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仮面舞踏会

 いつまでも夢見る少女じゃいられないんですよ、お義母様。


『例えば身分を隠して貴族のパーティーにきていた王子様と恋に落ちる——』


 って、それどんな恋愛小説ですか。ハー○クインもびっくりだ。


 ——なんて思っていた時期もありました。


 今はメリニャック侯爵家主催のパーティーのまっ最中です。それも普通のパーティーではありません、バル・マスケ、なんと仮面舞踏会マスカレードなのです。


 外は鬱陶しい雨模様ながら、パーティーが開かれている侯爵家の会場は明るい音楽が流れ、色とりどりのドレスや仮面に彩られて華やかです。

 仮面舞踏会という趣旨から少し照明は落とし気味なのですが、マスクや飾りに光が反射してきらめき、逆に鮮やかさを引き立てています。

 参加者はみなさん思い思いのマスクをつけています。

 いちおう不審者対策として、この国では顔を全面覆うタイプのマスクは禁じられています。まあフルマスクとかあんまり気持ちのいいもんじゃないから、禁止は賛成です。

 目元と鼻くらいまでの、いわゆるアイマスクというものを、みなさんいろいろアレンジして楽しんでいます。装飾を凝ってみたり、羽つけてみたり、透かし細工で作ってみたり。かくいう私もつけていますが、つや消しのシルバーでこめかみ辺りにさりげなく羽と花が付いているくらいのシンプルなものです。

 メリニャック侯爵家といえば、お嬢様のセルジー様が王子様妃候補にあがっているお家。そんな一流貴族のパーティーにうちのような子爵家が呼ばれるなんて……と疑問に思っていたら、お義母様曰く『お父様と、わたくしの前夫のコネを最大限に活用しましたのよ!』と言われました。

 初参加だから、きっとお義母様の前夫とやらのコネが強かったのではないでしょうか。


「まさか、お義母様の夢見たシチュが現実に起こるなんて」

「え? 何か言った?」


 独り言を言ってたのに横からしれっと合いの手きた〜……って、なぜショーレがここにいる〜〜〜っ!

「ショーレ!?」

「うん、こんばんは〜! で、何が夢見たシチュなの?」

「いやいや……えーと、なんでこんな一流お貴族様のパーティーに呼ばれてるのかなぁって。父のコネだって言ってたけど、あのポヤポヤとしたお父様にそんなコネがあったなんて思えなくてね」

「いやいや、リヨンのお父様は商売に関してはかなりやり手の人だからね」

 びっくりして口をパクパクさせる私を尻目に、ショーレは普通に会話してるし。


 って、ショーレ!


 侯爵家の仮面舞踏会になんでショーレが参加してるのかな?

「ショーレ、仕事はいいの?」

 侍従様、王子様を放置してパーティー参加してもいいのかね? あ、でもショーレは公爵家のおぼっちゃまだから、招待されててもおかしくはないか。

「仕事? まあ、今日も仕事っちゃ仕事だよ。なにせ今ここにシャルトル王子が来てるんだから」

「はぁっ?!」

「内緒だけど、お忍びでね」

 そりゃお忍びなら内緒でしょうよ。

 軽くウィンクするショーレですが、それ大丈夫なの?

 私は周りをキョロキョロして、王子それらしい人を探しました。

 仮面はつけていますが所詮アイマスク。しかも最近のお流行りは透し模様とかレーシーなもの。よほどのっぺりとしたデザインのものでない限り、誰かバレちゃいます。じゃあ仮面の意味ないじゃんとか言わないの! 『ちょっと隠れてる』ってところを楽しんでいるからいいんです。

