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転/未来日記

        5


(第一ページ。序盤は、どうやら子供の時分に書かれたもののようで、その文字はとても稚拙なものである。また、先ほど目にした、狂気というほどのものはない)


 ×月×日。

 今日も、わたしはいじめられた。わたしはなにもしていないのに、たくさんの男の子たちが、わたしのノートをやぶったり、教科書にらくがきをしたりする。もういやだ、どうしてわたしばかりがこんな目に合うんだろ。学校に行きたくないな。


 ×月×日。

 今日のいじめは、いつもよりひどかった。学校がおわったあとに教室にのこれっていわれて、なぐられたりけられたりした。痛かった。すごく、痛かった。でも、お父さんやお母さんには言えない。だから、がまんする。いつまでこんなのがつづくんだろう、六年生になったら終わるのかな。


 ×月×日。

 学校でいじめると先生にばれるからって、今度は川のほうによびだされた。川の水はとても冷たくて、寒い。もう、冬なのに。かけられたら冷たいし、それでけられたら、いつもより痛かった。それをおもしろがって、みんなわたしをけった。痛かった。


 ×月×日。

 あーあ。もう、わたしなんていないほうがいいのかな。いじめられるのはいやだよ、痛いよ。もしわたしが死んでも、きっとだれも悲しまないんだ。


 ×月×日。

 死にたい。


 ×月×日。

 死んじゃえ。みんな、死んじゃえ。学校も、先生も、みんな死んじゃえばいいんだ。


 ×月×日(前回の日付よりも一か月と少し進んでいる)。

 今日はいい日。とてもいい日。はじめてかもしれない、こんなに生きていてよかったと思ったの。本当にうれしいから、今日はたくさん書くね。

 今日もいつものようにいじめられていて、やっぱり前みたいに死にたいなって思っていたんだけど、いじめられているときに、いつもは見ない男の子が川の上の道を歩いてたの。手には刀をもっていて、せなかには大きなリュックをしょってた。けんどー? っていうのかな、そんな名前のスポーツをやってる人みたい。

【追記】

(この文は後に書き足されたような跡がある。書くことが想定されていなかったためか、細かく綺麗な文字であった)

 剣道。手に持っていたのは刀ではなく竹刀(しない)というらしい。剣道は武の心を大切にする武道とよばれるスポーツらしいから、彼がわたしを助けてくれたのも今ならわかる気がする。本当に感謝してもしきれないな。剣道をやっていてくれて、ありがとう。あの時に、あの道を通ってくれて、ありがとう。そして彼の親御さん、彼に剣道教室に通わせてくれて、ありがとう。

(追記挿入終了。先の日記が続く)

 その人が、わたしをいじめている男の子たちにやめろっていってくれた。女の子をたくさんでいじめるのは、かっこ悪いっていってくれた。わたしを助けようとしてくれたのもうれしかったんだけど、それよりも、わたしを女の子っていってくれたことがうれしかった。わたしは少し太ってるし、ブスだってみんなから言われてたから、女の子あつかいされるのがすごくうれしかった。きっと、この人がわたしの王子様なんだなって思った。

 男の子は本当に強くて、わたしをいじめた男の子たちを手に持った刀ですぐたおしちゃった。それで、わたしに上着をかけてくれた。

「冬だから寒いだろ。これ、きてろ」って。

 すこし汗臭い上着だったけど、とてもあったかくて、泣けてきた。男の子は「その上着はやる」ってどこかに行っちゃったけど、家の方向はわたしの家と近いみたいだった。もしかしたら、同じ学校なのかな? それとも、近くの学校なのかな?

