友達ができました
シャルトル王子様のお誕生日会以来、お城では子供たちのためのイベントがちょこちょこ開催されるようになりました。大人のパーティーが夜に行われるのと反対に、子供向けのものは昼間に行われるのが特徴です。
私たちはもともと領地に住んでいたのですが、イベントのたびに都に出てくるのは大変です。
しかも、もともと体の弱かったお母様の体調がすぐれなくなってきたことも重なったので、一家で都の家に引越しすることになりました。イベントのことよりもお母様の体調優先ですよ。都ならお医者様にすぐ診てもらえますからね。
ということで、お父様だけが領地と都を参覲交代よろしく行き来することになりました。
今日は外国から有名な(?)楽団が来ているそうで、その演奏を聴く会だそうです。
王子様だけでなく、これからの未来を担う若者(って子供だけどね!)にも本物を聞かせるのだとか、なんとかかんとか。やっぱりフォルカルキエ子爵家にも招待が来て、こうして参上しています。
まあ何度か直接会わせて、王子様が気に入ったお嬢様を婚約者にしようって魂胆でしょう。中身が大人な私にはわかるんですよ〜。まあ私は大丈夫! だって子爵の娘ですもの身分が釣り合わない。
そして今日も両親と一緒にお城に向かいます。
お城は町を見下ろす切り立った丘の上に立っていて、尖塔がいくつもある石造りの立派な建物です。
今までは立派なお城だなぁとしか思ってなかったけど、前世の記憶を思い出してから改めて見ると、これ、ロマンチックな街道にある、とっても有名なお城に似てます。某お城、写真でしか見たことないけど、白い石造り、たくさんの尖塔、ダークグレーの屋根、周りは森に囲まれて……って、まんまです。
まあそれはいいとして。
無事にお城に到着し、演奏会が行われる大広間に案内されました。
今日も王子様に挨拶しに行きましたが、王子様の周りには女の子たちが群がっていて、前回同様すごく苦労しました。
最前列(というか王子様から見える周り)は、とてもおしとやかで綺麗・可愛いお嬢様方がキャッキャウフフとはにかんで笑っていて、とても和やかな雰囲気を醸し出しています。王子様は安定の仏頂面ですけどね! しかし王子様の見えないところでは『ちゃんと並べや邪魔すんなや押すな押すな、いやそこは押せよ』とかやってるんですよねぇ。こんな女子集団見て、王子様はどう思うんでしょうか? ああ、それが不機嫌に現れてるのかそうかそうか納得しました。
とりあえず王子様にご挨拶して、私はさっさと女子集団から離れました。王子様の前でモタモタしていたらはじき出されますからね!
しかしこうも毎回国中の貴族の子弟を集めて開催していると、予算とかも大変だと思うんですが……。
「そこはなんとかなるもんですよ」
「うぉっ!? ショーレ様、私の考え読んだ!」
突然現れたショーレ様にびっくりしました。
ショーレ様、エスパーか! ……じゃなくて。
「ふふふふ。国中の貴族といっても、年頃の『娘』を持つ貴族に限っていますから」
こそっとつぶやいたショーレ様です。ええ〜、何それ魂胆見え見えじゃないですか。
「ふうん? そうなんですね」
とりあえずわからないふりをしておきますが、やっぱり私の推測は当ってましたね!
内心ドヤ顔をしていた私、表面はキョトン顏。どうです、いい演技してますよ。
「今日の楽団はとても有名だそうで、面白い演奏が聴けますよ」
ショーレ様がまた話しかけてきました。
一等席に陣取った王子様集団から離れ、なおかつ他の子供たちの輪の端っこにいた私の横に来たショーレ様。楽団を差しながら今日の演目を教えてくれます。そしてショーレ様は今日も安定の温和な微笑みです。
知らない人だらけのお城でこの人懐っこい笑顔を見ると、それまで何処かこわばっていた気持ちがほぐれてホッとします。ショーレ様だって数回お会いしただけの方なのに。
「そうなんですね! 楽しみです!」
いたって無邪気にお返事します。だって私は七歳だもの! 中身は二十代の大人の意識が混じってますが、リヨンとしての意識の方が強いのでなんとかなっています。前世の意識が出ない様に気をつけないと。
楽団が軽やかな音楽を奏でるのを、私は隅っこの方で聞かせてもらっています。横にはショーレ様。
ショーレ様はなぜかいつも私のそばに来て、私の話し相手をしてくれます。これ、ぼっちを憐れまれてるな。明らかに女の子集団(もちろん核は王子様)から外れてポツンと一人ぼっちで端っこの方にいますからね、私。これが壁の花というものか!?