「でもこんな仮面舞踏会に王子様が来てるのバレたら大変じゃない?」

 侯爵家だって、さすがに王族に向かって招待状出してないでしょうし。

 仮面舞踏会は私的なパーティーの中でもさらに私的なもの。お遊び要素が大きいのです。

 お城で開催ならまだしも、貴族宅での仮面舞踏会に王子様がふらっと参加なんてありえないんだけど。

「うん、だから今日はうちの兄上に変装して参加してるよ」

「ショーレのお兄様?」

「そう。三男で、お城の事務員やってるラヴァル兄さん。ちなみに本人、今日は家で軟禁中」

「……かわいそうに」

 だから、あれ。そう言ってショーレが指差す先は、ショーレのようなサラサラ金髪を短めに整えた(※ヅラです)男の人がいました。シルバーの仮面は巧妙に素顔を隠すデザインで、言われないと王子様には見えません。

「まあ、メリニャック侯爵家だから? お后候補の素の顔を知ろうってわけ?」

「そういうこと、かな」

 ほんとかよ。

 ショーレの歯切れが悪いから、ちょっと信用ならないですね。

 いつもみたいに無愛想で横柄な態度とってたら身バレしちゃいますよ……って、見たら今日は女の人をたくさん側に侍らせて会話を楽しんでいるじゃないですか!! 

 軽口言ったり声出して笑ったり、そんな姿見たことないよ。いつもの無愛想はどこいった? 仮面の力借りすぎじゃね?

 確かにあれじゃあいつもと全然違うから、王子ってバレないか。


「王子様がなかなかお后様を決めないのって、まだこうして遊びたいからじゃないかって思えてきたわ……」

「そ、そんなことないから!!」


 いまだかつてなく楽しそうに談笑する王子様をジト目で見ていたら、ショーレが慌てて訂正しました。そこはソッコーフォローするのね。




 それにしても誰も王子様の正体に気付いていないようです。王子様、どんだけ変装上手いんだか。

 それとも。

「ショーレのお兄様とよく似てるのかしら」

「そうだね、よく似てるよ」

 そう言えば、ショーレと王子様って従兄弟なんですよね。だから似てるってのもあるのかも。仮面つけてるからディテールわかんないし。

 いつもお城で王子様に群がっているお嬢様方ですら気付いてないくらいですからね。


 それよりうちのお義母様!


 あなたの夢見たシチュエーションなのに、王子様に気付いてないってどんな取りこぼしよ。これから先、王子様がこういうパーティーにまた来るとは限らないんですよ、今お近付きにならなきゃいつなるんですか。

 探すと、お義母様やお義姉様たちは他の招待客と談笑していました。なんだろう、この残念感……。

「セルジー様も気付いてないのかな?」

「多分ね」

 お城で見る限りセルジー様は王子様にご執心なのに、ちょっとの変装くらいでわからなくなるなんて。

 やっぱり政略結婚だから、本当は王子様に興味ないとか? お城でのフィーバーっぷりを見ている私としては、あれが演技だなんて……だとしたら怖いわ〜。演技で人のドレスとか汚しちゃうとか、お貴族様こええぇぇ……。

 私が心密かにビビっていると、女子の集団が目に入りました。


「あれ、セルジー様よね」

「一緒にいるのはロシェル嬢かな」


 ロシェル様というのはヴィルールバンヌ侯爵令嬢様です。

 二人とも今若いお嬢様方の中で流行っているレーシーな仮面をつけているので、顔がバレバレです。

 それぞれ取り巻きと思われるお嬢様を連れて談笑中(※見せかけです)です。あ、あのロシェル様の取り巻き、この間私のドレスに飲み物ひっかけていった人だわ!