 わからないけど、わたしは今日から噂の未来日記をつけることにしました。

 いつか、あの男の子と結婚できたらいいな。


(以下、「」内は、目標、及び望んだ未来に関する表記である)


「男の子の学校を知る」

 これは知らないといけないよね。男の子の学校、知りたいです。お礼をいって、たくさん話したいです。

【追記】

 あの人はわたしの小学校の隣の××小学校の六年生なんだって。わたしと同じ年だったんだ。


「男の子を一目見る」

 ××小学校なら、きっとどこかで会えるよね。サッカー部の先生にちょっと聞いてみたら、男の子は××小学校のサッカー部なんだって。ケンドーもやってるのに、サッカーもできるなんてすごいな。わたしは体育が苦手だから、うらやましい。

【追記】

 ××小学校の門で待ってたら、男の子がきたよ。たくさんの友達といっしょに帰ってた。やっぱり人気者なんだなぁ。


「男の子の名前を知る」

 やっぱり、話をするには名前を知らないとダメだよね。ちゃんと調べないと、会ったときに困っちゃうもん。

【追記】

 あの人はどうやら、××××(黒く塗りつぶされた跡。文字量からして、おおよそ四文字か、五文字と言ったところか)というらしい。漢字はわからない。みんなは、あの人のことを「すさのを」って言ってたみたい。なんだか、かっこいいあだ名だな。

【追記】

 あだ名は「すさのを」ではなかったみたい。それでも、彼には「すさのを」っていうひびきが似合うし、なんかかっこいい。他の人にはばれないし、わたしは「すさのをくん」って呼ぶことにする。なんだか、わたしだけの呼び方みたいで、ちょっといい。

【追記】(周囲の文字に比べて、漢字が多く、字からも稚拙さが消えている。おそらく、もう少し大きくなってから書き足したものだろう)

 すさのを……スサノオ。日本神話に登場する神さまの名前。大変乱暴な神さまで、親やおねえちゃんからも怒られる可哀相な神さま。普段は暴れん坊で、悪いこともたくさんするんだけど、ヤマタノオロチ伝説においてクシナダというお姫様のために戦ってくれる、王子様みたいな一面も。

 彼がスサノオの生まれ変わりなら、わたしはきっとクシナダ姫の生まれ変わりなんだ、そうに違いない。だって彼は、あの時わたしを助けてくれたのだもの。もし本当にそうなら、きっとわたしは幸せだな。


「あの人の家を知る。」

 学校から急いで××学校に行って、あの人の帰りを待つ。

 あの人はサッカー部だから、帰る時間は遅いはず。それなら、一緒に帰れるね!

【追記】

 わたしは部活に入ってないから、一緒に帰ることができました! ただ、道が分からなくなるとこわいから、途中で追いかけるのをやめた。家まではついていかなかった。まだまだ時間はあるし、少しずつ進んでいこう。

【追記】

 ようやくあの人の家まで着いたよ。家は普通の家だね。でも、あの人の家だから、まわりの家より特別に見えた気がする。


 ×月×日

 もうすぐ小学校卒業。あの男の子と出会ってからいじめはなくなったけど、それでもあんまり、いじめてきた人たちといっしょにいたくない。はやく卒業したい。

 そういえば、先生に聞いたんだけど、中学校は××小学校の人も同じ中学校になるみたい。あの人と同じ中学に行けるんだ、やった!


「同じクラスになる」

 奇跡! 同じクラスになれた!

 しかも、わたしのとなりの席!

 なんていうか、神さまありがとう!

 そういえば、あの人のあだ名がわかりました。「××××(黒く塗りつぶされた跡)」っていうみたい。ついでに教室の名簿見たら、名前もわかったよ。「××××(黒く塗りつぶされた跡。やはり四文字か五文字に見える)くん」っていうみたい。

 ××くん、××くん、××くん、××くん、××くん(以下、幾百幾千と「××くん」と記されている)。

 でも、すさのをくんっていうひびきも好きだな。前のところに書いておこう。これでもっとたくさんの目標も立てられるね、うれしい。

【追記】

 本当に、今考えても同じクラスになれたのは奇跡だと思う。やっぱり、わたしと彼は赤い糸でつながっているんだな。席まで隣だったなんて、本当にウソみたい。


「話す」

 少し話せた! 挨拶できた!

