150勝の投手が抑えのわけ
北田は先発として150勝をマークしながら、昨年から抑えに回るという異例の投手だった。
球団関係者によると本人の意思だったという。
「30を超えて完投ができたのは3回だけだった。さすがにもう先発じゃできない」
30歳頃から衰えを感じており、特にイニングを食うという先発の重要な役目を果てせなくなったのが本人の思うところだった。
プロ入りした歳は丁度20。そこから先発を12年間続けて、150勝をしたのだから相当の投手だった。
2桁勝利は当たり前の、球団が誇る大エースなのだ。
北田の投手としての特徴。その1.
まず、立ち上がりによる失点が少ないこと。
クオリティ・スタート(通称、QS)が全球団でもっとも高いこと。全盛期はプロ入り5年目、このシーズンは23試合登板中22試合のQSとなっている。
脅威の立ち上がりの強さは力配分を考えていない豪腕にあった。初回の三振率は他のイニングと比べ極めて高い。特に速球のノビが初回からハンパではないのだ。
ちなみに5年目は18勝2敗という恐るべき成績で沢村賞も獲得した。
北田の投手としての特徴。その2.
三振をとれる投手と打たせて捕れる投手にチェンジできること。
ノビのある速球と変化球の中でもっともキレとブレーキが掛かるカーブは前者。
緩急をつけるチェンジアップと芯を外すスライダーは後者。
局面によって、投手を入れ替える北田は打者を翻弄する。どちらの投手もまた好きな時にストライクをとれるコントロールを持つため、自滅も少ない。
変化球をいくつも試し、自慢の速球を組み合わせればどれもこれも武器となる。
チェンジアップはただ緩急をつけるためでしかなく、狙われれば一発も浴びやすい。スライダーも調子が悪い時はスッポ抜けがあるため、プロに通じる変化ではない。
しかし、それが武器になるのはストレートが強く、カーブもまた次いで厄介な変化球だからこそ。
プロでもある程度、球種を読まなければ打つことはできない。カーブを待っているところにチェンジアップがくれば面白いようにひっかける。
いくつも変化球を習得したからこそ、投球術に幅があり、打たせてもとれるので長いイニングを可能にしていた。
北田の投手としての特徴。その3.
コントロールと四球の少なさ。
あらゆる武器が生きるのは正確なコントロールがあるからだ。
ポンポンとストライクに投げ込むイメージが強く、初球のストライク率は通算でなんと8割5分。ほとんどがストライクでくる。
よって、初球による被打も多いが凡打も多い。
初球がストライクと予想していてもストレートか変化球かまでは予想しづらいほど、どのボールでもストライクがいける。
打者を追い詰めた時の被打率がとても少ないのもまた北田の特徴だった。
投手としての能力は時を重ねるごとに完成していった。だが、体力は衰えていく。
昔は100球を投げてもノビは健在だったが、今では20球までが限界。
「先発のイニングは常に7回まで食えてこそ。俺はもう7回まで投げる制球力とストレートがない」
まだ自分の長所が活きられるまでに終わってしまう力で生き残れる場所を確保しようと、抑えに志願した。
北田の投手としての特徴。その4.
怪我をしない丁寧な体調管理と、安定感ある精神力。
プロ13年で二軍落ちは何回かあっても、怪我による離脱は未だにない。
結婚も家庭を大切に考えてくれる人を選んだ。
投手を長く続けるためだった。
「最終回だけなら全力投球できる」
完投や完封も多いが、一試合でプロ入り最多の球数は116球と大エースにしては少ない。
技術力と自慢の速球で誤魔化してきたが、スタミナはプロに入ってからも平均以下だった。
逆にへばるのが早いから怪我も少なく、一年間マウンドを守っていたのだろう。
「それが今、俺が球団に貢献できる役だと思っています」
北田の言葉が先発の大エースから抑えの大エースに転向するきっかけだった。
元々、クォリティスタートがよく抑えとなっても活躍する見込みは高い。
だが、先発で10勝以上を上げられる数少ない投手を失うのは痛い。どっちが痛いかは北田が抜けた先発陣次第であった。