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ロイヤルウェディングはお断り!  作者: 徒然花
裏側とか、その後とか
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王子様、裏で動く

本編12〜15話目くらいの裏側

「リヨンが最近姿を見せないが、どういうことだ?」

「さぁ。ご病気だということですけど……はっきりとは」

「父親が行方不明になって気に病んでるんだろうか」

「かもしれませんね」

 

 フォルカルキエ子爵が行方不明になってから、城でリヨンの姿を見ることがなくなった。

 城では相変わらず夜会だのパーティーだのが行われていて、子爵家にも招待状が行ってるはずなのに、なぜか参加するのは母親と姉たちだけ。そしてリヨンの欠席理由が毎回『体調不良』なのだ。

「義理とはいえ娘が体調不良だというのに、母親たちは毎回参加ってか」

「そうですね。城だけでなく他の貴族の開催するパーティーなどにも積極的に参加しているようです」

 家に病気の娘を置いてきていることを気にかけもせず楽しげに参加しているのがなんとなく気になっていた。


 そしてようやく——約一ヶ月ぶりに城に姿を現したリヨンに体調を尋ねたらきょとんとされた。


 ——どういうことだ?


 もともと華奢だけど、ひと月病気で臥せっていたようなやつれ感はないし、受け答えもはっきりしてる。少し歯切れの悪い感じが引っかかるけど……。

 これからもそうそう城には顔を出せないと言うくらいに体調が悪いならこちらでなんとかしようと思っていたら、ショーレからとんでもない報告が入ってきた。


「リヨンを使用人にしてる? 子爵夫人が?」

「はい。なんでも『人件費削減』だそうです。浮いたお金は自分たちの遊行費に充てているんじゃないかと」


 ショーレに子爵家の身辺調査をさせて判明した。

 は? リヨンを使用人に、だと?


「ひっでえ話だな! 今すぐにでも行ってリヨンを助け出したいけど」

「時期尚早ですね。なんの準備も根回しも整ってません」

「わかってる」

「元使用人の証言では、子爵夫人がリヨンのことを『サンドリヨン』と呼ぶとか言っているのを聞いたそうです」

「サンドリヨン……」


 意地悪な継母と義理の姉たちに使用人としてこき使われる娘。——ああ、そうか、この世界『サンドリヨン』の世界だったのか!

 僕はすぐさま前世の超有名童話を思い出した。

 なんか中世(近世?)っぽいし、魔法はあるし、やけにファンタジックな世界だなぁとは思っていたけど、そうか、物語サンドリヨンの世界だったのか。

 

 じゃあ僕が何もしなくても、そのうちリヨンは僕のお妃になるってことじゃ……!


 神様ありがとう! ——一瞬この世界に転生させてくれた神を仰ぎかけたんだけど。

「それが、おかしいんですよね」

 ショーレが首を傾げていた。

「何が」

「いやね、普通、子爵令嬢だった娘が急に使用人になれと言われたら、そりゃあ嫌がる、もしくは悲しむものでしょう?」

「まあそうだな。え? リヨンは違うのか?」

「はい。少なくとも市場での買い物は楽しんでいますね」


 ショーレの報告によれば、市場では買い物ついでにつまみ食いやおしゃべりを楽しんでいるらしい。それはまあいいとして。僕の心にものすごくひっかかったのは『下心アリアリの男たちに囲まれてる』ってもの。


「ええ……梨世、そんな子だったの……?」

 どちらかというと控えめな子だったはずなんだけど? 転生して性格変わったのか?

「リヨンの名誉のために言っておきますが、リヨンは男たちの下心に全く気付いてませんよ。むしろ天然小悪魔でしょう」

 若い男を侍らせて微笑んでるリヨンを想像してしまい僕がショックを受けていると、ショーレが慌ててフォローを入れてきた。だよな。よかった僕の知ってる梨世のままだ。

「いや、でもよくないな。未来の妃に悪い虫がついては困る」


 これはなんとかしてリヨンを守らねばなるまい。




 それから数日。

 部下たちがこっそり調べ上げて、家の外でのリヨンの行動はほぼつかめた。

 マークすべきは肉屋と八百屋と果物屋だということも。そいつらが一番リヨンにご執心らしい。店で一番いいものを『味見』と称してリヨンに食べさせたり、買い物帰りの荷物持ちをしたりしてどうにか気を引こうと頑張っているようだ。しかし肝心のリヨンはそんな男心に一切気付きもせず素直に『優しいお兄さん』と思ってるところがなんとも鈍くて『梨世』らしい。転生しても鈍さは変わってないね。