 他の人には全く挨拶してなかったけど、すさのをくんには挨拶できたよ。「おはよう」って、ぎこちないながらも言ってくれた。照れてるのかなぁ、かわいい。


「一緒に帰る」

 わたしは文芸部で、すさのをくんは剣道部。文学部ははやく終わるから、終わったら剣道部の練習を見に行って、一緒に帰るんだ。すさのをくんと話せなくても、すさのをくんが友達と楽しそうに帰るのを見るだけで、幸せだな。


「手を繋ぐ」

 たまたま消しゴムを落としちゃったんだけど、消しゴムを拾う時にすさのをくんも拾おうとしてくれたみたいで、手が触れた。これも手を繋ぐに入るよね?

 それにしても、すさのをくんはやっぱり優しいな。好き。


「一緒に勉強」

 テスト週間にすさのをくんが図書館で勉強してるところを発見。すさのをくんは友達と一緒だったけど、となりで勉強したんだから、これは一緒に勉強したことに入るよね!

 すさのをくんは数学と理科が少し苦手みたい。わたしが教えてあげたいな。

 あと、すさのをくんは本が好きみたい。図書館にある難しそうな本を読んでた。わたしも本を読もう。そうしたら、きっとすさのをくんと本の話ができると思うから。


「付き合う」

 そろそろ大丈夫かなーと思って告白したけど、振られちゃった。

 どうやら、まだすさのをくんは彼女を作る気がないみたい。中学生はまだまだ子供だもんね、仕方ない。きっと大人になったら付き合えるよね。


「キスをする」

 とても、ドキドキします。はやく付き合えないかな。

【追記】

 付き合うと一緒に立てた目標だけど、達成できなくなったっぽい。

 ムリなので、リコーダーを借りました、ぺろぺろしました。うーん、わたしの持っているリコーダーと同じもののはずなのに、どうしてか美味しく感じます。これをすさのをくんが、音楽の時間に吹くんだよね。それって、なんだかぞくぞくする。


「また隣の席になる」

 すさのをくんと席がはなれてしまった。席がえ、許すまじ。というわけで、次こそとなりになれるように頑張ります。

【追記】

 すさのをくんは少し目が悪いみたい。目が悪いふりをすれば前の席になれるから、きっと隣になれるでしょう。

【追記】

 隣にはなれなかったけど、ナナメの席になった。給食の時に机を合わせたら、いつでもすさのをくんの顔が見えるから、このままでもいいかな。


「部活を応援する」

 夏休みに、剣道部は試合があるらしい。まだ一年生なのに、すさのをくんはもうレギュラーメンバーなんだって。すごいなぁ。絶対に応援しに行こう。

【追記】

 すさのをくんの試合を見てきました。なんていうか、もう、すさのをくんかっこいい!  開始すぐに面を決めて、そのあと相手に小手をとられちゃったんだけど、最後の最後に面と面を打ち合って勝利! ああ、もう、かっこよすぎるよすさのをくん!

 すさのをくん以外の人が試合をして、剣道部が他の部員の試合の応援をしてるとき、わたしはこっそりすさのをくんの防具袋に手作りのおにぎりを入れておきました。ついでに、手紙も入れておきました。名前は書いてないけど、すさのをくん、わたしのものだって気付いてくれるかな。きっと気付いてくれるよね。もしかしたら、次に会ったとき、お礼を言ってくれるかも。


 ×月×日。

 夏休みは暇だな、すさのをくんに会いたいな。部活がある日に少し武道場に顔を出してみたんだけど、剣道部は別の中学校との合同練習が多いみたいで、あんまり学校にいない。

 はやく新学期にならないかな。そうしたら、また毎日会えるのに。

 

 ×月×日。

 新学期が始まりました。すさのをくんの顔を見られただけで、学校に来たかいがありました。それにしてもすさのをくん、数学のテスト、大丈夫かな。授業中、「ここどうやるのかな」って呟いてたんだ。わたしがこうやるんだよって教えたら、「キミ、教えるの上手いね」って言ってくれたよ。わたしでよければ、ずっと一緒にいて、勉強を教えてあげるのに。すさのをくんが知りたいこと、全部教えてあげるのに。