「やっぱりヴィルールバンヌ侯爵令嬢の取り巻きか。捕まえてドレスの弁償させてやろうかしら」

 思わず低い声で呟くと、

「ああ、あのドレスのね……」

 ちっさい声だったはずなのにすかさず拾ったショーレの目が、怪しくキラッと光った気がしました。大丈夫、私は見てない気付いてない……。

 背中にちょっと冷たい汗を感じていたら、お嬢様方の話が聞こえてきました。


「セルジー様、今日はお招きありがとうございます」

「こちらこそ、来ていただいて光栄ですわロシェル様」

「それにしても楽しい仮面舞踏会ですわね。こんなに盛大だと素敵な殿方も見つかりやすいですわね? まあ、お顔はよくわかりませんけど?」

「まあ! ロシェル様こそ、わざわざこういう場にお出まし。気に入った方は見つかりまして?」

「あら、わたくしはシャルトル様しか見えておりませんから。今日はお兄様の付き合いできただけのこと」

「それは偶然ですわ! わたくしもシャルトル様しか見えておりませんの」

「「お〜ほほほほほ!」」


「「………………」」


 二人とも、その肝心のシャルトル王子が見えてないじゃん……っていうツッコミはおいといて。


 こわっ! お后候補の二人、まじこわっ! こんなところで嫌味合戦とかやっちゃう?


 取り巻きたちも笑顔でバチバチ火花散らしてるし。

 セルジー様とロシェル様のわざとらしい会話に、私とショーレは怖すぎて絶句です。

「あれが最有力お后候補かぁ……。ちょっと王子様に同情したくなったわ。王子様はもうしばらく遊んでいい」

「いや、遊んでないからね! ……うん、でもかなり気の強い二人だからなぁ」

 名門貴族のプライドってもんだね。と、ショーレがつぶやきました。王子妃になるか、側室になるかで身分も気分も大違いですもんね。

「でもさ、そんな性格がバレたりしたら嫌われると思わないのかしら」

 人のドレスに飲み物ぶっかけたりする女って、どうよ?

「そりゃ嫌がられるだろ。でも彼女たちはそういうとこ上手いから、シャルトル様の前では絶対に尻尾出さないよ」

 なにそれ怖い!!

「怖いね……。ショーレもきっとお貴族様からお嫁さんをもらわないといけないだろうから、その時は十分気をつけるんだよ……」

「……そうする」


 やっぱり私にはこういうやんごとなき方々の中に混じるのは向いてないと、しみじみ感じた夜会でした。




 パーティーが始まる前から降っていた雨ですが、帰る頃にはさらに雨脚が強くなっていました。横風も強く、まるで嵐のようです。


「車寄せにまで雨が吹き込んで! ドレスが濡れちゃう〜」

「やだぁ、冷たい〜」

「グズグズ言ってないで早く馬車に乗っちゃいなさい!」


 ドレスが濡れるだの寒いだのグズグズ言うリールとニームにお義母様は一喝すると、馬車に押し込みました。

「疲れたからさっさと帰りましょ」

 お義母様に続いて私が乗り込み扉が閉められると、途端に三人ともぐで〜っとだらしなく伸びてしまいました。確かに疲れましたけどね、それはないでしょ!

「しかし嵐のようになってきたわねぇ。しばらく続くのかしら」

 お義母様が窓から外を覗いて憂鬱そうに言いました。

 この国の嵐は台風のように足早に過ぎていく時もあれば、しばらく居座る時もあるんですよ。いわゆる自転車なみの速度ってやつ?(前世知識)

 しばらく続くのは厄介です。下手すると洪水とかになっちゃいますからね。

 ああでも、最近川の堤防が改良されてかなり高くなったので、洪水の心配はかなり減りました。

 都の中心を流れるコートドール川は、もともと川幅が広く洪水は滅多におこらなかったのですが、


「備えあれば憂いなし。洪水が起これば家屋敷は流され、タチの悪い病が流行る原因になる」


 とかいう王子の一言で、堤防の改良が行われたところです。これも先の流行病以降の王様たちの政策の一環でした。

 洪水の心配が軽減されているから、じゃあ嵐の間は家でおとなしくしてましょうか。


 嵐はまるっと二日続きました。




 台風一過。

 ようやく風雨から解放され、爽やかな青空が戻ってきたと思ったのに。


「お父上の乗っておられた船が難破したそうです!」


 港の役人という人がうちを訪ねてきて、爆弾発言投下です。


 難破!? ナンパじゃなくて難破!?




 お父様、どうなっちゃったんでしょうか!?


仮面舞踏会の決まりなどは『あくまでもこの国では』です。

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