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死闘の果て、ひとつになる三人…って一人増えとる!?


世界の命運を賭けた、最果ての決戦場。


天を衝く黒き玉座を前に、一人の女の子が立っていた。


かつてはただの幼子。


だが今、その身に纏うのは、幾多の戦いを越えてきた戦士の風格だった。


漆黒の髪を風になびかせ、身の丈ほどもある白銀の大剣を握りしめる。


額に浮かぶ青白い紋章は、彼女がすでに人の身を超えた存在であることを物語っていた。


そして、その前に立ち塞がる男。


漆黒の肉体。


白銀の髪。


圧倒的な巨躯。


ただそこにいるだけで、辺りの空気が重く澱む。


彼こそが、世界を闇に染め上げた魔王イシュアスタルト。


女の子は全身の恐怖をねじ伏せ、大剣を力強く構え直した。


「小娘、覚悟しろ! 我が秘剣、とくと味わえ!」


魔王が右手の剣に闘気をみなぎらせる。


赤黒い禍々しいオーラが、刀身を這うようにとぐろを巻いた。


対する女の子も、右手に蒼く神聖な闘気を閃かせ、自らの全身を光の柱へと変える。


「いくぞ、魔王! 勇者ディノア、参る!」


駆け出したのはほぼ同刻。


激突する、二つの光と闇。


――死闘の末、魔王との一騎打ちを制した女の子は、世界の残酷な真実を知ることになる。


魔王を討ち果たした者は、その魔力に取り込まれ、次代の魔王へと変貌してしまうという呪いを。


女の子の身体へと、容赦なく流れ込む禍々しい闇の力。


「いや……っ!」


必死に自我を保とうと抗う。


だが、あまりにも強大すぎる魔力だった。


意識の灯火が消えかけた、そのとき。


女の子は最後の力を振り絞り、心の中で祈った。


――神様。どうか、力をお貸しください。


その瞬間だった。


天空から、謎の球体が凄まじい速度で飛来する。


それは直立する女の子と、倒れ伏した魔王の遺体――その二人の中間へと、真正面から激突した。




 

 

ドゴォォォォン!!!




 

凄まじい轟音とともに大地が揺れ動き、辺りに激しい粉塵が巻き起こる。


やがて、もうもうと立ちこめる土煙が晴れていく。


砂塵の向こうに、人影が一つ。


そこに立っていたのは――。


一糸まとわぬ、全裸の男だった。


***



 


「……俺、死んだのか?」


そう呟いたところで、周囲を見回す。。


何もない。


上も下もない、真っ白な空間だった。


「ここ……どこだ?」


そのとき、少し離れたところに人影が見えた。


「女の子……?」


女の子が、何もない白い空間の中で、こちらをじっと見つめている。


その女の子は、ボロボロになった服、青ざめた顔で頭を抱えている。


「な, なんだお前!?」


女の子が慌てて身体を起こす。


「私の頭の中に……いや, ここはどこだ!?」


女の子はぐらりと身体を揺らした。


「魔王を倒した……はずなのに……なんで見知らぬ男が入り込んで……」


「は? 魔王……?」


俺は戸惑いながら両手を広げた。


「俺はただ, 戸塚駅のホームで電車を待ってたんだ。それで, 目の前で人が落ちて, それを助けようとして――」


「トツカーキ……? なんだ, それは」


女の子が怪訝そうに眉をひそめた。


「駅だよ。……って, そもそもここどこなんだよ」


そのとき, 空間の端から, 低く重い足音が響いた。


「静まれ」


声のした方を見る。


漆黒の鎧を着た巨体の男が, ゆっくりとこちらへ歩いてきた。


女の子が身構える。


「お前……!」


男は女の子を無視して, 俺を一瞥した。


「トッカーティ, か。我が知る場所には, そのような土地はない」


「土地じゃなくて駅だって」


「どちらでもよい」


男は腕を組んだ。


「さてはお前, 別の世界の人間か?」


「別世界……?」


「ああ。死闘の反動だろうな。我が肉体とこの小娘, そして別世界の貴様が, 一つの身体に入ってしまったらしい」


「……ってことは」


俺が息を呑む。


男は俺をじっと見つめた。


「命も一緒だ。お前たちが死ねば, 私も消える。つまり, 我ら三人は運命共同体というわけだ」


俺の体, シェアハウスになってしまったって事!?

こいつら死んだら俺も死ぬ!?


