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新しい家族

 お母様が亡くなって半年。お父様が新しいお母様を見つけてきました。あんなに身も世もないほど嘆き悲しんでいたくせに……と言いたいところですが、嘆き悲しむお父様より幸せなお父様を見ている方がいいですしね。

 ちょっと(かなり?)面食らいましたが反対する理由なんてありませんので、

「よかった! いい方が見つかったんですねお父様。ぜひ私にも会わせてくださいね」

「もちろんだとも!」

 私はお父様の再婚を受け入れることにしました。




「リヨン、リヨン! こちらが新しいお母さんだよ。ヴァンヌ、私の娘のリヨンだ。仲良くやってくれ」


 衝撃の発言から数日後。

 お父様が新しいお母様をうちに連れてきました。

「初めましてリヨンさん。私はヴァンヌといいます。よろしくね」

 そう言って挨拶するヴァンヌさん。

 亡くなったお母様は青い瞳にふんわりとした金髪が美しい、すらっとしたスレンダー美人だったのですが、ヴァンヌさんは小柄でふっくらした人です。ブロンズの豊かな髪をきっちりとまとめ髪にしている感じは、しっかり者のようですね。若い頃はキリッとした美人だったのかもしれませんが。

 しかしお母様とは対照的な人。お父様、好み変わったのかしら?

「娘のリヨンです。ヴァンヌさん、よろしくお願いします」

 いきなり『お義母かあさん』というのもなんだかなぁと思い名前で呼んだのですが、ヴァンヌさんは悲しげな顔をすると、

「私のことは『おかあさん』と呼んでちょうだいな。これから親子になるんですもの、他人行儀はやめてちょうだい」

 私の手を握りしめてそう言いました。

「そうだよ、リヨン。ああそれから、家族が増えるのはヴァンヌだけじゃないんだ」

「え?」

 私とヴァンヌさん——お義母様を両腕に収めたお父様の言葉に、私は驚きました。まだ家族増えるって? まさかお義母様のお腹に——おっと、ふっくらしてるから入ってるのかそうじゃないのかちょっとわからないなぁ。

「そうじゃない」

 あ、そうですか。私の思考をエスパーしたお父様が即否定しました。

「ヴァンヌにも前の旦那さんとの間に子供がいるんだよ。リール、ニーム。リヨンだ。君たちより年下だから妹になるね」

 お父様がそう言って呼んだのは、二人の娘さんでした。

「リールです。一六歳よ。よろしくね」

 ブルネットのくせ毛のほうの娘さんが言いました。

「ニームです。一五歳。よろしくね」

 ブロンズのくせ毛のほうの娘さんが言いました。

 二人とも私よりも年上なのでお義姉様ですね。でも二人ともを『おねえさま』って呼んだらややこしくない?

 ということで、

「リール姉様とニーム姉様ですね。リヨンです。よろしく願いします」

 とりあえず名前をつけておきました。


 そのあとは新しく家族となった五人で和気藹々と食事をすることになりました。さすがに今日は使用人が作りましたよ。

 和やかに顔合わせが済んで、お父様が明らかにホッとしています。

 お父様の話では、お義母様の旦那さんは都でお商売をやっている人でしたが、先日の流行病に罹って亡くなったそうです。ちなみにお義母様のほうが、お父様よりも五つ年上だそうです。

 もともと取引があって出入りしていたのですが、同じ境遇になり慰め合っているうちに……って、よくある話ですよね。もはやツッコむまい。

「同じ境遇、みんなで仲良くやっていこうね」

 お父様がきれいにまとめました。




 顔合わせからしばらくして、お義母様たちがうちに引っ越してきました。

 亡くなられた旦那さんは商人さんだったけどお金持だったらしく、ドレスや宝石、靴だのなんだの、三人の荷物がどっさり届きました。


「前のお家よりお部屋が広〜い!」

「それに一人一部屋ある〜!」


 お義姉様たちがはしゃいでいます。

 うちは子爵家ですがお金はありますし、ご先祖様が建てたお屋敷も、名門貴族様のお屋敷ほどではありませんが、立派なものですからね。そこらの商人のお屋敷よりは広いです。


 はしゃいでないでちょっと片付けてよ。


 キャラキャラと騒いでいるリールとニームを横目に、私は自分の部屋に引き上げます。手伝う必要なんてないですからね! きっとあれ、あのまま汚部屋になるコースだわ。あ〜ヤダヤダ。