「ショーレ様は王子様の侍従様なのでしょう? 王子様のお側に居なくていいのですか?」
あまりに私のところばかりに来るので聞いてみれば、
「大丈夫、シャルトル王子のところには別の侍従がいますから。侍従は僕以外にもたくさんいるから、僕一人くらいいなくたって平気です」
なんてしれっと返ってきてしまいました。
「侍従様って、いつも何をしているんですか?」
七歳のリヨンも知らなければ、大人の梨世も知らない。だって庶民だもの。侍従なんて言葉、古典の教科書とテレビでしか聞いたことないもん。
「王子のお世話をしたり話し相手になったりですね。剣の稽古の相手をしたりもありますよ。歳も近いので友達の様な感じです」
ショーレ様はざっくりと侍従のお仕事について説明してくれました。要するに『お友達』なんですね。
そして何気に「王子と歳も近い」と言いましたね。そういえばショーレ様って何歳なんだろう? 初めて見たときは私のお父様と並んでいたから小さく見えて、私と同い年くらいかなぁって思ってたんですけど、実際並んでみると私より頭一つ以上大きいんですよ。
「そうなんですね。ショーレ様はいくつなんですか?」
「僕は十歳です。リヨンさんは……僕より年下ですよね?」
「七歳です。リヨンでいいですよ。“さん”はいりません」
「そうですか? じゃあ僕も“様”はつけないでいいですよ。ついでに普通に話してほしいな。リヨンと僕はもう友達でしょう?」
そう言って首を傾げ、微笑みかけるショーレ様です。うう、美少年の微笑みの威力を知り尽くしてますねアナタ! 破壊力抜群です。ズキュンと撃ち抜かれてしまったじゃないですか!
「……はい」
ショーレ様……おっと、ショーレは私よりもみっつ年上なんですね。年上にタメ口、ちょっと抵抗あるけどいいのかな?
「リヨンは王子のところには行かないの?」
ショーレが王子様の方を見ながら聞いてきました。
王子様はもちろん最前列で、周りには綺麗な女の子たちを侍ら……ゲフゲフ、囲まれています。
「スペースがないわ」
「そうだね。◯◯公爵令嬢に、△△侯爵令嬢に……」
苦笑いしたショーレが、王子様の周りのお嬢様方の名前を連ねていきますが、興味がないので耳を滑っていきます。とにかく、『公爵』だの『侯爵』だののお嬢様ばかりのようです。
「その中から王子様の『お友達』を選ぶのね」
実際は『お友達』じゃなくて『婚約者』ですけどね〜。リヨンはそんなこと知らない体で進めていきます。
「……本当はお后候補だけどね。って、まだ幼いリヨンに言ってもわからないか」
ぺろっと舌を出しているショーレですが、今結構大事なこと言っちゃったよ!? リヨンはわからないけど梨世はわかっちゃうよ!
「おきさきこうほ? なあに。それ」
キョトンと首を傾げ、わからないフリをします。リヨン七歳だもん!
私が必死でわからない演技をしてるというのにショーレったら。
「まあ、王子の女友達、ってことで。ぶっちゃけあの中から正妃を一人、あと側妃を何人か選ぶんだけど、王子はどれも拒否してるんだよね。選ぶとしても正妃一人がいいって」
ボソッとエグいことをつぶやきました〜!!
ナニソレ聞いちゃまずくない!? ショーレ、それを七歳の子相手に暴露しちゃダメでしょ!
思わずショーレを二度見しました。
いや、ここは理解した顔しちゃダメなやつですよ頑張れリヨン!
「う〜ん、よくわかんない」
さっきよりもさらにキョトンとした顔を作りました。ああもう、最優秀女優賞いただきですよこれ。
「そうだね、リヨンにはまだ難しい話だったね。ごめんごめん」
爽やかに笑ってますが、ショーレ……。
内心ジト目になった私です。
「ショーレ様と仲良くお話ししてたね、リヨン」
帰りの馬車でお父様につっこまれました。
「ショーレは一人ぼっちの私をかわいそうに思ったんですわ。ショーレは王子様の侍従なんでしょう?」
「そうだよ」
「じゃあきっといいお家の人なんだろうなぁ」
七歳のボキャブラリーなんてこんなもんでしょう。いいお家=高貴ということで理解してくださいお父様!
「いいお家? ああ、そうだね。ショーレ様はモントルイユ公爵の四男だから」
さすがは親子。ちゃんと理解してくれたのはいいんですが。
公爵様の四男て! それ、子爵の娘ごときがタメ口聞いたらダメなやつじゃないですか……!
あくまでも『この国の侍従』はこういう感じということです。