表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/71

元に戻る

 お父様失踪(死亡?)からのショックで病んだ……ということにして、私は社交界からフェードアウトを狙ったのですが、ショーレのせいで失敗したようです。

 ……いや、ショーレのせいじゃないですね。ショーレはただ純粋に私の身体を心配してくれてただけなんですから。

 ショーレといえば、お見舞いの花攻勢! 街の花屋さんが品薄になるくらい花を買い占めちゃって。ああもう。

 とにかくショーレに会ってお見舞いの花攻めをやめさせないといけないので、手っ取り早くお城のパーティーに参加することにしました。




「あっ、ショーレ!」


 いつもはショーレの方が先に私を見つけて寄ってきてくれるのですが、今日はお話がありますからね、会場に着くと真っ先にショーレの姿を探しました。

 ショーレは他の侍従仲間と話をしているようでしたが、私の姿を見つけるとすぐに周りに断りを入れ、こちらに来てくれます。

「リヨン、今日は参加して大丈夫なの?」

「うん、もう大丈夫だから。ショーレがお見舞いに来てくれたし、お花もたくさん贈ってくれたから早く元気にならなくちゃって。ありがとう」

「そっか。ならよかったよ」

 ホッとしたからか、ふわりと優しく微笑むショーレ。いつ見てもイケメンだなぁ……じゃなくて。

 病気云々は嘘なのでチリッと心が痛みますが、とにかく花攻めをやめさせないと!

「だからもうお花も贈らなくていいからね?」

「わかったよ」

 ショーレは私がこれまで通り元気そうなのを見て、綺麗な青い瞳を細めました。

 これで街から花が消えることはなくなりましたね! 街の人たちも嬉しい、私も嬉しいで、よかったよかった。

 私が元気になったと喜んでいたショーレですが、ハッと思いついた顔になったかと思うと急に真顔になってしまいました。おや、どうしたんですか?

「ショーレ? どうかしたの?」

 何か気になることでもあるのかと小首をかしげると、

「うん、ちょっと気になることを思い出したから」

 そう言ってまっすぐに私を見てきました。

「気になること?」


「うん。ねえ、リヨンの家の使用人はどうなってるの? 僕がお見舞いに行ったあの日、誰もいなかったようだけど」


 ドッキーン! 私の心臓が大きく跳ねました。


「玄関に対応に出てきたのは子爵夫人でしょ。リヨンの部屋に案内してくれたのはリヨンのお姉さんでしょう。そこは普通執事やメイドがやるべきことでしょう?」

「!!」

 ショーレの言葉に、私は変な汗が吹き出てきましたよ!


 ショ、ショーレ様〜! それ気付いちゃいけないやつですよ〜!!


 さすがショーレというべきか?

 うちへの訪問なんてそう長い時間でもなかったのに、使用人がいないことに気付いちゃってる!?

 おぅ……。

 ここは正直にお義母様たちのやったことを話すべきなのか、それとも黙っておくべきなのか……。

 ちらりと上目遣いにショーレの顔色を窺います。変わらずまっすぐに私を見つめショーレ。

 今の私の扱いをショーレが聞いたら、黙っちゃいなさそうですからねぇ。


 どうしよう?


 使用人扱いされてても虐待されてるってわけじゃないし、むしろ気楽でいい感じだからなぁ。

 ショーレならお義母様たちをうちから追い出して、私をお父様が見つかるまでの間、私を当主代理として据えちゃいそう。それだと私が社交界に出入りする確率アップで『運命ストーリー』通りに話が進んでしまう可能性が高くなっちゃう?! ……彼ならそれが実際できそうだから怖い。

 わたし的には、王子様から逃げるためには庶民に紛れるのが一番だと思うんですよ。ということは、街にも自由に出れてなおかつ社交界にはそんなに頻繁に顔を出さなくていい、現状維持のまま自活する道を探すのが一番いいのかなぁと。