「ほらほら、早く片付けてしまいなさい」

「そうだよ、明後日にはお城のパーティーに行かなくちゃならないんだからね。早く片付けてしまってドレスとか用意しよう」

「「はぁい、お義父様!」」

 お義姉様たちには片付けろって言ってるお義母様ですが、自分の荷物はお父様がせっせと片付けて……って、うぉ〜〜い! お父様! なんでもういきなり尻に敷かれてるんですかっ! これには思わずツッコミました。


 お父様が言ったように、明後日には久しぶりにお城でパーティーがあります。もちろん王子様主催のパーティーです。

 流行病が落ち着いて、ようやくいつも通りにできるようになったようです。また私たちにも招待がきたので行かなくてはなりません。王子妃なんかに興味のない私には迷惑な話でしかないんですがね。

 国が落ち着いたらまた嫁探しですか。王子様もお忙しです。

 リールとニームはお城に行くのが初めてなので、王子様主催のパーティーと聞いて大はしゃぎしていました。まあだってお妃様選びをかねてのパーティーでしたから、いちおう貴族しか招待してませんでしたからね。

 裕福な商人さんのお家だったと聞いていたので、とっくに社交デビューしていると思っていたのですが違ったようです。ということで、お義姉様たちは明後日がお城……いや、社交デビューです。


 三姉妹になったフォルカリキエ家。社交デビューのお義姉様もいますから、お父様は張り切って三人お揃いのドレスを作ってくれました。

 リールには瞳に合わせたグリーンのドレスを、ブラウンの瞳のニームにはクリーム色のドレスを、そして私には瞳の色と同じアメジスト色のドレスをそれぞれプレゼントしてくれました。

 デザインはみんな同じ。リボンとかレースがゴッチャリついているスカートは、腰のあたりにふくらみをもたせたパニエのせいで正面から見ると四角く見えます。今社交界で流行っているスタイルなんですが、パニエがやたら横に膨らんでいて、まるで肘置きみたいに見えちゃうってやつです。私このデザイン好きじゃないんだけど、流行りじゃ仕方ないですよね。いつか自分でドレス作るときには、もっとシンプルなのをオーダーしようっと。

 お義母様も、瞳の色と同じ緑のドレスに緑色の石をあしらった首飾りをつけています。リールの瞳はお義母様譲りですね。じゃあ、ニームは父親似なのかしら。

 私はお父様と同じ瞳の色ですが、他はお母様似だとよく言われます。ふんわりした金髪だとか、すらっとしたスレンダースタイルとか。

 まあそれはいいとして。


 お城のパーティーの日がやってきました。




 今日はシャルトル王子様の一五回目のバースデーパーティーです。

『流行病で疲弊した国民ほっといてパーティーか!』と批判がきそうですが、ところがどっこい。王子様は王様と一緒に次々と政策を展開していって、病気を駆逐しーの、上下水道完備しーの、病院建てまくりーの、その他いろいろ、あっという間にこの国を近代国家にしてしまったのです。そりゃパーティーなんぞ開いている余裕もないほどに働いていたみたいです。次は産業革命でも起こるんじゃないのかってくらい、一気に進歩しました。

 そんな王子様のお誕生日ですからね、国民も納得のパーティーなわけです。

 しかしあの無愛想な王子がそんなやり手だったとは……。愛想はなくても政治的手腕はあるんですね!


 私とお義姉様たちもプレゼントを用意してお城に向かいます。

「王子様って、どんな方なの? リヨンは会ったことあるんでしょう?」

 行きの馬車の中、ワクワクした様子でリールが聞いてきました。

「はい。パーティーで何度か」

 何度()っていうか、何度()ですけどね! でもお顔を見ているだけで、言葉を交わしたことも側近くに寄ったこともありませんよ! 王子様の周りはいつもやんごとなきお嬢様方が取り囲んでいらっしゃいますからね、私のような身分の娘が侍ることなんてできません。

 そりゃプレゼントを渡しに側に寄ったけど、渡したら速攻で周りのお嬢様方に弾き飛ばされますからね、それはノーカンでしょ。

「それで? どんな方なのってば!」

 ニームがせっついてきます。

「ええと……、とてもクールな方です」

『冷たい・無表情』を『クール』とオブラートに包んでマイルドに表現しましたが、まあ嘘ではないですよね?

「かっこいい? 素敵な方?」

 リールは王子様に夢を見ているようですね。うっとりした顔で聞いてきます。

「(顔は)素敵ですよ。凛としていて(ニコリともしませんからね!)」

 いろいろ不都合そうなのは飲み込んでおきました。

「「きゃぁ〜! 本物の王子様って、どんな方なのか楽しみねぇ〜!」」

 リールとニームがキャピキャピはしゃいでいます。


 ……本物の王子様を見て幻滅しないことを祈ります。

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