パパの大冒険?
「じゃあ、またしばらく家を空けるからお留守番よろしくね」
「はぁ? またぁ??」
「トロワくんもいるんだから寂しくないでしょ」
一人で留守番できない感じに言われるのが癪に触る。
お父様、トロワと私の家族三人の夕食の席でお父様が唐突に言い出したんだけど、アナタ先週もずっと出張行ってましたよ?
以前からワーカホリック気味に働いていたお父様ですが、最近はさらに拍車がかかってるような気がします。
遭難・行方不明から奇跡の再会を果たしてから、しばらくは家で溜まっていた書類仕事(もちろんお義母様たちが放置していたやつね!)を片付けていましたが、それが済むとまた領地へ行ったり行商(?)に出かけたりするようになりました。
「私がいない間にかなり財産減ってたからなぁ」
「…………」
デスヨネ〜。お義母様たちが散々使い込んでましたもんね〜。
その穴埋めをするべく、いやそれ以上に増やすべく、お父様は仕事に邁進しているようです。
「殿下が……」
「義父上」
「あ〜すまない。ごほん。トロワくんがいてくれるから安心だよ。リヨン一人を置いて仕事に出るのは忍びない」
「留守番くらい一人でもできますぅ!」
「留守はお任せください、義父上。しかし、道中はくれぐれもお気をつけて」
「ははは! そうするよ。今じゃトロワくんが付けてくれている護衛がいてくれるからさらに安心だしね」
「もっと増やしましょうか?」
「いやいや、それはいいよ」
帰還してからお父様はなぜか昇格し、『子爵』から『侯爵』になりました。殉職してもないのにニ階級特進。しかも『外交官』の役職までもらっちゃいました。それはやっぱり王子様の婿入り先(極秘)だからでしょうか?
「船旅はやめてくださいね、お父様」
「もちろんだとも! あんな目に遭うのはこりごりだ。それに陸路を行くと途中で色々面白いことがあるからね」
「?」
難破でトラウマになったらしく、遠出はもっぱら陸路を選択しているお父様。何が面白いんでしょう?
「立ち寄った先々でちょっとしたものを物々交換していくと、最後には意外なものが手に入ったりすることもあるんだよ」
「意外なもの?」
「そう。難破して命からがら流れ着いた時、私は無一文だったわけだよ」
「そうね」
激しい嵐、真っ暗の中沈みゆく船、荒波の海に放り出されたお父様は、手に当たった船の断片——しかも幸運なことに大きめ——に捕まっていたから生き延びれたそうです。
気が付いたら見知らぬ浜辺に打ち上げられていたということなんですが、場所はわからん・無一文・かつ服はビッタビタの水浸しで途方に暮れていたところ、ちょうど通りがかった第一村人さんに「えらく立派な服を着てるねぇ。これと交換してくれねか?」と言われて見せられたのが質素な布の服。質素だろうが破れてようが乾いた服は願ったり叶ったりなので、お父様は喜んで交換しました。村人さん的にはお父様の着ていた服の金ボタンが珍しかったようです。
一方の布の服は、襟元になぜかファーがあしらわれていたそうです。何のためかはわからないけど、とりあえず寒さからは解放されました。
その後、事情を説明したお父様は、第一村人さんの紹介で旅の商人さんに出会い、母国を目指しました。
なんとなくふわっとした説明でしたが母国のことは伝わったらしく、そちらの方向に向かう商隊の荷台に乗せてもらったりを繰り返して帰路についたそうです。
「ところで、言葉は通じたの?」
「そこはなんとかなるもんだよ」
「…………」
商人さんに連れて行ってもらった別の場所で、今度はえり飾り(?)のファーが「そいつは珍しい鳥の羽毛だ。これと交換してくれないか?」と、綺麗な光る石のついた首飾りに変わりました。
そして次の国では……と、物々交換が進んでいくうちに最終的には宝石がゴロゴロという事態になったんだそうです。
「それなんてわらしべ長者」
「なんだいそれは」
「まあいいとして、一度も損はしなかったの?」
「もちろんだとも! これでも商才はあるんだから」
ドン、と胸を叩くお父様。そうだ、お父様は限りなく商人に近い貴族だったわ。
「それにさ、せっかく知らない土地に縁あって来たんだから仕事しないで帰るなんてもったいないよね」
なぜか商魂たくましいお父様は、行く先々でわらしべ長者しつつも土地の特産品を調べ、有力者と知り合いになり『うちと取引しませんか?』と営業をかけて回ったそうなんです。
「義父上、飛び込み営業してたんですか」
「なんだいそれは?」
「いや、なんでもないです」
トロワが感心した目でお父様を見てます。飛び込み営業って、なかなか大変だもんね。千夜も苦労してたっけ。
それはいいとして。
「でも、行ったことのない国って、こう、国同士の付き合い的なものは?」
「それがさぁ、私もびっくりなんだけどね——」
お父様は純粋に『商人魂』で営業してたわけなんですが、国レベルでは……なんと、まだ国交のない国に営業かけちゃってたみたいで、うちの国の王様の方に『そちらの国と取引したい』という申し出が次々に来ちゃったらしいんです。
どうなってるんだ?? と王様や王子様たちが首を傾げていたところ、フルールという国から(ここは国交があります)『オタクの国出身という子爵保護したから送るね〜』という知らせが入りました。
そして帰ってきたお父様に王様たちが事情を聞いてあらびっくり、となったそうなんです。
「だからその外交実績を認められての『侯爵位』と『外交官職』ってわけ」
お父様の話にトロワが付け足しました。
「国交ないところとの橋渡しをしたから?」
「そ。それも何カ国も一度に。狙ってのことじゃないって、義父上は外交の天才だろ。前世なら伝説の営業マンとかレジェンド枠だよ。とにかく義父上の功績は大きい」
「単に〝王子様の婿入り先として箔をつける〟だけじゃなかったのね」
「てゆーか、僕が〝婿入り〟することは一部の人間しか知らないんだから、箔付けも何も意味ないでしょ」
「あそっか」
そうだったそうだった。
王子様は『遠い国のお姫様のところに婿入り』したんだったわ。設定忘れるところでした。
「ははは。まあ、外交官といっても仕事そっちのけで自分の商売ばかりしてるけどね。トロワくんがしっかりしてくれるからありがたい」
「お役に立てて何よりです」
「とにかく今は迷子生活の時にお世話になった方々のところに営業行くので私は忙しいんだよ〜。トロワくんに書類仕事は任せましたよ!」
お父様、外交官という役職をもらいましたがもっぱら〝外まわり専門〟で、ほとんどお城で仕事なんてしてません。
お父様の代わりに『外交官補佐』という肩書きをもらったトロワが、もっぱらお城で書類仕事しています。
「この間ショーレに『以前よりも熱心にお仕事されてますね』って嫌味を言われましたよ」
「いい笑顔のショーレがありありと目に浮かぶわ」
そんなトロワは午前中はお城で仕事、午後からは市場に来るという二重生活……って、前と変わりなしか!
「国王判断レベルの仕事ばかりだから、今度ショーレに振ってやろうか」
仕事量多いんだよ、とかブツブツ文句を言ってるトロワ。
「あら、ちゃんとご自分の仕事はちゃんとご自分でやってくださいね。次期侯爵サマ」
「次期侯爵夫人サマに言われたら頑張るしかないか〜」