 やっぱりこのままそっとしておいてほしい、かな。


 そう考えた私は、現状を隠す方向に決定しました。

「ええ? おかしなことを聞くのね。使用人はいるけど、たまたまあの日はお休みを取ってたのよ」

 なんでもないふりをして私は答えました。

 しかしショーレは、それでは引き下がりませんでした。

「執事も?」

「所定のお休み」

「メイドは?」

「風邪をひいて休んでたの」

「全員?」

「え〜と、風邪とか腹痛とか、実家で不幸があったとか、いろいろ、そう、いろいろ重なったの!」

「客室接待係は?」

「うちはショーレの家と違って、そんなにたくさんの使用人なんていないの!」

 矢継ぎ早に質問を浴びせてくるショーレに、私はとうとうキレました。逆ギレっていうのかしらこれ。お父様がいた時から客室接待係なんていなかったっつーの! 使用人がたくさんいるのは、高貴かつとびきりお金持ちのおうちだけですよ。

「ふうん……」

「とにかく、たまたまお休みが重なっただけだから」

 何かを見透かすように私の瞳を見てくるショーレから視線をそらして、私は強引にこの話を終わらせました。




 お城でショーレに直訴した甲斐あってか(?)、ようやくショーレからのお見舞い攻撃が収まり、いつもの日常が戻ってきました。


「リヨン! ドレスを着せて!」

「は〜い、ただいま」

「リヨン! 髪を結って!」

「は〜い、ただいま」

「リヨン! 馬車の支度はできてるの?」

「御者に連絡します」


 お義母様たちはいつものパーティー三昧。

 私はいつも通りメイド兼執事兼料理人。さすがに御者まではできないので、御者だけは解雇を免れました。

 

 朝から晩まで使用人生活で忙しい——といってもお義母様たち、朝はかなりお寝坊するし、昼からは夜のパーティーに向けて昼寝をするしで、結構私の自由時間多いんですよね。ドレスにヘアー&メイク道具を持って三人の間を右往左往していますが、出かけてしまえばパラダイス。さっさと支度を手伝って外出してもらいましょう。

 やっぱりこの生活で……いやいや、悪くはないけどよくもない!

 さっさと自立する手立てを考えて、この家出て行きましょう!


 そんなある日のこと。


「こんにちは〜。ご注文のお酒、お持ちしました〜」

「は〜い、今開けま〜す……あら」


 いつものお酒の配達だな〜と思って私は勝手口を開けたのですが、そこに立っていたのはいつもの人のいいおじさんだけではありませんでした。

 ボッサリとした黒髪、黒縁メガネをかけた若い男の人が、今日うちが注文していたお酒を持って、おじさんの隣に立っていました。

「どなたですか?」

 私がおじさんに尋ねると、

「今日からうちの酒屋を手伝ってくれるトロワという者でね。これからオタクの配達はトロワが担当するから、よろしくお願いするよ」

 ということでした。

「そうなんですね! トロワさん、えっと、フォルカルキエ家の使用人をしているリヨンです。これからよろしくお願いしますね」

 私よりも軽く頭一つ分は背の高い彼に向かってニコッと笑ってご挨拶したのですが、

「使用人……?」

 そこで首を傾げられました。なんでそこ?

「使用人というか、召使いというか、まあ、雑用係です」

 結構使用人が板についてきたと思ってたんだけどなぁ、使用人が信じてもらえなかったのかしらと思っていろいろ言い募っていたら、


「いや、そうじゃなくて。すみません。あなたみたいな綺麗な人が使用人だなんて信じられなくて」


 野暮ったい外見からは考えつかないようなことを言われてしまいました。しかも結構いい声してる!!

 長めの前髪と分厚いメガネのせいで瞳はよく見えませんが、口角を上げニコッと笑ってそんなこと言う〜!?

 まさかのギャップに、初対面でドキッとさせられてしまいました。なにこの人、天然タラシくん!?

「そ、そんなことないです! こ、これからよろしくお願いしますね」

 あせって噛んじゃったじゃないですか。

「こちらこそ、これからもご贔屓お願いします」

 そう言ってぺこりと頭を下げるトロワ。

 はぁ〜。ビックリした。

 トロワって、見た目もっさりしてるけど、意外と彼女が途切れないタイプかもしれないですね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] トロワと聞くとスネ夫ヘアーの同名な方を思い出す今日この頃
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