぁ、当たって砕けるしかないか」


 ユウはふと目に留まった串焼きの店で腹ごしらえすることにした。店からは香ばしい肉を焼く匂いとタレの匂いが漂い、空きっ腹を刺激する。店の前まで行くとその匂いはいっそう強まった。ついでにユウのお腹の自己主張も強まった。


「すいませーん」

「はい、いらっしゃい!」

「えーと」


 店をさっと見回すがメニューがなかった。


「あの、メニューは」

「めにゅー? なんだそれは?」

「あ、い、いえ」


 しまった。そうユウは思った。言葉が通じていたから元の世界の常識で言ってしまった。今ユウがいるのは異世界だ。元の世界に無いようなものがあり、あるようなものが無い。メニューというのはこの世界には無いらしく、屋台のおっちゃんからは不思議な目で見られている。


「え、えーと串を五本ください」

「あいよ。ちょっと待ってな」


 そう言っておっちゃんは台の下から肉の刺さった串を五本取り出す。それを金網の上に並べる。そして…。


『燃えろ』


 火種に向け手をかざしたおっちゃんが一言そう呟くと拳程度の大きさの火が点火した。その出来事にユウは目を点にした。ユウが驚きで固まっている間におっちゃんはなれた手つきで串を焼いていく。


「ほら、完成だ!」


 しかし、ユウは受け取れずにいた。目の前で到底起こり得ないことが起きたのだ。無理もないだろう。


「どうした?」

「あ、い、いえ。ありがとうございます」


 串焼きを受け取り、麻袋から金貨を1枚出して渡す。


「よし、串を五本で銅貨5枚。金貨1枚からの釣りで銀貨19枚と銅貨5枚だ」


 そう言っておっちゃんが銅貨5枚を渡してくる。金貨1枚は銀貨20枚、銀貨1枚は銅貨10枚の価値があるということだ。


「まいどあり!」


 串焼きを手に店を後にする。どこか落ち着ける場所で食べたかったが、この際少し行儀悪いが食べ歩きすることにする。


  出来立ての串焼きを一本取りだす。肉がぶつ切りで串に四個刺さっている。中々のボリュームのそれをユウは口一杯にかぶりつく。噛んだ瞬間、肉汁が溢れ、口一杯にジューシーさが広がる。


「ウマッ!」


 ユウはそう言わずにはいられなかった。近くにいた人がぎょっとしてユウを見るが、今のユウには関係ない。ユウにとって今すべきことは、この串焼きを味わい尽くすことだった。


  串焼きの美味しさに感動し、ただ無言で食べ進める。ユウはあっという間に一本目をぺろりと平らげた。続けて二本目、三本目とどんどん腹におさめていく。最後の串焼きを食べる頃にはユウのお腹も膨れていた。あれだけのボリュームがあったのに、食べるのにかかった時間は二分とかかっていない。


「ふぅ、美味かった。ごちそうさま」


 お腹が落ち着いたところで、ユウはさっきの通貨のことを考えていた。


「見た目通り金貨は大金だったな……ということは、しばらくお金に困ることは無さそうだな」


 ユウの拾った麻袋には金貨が4枚、銀貨が7枚、銅貨が16枚、鉄銭が12枚入っていた。普段無駄遣いをあまりしないユウからすれば、少しの間なら十分過ごせそうな金額だ。


「さしあたっては宿探しだけど……異世界転生の醍醐味だし」


 しかしそこで問題となってくることがある。ユウはここの土地勘がまったくないのだ。むしろ異世界に来たばかりなのに土地勘がある方がおかしい。


「うーん。見知らぬ人にいきなり尋ねるのもあれだしなぁ。まずはそれらしいところを探し回るか」


 ぐるりと周りを見回す。看板のようなものが所々見えるが、この通りには宿屋をイメージしたようなものは見あたらなかった。


「ここら辺は食い物の店とかばっかりなのか? 大通りに宿屋はないのか?」


 ユウは一旦大通りから離れることにした。適当に脇の小道に入る。


「さて、なるべく早く見つけないと街中で野宿する羽目になるぞ」


 ユウは宿屋探しに奔走するのだった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……ヤバイよな、これ」


 その声はとても心細いものだった。あれから宿屋を探すためにでたらめに奔走した。しかし、宿屋は一軒も見つけられていない。既に陽は傾き、というかほとんど沈んでいる。辺りは暗く、あれだけあった活気も今では静まっている。道行く人はまばらで、いっそうユウの不安を掻き立てていた。