【追記】

 テスト前。すさのをくんがわからないって言ってた数学の部分、分かりやすく説明した紙を下駄箱に入れておいたよ。簡単には気付かないように、天井の方にテープで張り付けておいたんだけど、気付いたかな。すさのをくん、見てくれたかな。きっと、見てくれたよね。

【追記】

 手紙がすさのをくんの下駄箱から無くなっていたよ。きっと読んでくれたんだ。あれが参考になるといいな。今後、もし教える機会があった時に、困るといけないから、これからもたくさん予習しておかなきゃいけないな。また教えてあげよう。

 

「クリスマスプレゼントを渡す。」

 最近は文芸部が忙しくて、あんまりすさのをくんを見れてない。日記もたくさんさぼっちゃった。もうすぐ冬休みだから、クリスマスプレゼントを渡したいな。

【追記】

 すさのをくんに渡すプレゼントを買った。小さなキーホルダーなんだけど、わたしに似てると思ったから、わたしだと思って大切にしてね、っていう気持ちをこめて送ることにした。どうやって渡そうかなーって考えていたら、すさのをくんの友達とぶつかった。その人は、間違えて、わたしの買ったものを持って行っちゃった。

 その人が落としていったプレゼントは、エッチな本だった。こんなものを、すさのをくんに見せないでほしい。すさのをくんは、こんなもの見たりしない。もっと純粋で、わたしなんかよりキレイな人なんだ。気分は最悪だったけど、こんな本がすさのをくんの手に回らなかったならよかった。その本は、その日のうちに、近所の川辺で燃やしておいた。

【追記】

 休み明けに、すさのをくんたちの話を聞いていたら、なんと、わたしのプレゼントをすさのをくんが貰ったみたい。嬉しいな、喜んでくれたかな。がんばって選んだから、きっと喜んでくれたよね。わたしはあなたと、ずっと、一緒にいるよ。

 

「バレンタインチョコを食べてもらう」

 どうやったら渡せるんだろ、難しいな。でも、しっかりとしたものを作って食べさせてあげたい。

【追記】

 渡せた! 結構大きなチョコだし手作りで少し形は崩れたけど、気持ちはきっと伝わってるよ! チョコの中にはすこしだけわたしの血を混ぜておいたんだけど、気付いたかな? すさのをくんがわたしの血を飲んでくれたんだと思うと、なんだかうれしいな。

 前よりもずっと、仲良くなれた気がするな。


       6

 

 ここまで『未来日記』を読んで、ぼくは言葉を失ってしまった。

 彼女は昔、いじめられていたのか。しかも、ぼくと同じ中学校だったらしい。ふと記憶を掘り返そうとしたけれど、やはり彼女の顔はぼくの記憶には残っていない。日記を見る限り、彼女は昔、太っていたようだから、もしかしたら、記憶の中にいる彼女と今の彼女は違うのだろうか、と思って、彼女の名前を頭の中で探してみたけれど、やはりわからなかった。中学や高校では、全く接点がない同学年もいたものだから、名前を思い出せないのも致し方ないことかもしれないが。

 そしてこの「すさのを」という人物。ぼくの記憶の中には、「すさのを」に似た名前の人物もいないし、そんなあだ名の人物がいるという話も聞いたことがない。彼女がこれほどまでに好意を寄せた「すさのを」という人物は、今、何をしているのか。そして、彼女との関係はどうなっているのか。また、ぼくが先に開いた狂気のページはまだ少し先にある。これまでのページなど、まだまだ生温い。

 どうにも「すさのを」との関係、そして彼女の記した狂気が気になってしまって、ぼくはノートの続きを捲った。


        7


 ×月×日。

 高校が別になってしまった。すさのをくんは絶対××高校に入ると踏んでいたんだけど、違ったか。これは本当にきびしいなぁ。高校がつまらなくなりそう。どうせだから、次に会ったときにすさのをくんが驚くくらい、うんと綺麗になっておこうかな。

