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お化粧品を作ろう!

「欲しい色があれば自分で作ればいいよ」

「はい?」


 おばあちゃんがものすごく簡単に言いましたけど、化粧品ってそんな簡単に作れるものなの!?

 ああ、いや、作れますね。前世でも自作の化粧品使ってる人いましたもんね。失礼いたしました。

 ただ私が作ったことがないだけです。

 私は、売られている化粧品を買うのが当たり前だったし、そして出来上がった商品ものを売るだけでしたから。

 でもでも、作ったものを自分で使うのは問題ないと思うんですが、それを売るとなると法的にアレなんじゃ……。

「私が作った化粧品を売ったら犯罪になるんじゃないの?」

「何を言ってるんだい? そんな法律ありゃしないよ」

「そ、そうなんだ」

 ないんだそうです。

 そっか、ここは『お話の中の国(ファンタジー)』だもんね。

「自作の化粧品を売って犯罪になるなら、私なんてとっくに牢屋行きになってるさ」

「化粧品作るの、無許可なんだ……」

 いいのかしら? 

 無許可で誰でも作って売れるなら、粗悪品が跋扈してそうだけど。

「無許可だけど、品質がしっかりしてないと売れないから、悪質な業者は潰れていくんだよ。『あそこの商品はいい』『あそこはダメだ』って、評判ってものは口から口へとすぐに伝わるからね」

「なるほど!」

 消費者の目は厳しいのですね! そしてここでも口コミの力すごいんだ。

 最近までお嬢様生活をしていた私なので、庶民の皆さんが使ってる化粧品(とそれを売ってる業者)のことなど全然知りませんでした。でも確かに、貴族・お金持ち社会でもお化粧品屋さんの興亡はあります。前にお義姉様たちにお使いに行かされた老舗の化粧品屋さんは、その品質と確かな信頼とで長く都に君臨しています。詐欺まがいの品物を置いていたお店はあっという間に潰れましたし。そういうもんなんですね。


 あ、でも私が作るって、材料も作り方も全っ然わかんないんですけど??


「化粧品って、私でも作れるの? おばあちゃんが魔法で作り出してるんじゃないの?」

「いくら魔法でも、実体のないものを存在させることはできないんだよ。よそ様はどうやって作ってるか知らないけど、うちでは材料を用意して、それをいい具合に調合して、最後に魔法をかけるんだ」

「よそはよそ、うちはうち、ってやつですね! ところで〝実態のないものを存在させる〟ってどういうこと?」

「〝ない〟ものは〝ない〟、ってことだよ」

「じゃあ、葉っぱ一枚を薬に変えることは……」

「できる」

「何もない、空中から薬を出すということは……」

「できない」

 なるほど。

 魔法使いが『ビビD…………ぶー』的な呪文を唱えて杖を振ったらあ〜ら不思議、何もないところからポンっとかぼちゃの馬車が出てきました〜ってことはないのですね。そういえば物語の中でも『かぼちゃ』が『馬車』に、ネズミが『馬』にって、実体あるものが変質してました。ここでの魔法はそういう仕組みなんですね。よくわかりました。

「じゃあ、お化粧品は、材料を集めてきて調合すればできるのね」

「さっき言ったよ」

「そうでした。それを私が集めてくればいいってことね」

「そういうこと。さすがに私も歳だから、薬草集めに行くのがキツくなってきたんだよ。リヨンが集めてきて調合するなら、お代の取り分は八二にしてやるよ。しかも仕上げの魔法付き!」

「商談成立!」


 なんて魅力的な提案なんでしょう!

 おばあちゃんと私、ガッチリ握手を交わしました。




 その日からしばらく、私はお客様の予約入れずに薬草の勉強に勤しみました。


「これが肌をしっとりさせる効果のある薬草、これがスベスベにする効果のある薬草……」

「ふむふむ」


 実際の薬草おばあちゃんのストックを見ながらのお勉強。忘れないようにイラスト入りでメモります。

「欲しい効果の薬草を混ぜるだけでいいの? ダメな組み合わせとかある?」

「ダメな組み合わせはないよ。効能が喧嘩する時は、最後に魔法で調整するから」

「すごいね、魔法!」

 副作用や組み合わせの不具合は魔法で調節ですって! なんて素晴らしい。

 だから調合は以外と簡単でした。

 しっとりのお化粧水がいいならしっとり成分の薬草をたっぷり使えばいいだけ。そこに美白成分が入れたかったら、その薬草を足す。これなら私にも作れます。薬草の割合はこれから要研究ですね。

「師匠! 化粧品に香りをつけたい時はどうすればいいんですか?」

「好みの香りの花や草を入れたらいいよ」

「材料の匂いが邪魔をしませんか?」

「そこは魔法でちょちょいっと」

「すごいね、魔法!」

 青臭い匂いとかしたらせっかくの化粧品も台無しですもんね。いやぁ、やっぱりすごいわ魔法って。

 でもおばあちゃんに頼りっぱなしじゃダメですよね。おばあちゃんがいつまでも元気でいてくれたらいいけど、魔法が使えなくなった時に困るしね。

 臭い消しの方法も、これから要研究っと。


 あまり時間のない私ですから、重要なことを最優先に勉強して、後は実践しながら勉強していくことにしました。

「薬草の生えている場所は、リヨンにだけ特別に教えてやるよ。ここは私だけの場所だからね、誰にも教えちゃいけないよ」

 そう言っておばあちゃんは紙をくれました。

 早速開けてみるとそこには簡単なこの国の地図が書いてあり、いろんなところに印が付けてあり『ここにはこの薬草が生えている』とメモされていました。

「ありがとう、おばあちゃん! でもこれ、私一人で行けるかしら?」

 町からそう遠くない森の中に大体の薬草はあるのですが、何度も言いますが、私はお嬢様でした。せいぜい都と領地を往復したことくらいしかありません。

 地図は読めてもそこにたどり着けるかどうか、さすがに自信ない。

「そうだねぇ。トロワあたりに相談したら一緒に行ってくれるんじゃないかい?」

「トロワに? でも他言無用なんじゃ……」

「トロワなら大丈夫だよ。あの子は喋っていいことと悪いことがちゃんと区別つくからね」

「そう」

 かる〜くナチュラルに女の子褒めちゃったりするけどね! ……って、今はそれ関係ないか。根に持ってるな、私。

 