「異界の男よ」


男が続ける。


「どうやら主導権を握るのは, お前のようだな。その身体を私に貸せ」


『魔王になんて身体を貸したら世界が終わるわよ! 絶対に許さないからね!』


「喚くな, 小娘。このまま言い争っていても仕方がない」


男は鬱陶しそうに鼻を鳴らした。


「何か策があるのか?どうするつもりだ, 小娘」


問われた女の子は, 悔しそうに拳を握った。


それから, 俺の方を向く。


「……その前に」


女の子が少しだけ息を整える。


「お互い, 名前くらい名乗った方がいいわね」


「それもそうだな」


女の子は俺を見た。


「私はディノア。勇者よ」


「勇者……」


改めて見ると, ボロボロの服も, その傷も, 全部さっきまで魔王と戦っていたからなのか。


「俺は真志田瑛人。エイトって呼んでくれ」


「エイト……ね」


ディノアが頷く。


そして, 俺たちは最後に, 黒い鎧の男へ目を向けた。


「お前は?」

 

魔王なんだろうけど。

男はしばらく黙っていたが, やがて口元をわずかに上げた。


「我は魔王イシュアスタルト」


「魔王イシュアスタルト……」


「長いだろう。イシュと呼ぶがいい」


「魔王の名前がイシュか……」


俺は改めて男を見る。


黒い鎧に覆われた巨体。


イシュって呼んでってお茶目だな。


「……で, 勇者と魔王と俺が, 同じ身体に入ってるってことか?」


「そういうことだ」


イシュが答える。


「最悪だろ, これ……」


ディノアが俺を見る。


「だから, 私たちが元に戻る方法を探さないといけないの」


「どうやって?」


「私の祖国の近くに, 偉大な賢者様が住む山があるの。」


「困った事はみんなそこに相談する。きっと何とか呪いを解けるはずよ」


「なるほどな」


「ただ……!」


ディノアは言葉を区切った。


「これから魔王の城を出るなら仲間と合流することになるわ。」


「合流する私の仲間たちの中には, 一筋縄ではいかない奴らがいるのよ」


「どんな仲間だよ……」

 

よくそんなのとやってこれたもんだ。

ディノアは指を折りながら説明を始めた。


「まず, アキレアは魔王のことが大嫌いだから, 中身がイシュになったら一発でバレるわ。斬り殺されかねない。」


物騒なことだ。ついでにやられるのはごめんである。


「かといって, あんたのままだと仲間は男嫌いなの」


「それもダメなのかよ」


「リオーラは女の子好きすぎるから, 私と二人きりになったら, そっちの意味で危険よ……」


魔王嫌いのアキレア、女の子が大好きなリオーラね。


「なんだその危険な地雷原のオンパレードは……」

 