 もっと痩せて、化粧も上手になって、すさのをくんから告白してくれるくらいには綺麗になりたいな。高校は三年間。中学と同じで長いけど、中学は結局ダイエットをするひまがなかったから、今度こそ。


 ×月×日。

 すさのをくんがいなくて、つまらない。友達もいらない。

 すさのをについて調べよう。どうやら日本の神さまで、「スサノオ」っていうみたい。

 ×月×日の追記しました。

【小さな穴】

(よくわからないが、どこかのページからついたような小さな穴がある。コンパスか何かを突き刺したような跡だった。この穴はしばらく続いている)


 ×月×日。

 美容用品を見ようと大型のスーパーマーケットを見ていたら、女の子と二人ですさのをくんが歩いていた。女の子に連れられて、一緒に、プリクラを撮っていた。すさのをくんに彼女が出来たみたい。残念だ。

 でも、絶対にあきらめないから。すさのをくんと結ばれるのは、クシナダのわたしだけなんだ。

【細かい文字】

 死ね死ね死ね死ね死ね(ページ内には「死ね」「殺す」「呪ってやる」などといった文字で埋め尽くされており、これは数ページにも渡る)


 ×月×日。

 すさのをくんと彼女のことが頭から離れない。はやく別れますように。すさのをくんが汚れる前に別れますように。っていうか、待っていられない。

【細かい文字】

(どうやったら「すさのを」と「彼女」を別れさせるか、といった内容の文字が大量に記されている。あまりに雑に書きなぐられているためか、とても読むことはできない。ところどころに、先と同じく「死ね」「殺す」などの負の言葉が見える)


 ×月×日。

 偶然、すさのをくんの彼女らしき女の電話番号を手に入れた。せっかくなので、公衆電話から電話した。何度も電話した。そのうち、電話にでなくなった。

 ただ、何股もかけているという噂の事実の真偽を問いただしたかっただけだったのに、どうして電話に出ないんだろう。やっぱり後ろめたいことでもあるのかな。だしたら、そんな女がすさのをくんの隣にいるのは、おかしいよね。だって彼は、わたしの王子様なんだから。わたしだけの、すさのをなんだから。


×月×日。

 すさのをくんと付き合っていた女に毎晩のように電話をしていたら、別れたみたい。ざまあみろ。

【黒いページ】

(あまりに細かい文字のため、とてもではないが、読むことは出来ない。追記に追記を重ねている様子で、思い出したことを、その場その場で、追加するように記していたようだ。文字と文字がかぶっているところが多くあり、もしかしたら、読み返す彼女自身にも読み切れないところがあるのではないだろうか。一部読める文字を参考にすれば、これまで「すさのをくん」と付き合ってきた女生徒に対して行ってきた非道な行為が、事細かに書かれているのだろうと予想される)


 ×月×日。

 海で、すさのおくんを見た。新しい彼女と一緒だった。

 悔しい。やっぱりすさのをくんは、かっこいいからモテるんだ。

 わたしだけを見てほしいな。

【細かい文字】

(読めない。ただ、このページからは並みでない狂気を感じた。最初の彼女に対しては如何に別れさせるか、といった内容のことが書き記されていたようであるが、この二人目の彼女に対しては、如何に殺すか、といった内容のことが書き記されているように思う。明確な殺意を感じられる)


 ×月×日。

 すさのをくんに彼女ができたせいで、わたしの食欲は激減。ダイエット代わりになってくれて、まぁ、悪いことではないのかも。最低限のものは食べるようにしよう。

【細かい文字】

(やはり、彼女を呪い殺す法について記されている。どうやら、今度は、悪魔学らしきものの知識を得たようで、ニワトリだとか、ネコだとか血を使用するなどの単語が見える。ノートの端には、いくつかの魔法陣らしきものの存在もあった)

