四凡
先発としての役割は多くのイニングを投げることだった。
それはとても体が活性化し、その日を最高に楽しい日にしてくれた。
「ふーーぅっ」
30を超えての配置転換であったが、その役割を十分に果たしている北田。開幕戦での敗北から負けなしが続き、セーブ数は25に迫ろうとしていた。
抑えとしての役割と求められることを頭と体で理解できるようになった。
技術にまた磨きが掛かった。
キーーーーンッ
「打ったーー!2アウト1塁!同点のランナーが出塁!そして、代走が起用されます!勝負をかけます!」
先発は長いイニングを投げるため、早めにカウントを整えることと狙えるのなら三者凡退でチームに勢いをつけることも目的だった。3人で終われば長くイニングを食える。
だが、抑えは違う。三者凡退は理想系であるが、理想よりも3アウトをしっかりとるという結果が重要なのだ。
疲労が貯まるとはいえ、球数もかけてキッチリ無失点で抑える。そのためには三振や打たせて捕るといった投手の役割だけでなく、捨てることも覚える。
抑えは出番が来たら常に抑える。だが、明日また投げる試合展開になるかは野手の頑張り次第。ビハインドの展開もある。今日一日の苦労と考えることに徹する。
「!」
パァンッ
「セーフ!」
牽制とクイックに関しては先発よりも意識するようになり、上手くなった。
一発のある打者との勝負にはよく燃えて真向勝負をしていたものだが、一撃があるとみたら臭いところをついて四球でも構わないと感じた。
そして、なにより防ぐべきは長打であることだと気付いた。
アウトなら勝ち、ツーベース以上で負け、四球かヒットで引分。そういった線引きができるようになった。
とにかく、打者の長打を避けるため低めにボールを集め、緩急で打者を揺さぶる。
抑えになってから四球やヒットが増えて、ランナーを出す展開は多いが最終的には抑えられる技術力を手にした。
ズバァンッ
「ストライク!バッターアウト!ゲームセット!!」
北田が戦う3人の打者が仮に打率3割の巧打者だとしても、打たれる確率は3人に1人だけだ。出塁率が4割だとしても、3人で1アウトはとれて長打さえ防げば1,2塁の形が多い。(あくまで確率である)
この形ならば逆転のランナーを背負ってもゲッツーという打者にとって最悪の形が残る。
同点や逆転のランナーを背負っても、一発で終わる形があれば打者にかかるプレッシャーはハンパではない。
無論、それは自分にも掛かるプレッシャーでもあるのだが。不思議とあと一本を打たせる気はないし、打たれる気がしない。
単打を許しても連打はさせない粘り強さを先発の時に身につけた。
武器はいくつもある。コントロールもピンチで揺るがない。野球人生が投球術に磨きをかけている。
「おーっし!25セーブ目!」
北田弘。
先発から抑えに電撃転換後、抜群の安定感でセーブを量産。
被長打率は1割を切る恐るべき守護神。反面、三者凡退で抑えることが希有になった。
通称、四凡投手。
これは厳しいコースを攻め、四球でも良いという覚悟から生まれた結果。先発の頃より四球率は増えた。
それでも抑える。球団の絶対的な守護神として、転換から7年で150セーブと14勝をあげる。
球団のエースは20年と君臨した。
プロ20年。13年、先発。7年、抑えの異色な投手となった北田。
「プロ21年目も頑張ります!」
野球ができる能力が消えるまで、色々な役割でマウンドを守り続けるのだった。
夏の甲子園が開幕し、また野球の話が書きたくなったのになぜかプロ野球の話しになりました。
今年は混セで毎日楽しく見ています。
北田は名球界に入れるのだろうかっと思いましたが、相当長くプロのマウンドに立っているような気がしますので行くんじゃないのかな?
200勝投手はとても大変なのに、30代でもう150勝している時点で異次元の大エース。勝てるのも運があると思いますが、こいつの全盛期ヤバ過ぎ。今では考えられないと思いましたが、去年は24勝というゲームでも成しえないような記録がでましたよね…………。