「このままじゃほんとに野宿することに…いや、それだけは嫌だ」


 今日の疲れを癒すために是非とも寝床につきたいユウ。


「もう恥ずかしいとか言ってられないか」


  今まで避けてきた、初対面の人に道を尋ねるという覚悟を決める。ユウの中で気まずさよりも、疲れをとりたいという欲の方が上回ったのだ。


「あ、あの……」

「……」

「す、すいません」

「……」

「尋ねたいことが……」

「……」


 しかし、コミュニケーションスキルがお世辞にも高いとは言えないユウ。むしろ低い。最初の門番との会話は土壇場だったからこそできたもので、今はまったく話せていなかった。頬を涙で濡らす男の姿がそこにあった。声をかけては無視をされ素通りされることの繰り返しだ。


「……安全な野宿ってどうするんだろう?」


 既に諦めて野宿のことを考え始めるユウ。するとそんなユウの姿を見かねたのか、一人の男が近づいてきた。


「ん? 昼間のときの客じゃねぇか。どうした?」

「どこか野宿にいい場所は……え?」


 ユウが声をかけられ振り向くと、そこには数時間前に会った串焼きの店のおっちゃんがいた。


「こんな時間にどうしたんだ? 大抵のやつはもう帰ってる時間帯だぞ」

「えーと……」


 ユウは驚いていた。このおっちゃんとは昼間に店を利用したくらいの接点しかないのだ。それなのにおっちゃんの方は名前を覚えていた。自分のことを少なからず知っている人。そこからのユウの判断は早かった。


「助けてください!」

「うお!? なんだいきなり」

「それが……」


 ユウはおっちゃんに正直に伝えた。一応、地理がわからないことなどは伏せていたが、この街に来たばかりで宿が全然見つからないということは伝えた。おっちゃんは一瞬驚いた顔をしたが、次には突然笑いだしていた。


「そうか、ハハハ! 坊主は迷子か」

「ま、迷子って……いや、そうですけど。ていうか坊主って俺のこと、なのか?」

「そうだろ? 迷子だなんてな、ハハハ! よし、俺が助けてやるよ。ついてきな」


 ユウは神を見た気持ちだった。今度は自分が誰かに親切にしようと心に誓った。


 おっちゃんが歩き出す。ユウはその背中を見失わないようについていく。さすが現地住人のおっちゃんは勝手知ったる何とやら、どんどん進んでいく。大通りを進み、ある角を曲がり、二、三さらに曲がれば、周りの景色は店が閉まり暗い雰囲気の大通りから、ポツポツと明かりが灯った建物が建ち並ぶ通りに変わった。


「ほら坊主、着いたぜ。ここら辺が宿屋が集まってるところだな。俺のおすすめはそこの青い屋根の建物から三軒奥にある宿屋だ。飯はうめぇし、宿代だって懐に優しい」

「ありがとうございます! 本当に助かりました!」

「なに、いいってことよ! それとな、坊主。俺なんかにかしこまらなくいい。そんなだと肩が凝っちまう」

「で、でも……」

「俺自身がいいって言ってるんだからよ、遠慮すんな!」

「りょ、了解です……だ」


 おっちゃんが話しかけてくれた人でよかった。そう思わずにはいられないユウだった。


「ほら、早く受付に行ってきな。宿をやってるのは見た感じ坊主と年が近そうな嬢さんだ。坊主も気張る必要ないから 話しやすいだろうよ」

「はい! あの……お礼を」

「いいから、いいから。困ってるのを見過ごせなかっただけだ。どうしてもってんならまた店に寄ってくれや」

「それはもちろん! あの串焼きはおいしかったです、から」

「そうか。そう言ってもらえてなによりだ! それじゃ俺は帰るからな」

「すみません、迷惑掛けてしまって」

「気にすんな。とりあえず俺は帰るが、そんなこと気にするくらいなら敬語を使わないように気をつけとけよ!」


 そう言っておっちゃんは帰っていった。その背中はどんなものよりも頼もしく見えた。


「さて、チェックインして早く寝たい」


 おっちゃんから教えてもらった宿屋へと向かう。オススメだとおっちゃんは言っていたが、見たところ他の宿屋とそう変わらない。というか、少なかった。もしかすると知る人ぞ知る、というやつなのかも知れない。


『宿屋 ナームル』


 宿屋の前には、そう書かれたシンプルな看板が立っていた。宿屋は木造建築の4階建てで、外装的にいい宿だと思える雰囲気だった。お客は少ないが。


「いらっしゃいませ! お一人様でしょうか?」


 木製のドアを開け中に入ると、とても可愛い女の子がよく通る声で接客してきた。髪は金髪でツインテール。顔も整っていている。明るくて笑顔が可愛いというのが印象的だ。仕事の制服だろうものは決して派手ではなく、むしろ地味といえる。だがそれが女の子の笑顔を邪魔しない範囲で引き立てているように見える。まさに『王道』と言うに相応しい女の子だ。顔にこそ出なかったが、ユウは内心で歓喜していた。