【小さな穴・軽い切断面・僅かな血痕】

(先ほどから見えていた、いくつかのノートの小さな穴は、ここから付けられたものらしい。コンパスか何かでリストカットでも図ったのか、ノートの僅かに切れた跡に沿った形で、ほんの僅かな血痕が付いている。あまり血が染みていないところを見ると、ノートの上に、段ボールなどの何かしらの敷物を置いたものと思われる。小さな穴がいくつもあるところを見ると、どうやら、何度も引っ掻くようにしたらしい)


 ×月×日。

 なんだか、最近男の子から遊びに誘われることや、告白されることが多くなってきた。なんでなんだろう、みんな、わたしをからかって面白いのかな。本当、男の子ってロクな人がいない。死んでしまえばいいのに。

 あと、女の子たちから慕われる(?)ようになってきた。小学校から女の子たちに「デブ」とか「ブス」って呼ばれていたから、高校のみんなは優しいんだなって思った。もしかしたら、男の子がわたしに寄ってくるから、それを狙っているのかもしれないけど、どうでもいいや。わたしに危害を加えないなら、勝手にしてくれていいよ。

 ☆そういえば、ようやく痩せてきました。今はもう、ほんの少しぽちゃっとしている程度なので(肉付きがいい、で済ませられる程度)、これからどんどん痩せていこうと思います。頑張れ、わたし。綺麗になったら、きっとすさのをくんも喜ぶぞ。


 ×月×日。

 授業で芥川龍之介の『羅生門』をやったとき、すさのをくんが本を好きだったことを思い出した。

 そこで、たまたま図書館でみつけたとある本を読んだ。探偵小説で、『蜘蛛(くも)男』という本だった。

 その本では、男の人が、好きになった女の人を次々とを殺してしまう。殺した女の人の死体に防腐処理をして、蝋でかためて彫刻にする話だ。結局犯人はバレて警察に捕まってしまうのだけど、とても面白くて、共感できる何かを感じた。なんだか、わたしはこの犯人に憧れてしまった。これは探偵小説だから、物語上犯人は捕まらないといけない物語で、犯人は最後不幸になってしまったけれど、きっと、この上ない愛に苦悩した人の話なんだ。

 誰かに取られたくない気持ちとか、好きな人とずっと一緒に居たい気持ちとか。とても共感できてしまって、なんといういか、これまでわたしは自分が少し変なのかなとか、嫉妬深いのかなって思ってたけど、やぱりわたしは変なんかじゃなかったんだな。あーあ、わたしもすさのをくんを蝋に固めて永久保存しておきたい! 毎日あの笑顔を見て、「おはよう」って言えたら、きっと幸せだろうな。安心してね、すさのをくん。わたしは『蜘蛛』の犯人とは違って、他の人を好きになったりなんてしないから。ずっとずっと、すさのをくんだけが大好きだよ。

 でも、すさのをくんと話せなくなるのは寂しいな。

 それと、思ったのだけど、この作家さんはきっと、奥さんになった人を蝋でかためて彫刻にしているに違いない。そうすれば、奥さんはずっと笑ってくれるから。


 ×月×日。

 同じ作家さんの本で、また好きな人を防腐処理して置物にする、みたいな内容の本があった。うーん、いいね。毎日自分の好きな人の顔を見ることができると言うのは、とても魅力を感じます。この作家さんの本、面白いな。江戸川乱歩っていうらしい。

【細かい文字】

(乱歩の著作に関しての感想や、読みたい作品などが箇条書きに挙げられている)


 ×月×日。

 もうすぐ大学受験。すさのをくんは一体、どこの大学を受けるのだろうか。

【細かい文字】

(「好き」「愛している」など愛情を表す言葉が、並みならぬ量で記されている。時には昔のことを思い出して書いているようで、小学時代に貰った上着を、未だに大切にしているとか、そういったことも羅列されていた)

 

