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わかってしまった!

「お父上の乗っておられた船が難破したそうです!」


 港の役人という人がうちにやってきて告げたのは、衝撃的な一言でした。


 お義母様たちはパーティーの疲れとかで、リビングでグダグダしていたので、私一人が玄関に出て応対しています。でもこれ、一人で聞くには重すぎる内容だと思うのですが。

「……それは本当にうちの父なのでしょうか? それに、あなただって、本物のお役人さんかどうかも……」

 私はじっとお役人さんを見ながら言いました。ほら、『オタクのお父さんが大変な目にあってます! 急場をしのぐために現金を用意して〜』とかいう詐欺だと困りますからね!

 すると私の心の声が聞こえたのか、お役人さんは自分の身分証明書を提示し、そして、

「残念ながら、難破船に乗っていたのはアベビル・ド・フォルカリキエ子爵の一行でございます。お父上様ですよね?」

 すまなさそうに言いました。


 しっかりはっきり聞こえてしまいました。完全にお父様(の名前)です。


 異常な速さで鼓動を刻む私の心臓。手が震えるのを、ぎゅっと握りしめてごまかします。

「……はい、そうです。それで、父はどうなったのでしょう?」

 そして絞り出した声。

 一縷の望みをかけて尋ねました。


「先日の嵐に巻き込まれて船が難破してしまい、お父上は乗組員共々暗い夜の海に投げ出されてしまったそうなのです」

「それは誰から聞いたのですか?」

「運良く通りがかった船に助けられた乗組員の一人が先日帰国し、話してくれました」

「では父上も……」

「助かったかもしれませんし、そうでないかもしれません。今のところ、どこにもお父上の姿がありませんので……」

「そうですか……」


 生死はわからないということを上手く言いましたねお役人さん。なにせ本人の体がないですからね。

 私とお役人さんでため息をついていると、


「いやぁぁぁぁ!! アベビルが、そんな、死んじゃったなんて!!」


「うわぁ!?」

「びっくりした! お義母様!」


 いきなり横で叫ばれて、心臓飛び出るかと思った!! ドキドキドキドキ。

 お役人さんと二人でものすごく驚いてしまいました。

 いつのまにかリビングから出てきて話を聞いていたお義母様が叫んだのです。顔が真っ青です。


「アベビル、アベビル! どうして私を残して逝っちゃったの!?」

「「…………」」


 ちょっと待って。まだ死んだとは断定してないんですけど?


 お役人さんも『決めつけるのはどうなの?』的な顔してお義母様を見ています。ですよね〜。


「お義母様、落ち着いてください。まだそうとは決まったわけじゃ……」

 私がお義母様を落ち着かせようとゆっくり話しかけたのですが、

「これが落ち着いてなんていられますかっ! ああ、アベビル、あなたまで私を置いて先に逝くなんて!!」

 お義母様の取り乱しようが半端なくなってきました。全然聞く耳持ってません。

 しかもお義母様の中で、お父様はすっかり亡くなったことになってしまっているようです。まだ殺さないでほしいんですけど?

「お義母様、まだ行方が分からないってだけで」

「行方不明は死んだも同然!」

 変なところできっぱり言い切るお義母様。


 いや、だから。どうしてそうなるの?


 どう声をかけても私の声は届きません。

 これ以上お義母様の大変な姿を他人に晒すのもどうかと思った私。

「母が取り乱しておりますので、今日のところはお引き取りくださいませ。わざわざご連絡くださり、ありがとうございました」

「いいえ。お嬢様も、お気を落とさずに。何かありましたらすぐにご連絡いたしますから」

「よろしくお願いします」

 取り乱しまくっているお義母様を家の奥に押しやりながら、お役人さんにお帰り願いました。なんか、すみません。




 とりあえずお義母様をリビングに連れて行き、ソファに座らせたのはいいのですが、


「また未亡人になっちゃった〜!」

「これからどうやって生きていけばいいのかしら?」

「次の旦那を探さなきゃ」


 と、とにかく騒ぎまくりで。って、最後のセリフはどうなの?

 どうしたもんかと思っていたら、騒ぎを聞きつけたリールとニームも自分の部屋から出てきました。

 この二人なら血の繋がった母娘おやこですから、お義母様をなんとかしてくれるかなぁって思ったんですけど……甘かった。


「いったい何を騒いでるのよ?」

「お母様ったら、何を泣き叫んでるの?」

「先ほどお役人さんが来られて——」


 嘆き悲しむお義母様の姿を見てびっくりしたリールとニームが聞いてきたので、私が説明しようとしたら、


「お父様が亡くなっちゃったのよ!! また母娘三人残されたのよ!!」


 お義母様が叫びました。

 だーかーらー、それはまだ決まったわけじゃないって、お役人さんも言ってたでしょ!

 混乱している人は黙っててください!

「あ、違うんですリール義姉様ねえさま。先日の嵐でお父様の乗った船が難破してしまって、お父様が行方不明に……」

 私はお義母様の間違った情報を訂正しようとしたのですが、


「なんですって!? お義父様が亡くなったっていうの!?」

「いやぁぁぁぁ。また三人で生きていけというの!?」


 お義姉様たち、私の話ではなくお義母様の話の方を聞いちゃいました。

 ……デジャヴ。

 お義姉様たちも私の話を最後まで聞かずに絶叫してますし。間違いなくあなたたちは母娘おやこですね。人の話は最後まで聞こうよ。

 お義母様一人でも大変だったのに、そこに義姉たちまで加わって……。もうどうしたらいいの!