「はい、そうです」

「お部屋はどうされますか?」

「えっと……懐に優しい金額でよさそうな部屋ってありますか?」

「はい、それですと風の間辺りがおすすめですね。部屋自体ほ簡単な作りで、一般のお客様に人気なんですよ」

「じゃあ、その風の間でお願いします」

「はい、かしこまりました! 食事代含め、銅貨五枚になります!」


 言われて麻袋から銅貨を五枚取り出す。宿代と串焼き五本は一緒の値段らしい。長く生活するなら自炊もしないといけないかもしれないなとユウは密かに考えていた。


「たしかに受け取りました! では風の間は三階です。こちらがお部屋の鍵です。出掛けるときは鍵を受付まで持ってきてください。お食事はお部屋まで持っていくこともできますが?」

「じゃあ、お願いします」

「はい! では後程夕食をお持ちしますね」


 なんて丁寧な接客なのだろうか。ユウは終始デレデレしている。ユウとのちょっとした受け答えですら笑顔で対応してくれる。


  ちなみにユウはコミュ障だったのではと思われそうだが、相手とのファーストコンタクトが苦手なだけであり、それなりの会話はできる。ただし、それは店の人などに限るから、結局は大抵の人に対してコミュ障が発揮される。


 女の子から鍵を受け取り、階段を登って三階へと行く。受け取った鍵には『風の間二○三』とある。階段に近かった部屋から順番に番号を確認していき、鍵と同じ番号の部屋の前で止まる。


 言ってしまえば、風の間は一人で使うには十分な広さの部屋だった。丸テーブルに椅子、金庫らしき箱と簡易ながらもちゃんとしたベッドがあった。


「おぉ……ベッドだ……ベッドだ!」


 元の世界でベッド派だったユウ。しかし家には布団しかなく、ベッドで寝ることを諦めていた。だが、この世界にベッドなるものがあったことに感動していた。さっそく靴を脱いでベッドへダイブする。


「うぉ~。ふかふかとはいかないけど、これはまごうことなきベッドだ」


 右へゴロゴロ。左へゴロゴロ。そんな意味のない行動をすること数回。思う存分ベッドを堪能したユウは、端へと腰掛ける。


「ふぅ……」


 ユウはこの世界に来てからのことを思い返していた。


 目が覚めるといきなり異世界だった。モンスターに警戒しながらこの街までやってきて、そして今どうにか宿に泊まることができた。


「正直わからないことだらけだ」


 ユウには自分の身に何が起こったのかわからない。ただなんとなく、二次元創作ものでよくある展開だなということは理解していた。


 これから自分はどうすればいいのか。今のユウは何一つこの世界の知識がない。となると、この世界について知ることかユウにとって何よりもまず先にやること。知識がなければ迂闊に動けやしない。


  そして、戦い方の研究だ。モンスターがいるかもしれない以上、街の外に出歩くには戦闘は避けられない。自衛の術≪すべ≫は必要だ。それに、モンスターと戦うような仕事が存在するかもしれない。


「はぁ……大好きな王道と思って喜んだけど、なんか大変になりそうだな。一からやっていかなきゃならないことばかりだ」


 これからのことについて頭を抱えるユウ。だが、落ち込んでいるわけではないのは確かだ。


「まぁいいや。とにかく今日は疲れて何もできそうにねぇ。明日のことは明日考えよう。なるようになるさ、というかするさ」


 そうと決めたら寝る。そう結論付けてユウはベッドに潜ろうとする。


  しかし、昼間走ったせいで汗で体がベタつく。スッキリしたいなと思い、部屋の中で風呂場を探すが見つからない。


 その後、受付の女の子に尋ねたが、風呂は銭湯のような場所があってそこへ行ってもらうしかないとのこと。さらに、今の時間だと、もう閉まっているだろうと聞いて、肩を落としたユウだった。

どうでしたか?


もし気に入っていただけたのなら、これからよろしくお願いいたします!といってもまだ1話目なので何とも言えませんよね。


極力1日1話、もしくわ2日に1話を心掛けます!


今回は初めての投稿なので、前書き、後書き共に長ったらしくなってしまいました。

次回からはなるべくすぐに本偏をお楽しみいただけるように、最低限でいくので、よろしくお願いいたします。


皆様におもしろさをお届けできれば幸いです。


(10月 5日 改稿済み)


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