「すさのをくんと一緒の大学に入ること!」

 一緒に大学を通えたら、きっと幸せだろうと思う。彼の学力レベルにいつでも合わせられるように、今のうちからしっかりと勉強しておかなければ。

【追記】

 模試の試験会場で、すさのをくんらしき人物を発見する。志望校をこっそり見てみたら、××大学っていう東京の有名な大学志望のようであった。わたしも××大学を志望できるほどの学力を身に付けなければいけないな。

【追記】

 やはり、すさのをくんは××大学を受ける様子。もしすさのをくんがいなければ、大学をやめればいいから、とにかく今は勉強しよう。そういえばすさのをくんの志望学部は、文学部だった。まだ小説が好きなのだろうか。彼と一緒に、小説の話をしたいな。

【追記】

 親に話したら、東京の大学はダメだと言われた。どうして、わからない。別にわたしの人生なのだから、好きにさせてほしい。一人暮らしが心配とかいわれても困る、わたしは一人でも大丈夫なのに。

【追記】

 なんとか父親をねじ伏せて、××大学の推薦入試で合格通知を貰った。勉強した甲斐はあったけど、これですさのをくんが別の大学だったら、まるで意味がない。わたしの時は学業成就のお祈りも、学業成就のお守りも必要はなかったけれど、すさのをくんのために天神さまにお祈りをして、お守りを買っておこう。お守りを渡す機会はないかもしれないけれど。

【追記】

 今日は入学式。貰った名簿にはすさのをくんの名前があった。すさのをくんも、××大学に無事入学したらしい。本当によかった。親を説得でねじ伏せて、一生懸命勉強した甲斐があった。

 今日からはまた一緒だね、すさのをくん。よろしくお願いします。


「すさのをくんと話す」

 久々に会うから緊張する。ちゃんと目を見て、おかしくないように話せるだろうか。不安を胸に抱きながらも、善処はしようと思う。あんまり変なことを言わないように、気を付けないといけないな。彼はわたしのことを覚えていないのかもしれないのだから。

 第一印象、大事。

【追記】

 やっぱりすさのをくんは、まだ本が好きな様子。たくさん話せた、嬉しい。すさのをくんがわたしを見て話してくれてる。話す時だけは、わたしのことだけを見てくれる。このまま、わたしのことだけを見てくれたらいいのに。このまま、すさのをくんに友達ができなければいいのに。そうしたら、ずっと二人きりでいられるのだから。

【追記】

 最近、やたらと近くの男子学生が話しかけてくる。正直なところ、とても鬱陶しい。あのへらへらした笑いや、喧しい声、下心が見え透いた薄い表情。どうしてこれほど頭の悪そうな者が、わたしやすさのをくんの属する××大学に属しているのだろうか。甚だ疑問であるし、不快なことこの上ない。

 わたしは本を読んでいるのに、意味もなく構ってくるのは本当に邪魔だ。文学部のくせに乱歩も知らないという無知を晒して、恥ずかしくないのかしら。正直、彼らと話す暇があるのなら、つまらない携帯小説とかいう、馬鹿丸出しの小説を読んでいた方が幾分か気分がいい。

【細かい文字】

(話しかけて来る男子学生に対してのさまざまな文句や陰口、誹謗中傷などが書かれている。この文字列からは、例えようもない怒りを感じた)


「すさのをくんと付き合う」

 中学の頃は、まだまだすさのをくんと話せていなかったのだなと、今になって思うな。離れてみて分かったこと、とでもいうのかしら。高校で離れている間は辛かったけど、離れてよかったのだな、と思う。あの時のわたしは、遠くからすさのをくんを見ていただけで、きっとすさのをくんは、わたしのことは眼中になかったのでしょう。

 でも今なら、きっと違うよね。

【追記】

 勇気を出して告白をしたら、すさのをくんと付き合えました。すさのをくんも、わたしのこと気になってたみたい。嘘みたいだな、本当に、夢みたい。これがもし夢であったのなら、わたしはずっと夢を見ていたい。ずっと、夢から覚めなければいいのに。これがもし現実であるのなら、わたしはもうどうなってもいいな。わたしを狂わせて、わたしを壊して、すさのをくん。