 ワァワァ騒ぐ三人を置いて私は台所へ向かい、気付けのブランデーを持ってきました。

「これ飲んで落ち着いて。とりあえず今日は寝てください」

「「「わかったわ」」」

 三人にブランデーの入ったグラスを渡して飲ませました。


 無言でグラスの中身をチビチビと舐めている三人。ようやく静かになりました。


 この人たちの中でお父様はどういう立ち位置なんでしょう? やっぱり金づ……げふげふ、社会的後ろ盾、くらいなものかな? お父様がいなくなって『悲しい』というより『困る』って感じがします。


 本当にお父様、どうなっちゃったんでしょうか。

 お義母様の言うようなことになっていないことを願うだけですが……。こればかりは連絡がくるまでわからないからなぁ。今の私にできることは、お父様のご無事を祈ることだけですよね。大丈夫、私だけはお父様の無事を最後まで信じてますから!




 静かにブランデーを舐める三人を眺めながら物思いに耽っていたのですが、


「もうなくなっちゃったわ! これくらいじゃあ酔えないわよ、もっと持ってきなさい!」

「リヨン〜! ブランデーのおかわり〜!」

「おつまみも何か作ってぇ〜!」


「…………」


 気付けにってブランデー渡したのよ! 誰ががっつり飲めって言ったのよ!!


 落ち着くどころか、なぜか酔っぱらい化した義母と義姉。

 ええ〜もうヤダァ……。

 酒盛りを始めようとする三人にガクッとうなだれていると、


「早くしなさい!」

「は〜や〜く〜!」

「おつまみ〜!」

「……はい、わかりました」


 仕方なく台所へと向かう私。もういいわ、酔っ払ってさっさと寝ちゃってください。

 使用人たちはとっくに帰っている時間なので、私は台所にあった適当な食材で適当なおつまみを何品かパパッと作り、ついでにブランデーをボトルごとリビングに持って行きました。お代わりは自分で作ってね!


 あ〜もう! この人たちのせいで私、落ち込んだり悲しんだり考えたりする暇ないじゃないですか!


 ……そういえば、お母様が亡くなった時も、お父様が取り乱しまくったせいで悲しむ暇なかったなぁ……。




 それからお役人さんから続報が届くことなく、お父様の行方は依然としてわからないままでした。


「こうなったら次を探さなくちゃ!」


 変なところでお義母様がファイトを燃やしています。

 それにひきかえお義姉様たちは、

「お母様だけじゃなくて私たちのも探してよぅ〜」

「私はリール姉様と違って、お母様にくっついていくのでもいいわ」

「何よニーム」

「何よ」

 やる気があるのかないのかわからないことをグダグダ言っているので、お義母様は二人をギロッと睨むと、

「あんたたちのももちろん探すわよ! 今まで以上に気合い入れてパーティーに行くわよ!」

 婚活推進宣言です。

 今までも結構頻繁にパーティー参加してましたよ。これ以上増やすってあなた、お金どーすんの!

 パーティーに出るのもお金がかかるんです。ドレス代だの宝飾品代だの、お義母様たちはお金遣い荒いんですよ。

 今まではお父様がワーカホリック気味に働いてくれていましたのでどうってことありませんでしたが、そのお父様は行方不明です。当然収入は激減です。これからは領地から得られる収入しかないんですよ?

「お義母様、あの。お父様がいない今は、あまりたくさんお金を使うのは得策じゃないと思うんですけど」

 リールもニームも言わなさそうなので、私がお義母様に進言すると、


「じゃあ生活費を切り詰めましょ。そうねぇ、手始めに使用人はやめさせようかしら。お給料がもったいない」


 いいこと思いついた! みたいな顔でそんなこと言うのやめていただきたい。


 お義母様があまりにとんでもないことを言い出したのでびっくりしてしまいました。だってお義母様の部屋もリールとニームの部屋もどれも汚部屋ですよ、そんな人が家事できるわけないじゃない。

「え!? では、掃除洗濯炊事はどうするんですか? 誰がやるんです?」

 私は慌てて止めたのですが。

「あら、リヨンは得意でしょ? お部屋はいつもきっちり片付いてるし、料理もできるじゃない」

 何を言ってるの? みたいな顔でこっちを見てくるお義母様。

「はい?」


「だ・か・ら、使用人の代わりにリヨンがやるのよ。そうしたら使用人に払う給料が浮いて、その分衣装や宝飾品代に回せるでしょ!」


 何言ってんのこのババア。

 あまりのトンデモ理論に開いた口がふさがらないっちゅーの。


「…………」


 ドヤ顔でトチ狂ったことを言うお義母様に、私が絶句していると、


「いい考えじゃない、お母様〜!」

「リヨン、私の部屋もキッレーに掃除してね!」


 なんて、リールとニームまで乗っかってきてるし!

 ちょっと待って、私が使用人になるってことで話が進んでるんだけど!? おかしくない? なんで『生活費切り詰める』って話が『私が使用人になる』って話にすり替わっちゃってんの? おかしくない?


「あの〜、私が使用人って……」


 このままどんどん話が流れていくのも困るので、私が止めようと口を挟んだのですが、


「せっかくなんだし『サンドリヨン(はいかぶり)』って改名したら? 朝から晩まで灰をかぶって掃除するの」

「お母様、冴えてる!」

「リヨンじゃなくてサンドリヨンね! いいじゃない、似合ってる」


 はぁぁぁ? うち、灰だらけの家じゃねぇし。……って、ツッコミどころそこじゃないか。

『サンドリヨン』に改名しろって? 馬鹿言ってんじゃ…………


 えっ?


『サンドリヨン』って? 私が? サンドリヨン?


 えええっ?!




 ここ、『サンドリヨン(シンデレラ)』の世界だったの〜〜〜!?


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