 家の中の様子はさすがに外からではわからないので、『リヨンの見舞い』と称して僕が直接乗り込むことにした。


 まず出てきたのは使用人と思しき男だったけど、家の中ではもっぱら子爵夫人と二人の姉たちが僕の応対をしていた。

 僕の案内をするのは子爵夫人。お茶や菓子の接待をするのはリヨンの姉。リヨンに付いてるのももう一人の姉。どこにも使用人の姿が見えない。

 ふむ、やはり使用人がいないというのは本当のようだ。

 そしてリヨンだけど、ベッドにはいるものの顔色も悪くないし——当たり前か。毎日元気に市場へ行ってるのをうちの部下たちが目撃してるからな。

 これは内情を知られたくない子爵夫人たちに命じられて茶番を演じてるだけとみた。


 リヨンが帰って欲しそうだったから早々に退散したけど、ざっくり子爵家の内情は把握できたと思う。


「さっさとリヨンを城に連れて行きたいところだけど、片付けないといけないことや準備しないといけないことが多すぎて今は無理っぽい」

「そりゃそうですよ。まずお妃候補たちをなんとかしないといけませんし」

「それな」

「あの二人、しぶといですからね……」

「それな……」


 僕のつぶやきを拾ったショーレが気の毒そうな顔でこっちを見ている。

 あの二人——ヴィルールバンヌ侯爵令嬢とメリニャック侯爵令嬢な。二人ともめちゃくちゃ妃の地位を狙ってる。

 どっちも綺麗な顔してるけど性格最悪だから、どちらも御免こうむりたい。

 以前も僕(に扮したショーレ)がうっかりリヨンの名前を呼んだだけで、取り巻きの令嬢たちを使ってドレスを汚すような嫌がらせをしやがったしな。どうしても選べっていうなら独身貫くわ。

「リヨンを手に入れるためにはまずあの二人を排除しないといけないな」

「それには時間がかかるでしょう」

「そうだな」


 まだはっきりしてないけど、気になることがあるので極秘に調べさせていることがる。それがはっきりすれば——。


「とりあえずまだ時間はかかりそうだから、リヨンに悪い虫がつかないよう見守っていく必要がある」

 悪い虫もそうだけど、もし万が一、リヨンの身に何かあっては困る。いくら町の治安はいいとはいえ、何が起こるかわからないし。

「密かに警護をつけますか?」

「いや、他人に任せたくない。僕が行く」

「はい?」

「リヨンが市場に行くのは午後と決まってる。その時間を狙って僕が町に行く」

「あなた仕事あるでしょう! キリッと言い切らないでください。それに殿下が行くとなれば殿下の身辺警護にも人員割かなくちゃならんでしょ」

「仕事は午前中になんとかする! なんとかならなかったものは——」


「わたくしにお任せくださいお兄様!」


 いきなりと部屋のドアをバーンと開いて颯爽と登場したのは、妹姫アミアンだった。

 かっこよく登場してきたけど……お前、盗み聞きしてたな。

「お兄様の留守はわたくしが守りますわ! だからお兄様はリヨンさんをしっかり守ってくださいませ。害虫に持って行かれては困ります!」

「そうだな。アミアンなら仕事の内容もわかるだろうし大丈夫だろう。それに補佐ならショーレもいるしな」

「僕もですか!」

 いきなり巻き込まれてげんなりしているショーレだけど、いつも僕のそば近くにいるし影武者もやってるしで、仕事内容はバッチリ把握してるの知ってるからな。

「あら、心強いですわ」

「え……そうですか? じゃあ、まあ……」

 アミアンに微笑まれて悪い気がしなかったようだな、ショーレ。

 話は決まったな。


「町で直接リヨンを守るとして……適当な拠点が必要だな」

 いきなり城から町——市場に通うのはさすがに身バレのリスクが高すぎる。できれば城に出入りする商人に紛れたい感じなんだけど……。

 どうやって城から町へ行こうかと考えていたら、ショーレが何か思いついたようでポンと手を叩いた。

「なんだ?」

「殿下は市場に行きたいんですよね? なら酒屋はどうでしょう」

「ああ、あそこか。ふむ……ちょっと行って話つけてくる」

「え? 殿下自ら行くんですか!?」

「当たり前だろう。いろいろ打ち合わせもしたい」

「はあ」


 ということで、僕はひとっ走り酒屋へ向かったのだった。

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