【追記】

 もしかしたら、高校時代に痩せたのがよかったのかもしれないね。

【細かい文字】

(「すさのをくん」に対しての告白文句が綴られている。どう告白したのか、どう返事を返されたのか、詳しくは読めないが、事細かに記されている。途中から興奮しているのか、書きなぐられるように記されており、後半になるにつれて、文字とは思えないものが続いていた。また、とても口に出せないような、今後「すさのをくん」と行いたいという色事が書き記されているようでもあった)


「わたしだけのものにする」

 すさのをくんと話すのは楽しいし、すさのをくんと一緒にいると暖かい。二人きりの時に優しく抱きしめられたら、幸せすぎて気が変になってしまいそう。耳に愛の言葉を囁かれたら、それだけでもう、幸せすぎて死んでしまいそう。彼の心がわたしの隣にあって、わたしの心と繋がっている。それを思うだけで、どうしようもなく彼を求めてしまう。

 でも、すさのをくんが他の女と話すのは嫌。もし他の女にわたしと同じようなことをしているのだと思うと、気が気でなくなってしまいそう。もしも他の女を抱きしめたりしていたのなら、耐えられない、他の女を抱きしめるようなその腕は、切り落としたくなるし、もしも他の女の耳に甘い言葉を囁いているのなら、その口を縫ってしまいたいし、もしも他の女に心を寄せることがあるのなら、その心を殺してしまいたい。

やっぱり、わたしは狂っているのかも。どうしても、すさのをくん以外の人に興味が持てなくて、すさのをくんがいるなら、他の総ては要らないって思えてしまう。二人で自給自足をして、どこか遠くで二人きりで生活したいな。他の誰もいないところに、行きたいな、生きていきたいな。

 そうしたら、二人だけで、誰にも迷惑をかけず、狂っていけるでしょう。

【追記】

 不意に、『蜘蛛男』を思い出した。あのような感じで、もし、すさのをくんを彫刻のようにできたのなら、わたしは誰にも見つからないように、すさのをくんを隠しておこうと思う。隠し場所は、ベッドの下にある隠し扉の中。ここはもともと緊急時の食品を保存するための場所らしいのだけれど、少し改造して、冷蔵機能を取り付けた。アルバイトで一生懸命溜めたお金が無くなってしまったのは、少し痛いけれど、これは、いつかきっと、使いたいな。

 もし、すさのをくんをこの中に入れることができるのなら、毎朝わたしが起きるときも、毎晩わたしが寝る時も、わたしが悲しくて辛いときにも、いつも、わたしの下では、いつも、必ず、すさのをくんがそこで寝ているの。こんなに幸せなこと、他にはないじゃない。

【追記】

 乱歩の作品のように、毒などを用いれば人を殺害することは容易である。大量のモルヒネや睡眠薬で人は殺せるようであるし、少し勉強をすれば、その分量などは知ることができるだろう。『屋根裏の散歩者』のように、ひっそりと彼の秘密を探りつつ、殺していくのも面白い。もし毒殺以外の方法で殺すのであれば、『心理試験』のように堂々としてみるのも、いいのではないだろうか。ついでに、すさのをくんに群がる雌豚どもを、処理することもできるかもしれない。

 モルヒネは、夜の都会にでも行けば、麻薬密売者から買えたりするのではないだろうか。今度見てみよう。けれども、やはり、手軽さでいうなら睡眠薬か。近場の薬局でも販売しているだろうし、睡眠薬の方も見てみよう。

【追記】

 すさのをくんが、今度家に来ることが決定した。なので、食事に睡眠薬を入れて眠らせようと思う。別に借りてあるアパートで、監禁もできる。もしわたしとの生活がいやというなら、その時は本当に心を殺してしまえばいい。そうすれば、いつでも彼と一緒にいられるのだから。置物になった彼は、絶対にわたしを拒絶しないもの。それこそ、わたしのお気に入りの、蜘蛛のぬいぐるみと同じように。


(このノートの記述はここで終わっている)


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