「というわけで、薬草の生えてる場所まで連れて行って欲しいんだけど……いい?」


 おばあちゃんの薬局からの帰り、今日の買い物してたら配達帰りのトロワに出会って、いつも通り荷物持ちをしてくれ、いつも通り家まで送ってくれてる時にさっきの話をしました。

「もちろんお仕事の忙しくない時でいいの」

「全然構わないよ。むしろリヨンを一人で行かせることの方が心配だもの」

「ありがとう」

「で、地図を見せてくれるかな?」

「ああ、これ」

 私はおばあちゃんからもらった地図をトロワに渡しました。

 トロワは私から受け取ると、

「どれも知ってる場所だよ。配達の途中でよく通ったりするところだ」

 ニコッと笑いました。

 よかった! 知らない場所だとどうしようかと思ってたんですが、それなら心強いですよね。

「遠い、よね?」

「近くはないかな。半日もあれば十分、行って薬草を摘んで帰ってこれるよ」

「そっかぁ。じゃあ、奥様たちが遠出したりお泊まりに出かけてる時に行くしかないわね……」

 半日だと、いつもの買い物時間では収まらないわ。

 お義母様たち、遠出の予定あったかしら? これは帰ってからスケジュールの確認をしなくては!

「行ける日がわかったらトロワに言うわ。あ、でもトロワは自分のお仕事優先してね。ダメだったら一人でなんとかするから」

「わかったよ」


 ということで、化粧品マイブランド制作の第一歩が踏み出されました。

 自分で作ったものを売り出すって、ドキドキするけどやっぱりワクワクしてきます。どんなのにしようか、イメージしとかなくちゃ。




 ……とはいいつつも。

 家に帰ってお義母様たちのスケジュールを確認しました。

 お義母様たちったらルーズだから、頂いた招待状の管理は私がやってるんですよ。といっても、物書き机の引き出しに時系列で入れてるだけなんですけどね。

 ざっと確認しましたが遠出の予定もお泊まりの予定もありません。現実なんてそんなもんですよねぇ。

 しかし困ったなぁ。どうやって薬草採取の時間を捻出しよう?

 少しの間でも私がいなくなったら文句言いまくりのお義母様たちですからねぇ。文句言いまくり、食事抜きは当たり前。あ〜、本当この家から早く脱出したい。なのにその手段である化粧品を作る薬草を取りにいけないとか、すごい辛い。

 はぁ……とため息をつきつつついでに物書き机の整理をしていると、


「サンドリヨン! 帰ったわよ! こんなところで何サボってるの!」


 どやどやっとお義母様たちが帰ってきてしまいました。

「居間のお掃除をしていただけですわ。お帰りなさいませ」

 お義母様たちに駆け寄って、羽織っていたストールを受け取ります。

「あらそう、ならいいのよ。今日はもうお腹いっぱいだから、夕飯は軽くサンドイッチでいいわ。具はステーキにしてちょうだい。薫製肉の入ったスープも忘れないで」

 お義母様がそう指示しましたが、その〝軽食〟のどこが軽いのかを教えて欲しい……。

「かしこまりました」

 ツッコミはしませんよ! 黙って言われた通りにするのが優秀な召使いです。部屋に帰ってからジワジワくるかも。


 お義母様に言われた食事を用意するために台所に行こうとしたところで、

「ああそうだわ。今日のお茶会で◯○家の別荘に招待されちゃったのよぉ! 二週間後だから急だけど、ちゃんと準備してちょうだいね」

 お義母様がおっしゃったお家は、確かショーレの、モントルイユ家の遠縁かなんかだった気が。別荘も、都の外れの静かな田舎町にあったと思います。

「かしこまりました。ということは、泊りがけでお出かけされるのですね?」

 大事なことなのでしっかり確認です。お泊まりですよね? ね?

「ええ、そうよ! たくさんの貴族が夜通し楽しく過ごすんですって!」

 お義母様が上機嫌で答えてくれました。


 なんて好都合!


「楽しそうでございますね」

 私も思わず笑みがこぼれました。え? パーティーが楽しそうだからって? 違いますよ、お義母様たちが留守にするってことが嬉しくってですよ!

「あら、サンドリヨンは連れて行かなくてよ」

「もちろん、わきまえておりますわ」

「聞き分け良すぎて気味が悪いわ」

 じとんとした目で見てくるリールですが、私、パーティーに連れて行けと駄々こねた覚えまりませんけど?

「では、外出の準備もしておきますね。では、お食事の準備をさせていただきますね」

 スキップしそうなのを必死で抑え、しずしずと台所に向かいます。


「楽しみねぇ、別荘!」

「あそこのお家って、モントルイユ公爵家と親戚でしょう? 公爵家の方も誰かいらっしゃるかしら?」

「お近付きになりたいものねぇ」


 居間からキャッキャウフフとはしゃぐ声が聞こえてきます。やっぱりさっきのお家はショーレんちの親戚でしたね。

 お義姉様たち、王子様狙いは諦めたんですか?


 とまあ、それはいいとして。


 これで時間を気にせずゆっくり薬草採取にいけますね!


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