俺が頭を抱えると, ディノアは少しだけ表情を和らげた。


「でしょ?」


苦労してたんだね。ディノアはこっちに向き直る


「でも安心して。メルの前なら, エイトのままでも大丈夫だから」


なんだまともな子がいるんじゃないの。

ディノアは少し考えてから言った。


「それで?こんな状況だから正直に仲間に話しても良くないよねえ?」


「私が主導権を握って, 道中は誤魔化すのが最善よ」


「俺はその時どうなんの?」


「エイトは中にいて。言えば交代するから」


「わかった」


複雑すぎる話を聞かされて, 俺はため息をついた。


ここでじっとしていても仕方がない。


「よし, 決めた」


俺たちは二人に向き直った。


「色々と面倒だけどよ, 面白そうだから乗ってやるよ。基本の道中は, お前に身体を貸してやるよ, ディノア」


『えっ……あ, ありがとう, エイト……!』


ホッとしたディノアの声が頭の中に響く。


その横で, イシュが不機嫌そうに鼻を鳴らした。


『ふん。好きにしろ』


こうして, 俺――真志田瑛人と, 勇者ディノア, そして魔王イシュアスタルト。


三人で一つの身体を共有する, 最悪の旅が始まることになった。


謁見の間を出る瞬間, 俺は再び意識だけの存在になっていた。


重厚な扉をディノアが静かに開き, 一歩を踏み出す。


『さて, まずは最初の部屋を抜けるか』


頭の中でイシュの声が聞こえた。


ディノアは何も答えない。


俺たちの声は外には聞こえないらしい。


だからディノアは, 何も知らないふりをして前だけを見て歩いていく。


俺はその様子を, 身体の中から眺めていた。


謁見の間を出てすぐ, 石造りの冷たい廊下が続いていた。


その一角で, 誰かが膝をついている。


「……リオーラ」


ディノアが声をかける。


黒や深緑を基調とした装甲服をまとい, 三つ編みを揺らした女の子が顔を上げた。


鋭い目つきで, いかにも気が強そうだ。


「……っ, ディノア……遅いよ。私をひとりで待たせるなんて, ひどいんだから」


軽口を叩きながらも, リオーラは差し出されたディノアの手をしっかりと掴んだ。


「ごめんね。ちょっと手こずっちゃった。さあ, 立てる?」


「うん。これくらい平気……。ねえ, ディノア。早く行こ」


『フッ, あいつは相変わらず口だけは一丁前だな』


イシュの声が頭の中で響く。


ディノアは何も答えない。


外から見れば, ただリオーラを支えているだけだ。


しばらく歩いたところで, リオーラがふと足を止めた。


「……ねえ, ディノア」


「なに?」


「このあと, 予定ある?」


「特にはないけれど……」


「そっか」


リオーラは嬉しそうに微笑んだ。


そのままディノアの隣を歩き続ける。


やけに近い。


肩が触れそうな距離だ。


「お前とこうして二人で歩くの, 久しぶりだよね」


「そうね」


ディノアが何気なく答える。


リオーラは横目でディノアを見た。


頬がほんの少し赤くなる。


「……ねえ, ディノア」


「うん?」


「このあと……私の部屋, 来ない?」


「え?」


「ちょっと……二人で話したいことがあるの」


『おおっ!』


思わず声が出た。


リオーラは俯いたまま, ディノアの腕にそっと手を絡める。


「……なんだか今日, 変なの」


「変?」


「うん。ディノアの顔を見てると……なんか, ドキドキして」


「…………」


ディノアの動きが止まった。


『これは……』


『フフフ……』


俺たちは完全に面白がっていた。


リオーラは恥ずかしそうにしながら, それでも離れようとはしない。


「ねえ……ディノア」


「な, ななに?」


「もう少しだけ……近くにいてもいい?」


一歩, 距離を詰める。


ディノアが後ずさる。


「……リオーラ?」


「な, なによ。そんなに警戒しなくてもいいじゃない」


「いや, その……」


リオーラはさらに頬を赤くする。


「……私, 今ちょっと変かも」


「……うん。そう思うわ」


「ひどい!」


「ご, ごめん!」


「……もう。ディノアのくせに」


そう言いながらも, リオーラは嬉しそうだった。


だが, ディノアは悟った。


このまま二人きりでいるのは危険だ。


「……ごめん, リオーラ。ちょっと用事を思い出したわ」


「え?」


「メルのところへ行かないと」


「メルのところ?」


「うん。それじゃ, またあとで!」


ディノアは踵を返した。


「あっ, ちょっと待ってよ, ディノア!」


呼び止める声を背に, ディノアはそのまま廊下を駆けていく。


『逃げたな』


『逃げたな』


俺とイシュの声が重なった。


『……惜しいことをした』


『まったくだ』


ディノアはリオーラを支えながら, 廊下を進んでいく。


石造りの廊下を抜けると, 冷たい夜風が吹き抜ける広い中庭に出た。


そこには, 淡い色のローブをまとった女の子が座り込んでいた。


「――メル」


ディノアが声をかける。


メルはびくりと肩を震わせ, それからホッとしたように表情を緩めた。


「ディノア……! よかった, 無事だったんだね」


メルは立ち上がろうとした。


だが, 激しい戦いで疲れ切っていたのか, ふらりと身体が傾く。


「危ない!」


ディノアが駆け寄り, メルの身体を支えた。


『ふん。あいつもだいぶ派手にやったものだな。庭木が可哀想だ』


イシュの声が頭の中に響く。


俺も思わず庭を見る。


確かに, そこら中の木がへし折れていた。


「もう大丈夫よ, メル。一緒に行きましょう」


「うん……」


ディノアはホッとしたように笑った。


『……なんだか嬉しそうだな』


『これでリオーラに襲われずに済むからだろう』


「…………」


思わず笑いそうになった。


だが, その声はディノアには聞こえていない。


「これで安心ね」


ディノアが呟く。


「……なにが安心なの?」


リオーラが不満そうに言った。


「え?」


「さっきまで私と二人だったのに……」


「…………」


ディノアの表情が固まった。


『おやおや』


『不満そうだな』


リオーラは頬を膨らませる。


「せっかく二人でゆっくりできると思ってたのに……」


「リオーラ, その話はあとでね」


「もう……」


リオーラは納得していない様子だった。


俺とイシュは, そんな二人を見ながら黙って笑っていた。


やがて俺たちは, 魔王城の出口へ向かった。


巨大な門の前まで来ると, そこにもう一人, 女の子が膝をついていた。


純白の聖騎士の鎧。


風になびく銀色の髪。


鎧のあちこちは汚れているが, 背筋はまっすぐ伸びている。


「……アキレア」


ディノアが声をかける。


「……遅いぞ, ディノア。……だが, 無事で何よりだ」


『ふん。相変わらず無駄に気高いことだな。立つのもやっとのくせに』


イシュが呟く。


ディノアは何も答えない。


そして, アキレアに手を差し出した。


「……助かる」


アキレアはその手を取る。


ふらつきながらも, 自分の足で立ち上がった。


こうして, 戦いで傷ついた四人が揃った。


「よし。じゃあ, 行きましょう」


ディノアが門の向こうを見る。


俺たちは魔王城を後にした。


その瞬間だった。


「……え?」


突然, 俺の意識が大きく揺れた。


次の瞬間。


俺はディノアの身体から弾き出されていた。


「な, なんだ!?」


身体がない。


俺は意識だけの状態になっていた。


そして, すぐそばから声が聞こえた。


『……どうやら入れ替わったらしいな』


イシュだった。


だが, その声はディノアのものではない。


俺が目を向けると, そこには見知らぬ女の子が立っていた。


長い髪。


ディノアとはまったく違う顔立ち。


俺は一瞬, 誰なのか分からなかった。


『私だ』


「……イシュ?」


『そうだ』


どうやらイシュは, ディノアとはまったく別の女の子の身体に入ったらしい。


見た目だけなら, 魔王には到底見えない。


「あなた……誰?」


メルが不思議そうに尋ねる。


『どうする?』


俺が聞く。


『この姿なら, 正体までは分からんだろう』


イシュはそう答えた。


だが, そのときだった。


「……待て」


アキレアの声が響いた。


「その子……」


アキレアがイシュをじっと見ている。


「どうしたの?」


ディノアが尋ねる。


「妙な気配がする」


アキレアは警戒するように目を細めた。


「姿は違う。だが……どこか魔王に似ている」


『……』


イシュが黙り込む。


「バレた?」


俺が聞く。


『いや。確信はないようだ』


アキレアはしばらくイシュを見つめていたが, やがて剣から手を離した。


「……気のせいかもしれん」


『助かったな』


「ほんとだよ」


俺がそう言った直後だった。


また, 意識が大きく揺れた。


「うわっ!」


今度は, 自分の身体に感覚が戻ってきた。


手がある。


足がある。


声も出る。


「戻った……?」


俺は自分の身体を確認した。


どうやら今度は, 俺自身の身体に戻ったらしい。


「……って, なんで俺がここにいるんだ?」


目の前にはディノアがいる。


いや――


俺がディノアの身体に入っていたときの姿だ。


「……?」


ディノアも困惑している。


「ちょっと待って。今, 何が起きたの?」


「俺にも分からない!」


メルが覗き込む。


リオーラも俺を見る。


アキレアは――


俺を見た瞬間, 目を見開いた。


「……また妙な気配が」


「え?」


「お前から……ディノアの気配がする」


「…………」


俺は固まった。


「俺だよ」


「……誰だ?」


「だから俺!」


「名前を言え!」


「俺は俺だよ!」


『ハハハハハ!』


イシュが笑っている。


「笑ってる場合じゃねえ!」


なんとか説明を続けて, どうにかその場を収める。


結局, 誰にも魔王や俺の意識が入れ替わったことまではバレなかった。


……たぶん。


俺は女の子の姿になっているイシュを見る。


イシュも俺を見る。


『……』


「……」


二人とも, 同じことを考えていた。


「これ……大丈夫か?」


『知らん』


「だよな……」


それでも, ここに留まっているわけにはいかない。


ディノアが歩き出す。


「行きましょう。まずは魔王山を下りないと」


俺たちはその後に続いた。


魔王城を背にして, 長い山道を歩いていく。


とりあえず――バレなかった。


今は, それでいい。


……たぶん。


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